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2016年の記録
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このページの本たち
本陣殺人事件』横溝正史
ミス・エルズワースと不機嫌な隣人』メアリ・ロビネット・コワル
若殿八方破れ』鈴木英治
その女アレックス』ピエール・ルメートル
王都の二人組』マイケル・J・サリヴァン
 
魔境の二人組』マイケル・J・サリヴァン
ペガサスに乗る』アン・マキャフリイ
ペガサスで翔ぶ』アン・マキャフリイ
美女いくさ』諸田玲子
DEATH NOTE』大場つぐみ&小畑 健

 
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2016年01月01日
横溝正史
『本陣殺人事件』双葉文庫

 《金田一耕助》シリーズ
 一柳家は、岡山県の旧家。資産家ではあるが、元々は川向こうの本陣の末裔だった。村の大地主となったのは、明治維新のどさくさまぎれに田地を安値で買いこんだから。そのため、村人からはあまりよく思われていない。
 昭和12年11月。
 一柳家の当主賢蔵が、四十路にして結婚することになった。お相手は、女学校の教師をしていたという久保克子。一柳家とはまるで身分が違うが、賢蔵は、親族の猛反対を押し切ったらしい。
 披露宴がお開きとなったのは、午前2時前。
 そして、2時間ほどのちに事件が起こる。
 新郎新婦が引き取った離家から、悲鳴と、琴をかき鳴らす音が響き渡ったのだ。駆けつけた人々が見たのは、布団の上で血まみれになって死んでいる賢蔵と克子だった。
 離家の周囲は雪が積もり、誰かが逃げた跡は残されていない。隠れている人物もおらず、密室となっていた。
 警察は、あやしい3本指の男の情報を得る。離家からも3本指の指紋が発見されており、その男が犯人に思われた。だが、足取りをつかむことができない。
 克子の親族である久保銀造は、名探偵と名高い金田一耕助を呼び寄せるが……。

 金田一耕助の初登場作品。
 物語は、後に事件のことを聞いた探偵小説家によって語られます。中心人物は、久保銀造。克子は両親を亡くしており、伯父の銀造によって育てられました。
 なお、金田一がお目見えするのは中盤から。

 実は、巻末の解説を先に読みました。
 さすがに真相は書いてありませんでしたが、横溝正史が参考にした海外のミステリ作品についての言及がありました。それを拝読した上で読むと、トリックについては見当がついてしまいます。そのため、もっぱら動機を推理しながらの読書になりました。
 しかしながら、発表されたのは1946年。
 現代人の感覚とはズレがあるなぁ、というのが正直なところ。それとも、田舎は今でもこんな感じなのか。おどろおどろしい雰囲気を味わえるのはいいんですけど。  


 
 
 
 

2016年01月27日
メアリ・ロビネット・コワル(原島文世/訳)
『ミス・エルズワースと不機嫌な隣人』ハヤカワ文庫FT

 《幻想の英国年代記》
 19世紀、イギリス。
 ロング・パークミードのエルズワース家には令嬢がふたりいた。
 エルズワース氏が心配しているのは、長女ジェーンのこと。次女メロディは金持ちに望まれる美貌の持ち主。一方のジェーンは地味な顔立ちで、すでに婚期を逃しつつある。
 だがジェーンは、女性のたしなみには秀でていた。魔術と音楽、絵画の腕にかけては近隣で右に出る者がない。
 ある日、フィッツキャメロン家から舞踏会の招待状が届いた。
 姉妹はドレスを新調して赴くが、注目されるのは美しいメロディばかり。ひとりジェーンは、フィッツキャメロンが雇っている魔術師士ヴィンセントの技を堪能しようとするが……。

 ジェーン・オースティンの作品世界へのオマージュだそうで。残念ながら、オースティン作品は不案内にして存じません。そのため比較のしようがありませんが、同じくオースティン作品に影響されているという、ゲイル・キャリガーの《英国パラソル奇譚》との類似性は感じました。
 土台が同じなら、さもありなん。

 ジェーンは、どこまでいっても淑女。ひそかに隣人のダンカーク氏を慕ってます。メロディがダンカーク氏に夢中であることを知ると自分を卑下して身を引こうとします。
 そんないい子っぷりが延々と続くので、正直なところ読むのがきついです。物わかりのいい子でいるのは、さぞかし疲れることでしょう。読むのも疲れますが。


 
 
 
 

