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2015年の記録
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このページの本たち
雪華ノ里』佐伯泰英
ニュートンズ・ウェイク』ケン・マクラウド
スターダンス』スパイダー・ロビンスン&ジーン・ロビンスン
龍天ノ門』佐伯泰英
雨降ノ山』佐伯泰英
 
狐火ノ杜』佐伯泰英
朔風ノ岸』佐伯泰英
遠霞ノ峠』佐伯泰英
朝虹ノ島』佐伯泰英
無月ノ橋』佐伯泰英

 
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2015年07月05日
佐伯泰英
『雪華(せっか)ノ里』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ4
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 藩の一大事に国許にもどった磐音は、国家老宍戸文六のたくらみを頓挫させることに成功。しかし、豊後関前藩にかつて許嫁だった奈緒の姿はなかった。
 奈緒は生活に困窮し、身売りをしていたのだ。
 磐音は、奈緒が売られた先を突きとめる。長崎の丸山は望海楼だった。望海楼は、丸山一格式の高い遊郭。
 磐音は伝をたよりに女将に面会するが、すでに奈緒は転売されていた。
 女将の話では、奈緒が丸山にやってきたのは、ひと月前。300両だった。女将は、見目麗しく教養と品を兼ね備えた奈緒を気に入り、長崎一の上玉にしよう、稼ぎ頭に育て上げようとしていた。
 そんなとき、豊前小倉の岩田屋善兵衛に声をかけられた。
 善兵衛は、西国筋では老舗として知られた妓楼の旦那。小倉城下に新しく設ける遊女屋の花形太夫にと、奈緒に500両の値をつけたのだ。
 もはや磐音が身請けできるような金額ではない。それでも磐音は小倉へと向かった。
 小倉では、善兵衛の評判はすこぶる悪い。急に金回りが悪くなり、阿漕な金稼ぎに走っているとの噂である。そして、赤間の唐太夫という親分と、一触即発の状態にあるらしい。
 善兵衛の張り見世にいた遊女は、唐太夫一家にさらわれた後。その中に奈緒もいたらしい。
 磐音は追いかけるが……。

 本作は、奈緒の探求物語。
 江戸時代の主要な遊里をひとめぐり。
 居場所を見つけ出すものの一足違い、というパターンが続きます。そんな中、なにやらあやしい侍が登場したと思ったら、案の定な展開になったり、と本筋以外の仕込みもしっかりされてありました。
 正直なところ、奈緒を追いかけ続ける磐音は立派ですけれど、それなら最初から資金援助していればよかったのに、と思ってしまいました。いくら兄を殺して合わす顔がないからと言っても、第三者を通じて何かするくらいのことはできたでしょうに。
 紀行ものとしてはおもしろいです。


 
 
 
 

2015年07月18日
ケン・マクラウド(嶋田洋一/訳)
『ニュートンズ・ウェイク』ハヤカワ文庫SF1575

 カーライル家は、〈後人類〉の遺物をサルベージしてまわっている親族結社。権力の源は、カーライル転送網。〈後人類〉が遺したワームホール・ゲートだ。
 人工知能が進化した超知性体〈後人類〉が消え去ったのは、300年前のこと。そのとき、ネットに接続していた何十億という人々が道連れにされた。
 人類は〈強制昇天〉と呼ばれる大厄災から立ち直ったが、いまだ統一政府はない。幅を利かせているのは、カーライル家ら四大勢力だった。
 ルシンダ・カーライルは、実戦考古学の調査隊を率いてゲームをくぐった。
 新たに発見されたワームホールの先に広がるのは、テラフォーミングされた世界。目の前には、〈後人類〉のものらしい結晶構造の遺跡がある。
 遺跡の調査をはじめた矢先、カーライルたちは現地人の襲撃を受けた。ゲートは破壊され、カーライルはエウリュディケに取り残されてしまう。
 カーライルを捕らえたのは、惑星エウリュディケの人々。
 〈強制昇天〉を経て、恒星船で太陽系から脱出した人々の末裔だ。彼らは射手座渦状腕でエウリュディケを見つけ、腰を落ち着けた。他の人類がどうなったのか、知ることは不可能だった。
 カーライルの登場は、彼らに衝撃をもたらすが……。

