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2015年の記録
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 10
 
このページの本たち
探梅ノ家』佐伯泰英
残花ノ庭』佐伯泰英
ミストクローク −霧の羽衣−』ブランドン・サンダースン
エンプティー・チェア』ジェフリー・ディーヴァー
まんまこと』畠中 恵
 
夏燕ノ道』佐伯泰英
驟雨ノ町』佐伯泰英
螢火ノ宿』佐伯泰英
紅椿ノ谷』佐伯泰英
捨雛ノ川』佐伯泰英

 
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2015年08月03日
佐伯泰英
『探梅ノ家』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ12
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 このところ、火付けに乗じて店に押し込むという黒頭巾の一味が暗躍していた。そんな最中、元大坂町の衣装屋に押し込みが入った。火事の最中のことで黒頭巾の一統に思われたが、どうも手口が違う。
 磐音は、唯一の生存者である奉公人の証言から、湯屋で見かけた白髪頭の老人が関係しているとにらむが……。

 本作では、今津屋吉右衛門の後添えの話題が大きい印象。
 今津屋は、江戸の両替商六百軒を司る両替屋行司を務める大店。吉右衛門はずっと、お艶の三回忌までは……とその話題を避けてました。内儀が不在なだけでなく跡取りもいないので、老分の由蔵はやきもき。
 そこで由蔵は、吉右衛門には告げずに行動に出ます。
 お艶の三回忌の法要が相州鎌倉の建長寺で行われます。由蔵は吉右衛門の代参という名目で旅に出ることになります。お供は、磐音だけ。
 旅籠で密会したのは、由蔵が選んだお内儀候補のお香奈。小田原城下の脇本陣の主の娘です。
 そこで、ちょっとした事件が発生します。

 磐音と由蔵が江戸に戻ると、品川柳次郎が行方不明になってました。
 それから佐々木道場では、門弟に加わったばかりの若人が登場。ひと騒動あります。師範の本多鐘四郎が、ちょっと身近な存在になったな、と。
 さらには、磐音とお友達が襲われる事件が発生。そのときの面々は、奥医師の桂川国瑞と、蘭医の中川淳庵、そして因幡鳥取藩の織田桜子。磐音も含めて誰もが、自分が狙われたのかもって思ってしまうような面々です。
 今回は襲ってきた人たちに特徴があったので、国瑞だと分かりましたが。


 
 
 
 
2015年08月04日
佐伯泰英
『残花ノ庭』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ13
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 将軍の家治が催す日光東照宮社参は、幕府の威光をかけて行うもの。ところが金子が足りず、町方も担わされることになる。不足分は、22万両。
 取りまとめるのは、両替商行司の今津屋。今津屋吉右衛門は、勘定奉行の太田播磨守正房に注文を付ける。金子の調達を引き受ける代わりに、算盤勘定のしっかりした商人実務方を出納係に入れるように、と。
 出納方の実際の総指揮をとるのは、今津屋老分の由蔵。磐音も、太田家の家臣を装い、後見として同行するように頼まれてしまうが……。

 たびたび話題には上っていた社参も、1ヶ月後。間近にせまって、磐音も人ごとではいられないことが判明しました。
 それともうひとつの大きなトピックスは、阿蘭陀商館長フェイトら一行の江戸入り。将軍家へ御礼言上に出府するためのもので、定期的に行われてます。ただ、今回は、種姫の治療というのがあります。
 種姫は将軍の養女。麻疹にかかっており、南蛮の医師ツェンペリーに診てもらおうとする一派と、それに反対する一派が対立してます。なお、反対派の親玉は田沼意次であるもよう。
 異人さんの目を通した磐音が描かれます。 ただね、異人さんの視点というのが、どうもどこかで読んだことがあるようなステレオタイプ。新たな磐音を書きたかったのでしょうけど。

 その他、強請り事件とか、唐傘長屋のおそめの奉公話とか、豊後関前藩国家老にして磐音の父の正睦が上府したりとかがあります。
 江戸家老の福坂利高は相変わらず。磐音に因縁をつけたりしてます。留守居役の中居半蔵が、ついにダメ上司(利高)に楯突いたので、今後大きく動きそうな予感を残して終了。