2016年01月29日
鈴木英治
『若殿八方破れ』徳間文庫

 《若殿八方破れ》シリーズ第一作
 真田俊介は、信州松代藩の跡継。
 江戸の上屋敷に暮らしているが、ある夜、刺客に襲われてしまう。なんとか撃退したものの、賊は取り逃がしてしまった。
 俊介が真っ先に思い浮かべたのは、国家老の大岡勘解由(かげゆ)の名前だった。
 勘解由の娘は、俊介の父幸貫(ゆきつら)の側室。力之介を産んでいる。俊介がいなくなれば、異母弟の力之介が跡継だ。だが、勘解由が自分の孫を藩主にするためとはいえ、刺客をいきなり送り込むような乱暴な真似をするとは考えにくい。
 実は俊介には、うらみを買っている覚えが三つあった。
 江戸市中を散策中のことだ。
 飯屋にたかろうとしていたやくざ者たちを叩きのめした。それから、町人を打擲していた浪人を懲らしめた。老女から風呂敷包みをうばったひったくりを捕らえたこともある。
 俊介は、彼らのその後を調べるが……。

 股旅物シリーズの第一作。
 真田家は、十万石の大名。ただ、内証は苦しそう。
 俊介はご先祖様が武勇に秀でていたことを誇りにしています。その名に恥じないようにと、道場に通い、剣術を磨いてます。その成果が、冒頭の刺客撃退。
 そういうときには役に立つものの、腕に覚えがあるものだから、江戸市中でいろいろやってしまうのだろうな、困った若殿だな、と。殿様のお仕事は別のところにあると思うのですが。

 俊介の、正義感が強くて若くてまっすぐなところが、そのまま物語にも反映されてます。それが、ちょっと直線過ぎて物足りない。シリーズもの第一作なので、旅に出させるために無理したのか、それが作風なのか……。


 
 
 
 
2016年01月30日
ピエール・ルメートル(橘 明美/訳)
『その女アレックス』文春文庫

 アレックスは非常勤の看護師。ひとつの契約が終わったところ。
 幼いころのアレックスはがりがりに痩せていて、お世辞にもかわいいとは言えなかった。それが今では、どんなファッションでも着こなせる美人。それもかなりの。
 アレックスは、もはや人生に期待などしていない。ただ、人生を楽しもうとは思っている。ウィッグを使って別人になるとか。
 ウィッグを使うと、中身まで変われるような気がする。コンプレックスのかたまりのアレックスではない人間に。
 その日のアレックスは、赤毛の女だった。ヴォージラール通りの〈モン=トネール〉で食事を楽しむのも2回目。帰りは歩くことにする。
 そして、誘拐されてしまった。
 カミーユ・ヴェルーヴェンは、パリ警視庁犯罪捜査部の警部。4年前の事件がきっかけで、第一級殺人の捜査からは手を引いている。妻のイレーヌが誘拐され、胎児共々惨殺されてからは……。
 そんなカミーユのところに、誘拐事件発生の一報が入る。
 誘拐事件は初動捜査が重要。他に人手がいないという理由でかり出され、カミーユはしぶしぶ事件発生現場へと向かう。
 目撃者によると、連れ去られた女に特徴はなく、無個性な白いバンに乗せられていったのだと言う。周辺を聞き込みにまわっても、犯人はもちろん、被害者の身元すら分からない。
 4日が経過した。
 ついに犯人の目星がつく。だが、動機が分からない。そもそも、被害者が誰なのかも不明のまま。
 一方アレックスは、狭い檻に詰められ、滑車で吊るされていた。衰弱が激しく、もうろうとしつつも、犯人が誰なのか悟る。
 なんとか逃げ出そうとするが……。

 途中で物事がひっくり返る系のサスペンス。
 ひっくり返るといっても、 伏線というか、予兆のようなものはあります。後からいろいろなことがあきらかになって、それでああいう言動をしていたのか、と。
 主役は、カミーユです。
 アレックスがコンプレックスのかたまりなら、カミーユも同様。
 カミーユのコンプレックスは、145cmという身長。それから、高名な画家である亡き母。4年前の事件も暗い影を落としてます。
 そんなカミーユの刑事仲間として登場するのが、大男の上司ジャン・ル・グエン、ハンサムで裕福なルイ・マリアーニ、倹約家というよりどけちなアルマン。
 カミーユは、捜査しつつ、自分とも向き合う忙しさ。いくつかの設定は削った方がすっきりしそう……と思っていたら、シリーズものの第二作だそうで。(第一作『悲しみのイレーヌ』)
 いろいろある分、読み応えはありました。頭を使いながら物語を読めるのはいいですね。


