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2015年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 10/現在地
 
このページの本たち
ハリダンの紋章』ジャック・マクデヴィット
探索者』ジャック・マクデヴィット
カードミステリー 失われた魔法の島』ヨースタイン・ゴルデル
泰平ヨンの未来学会議[改訳版]』スタニスワフ・レム
猫とキルトと死体がひとつ』リアン・スウィーニー
 
スノーグース』ポール・ギャリコ

 
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2015年11月19日
ジャック・マクデヴィット(増田まもる/訳)
『ハリダンの紋章』カヤカワ文庫SF920〜921

 宇宙船〈カペラ〉が、2600名の乗客と共に消息を絶った。
 事故から10日後、辺境惑星で古美術商を営むアレックス・ベネディクトのもとにメッセージが届く。おじのガブリエルが〈カペラ〉に乗っていたらしい。
 ガブリエルは、アマチュア考古学者。アレックスの生業の批判者だった。
 ところがガブリエルは、アレックスにメッセージを遺していた。自身が情熱を傾けているある調査について、アレックスに引継いでほしい、と。
 どうも〈裏切り者〉ルーディック・タリノに関することらしい。
 つい200年前、デラコンダとアシユール人との間に戦争が勃発した。その大抵抗戦争でデラコンダの輝ける英雄となったのが、クリストファー・シム。タリノは、シムの乗艦〈コルサリウス〉の航宙士だった。
 シムの最期の戦いに付き従ったのは、名もなき〈伝説の七人(ザ・セブン)〉たち。一方タリノは、勝ち目のない戦いに、シムを見捨てて逃走した。以来タリノの名前は、軽蔑と哀れみの対象となっている。
 ガブリエルの遺言では、詳細は明らかにされていなかった。秘匿しなければならないこととは、なんなのか。ガブリエルはなにを警戒していたのか。
 アレックスは、ガブリエルの唯一の相続人として故郷へと旅立つが……。

 《アレックス&チェイス》シリーズ一作目。
 再読。前回から3年しか空けていませんが、改めて読んでみて、いろいろと忘れていることに気づかされました。

 舞台は1万年ほど未来。おもむきは歴史ミステリ。宇宙旅行をする時代ですから科学技術は進んでいますが、人間の本質ははたいして進化していません。
 戦争によって失われた記録や、歪めて伝えられた出来事、巧妙に伏せられた事件……それらが、外堀を埋めていくことで徐々に明らかにされていきます。基本的に"推して知るべし"というスタンス。
 読むたびに違う発見と出会えそうです。


 
 
 
 
2015年11月20日
ジャック・マクデヴィット(金子 浩/訳)
『探索者』早川書房

アレックス&チェイス》シリーズ三作目。
 リムウェイ暦1429年。
 アレックス・ベネディクトの生業は、遺物の売買。ときには、みずから遺跡を探し当てることもある。
 経営しているレインボウ社の唯一の従業員は、チェイス・コルパス。チェイスは、アレックスのパイロットであり、相談役であり、調査員でもある。
 ある日レインボウ社に、古いカップが持ち込まれた。
 売却を希望しているのは、エイミイ・コルマー。元彼のクリーヴ・プロツキイからもらったものだと言う。
 やがてカップは、伝説の宇宙船〈探索者〉の備品だと判明する。
 9000年前。
 第三千年期の地球には、共和国を名乗りながらも人々を抑圧する社会があった。教会に支配され、権力者には絶対服従を強いられる、自由のない社会。国民の中には、裕福ながらも不自由さを嫌い、脱出を試みる者たちがいた。
 〈探索者〉で旅立った彼らは、植民星の場所を明かさなかった。また、ときの政府は、厄介者の彼らの逃亡を喜び、捜そうとはしなかった。
 彼らはマーゴリア人と呼ばれ、今でも行方は分からない。
 チェイスは、アレックスに指示されるまま調査をすすめていく。プロツキイには、窃盗の前科があった。
 カップはどこかから盗まれたものなのか?
 マーゴリア人はどこに旅立ったのか?

 ネビュラ賞受賞作。
 社交的で明るいチェイスを視点に、物語は展開していきます。チェイスも考えはしますが、頭脳担当はもっぱらアレックス。ふたりには、マーゴリア人に対する温度差があります。
 チェイスはさめ気味。のめり込んでいるアレックスがボスなので、文句を言いつつも、つきあってやってる感じ。
 時代的には1万年ほど未来になりますが、現代との隔たりはそれほど感じられません。ただ、古代ミステリを楽しむような感覚はあります。

 3年ぶりの再読で、まだ記憶も新しい……と思ってました。読むまでは。最終的にたどり着くところは覚えてましたが、それ以外は抜け落ちていて、新たな発見もありました。
 意外だったのは、はっきりと覚えていたシーンが存在していなかったこと。
 このシリーズは基本的に、推して知るべし、というスタンス。その推す部分を脳内で補完した場面が記憶に残ってました。こうして、スピンオフって作られていくんでしょうねぇ。
 読み終わったばかりですが、また読みたくなってます。