 
 
 
 

2015年08月07日
ブランドン・サンダースン(金子 司/訳)
『ミストクローク −霧の羽衣−』全三巻/ハヤカワ文庫FT

ミストボーン・トリロジー》三部作、第三部。
 支配王は〈即位(のぼり)の泉〉で力を得、〈終(つい)の帝国〉を1000年に渡って支配してきた。それは、少数の貴族が多数のスカーを奴隷として使役する世界。
 反旗を翻したスカーはついに支配王を倒すが、平和が訪れることはなかった。反乱を組織した盗賊団にとって誤算だったのは、支配王が溜め込んでいたはずの富が見つからないこと。しかも〈即位の泉〉から解放されてしまった悪しき力は、世界を滅亡へと駆り立てていく。
 〈灰の七山〉からの降灰ははげしくなり、立ちこめる霧は人々を殺し始める。大地は揺れ、植物は育たない。
 新皇帝エレンド・ヴェンチャーは、より多くの人々を生き延びさせるため、貯蔵庫を手に入れようと画策する。貯蔵庫こそ、支配王が終末を予見して密かに残したもの。悪しき力の存在を認識していた支配王には、1000年の準備期間があった。
 すでにエレンドは3つの貯蔵庫を手中に収めている。そして、あと2つの在処も分かっている。
 ひとつは〈北領〉で最大の都市、ウルトー。
 反体制組織によって支配されているウルトーには、すでに密偵としてスプークを送り込んでいた。エレンドは、ウルトーと同盟を結ぼうと、〈たもちびと〉のセイズドを大使にたてる。
 またひとつは〈西領〉のファドレクス・シティ。
 ファドレクスは、かつての帝国では資源局の流通拠点。現在は、義務官だったヨーメン卿が支配している。
 エレンドは〈霧の落とし子〉であるヴィン・ヴェンチャーと軍隊を率い、ファドレクスへと向かう。〈西領〉の貯蔵庫には、悪しき力に対抗しうるなにかが隠されているはずなのだ。
 戦いではなく、交渉に応じて欲しいと願いながら……。

 三部作の最後を飾るだけあって、これまでの様々な出来事に答えが用意されてます。こちらが疑問にも思わなかったことにまで。
 背景にあるのは、〈保存〉神と〈破壊〉神の対立。
 悪しき力というのが〈破壊〉神のこと。〈即位の泉〉の力は〈保存〉神のもの。〈保存〉神はその存在を見せず、〈破壊〉神は人間にちょっかいを出してます。

 物語は、さまざまな視点から語られます。
 ヴィンには〈破壊〉神を解き放ってしまった後悔がある。エレンドには、皇帝としての役割と本心との間に葛藤がある。セイズドは、信じるものを失って苦悩している。スプークには、自分が重要視されていないと焦燥感がある。
 それから、来るべきときに備えようとしているのが、カンドラ族のテン=スーンと、尋問官のマーシュ。
 それぞれがそれぞれに読み応えがあるのですが、いかんせん視点が多いため、もっとじっくり読みたいのに場面が切り替わって、もどかしく思うことも度々。
 しかし、しかし、感銘を受けました。こういう物語を書ける人がいるんだな、と。同じ時代に生きられて幸いです。 


 
 
 
 