 
 
 
 
2016年02月05日
マイケル・J・サリヴァン(矢口 悟/訳)
『王都の二人組』ハヤカワ文庫FT

 《盗賊ロイス&ハドリアン》シリーズ第一巻
 ハドリアン・ブラックウォーターとロイス・メルボーンは、リィリアと名乗る盗賊集団の実行部隊。あらゆるものを盗み出し、不可能と思われるところからも脱出を果たしてきた。ギルドには所属せず、同業者にも恐れられている。
 ある日、デラノ・デウィット男爵と名乗る男から、風変わりな依頼が舞い込む。メレンガー王宮の礼拝堂から、ピッカリング伯爵の剣を盗み出してほしいというのだ。
 報酬は、200テネント。
 ふたりは王宮に忍び込むが、礼拝堂にあったのは国王アムラスの死体。逃げる間もなく、捕らえられてしまう。
 知らせを受けた王子アルリックは、大激怒。すぐさま翌朝の処刑を決定する。
 地下牢に入れられたハドリアンとロイスを救ったのは、アルリックの姉アリスタ王女だった。
 アリスタは、ふたりが濡れ衣を着せられたことを知っていた。そして、ふたりを逃がす代わりに、アルリックも連れて行ってほしいというのだ。命を狙われているから、と。
 ハドリアンとロイスに選択の余地はない。アリスタに言われるがまま、アルリックを誘拐する。
 向かうは、ウィンダーメア湖。湖岸に、ニフロン教会の秘密監獄があるという。
 グタリア監獄は、魔術師エスラハッドンを収監するためにつくられた。帝国を崩壊させたという大罪を償うために。
 しかし、それも1000年近く昔の話。
 アリスタはエスラハッドンの話を聞けというが……。

 メレンガー王家をめぐる事件には決着がつきますが、いろんなことが次巻以降に持ち越しになってます。ハドリアンとロイスのコンビも、お互いのことをあまり分かってなさそうな状態で終了。
 ちょっとしたエピソードが後に大きな意味を持っていたり、おもしろいところもありました。ただ、物語の展開のさせ方が実にぎこちない。
 登場人物の言動に必然性が感じられず、ストーリーを先に進めるために動かしているとしか思えないところもいくつか。ふって湧いたようにセリフだけで説明してしまったり。
 特に気になるのは、王族も貴族も庶民も盗賊も、言葉遣いに差異がないところ。かろうじて、古語を使っていると思われるエスラハッドンだけが特徴的。
 漫画絵が表紙の本なんて、こんなものなのかもしれませんね。


 
 
 
 

2016年02月06日
マイケル・J・サリヴァン(矢口 悟/訳)
『魔境の二人組』ハヤカワ文庫FT

 《盗賊ロイス&ハドリアン》シリーズ第二巻
 ハドリアン・ブラックウォーターとロイス・メルボーンは、リィリアと名乗る盗賊集団の実行部隊。
 ふたりは、辺境の村ダールグレンから来たという少女トレースに仕事を依頼される。
 ダールグレンは開拓して間もない新興の村。夜ごと魔獣に襲われていた。いまだその姿を見たものはおらず、多くの家畜が殺され、多数の死者もでている。
 トレースが、村にやってきたハッドンと名乗る男から聞いた話では、魔獣は、アヴェンパーサの塔にある剣でのみ殺すことができるという。そして、リィリアのふたりなら、扉なき塔の鍵を開けられるはずだ、と。
 貧しいトレースから得られる報酬は少ない。しかしロイスは、魔術師エスラハッドンが関わっていることを知り、ダールグレンに赴くことを決める。
 一方メレンガー王国では、王女アリスタが特使に任命されていた。向かうは、新興国ダンモア。ロズウォート国王に謁見し、そののち、教会が開催する競技会に参加する予定だ。
 実は教会は、帝国を復興させようと画策していた。競技会を開くのは、新しい皇帝を決めるため。教会は、かつて帝国首脳の一員だったエスラハッドンの動きを警戒するが……。

 前作で、中途半端にいなくなったエスラハッドンが再登場。現代風なしゃべり口になってしまっていたのは残念でした。
 説明セリフが多いのは相変わらず。無口設定のロイスもしゃべるしゃべる。その一方で、エルフとかドワーフとか、どういう存在なのかきちんと説明しないので、作者の想定と自分の認識で行き違いがありそうです。
 軽く読めるもの、という意図で書かれたシリーズらしいのですが、読むのは軽くても、書くのはしっかりやってもらいたかった……。