 
 
 
 
2015年11月25日
ヨースタイン・ゴルデル(山内清子/訳)
『カードミステリー 失われた魔法の島』徳間書店

 ハンス−トマスは12歳。
 8年前に母が失踪し、以来、ノルウェーで父とふたり暮らし。母の行方が分かったのは、ファッション雑誌の表紙で笑っているところを目撃されたからだった。
 ハンス−トマスとその父は、哲学者たちのふるさとアテネへと旅立つ。ファッション界で迷子になっている母を見つけるために……。

 ハンス−トマスは道中のガソリン・スタンドで、小人からルーペをもらいます。そのルーペが活躍するのは、ドルフの町に入ってから。パン屋でもらったパンに、ルーペがなくては読めないような、豆本が仕込まれていたのです。
 本作では、ギリシャへの父子の旅と、豆本に書かれている物語の2本立ててで展開していきます。

 ハンス−トマスの旅は、いわゆるロードストーリー。
 母は8年も行方知れずだったので、父も子も、はやく会いたい反面、怖さもあるのだろうな、という雰囲気がひしひしと感じられました。飲んだくれの父が的学的なことをはなすのは、さすがゴルデルの本といったところ。
 パン屋の老人が書いたらしい豆本には、先代のパン屋から聞いた話が書かれてます。
 先代は、そのまた先代のパン屋に気に入られて、跡取りとして迎え入れられたいきさつがありました。そして、先々代が語る摩訶不思議な物語を伝えていました。

 整理すると……フローデの物語をハンスが見聞きし、ハンスはそれをアルベルトに伝え、アルベルトはルートヴィヒに物語を託し、ルートヴィヒは豆本という形にしてハンス−トマスに渡した、と。
 ルートヴィヒは豆本の中でフローデの時代までさかのぼっていきますが、この入れ子状が、ちょっと分かりづらい。読み始めた当初は、誰のことが語られているのが、確かめずにはいられませんでした。
 語り手の世代交代以外にも、かなり趣向を凝らしてます。判明したときの爽快感がある一方、凝りすぎたことが裏目に出ている印象も。
 おそらく児童書になるのだと思いますが、児童が背伸びをして読むのがちょうどいいのかもしれませんね。


 
 
 
 

2015年11月29日
スタニスワフ・レム(深見弾/大野典宏/訳)
『泰平ヨンの未来学会議[改訳版]』ハヤカワ文庫SF2009

 第8回世界未来学会議はコスタリカで開かれた。
 会議では人口の激増とその阻止がおもに討論されることになっている。コスタリカの人口増加率は、世界最高レベル。そのため、未来学協会の理事会によって開催地に選ばれたのだ。
 泰平ヨンは、未来学のことなどまるで知らない。ただ頼まれて、出席することになっていた。
 会場は、コスタリカ・ヒルトン・ホテル。
 そこでヨンは、トラブルに見舞われてしまう。
 そもそもコスタリカの政情が安定しておらず、ホテルがテロリストの標的となってしまったのだ。ヨンは幻覚剤に見舞われ、頭脳と身体を切り離された挙げ句、冷凍されてしまう。そして、目覚めたときには2039年になっていた。
 世界はユートピアに到達しているかに見えたが……。

 「コングレス未来学会議」として映画化された作品。
 ヨンのいた世界も先進的で、薬物でさまざまなことを解決します。薬を服用しただけで、本に書かれていることが読まずとも記憶できたり、宗教界には聖体礼拝錠や秘跡授与剤なんてものまで存在する。そういう世界に連なる未来世界は、奇妙なところ。

 短い作品ですが、途中で挫折する人も少なくなさそうです。一方で、傾倒する人も少なくなさそう。
 名作だとか傑作だとか、耳にしたことはありますが、読者を選ぶ物語だと思います。残念ながら選ばれませんでした。


 
 
 
 