2015年08月08日
ジェフリー・ディーヴァー(池田真紀子/訳)
『エンプティー・チェア』文藝春秋

リンカーン・ライム》シリーズ、第三作
 リンカーン・ライムは、犯罪学者。科学捜査の専門家。四肢麻痺という障害を抱えているが、明晰な頭脳は健在。障害者だからと気を遣われることを何よりも嫌っている。
 ライムは脊髄再生手術を受けることを決め、ノースカロライナ州エイブリーを訪れていた。手術は明後日。付き添っているのは、専属介護士のトムと、助手でニューヨーク市警察官のアメリア・サックス。
 そのころ、ノースカロライナのパケノーク郡では事件が発生していた。
 メアリー・ベス・マコーネルが誘拐され、止めに入ったと思われるビリー・ステイルが殺害された。容疑者は、ギャレット・ハンロン、16歳。これまでも殺人の容疑がかけられたことのある問題児。地元では、昆虫少年として知られている。
 そして、事件の翌朝。
 事件現場に花束を供えに来ていた看護師リディア・ジョハンソンが、ギャレットに拉致されてしまう。さらにギャレットは保安官補のエド・シェーファーを罠にかけ、ハチに襲わせて昏睡状態に陥れた。
 ライムは保安官のジム・ベルから、事件の捜査協力を求められる。
 なにしろ、地元警察は鑑識の経験に欠けている。州警察本部に頼んだのでは、結果が出るまでに何週間もかかってしまう。誘拐された女性2人の生死は、迅速性にかかっているのだ。
 ライムは機材を集めさせ、アメリアを使って捜査に当るが……。

 物語の前半は、リディアをつれて逃げるギャレットと、鑑識で得られたデータを元に彼の行き先を探っていくライム、実際に行動するアメリアたちという構成で比較的単純。
 アメリアをサポートするのは上級保安官補の、ジェシー・コーン、メイスン・ジャーメイン、ルーシー・カーの3人。ジェシーは鼻の下をのばしているけれど、あとの2人が歓迎していないのは明らか、という陣容。
 ギャレットは物語半ばで逮捕されます。でも、ギャレットの様子を見たアメリアが、ギャレットが犯人ではないと確信。脱獄させて一緒に逃亡します。そこからが、ちょっと複雑。

 今作も、ディーヴァーお得意のどんでん返しはあります。ただ、同じ方向へのどんでん返しなので、あまり感動はなく。読んでいてミスリードを狙っているな、と思ったらその通りだったり。
 前作の『コフィン・ダンサー』がすごくよかった分、物足りなさばかりが残ってしまいました。

 ところで、パケノークってロアノークに似ているな、と思ったら、関連してました。ロアノークについては、書的独話の「失われた植民地」で少しだけ言及があります。


 
 
 
 

2015年08月11日
畠中 恵
『まんまこと』文春文庫

 連作短編集。
 高橋宗右衛門は、町人の揉め事を調停する町名主。江戸は神田で八つの町を支配町としている。
 跡取り息子の麻之助は、生真面目で勤勉。誰もが期待する子供だった。ところが16歳になったとき、大層お気楽な若者に化けてしまった。
 それから6年。このままでは先が思いやられると周囲の者たちは心配するけれど、本人はどこ吹く風。
 麻之助には、仲のいい悪友が2人いた。町名主の八木源兵衛の跡取り息子、清十郎。そして、同心見習いをしている相馬吉五郎。

「まんまこと」
 笠松屋の娘おのぶが、嫁入り前に子を身ごもった。おのぶが口にした相手の名は麻之助。ところがおのぶは、清十郎に麻之助と呼びかける始末。
 麻之助は、子の父を探すことになるが……。

「柿の実を半分」
 麻之助の悪癖に、木になった柿を盗むことがあった。質屋の三池屋小左衛門の柿をいただこうとしたところ、待ち伏せに遭ってしまう。代償は、小左衛門の話し相手を務めること。
 小左衛門が話したのは、若かりし頃の恋の話。どうも作り話であるようだった。ところが、実際に小左衛門の娘を名乗る娘が現れて、騒動に発展してしまう。

「万年、青いやつ」
 麻之助に縁談話が舞い込んだ。相手は、吉五郎のまたいとこのお寿ず。縁談から逃げたい一心の麻之助は、急に仕事に励みだす。
 高橋家に持ち込まれた裁定は、万年青(おもと)のこと。
 万年青のお披露目の会で、芽吹いたばかりの苗が問題となった。名の記されていなかった鉢は己のものだと、ふたりが名乗り出たのだ。真の持ち主は誰なのか?