 ちょっと高飛車なルシンダ・カーライルの、冒険もの。
 エウリュディケは首長共同体によって統治されてますが、共同体というだけあって、一枚岩ではありません。改革派と帰還派がいます。
 エウリュディケ人たちが太陽系から旅立ったのは、〈強制昇天〉の後の戦争で改革派が勝利を収めたから。当時、人間をそのまま運ぶことができなかったため、人々はデータ化されて、到着後、人工的に作られた肉体にダウンロードされました。
 改革派にとって帰還派は敵対勢力ですが、必要に迫られて、ダウンロードされることがあります。それが、社会全体が一枚岩になれない原因となってしまってます。
 
 この物語、再読です。
 前回の記録は、2006年8月。内容は覚えていなかったのですが、大混乱に陥っていたことだけは記録から分かったので、時間をかけてじっくり読みました。そのおかげか、いろんな勢力が入り乱れて展開される物語も、きちんと把握しながら読み進めることができました。
 正直に告白すると、この訳者は自分と合ってません。訳文のせいか、選ぶ物語のせいか、原因をさぐるほどには読んでませんが、どうも苛立ってしまうのです。(ここ数年はなるべく避けてます)
 そのような、物語とは関係のない要素を抱えてない読者なら、もっと楽しく読めるのではないかと思います。

 ところで本作には、DKと表記される、共産主義の宇宙植民者たちが登場します。読んでいて、昨今の、某国民による爆買いと呼ばれる現象を想起しました。そういうことって、以前からあったのですねぇ。


 
 
 
 

2015年07月22日
スパイダー・ロビンスン&ジーン・ロビンスン
(冬川 亘/訳)
『スターダンス』ハヤカワ文庫SF750

 チャールズ・アームステッドは、才能あふれるダンサーだった。ところが、強盗に撃たれ、ダンスはおろかまっすぐに歩くことすらままならなくなってしまう。
 今ではただのチャーリイとして、ヴィデオ・マンに転身している。
 そんなとき友人のノリイ・ドラモンドに、妹のシャーラを紹介された。
 シャーラは、ダンスに情熱のすべてを注いでいた。テクニックがあり、振り付けもいい。天才だった。
 だが、シャーラは決してプロになれない。
 モダン・ダンスで成功するには、大きな舞踏団に入る必要がある。舞踏団では、卓越したソロを踊ると同時に、グループにも溶け込めなくてはならないのだ。
 シャーラは大柄すぎ、女性的すぎた。ユニークでありすぎた。
 ノリイがチャーリイに期待していたのは、シャーラをあきらめさせること。なにしろチャーリイには、自分ではどうにもならない理由でダンスをあきらめた経験があるのだから。
 しかし、シャーラはダンスを捨てなかった。
 チャーリイはシャーラの心意気を買い、ふたりで組んで売り出そうとする。その試みは失敗するが、シャーラは宇宙に活路を見出した。
 シャーラのパトロンとなったのは、ブライス・キャリントン。億万長者の天才的実業家だ。収益の源は、巨大な軌道上構造体である〈スカイファック〉にある。
 シャーラは、ゼロGでのダンスを考えていたのだ。
 チャーリイにも声がかかり、ふたりは新しいダンスを模索するが……。

 ネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞のトリプルクラウンに輝いた「スターダンス」を第一部に、四部構成(三部+エピローグ)とした長編。
 シャーラが目指したのは、人類がこれまで誰一人として表現しえなかったすばらしい芸術作品。そのために低重力下での訓練に励みます。けれど、身体が完全にゼロGに適応してしまうと、地球に戻れなくなるリスクをともなってます。
 シャーラにはタイムリミットがある、というのと、海王星の軌道で観測された謎の物体が、徐々に近づきつつあるという背景がアクセントになってます。

 土星まで行ける宇宙船を持ちながら、重力の問題が克服できていなかったり、記録媒体がヴィデオだったり、やはりチグハグさは否めません。そういうことそこが残念でした。古いなぁ、と。
 リアルタイムで読めば、もっと感動できたんでしょうね。もったいないことをしました。

 なお、共著者のジーンは、プロの舞踏家だそうです。


 
 
 
 