 
 
 
 
2016年02月11日
アン・マキャフリイ(幹 遙子/訳)
『ペガサスに乗る』ハヤカワ文庫SF1091

 《ペガサス》シリーズ(《九星系連盟》シリーズの前日談)
 世間に〈能力者〉という存在がいる、ということが知られ始めた時期の連作短編集。

「ペガサスに乗る」
 ヘンリー・ダロウは、占星術師を装った予知能力者。自動車事故に遭い、深刻な重症を負ってしまう。ヘンリーが運び込まれたのはサウスサイド総合病院。集中治療室でヘンリーの担当になった看護婦は、モリー・マーニだった。
 意識を取り戻したヘンリーは、モリーを見るなりふたりは結婚すると予言する。そのときヘンリーの脳波はグースエッグによって記録されていた。それが、超常能力が存在するという、はじめての明白な証拠となる。
 ふたりは結婚し、超心理学センターを設立するが……。
 内容としては、シリーズの序章。〈能力者〉のための組織が設立され、基盤を固めていく過程が紹介されます。
 ヘンリーは自分が死ぬ時を知っています。そのためか淡々としていて、物語を読んでいるというより、出来事を羅列で読んでいるような雰囲気。

「女らしい能力」
 ロヨシュ・ホーヴァートは予知能力者。妻のルースも〈能力者〉であることは分かっているのだが、それがどのような能力なのかは分かっていない。そんなふたりに、ついに子供を持つ許可がおりるが……。
 主となるエピソードは、ルースのこと。
 大きく幅を利かせているのが、〈能力者〉たちを守るための法案の行方。とりわけ予知能力者には法的保護が必要で、というのも、予知をしたがために未来が変わることがあるから。
 法案に猛反対しているのが、ズースマン上院議員。そのズースマンに関わる予知がされてしまうのがなんとも皮肉。

「腐ったリンゴ」
 〈能力者〉によるものと思われる窃盗事件が発生した。どうやら未登録の潜在的〈能力者〉が盗みを働いているらしい。米国東部超心理学研究訓練センター所長のダフィド・オプ・オウエンは自分たちへの疑いを晴らすため、仲間たちを総動員して調査をはじめるが……。
 前作で話題となった法案は、上院の承認を待っているところ。そんなときに発生した事件で、〈能力者〉に対する世間の風当たりが強くなります。

「ペガサスの手綱」
 サリー・アイズリンは、訓練センターの志願者テスト担当者。ある日サリーは、ある無名歌手が〈能力者〉ではないかと疑いを抱く。発信型の共感能力者ではないか、と。
 そこでオプ・オウエンをつれて公演を見に行くが、どういうわけだか、ステージを中座して歌手が失踪してしまう。その歌に酔いしれていた観客たちは暴徒と化すが……。
 潜在的〈能力者〉を追う、というのは、前作「腐ったリンゴ」と同じ。そのエピソードをふまえた上での展開になってます。


 
 
 
 

2016年02月12日
アン・マキャフリイ(幹 遙子/訳)
『ペガサスで翔ぶ』ハヤカワ文庫SF1127

 《ペガサス》シリーズ(《九星系連盟》シリーズの前日談)
ペガサスに乗る』続編
 人類は超光速飛行を開発し、居住可能な惑星がいくつか見いだされた。地球は人口過密に悩まされており、移住計画の実行は急務。軌道上に建設中のパドルゴイ・ステーションの完成は、世界第一の優先事項となっていた。
 宇宙ステーション建設総監督官は、リュドミラ・バーチェンカ。
 リュドミラは、超能力センターに圧力をかけてくる。なんとしても〈能力者〉たちをフル活用しようと決意していたのだ。それは自身の名声やボーナスにも密接に関係している。
 リューサ・オウエンは、北米東海岸の超能力センター所長。強引で人命を尊重しないリュドミラのやり方には辟易するばかり。辣腕の広報マン、デイヴ・レハートを雇って対抗しようとする。
 そんなころリューサは、睡眠中に何者かが心に侵入しようとしているのを感じていた。ただ、脅威はなく、感じるのは好奇心や憧憬の念。強力なテレパスであるリューサのシールドを破るとは、どんな能力者なのか……。
 一方、居住リニアGに暮らす違法児のティーラは、語学の才能を駆使してしたたかに生きていた。
 ある日ティーラはリニアGで、説教師ポンジット・プロジットが集会を開くことを知る。催物は、不正クレジットを換金する絶好の機会。そしてまた、通訳の稼ぎ時でもある。
 ティーラは、得意先である母親たちを隠れ蓑にして集会に参加するが……。