2015年12月19日
リアン・スウィーニー(山西美都紀/訳)
『猫とキルトと死体がひとつ』ハヤカワ文庫イソラ

 サウスカロライナ州北部のマーシーは、どこへ行くにも五分で辿り着けそうな小さな町。
 ジリアン・ハートが湖畔の家に越してきて10ヶ月。夫のジョンは亡くなり、キルト作家として生計を立てながら、三匹の猫と暮らしている。猫たちは、ハリケーン・カトリーナで被災した子たち。ヒマラヤンのシャブリと、メインクーンのメルローと、アビシニアンのシラー。
 ある日ジリアンが出張から帰ると、人間アレルギーのシャブリがくしゃみをしていた。メルローは怯え、シラーの姿がない。
 そして、窓ガラスが割られていた。
 ジリアンは警察に通報する。かけつけたのは、モリス・エベリング巡査と、キャンディス・カーソン巡査。
 モリスは、金品が盗まれていなかったため、真面目に取り組もうとしない。一方キャンディスはジリアンに同情的。モリスの方針には口出しできないが、個人的に手助けしてくれると言う。
 ジリアンにとって、シラーはわが子同然。
 迷い猫のチラシを作り、動物保護施設へと足を運ぶ。実は、施設でも猫や犬が盗まれたことがあった。そのとき犯人だと思われたのは、フレイク・ウィルカーソン。
 ジリアンは藁にもすがる思いで、ウィルカーソン邸に向かう。しかし、あしらわれ、シラーの行方は掴めずじまい。
 ところが、ジリアンの自宅にふたたび泥棒が入ったことで事態は一変。急遽設置した警報装置のおかげで、犯人の姿が確認できたのだ。
 犯人はスキーマスクをかぶっていた。だがジリアンは、それがウィルカーソンだと気がつく。いても立ってもいられず、単身、ウィルカーソン邸に向かうが……。

 ジリアンは、猫がからむと周囲が見えなくなってしまうタイプ。シラーがいなくなったとき、警察にことの次第を説明しますが、それが支離滅裂。そういう書き方が、すごくうまい。
 ただ、ミステリが読みたいと思っているときに読む本ではないな、と思いました。
 ミステリを読みたいけど猫成分も欲しいとか、猫を楽しみたいとか、そういうときに読むべき作品。こまかいところは、登場する猫の仕草で相殺できる人むけ。
 猫好きにはたまらないです。


 
 
 
 

2015年12月27日
ポール・ギャリコ(矢川澄子/訳)
『スノーグース』王国社

 人間と動物と奇蹟の短編集。

「スノーグース」
 エセックスの海岸に、役目を終えた燈台小屋があった。打ち捨てられていた小屋に住みついたのは、フィリップ・ラヤダー。鳥や風景を描く画家だった。
 ヤラダーは、燈台とそのまわりの沼地と塩沢を何エーカーも買い、野鳥たちを保護していた。町に出てくるのは必要最低限。人間嫌いではなかったが、からだに不具があり、人付き合いを避けるようになっていた。
 ラヤダーが移り住んで3年。
 ある日、少女フリスが訪ねてくる。フリスは傷ついたスノーグースを見つけていた。ラヤダーのことは噂で聞いており、こわさもあった。だが、スノーグースを助けたい一心で燈台小屋を訪れたのだった。
 その日から、スノーグースを介して、ラヤダーとフリスの交流がはじまるが……。

 スノーグースは渡り鳥のため、ずっとラヤダーのところにいるわけではありません。フリスが燈台小屋に行くのは、スノーグースがいる期間だけ。
 フリスの、素朴な田舎の子供なところが、すごくいいんです。つっけんどんで、年月は流れても、そういうところはあまり変わらない。でも、成長していくんですよねぇ。

「小さな奇蹟
 ペピーノは、孤児。イタリアはアッシジ近郊の村に暮らしていた。ペピーノが心の拠り所にしているのは、ろばのヴィオレッタ。
 ペピーノはヴィオレッタといっしょに、荷運びやオリーブの収穫の手伝いなどをしていた。少しだが蓄えもある。
 ところが、ヴィオレッタが病気になってしまう。
 獣医に診せてもよくならず、ペピーノは、聖フランシスにすがろうと思いつく。聖フランシスは、神に仕える生きものたちを慈しんだ聖者様。ヴィオレッタを一目見れば、きっと救いの手を差し伸ばしてくださる。
 ペピーノはヴィオレッタを、聖フランシスの霊廟に連れて行こうとするが……。

 ペピーノの行動指針は、もっと幼かったころに教えられた、ノウといわれて引き下がってはいけない、ということ。それを実践していきます。
 奇蹟と片付けてもいいけれど、ペピーノが行動しなければ結果はついてこなかった、と。そちらが重要に思えます。

「ルドミーラ」
 リヒテンシュタインの農家では春になると、飼牛を山の上へ、秘境の牧場へと送りだす。牛をあずかった牧夫たちは、夏中アルプス高地の仮小屋で暮らしながら、牛の乳をしぼり、チーズやバタをつくる。下の谷との連絡はとだえ、牛の持ち主たちが己の牛の成績を知るのは、九月も過ぎて牛たちが下山するとき。
 ある夏の終わりのこと、ある奇蹟が起こるが……。

 主役は、貧相な雌牛。ちびで、乳の出のよくない牛で、人間たちもあきらめが入ってます。この牛に、聖ルドミーラの奇蹟が起こります。
 奇蹟の種明かしがされますが、そこが考えさせられるところ。いったい何をもって奇蹟と呼ぶのか。

 
 

 
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