「吾が子か、他の子か、誰の子か」
 お由有は、清十郎の継母。麻之助とは2歳しか違わない幼なじみでもある。お由有は輿入れ後に幸太を産んだが、月足らずだった。そのため、町内には心ない噂が広まった。
 幸太が6歳になった今では噂は消えている。ところが、さる大名家の家臣・大木田七郎右衛門が、自分の孫ではないかと言いだした。
 七郎右衛門には、病で亡くなったひとり息子がいた。息子は江戸に滞在していたおり、子供のことを手紙で書き送ってきていた。その子が幸太ではないか、と。
 麻之助はお由有のために、七郎右衛門の息子のことを調べるが……。

「こけ未練」
 麻之助は、菓子屋で狆(ちん)を拾った。そして、おしんと名乗る娘もひろってしまう。おしんはきちんとした育ちの娘であるらしいが、どこの誰なのか、明かそうとしない。
 岡っ引きの角造はおしんのことを、姿が見えなくなられた「こりん」様だと断言するが……。

「静心なく」
 清十郎の弟の幸太が、かどかわしに遭った。八木家には脅迫文が届き、麻之助や吉五郎も協力して、下手人を探そうとする。どうやら、源兵衛の裁定を気に入らなかった者の犯行であるようだが……。

 語り口がやわらかくて豊かで、読みやすくはあります。ただ、どうも釈然としない。人物に厚みがないというか、薄っぺらく感じてしまいます。
 たとえば麻之助。生真面目だったのが路線変更したと表現されてますが、具体例はなし。周囲の人たちは嘆くばかりで、どこがどうダメになったのかが分からない。今でもけっこう真面目なことやってますけどねぇ。
 謎なのが、麻之助とお由有の関係。なにやら小出しにして秘密が明かされていくのですが、6年間もなにやってたんだ、というのが正直なところ。そういうことは手堅くまとめて、人物像を掘り下げる方に力を入れてもらいたかった。
 語り口に自信がある分、言葉に頼ってしまったのでしょうか。なんとももったいないことです。


 
 
 
 
2015年08月12日
佐伯泰英
『夏燕ノ道』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ14
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 幕府の威光をかけた、将軍家治の日光東照宮社参まであと3日。磐音も、勘定奉行太田播磨守正房の家臣を装い、同行することが決まっている。
 ふだんは磐音が雇われ用心棒を務めている今津屋では、普段にも増して大金が動き、人の出入りが慌ただしくなることが予想された。そこで磐音は今津屋に、佐々木道場に警備を頼むことを提案。師匠の佐々木玲圓にお伺いをたてようと、道場へと赴く。
 玲圓の元には、将軍御側衆の速水左近も訪ねて来ていた。その場で磐音は、思いもよらないことを頼まれる。
 社参の混乱に乗じ、将軍世子家基を暗殺する企てがあった。警備を強化しようにも、主立った者たちは家治に随行してしまうため難しい。西の丸に残っていては守りきれないかもしれない。
 そこで家基も、社参に別行することになったのだ。
 磐音は、見習い鷹匠に扮した家基を警護することになるが……。

 今回は、丸々一冊が社参がらみ。
 出発直前のゴタゴタと、出発してからのアレコレと、終わってからのいざこざ。
 家基が西の丸にいないことは早々にばれて、刺客が送り込まれてきます。それが、雜賀衆蝙蝠組。バックにいるのは、田沼意次。
 一方の磐音も、弥助という手駒を持ってます。弥助は、かつて一緒に旅をした(『雪華ノ里』)仲。磐音は、お庭番だろうと見当をつけてます。
 本来する予定だった今津屋後見の仕事もこなして、磐音、大活躍。

 エンターテイメントとしてきれいにまとまってました。このシリーズをかいつまんで再読することがあったら、おそらく本書を選ぶだろうな、と思う。


 
 
 
 
2015年08月13日
佐伯泰英
『驟雨ノ町』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ15
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 幕府の威光をかけた、将軍家治の日光東照宮社参の大行事も無事に終わり、後始末も一段落。だが、豊後関前藩には問題が残っていた。
 江戸家老の福坂利高が、藩の公金870両を使い込んでいたのだ。
 社参のために上府していた国家老の坂崎正睦は、帰国前に利高の後始末をする腹づもり。自身が江戸家老に任命した責任もあり、藩主の同意も得ている。
 正睦は、その動きを察知した利高によって暗殺されそうになるが……。