2015年07月24日
佐伯泰英
『龍天(りゅうてん)ノ門』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ5
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 安永3年(1774年)の正月。
 新年の挨拶に回る磐音は両替商今津屋で、読売から事件のあらましを耳にした。漆工芸商加賀屋が奇禍に見舞われたのだという。加賀屋では、家族から奉公人まで15人が皆殺しにされていた。
 今津屋と加賀屋は昵懇の間柄。先代たちが、同じ師匠のもとで謡の稽古をして以来の仲だ。
 磐音は老分由蔵に従い、様子を見に行くことなる。
 事件を担当するのは、南町奉行所。年番方与力の笹塚孫一が言うには、この正月には、もうひとつ事件が起こっているのだという。
 市谷八幡の石段のかたわらに、首吊り死体が発見されていた。死んでいたのは、寄合席三千石の高力家奥方の染野。
 実は高力家も、今津屋の先代と同じ能楽師の門下生。先代がなくなり今津屋とはつながりが途切れていたが、加賀屋と高力家は関係が続いている可能性がある。
 笹塚の元には高力家から、捜査の打ち切りを求める申し出があった。あれは染野の自殺だった、と。
 磐音は、笹塚から協力を求められるが……。

 ふたつの事件は、わずか1章で解決。
 今回も、連作短編集のような構成でした。

 ・加賀屋の大惨事。
 ・奈緒こと、白鶴(はっかく)太夫の吉原乗込み。
 ・竹村武左衛門の代わりに勤めた、おばばの護衛。
 ・医師・不知火現伯(と武左衛門)が行方不明になる事件。
 ・金兵衛長屋の新しい住人、お兼をめぐる騒動とか。

 その狭間にちょこちょこと顔を出すのが、やっぱり豊後関前藩のこと。磐音は、藩士に復帰するように勧められますが、身を引きます。
 そして、磐音と今津屋とのつながりが強固であることがハッキリするのが今作。
 豊後関前藩では参勤下番の費用2500両の工面ができずにいます。藩士から相談された磐音は、気が進まないながらも、今津屋に話を持って行きます。
 今津屋は、江戸の金融の元締めともいえる大店。通常なら、六万石なんてちっこい藩は歯牙にもかけない。でも、磐音の口利きならと、お屋敷に出向いて話を聞いてくれます。


 
 
 
 
2015年07月25日
佐伯泰英
『雨降(あふり)ノ山』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ6
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 磐音は、今津屋から護衛の仕事を引き受けた。
 今津屋は、江戸で商いをする600軒の両替商を束ねる、両替屋行司。毎年五月の28日に両国の川開きがあり、その宵に、花火見物の納涼船を仕立てることになった。接待相手は、勘定奉行所と南北両奉行所のお役人たち。
 近頃、怪しげな男たちが乗ったあやかし船が流行っていた。金で追っ払ってもいいが、諍いは起こしたくない。騒ぎとならないように、磐音に声がかかったのだ。
 磐音は無事に務めを果たすが……。

 今回は
 ・隅田川花火船での騒動。
 ・独り暮らしのおばばを狙った、騙りの安五郎の事件。
 ・慶長大判を使った詐欺事件。
 などといった事件が勃発しますが、メインは、今津屋吉右衛門の内儀お艶のこと。
 お艶は病気で、医者に静養を勧められます。お艶の希望は、里帰り。お里は相州伊勢原で、磐音も付き添うことになります。
 お艶の病は重く、実家にはたどりつけたものの予断を許さない状況。覚悟を決めた吉右衛門は、磐音を江戸に帰します。そして頼まれたのが、今津屋の後見。主が不在の中、店の内外の監視をしてくれ、と。
 磐音は町人風の格好をして、店先で、老分の由蔵のかたわらに座るようになります。
 それまで磐音が頼まれることと言えば、当たり前ですけど、用心棒がほとんど。一時的にしろ後見になるというのは、シリーズの転換点ではないでしょうか。

 それと、磐音の敵方となる剣士について、背景説明が入れられてます。こんなに人となりを書き込むとは、途中で寝返って仲間になるんじゃないかと期待しましたが、話が広がることもなく……。
 シリーズを重ねてきて、少し変えたくなったのか、単なる気まぐれか。せっかくの工夫が生かせてなかったな、と残念に思いました。もったいない。


 
 
 
 
2015年07月26日
佐伯泰英
『狐火(きつねび)ノ杜』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ7
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 今津屋吉右衛門の内儀お艶が亡くなった。葬儀も済み、慌ただしかった今津屋も、ようやく日頃の暮らしと商いを取り戻していた。
 吉右衛門は、働き詰めだった女中のおこんに、休みをとるように命じる。ところがおこんは、応じようとしない。
 そこで磐音は、品川柳次郎と蘭医の中川淳庵を誘い、紅葉狩りを口実に、おこんの慰労をすることにした。幸吉とおそめも含めた総勢六人で、訪れたのは品川宿外れの海晏寺。
 今津屋の好意もあり楽しい時間を過ごすが、悪行をなす不埒な直参旗本衆と出くわしてしまう。