 今回は、少しとっちらかった印象。
 豊後関前藩主福坂実高は、下屋敷に今津屋と若狭屋らを招いて宴会を催します。名目は、藩財政再建への協力を感謝するため。磐音も案内役として出席します。
 その席で今津屋老分の由蔵は、磐音の父・正睦に、今津屋奉公人のおこんを磐音の嫁にと願い出ます。武士と町人で身分違いではありますが、磐音はすでに家を出た身、正睦は了承してくれます。
 そのうえ正睦は、おこん親子を招いた別の席で、おこんの父・金兵衛に頼んでもくれます。嫁にくれ、と。
 金兵衛はそれまで、磐音は好人物だけど、身分が違うので婿候補には入れてませんでした。そんなこんなで、ふたりは晴れて親公認の仲。以降、磐音は金兵衛から、婿殿扱いされます。

 それから、深川鰻処宮戸川の小僧・幸吉の行知れず事件が発生。幸吉が行方不明になるのは何回目か、と思いながらも、これで心を入れ替えそうな雰囲気で終了。
 南町奉行所から依頼された護衛の仕事のエピソードは少し長め。
 いつもの三人組(磐音、品川柳次郎、竹村武左衛門)が派遣されたのは、甲斐の市川陣屋。押し込み強盗を働いていた鰍沢の満ヱ門が捕まり、江戸に護送されることになります。三人がするのは、護送を担当する同心の木下一郎太の護衛。満ヱ門の一味が襲ってくるかもしれないのです。
 甲斐で磐音は、これまでしなかったような行動をとります。新たな磐音を試したかったんでしょうねぇ。ちょっと失敗だったような気がするんですが。
 最後に、今津屋が強盗に狙われる事件が発生して、終了。

 今回は、磐音とおこんとの仲が両家の公認になったので、シリーズ的には進展がありました。


 
 
 
 
2015年08月14日
佐伯泰英
『螢火ノ宿』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ16
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 磐音は今津屋に頼まれ、お佐紀を迎えに赴く。
 お佐紀は、小田原城下の脇本陣小清水屋の娘。今津屋吉右衛門の後添いに決まっている。磐音はそんなお佐紀から、頼まれごとを引き受けた。
 お佐紀の姉お香奈は、小田原藩士大塚左門と駆け落ちしていた。ふたりは江戸に落ち着いて、深川南十間堀猿江村の百姓、小右衛門の家作に住んでいる。そこで面倒に巻き込まれているらしいのだ。
 お佐紀は文で、金を無心されていた。お佐紀にも姉を助けたい気持ちがあり、金を渡すのはやぶさかでない。だが、嫁いだ後までひきずりたくはない。
 磐音はお佐紀から金子を預かり、お香奈の様子を見に猿江村へと向かうが……。

 磐音は、猿江村での一件だけでなく、今津屋のために動きまくってます。仲人を将軍御側衆の速水左近に頼んだり、とか。
 磐音は、シリーズ初期にはその日の食事にも事欠くことがありました。お腹が空くから布団から出ない、なんてことも。最近そういう場面がないのは、今津屋の奉公人として給金もらってるんじゃないか、と思えてなりません。

 今回は、今津屋がらみのイベントが少し、大半は白鶴太夫の身請け話でした。
 白鶴太夫に身請け話が出ているのを教えてくれるのは、絵師の北尾重政。お相手は、奥州山形藩内の紅花商人、前田屋内蔵助。白鶴太夫も了承している、と。
 重政によると、身請け話を快く思わない人物がいるらしいとか。
 白鶴太夫の正体は、磐音が豊後関前藩士だったころの許嫁の奈緒。磐音は、ゆえあって別々の道を歩むことになったと、ふっきれてます。でも、やっぱり助けねば、というわけで吉原に向かいます。
 吉原では、白鶴太夫の身辺で殺人事件が発生してしまいます。
 犯人探しをするわけですが、ミステリ要素はほんのちょっぴり。磐音が変装して侵入調査したりするので、そのあたりが読みどころになるのだろうと思います。


 
 
 
 