  今回も、連作短編集のような構成でした。

 ・紅葉狩りで絡まれるの巻。
 ・金沢で知り合った鶴吉が、江戸にて恨みをはらすの巻。
 ・中川淳庵が、若狭小浜藩の元年寄の診療に赴くの巻。
 ・湯屋の2Fに集うあやしい浪人たちの正体は?
 ・王子稲荷の狐火見物でならず者に遭うの巻。

 今作で感じたのが、磐音と今津屋はずいぶんと親密になったな、と。磐音と老分の由蔵は、今では冗談を言い合う仲ですよ。他の奉公人たちも磐音のことを「後見」と呼んだりしてます。
 そして、おこんは、磐音が町人になったら嫁に行ってあげる宣言。さすがの磐音も、おこんが本気だと気がついたか。気がついてもなにもしないんですけど。


 
 
 
 
2015年07月30日
佐伯泰英
『朔風(さくふう)ノ岸』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ8
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 安永3年(1774年)の暮れ。
 帰宅途中の磐音は両国橋で、ちょっとした騒動を目の当たりにする。尾張町の草履商備後屋の番頭佐平と名乗る男が、掏りにあったと騒いだのだ。金子50両がなくなっている、と。
 周囲は、半信半疑。番屋に届けろと忠告され、騒動は終わった。
 明けて安永4年(1775年)。
 磐音は、南町奉行所定廻り同心の木下一郎太に声をかけられた。
 尾張町の草履商備後屋の一家と奉公人が毒殺されたのだという。下手人は、二番番頭の佐平と思われた。佐平だけが、岩見銀山を飲みながら井戸に飛び込んでいたのだ。
 掛取りの金を掏られた佐平の犯行なのか?

 だいたい、連作短編集のような構成でした。

 ・備後屋事件。
 ・磐音が通う、佐々木道場の鏡開き。
 ・大久保家の騒動。
 ・中川淳庵の誘拐事件。
 ・吉原の太夫選びにかかわる絵師の脅迫事件。

 この内、中核になっていたのが、大久保家のこと。
 大久保家は、寄合旗本三千石。知行地(豆州修善寺)で騒動があり、御用人の馬場儀一郎が見回りに行くことになります。そのお供をするのが、いつもの三人組(磐音、柳次郎、武左衛門)です。
 実は大久保家では、知行地の屋敷を利用して賭場を開いてました。湯治客を相手にしたささやかなものだったのですが、渡世人に目を付けられ、乗っ取られてしまったのが運のつき。小競り合いに発展してます。
 対立しているのは、屋敷に入り込んでいる吉奈の唐次郎と、下田湊の網元、蓑掛の幸助。大久保家としては、双方に手を引かせたいところ。
 磐音たちは3人でなんとかしようと、策を練ろうとしますが……。

 それと、ちりばめられているのが、やっぱり豊後関前藩のこと。磐音の妹の伊予が祝言をあげることになります。お相手は、家中の御旗奉行井筒洸之進の嫡男、源太郎。
 それから、豊後関前藩の物産所の窓口方として、別府伝之丈と結城秦之助が登場します。若々しくてやる気にあふれてます。


 
 
 
 
2015年07月31日
佐伯泰英
『遠霞(えんか)ノ峠』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ9
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 鰻捕りの幸吉が、鰻屋宮戸川の小僧となった。鰻の蒲焼を売り出し急速に大きくなった宮戸川は、奉公人を小僧から受け入れるのははじめて。親方の鉄五郎は、幸吉を一人前の鰻職人に育て上げようと決意する。
 そんな折、出前に行った幸吉が騙りに遭ってしまう。鰻の蒲焼五人前と釣り銭の三分を騙し取られたのだ。
 柳橋界隈で、食い物屋に釣り銭騙りがしばしば現れていたというが、深川にも手を広げてきたらしい。被害はその後も続き、ついに若い娘が命を落としてしまう。
 奉公にきたばかりの娘が被害に遭い、追いつめられて自殺してしまったのだ。釣り銭騙りの舞台となったのは、磐音が通う佐々木道場だった。
 事件を耳にした幸吉は、釣り銭騙りを捕まえようと、家出してしまうが……。