2015年08月15日
佐伯泰英
『紅椿ノ谷』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ17
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 今津屋吉右衛門とお佐紀が祝言をあげた。今津屋の面々も磐音も、無事に済んで安堵していたが、どうもおこんの様子がおかしい。
 おこんは、心ここにあらずという空ろな感じ。ときおり、気鬱な表情を見せるようになっていた。
 心配した磐音は、蘭方医の中川淳庵に相談する。その淳庵に頼まれた桂川国端が、今津屋夫婦の往診を理由に今津屋を訪れた。国端はおこんも診察しようとするが、断られる。だが国端は、おこんに心の病を診てとった。
 おこんは、奉公にあがって以降、大所帯の今津屋の奥を取り仕切ってきた。これまでずっと、大店の内儀がこなす役どころを担っていたのだ。新しい内儀がきて、お役目から解き放たれたものの、気持ちの拠り所も失ってしまったようだ。
 磐音は国端から、おこんを湯治場に連れて行くように勧められる。国端が紹介してくれたのは、桂川家と昵懇の宿がある、法師の湯。
 磐音はおこんを説得し、ふたり旅に出るが……。

 旅に出る前、おこんの不調と同時進行で、磐音の通う佐々木道場の改築話が持ち上がります。ほんのちょっと大きくするつもりだったのが、話は膨らみ、費用も膨らみ。
 道場主の佐々木玲圓は、周囲に迷惑はかけたくないと、近隣のお屋敷への嘆願などはしない方針。ところが、改築費用の寄付を名目にした詐欺事件が発生してしまいます。
 どうやら、佐々木道場を快く思わない者の仕業であるようです。

 今作は、佐々木道場の改築に伴う詐欺事件と、おこんの病の話。
 まだ結納もしてないのに婚前旅行ですよ。おこんの父・金兵衛は磐音のことを婿殿と呼んでるし、もう周囲は、夫婦と見なしてるんですねぇ。


 
 
 
 
2015年08月16日
佐伯泰英
『捨雛ノ川』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ18
 坂崎磐音(いわね)は、元・豊後関前藩士。今では、江戸は六間堀町の裏長屋、金兵衛長屋に暮らす浪人の身。
 暮れが近付き、磐音と品川柳次郎、竹村武左衛門も、仕事納めを迎えていた。三人は、蕎麦でも食べようと地蔵蕎麦を訪ねるが、どうも様子がおかしい。店前には町奉行所の猪牙舟が止まり、店奥でははりつめた空気が漂っていた。
 今夜、亀戸村の不動院で、大賭博が開帳される。手入れのため、南町奉行所の面々が集まっていたのだ。武左衛門は早々に退散。逃げ後れたふたりは手伝うことになってしまうが……。

 物語の出だしは、おそめ。
 今津屋がおそめを預かってそろそろ1年。おそめの希望は、縫箔屋の職人奉公。今津屋での奉公は、あくまで職人奉公の準備のためでした。
 新しく内儀になったお佐紀はおそめが気に入っていて、このまま永奉公をしないかと誘います。磐音とおこんは、おそめの気持ちを確かめようとします。

 そして、もうひとつの大きな話題が、佐々木道場の師範、本多鐘四郎のこと。
 磐音と鐘四郎は、門弟たちをつれて食事に行きます。すると、武家娘が若侍にからまれている現場に遭遇。鐘四郎が体よく追い払います。
 武家娘は、西の丸御納戸組頭、依田新左衛門の娘お市。娘ばかりの家で、事件をきっかけに、鐘四郎に婿入りの話が舞い込みます。鐘四郎もお市のことが気に入っているのですが、ちょっと自分に自信が持てない状態。
 磐音も知らなかった鐘四郎の過去が語られます。鐘四郎には気になっていることがあって、初恋のお千代はどうやって暮らしているのか、と。
 磐音は鐘四郎に付き添って、お千代を訪問します。

 ミステリ仕立てにしてあるのが、3人の武家が殺された事件。
 被害者は、いずれも武名高き剣の達人たち。刀傷はなく、固いもので打撃された跡が残ってました。現場に残された遺留品から、犯人が明らかになります。
 よくよく考えてみれば、磐音だって、かなりの数の死体を生産してるんですけどね。

 
 

 
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