 本作の話題はだいたい、こんなところ。

 ・釣り銭騙り。
 ・吉原の太夫選びがいよいよ開始。
 ・渡世人の権造一家の依頼で、武州青梅の旅。
 ・白鶴太夫を巡るトラブルとか。
 ・豊後関前藩からやってきた尾口五郎の一件。

 本作では、豊後関前藩の話題がふたたび活発になります。
 まずは、豊後関前藩の借上げ弁才船正徳丸が、いよいよ江戸にやってくること。ただ、予定の日になっても現れない。しかも、紀州灘から遠州灘にかけて春嵐が吹き荒れたという話があり、もしかすると荷を流しているかもしれない、という状況。
 そして、磐音を快く思わない勢力が、表立って動き出します。磐音は暗殺者と対峙することになります。
 が、磐音の剣の腕前は豊後関前藩で伝説になってたはず。もうちょっとマシな人よこしなさいよ、と思わなくもない。


 
 
 
 
2015年08月01日
佐伯泰英
『朝虹(あさにじ)ノ島』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ10
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 磐音は、大力一座の親方千太郎の頼みを聞く。娘のおちかが、惚れた若侍に唆されて一家がためた金と共に姿を消していた。今後の商売のこともあり、内々に連れ戻してもらうのが千太郎の意向だった。
 磐音は、十手持ちの竹蔵に相談する。実は竹蔵も、内々の探索を頼まれていた。
 曲独楽の娘芸人も行方不明になっているという。どうやら若侍と駆け落ちしたらしい。符合する出来事は無関係とは思えない。
 おちかの探索は竹蔵に引き継がれるが……。

 おちかの事件で、磐音は、先祖伝来の包平を刃こぼれさせてしまいます。そこで、評判のいい刀剣研師、鵜飼百助(ももすけ)に刀を預けます。
 ということは、腰には脇差しだけという有様。それを目の当たりにした今津屋吉右衛門が、手持ちの刀を譲ってくれます。越前の大名家が所蔵していたという名刀を。
 というのも、近々、今津屋吉右衛門のお供で豆州に赴く予定だったから。
 とうわけで半ば以降は、豆州熱海の旅。
 御城外曲輪の石垣修理を美作津山藩が命じられるのですが、そのための資金を用立てるのが今津屋。吉右衛門が石切場の下見に帯同することになり、いつもの三人組(磐音、柳次郎、武左衛門)の出番となります。

 熱海の旅では、これまで、なんとなく登場していただけの速水左近(幕府の御側衆)が、やっぱり権力の中枢にいる人なんだな、という存在感。そのあたりも含めて、熱海のエピソードをじっくり書けばいいのに、と思ってしまいます。軽いのがウリなんでしょうけど。


 
 
 
 
2015年08月02日
佐伯泰英
『無月(むげつ)ノ橋』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ11
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 磐音は、研ぎに出していた刀を受け取りに、鵜飼百助(ももすけ)の屋敷を訪れた。すると、鵜飼が、ひとりの武家と睨み合いの真っ最中。
 武家は高村栄五郎。御小普請支配の用人だった。御小普請支配は賄賂の集まりやすい役職。鵜飼に研がせるために持参した正宗は、誰かからの付け届けらしい。
 鵜飼は、正宗の正体が勢州村正だと見抜いていた。村正と言えば、徳川家に不吉をもたらすと忌み嫌われている刀だ。
 磐音は二人の間に割って入る。高村からは捨て台詞を頂戴した。
 そんなある日、南町奉行所年番与力笹塚孫一が辻斬りにあった。直前に笹塚が訪れていたのは、逸見筑前守実篤の屋敷。逸見家の役職は、御小普請支配だ。
 勢州村正の一件もあり、磐音は、将軍御側衆の速水左近に相談するが……。

 どうも印象に残りにくい読後感。
 一章の中で、あれこれといろんなことが発生します。これまでもそういう書き方でしたが、今作は、より顕著に思えました。終わってみると、なんだったのかな、と。

 村正の件の他、品川家の招待を受ける話とか、女郎屋一酔楼がだまされる事件とか、「髭の意休」なる人物が白鶴太夫にご執心なのを快く思わない人がいる騒動とか、磐音はいろんなことに首をつっこみ、巻き込まれ、絡まれます。
 それと、前作の脇エピソードで出てきた、因幡鳥取藩の内紛騒動の関係で、織田桜子が磐音に接近してきます。

 
 

 
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