 前作『ペガサスに乗る』の登場人物の孫世代が活躍。その後の《九星系連盟》シリーズにつながる出来事も起こります。
 主人公はリューサ。
 リューサの心に侵入しようとしていたのは、交通事故で全身麻痺となった少年、ピーター・リーディンガー。自身が〈能力者〉であることも知らず、機械のベッドで寝たきりの日々。念動力があることが分かり、自分自身を動かすことで寝たきり生活から脱出します。
 ティーラは集会で事件が発生したのを機に〈能力者〉であることが判明し、リューサの保護下に入ります。

 ティーラの暮らしていたリニアの貧困層と、〈能力者〉たちの待遇の差が凄まじいです。ティーラは〈能力者〉だったからよかったけれど、そうでない違法児たちは置いてけぼり。まるで、かつては差別される側だった〈能力者〉たちが、今度は一般人を虐げているような……。
 特定の人が優遇されすぎるのと過去を振り返らないのは、作風だろうと思いますが、やはりちょっと後味はよくないです。


 
 
 
 

2016年02月13日
諸田玲子
『美女いくさ』中央公論新社

 小督(おごう)は、浅井長政の三女。母は、織田信長の妹であるお市。
 父はすでに亡い。小督は物心ついたときから、伯父の織田信包の安濃津城に身をよせていた。
 安濃津の対岸には、大野城があった。大野城は、伊勢湾東岸の水軍をたばねる佐治家のもの。佐治家には叔母が嫁いでおり、当主の一成は従兄にあたる。
 小督の一家は安濃津で暮らした後、母の再婚に伴い、柴田勝家の北庄城に入った。ところが柴田家は、一年もたたずに羽柴秀吉に滅ぼされてしまう。母は亡くなり、小督はふたりの姉と共に秀吉に庇護されることになった。
 秀吉は佐治家の水軍を身内にしようと目論む。小督を養女にした後、佐治家に嫁がせたのだ。佐治家の主君である北畠具豊(織田信雄)を懐柔せんがための政治上の秘策でもあった。
 小督にとっては、佐治一成は従兄で幼なじみ。ふたりは仲睦まじい夫婦となった。
 しかし、佐治家が戦で水軍を失うと状況は一変。一成は信包の家臣として召し抱えられたものの、秀吉からは見向きもされなくなる。
 そのころ小督の長姉の茶々は、秀吉の子を産み、妻となっていた。秀吉は嫡男の誕生に驚喜し、茶々への寵愛は増すばかり。
 その嫡男の鶴松が、3歳でみまかってしまう。
 哀しむ茶々を心配する小督。秀吉からの頼みもあり、茶々を慰めるため大坂へと向かった。姉を見舞い、元気づけたい一心だった。
 それが秀吉の策略だった。
 大坂城に入った小督は、一成と離縁させられてしまう。
 秀吉は、徳川との絆を強めるため、小督を徳川秀忠に嫁がせようとしていたのだ。
 一成のことが忘れられない小督は、なんとかして再会しようと画策するが……。

 徳川の二代将軍秀忠の正室、小督の半生記。
 とにかく波瀾万丈。「ところが」とか「しかし」とかのオンパレード。
 佐治一成と離縁した小督は、故あって秀勝に輿入れすることになります。秀勝は秀吉の甥っ子です。これが冷たい男で、小督は一成のことを思い出してばかり。
 その秀勝が戦死して未亡人になった後、徳川秀忠に嫁ぐことになります。小督は名を捨て、徳川にちなんだ「江」と名乗ることを宣言します。その決意の仕方がすごく自然でした。

 視点はあくまで小督のもの。歴史的な出来事はちょっと向こうの方にある程度。無理にからめたりはしないのは好感持てます。その一方で、物足りなさも感じてしまうのですが……。


 
 
 
 

2016年02月21日
原作/大場つぐみ 漫画/小畑 健
『DEATH NOTE』全12巻/集英社・ジャンプ・コミックス

 夜神月(やがみ ライト)は17歳。学年トップの成績をおさめ、共通模試では全国一位の優等生。だが、人生に退屈していた。
 ライトはある日、黒いノートを拾う。
 ノートには、表紙に〈DEATH NOTE〉と書かれていた。この死神のノートに、殺したい人物の顔を心に名前を書けば、その人物は死に至るという。
 はじめは悪戯を疑ったライトだったが、試してみると、効果はてきめん。結果的に殺人を犯してしまったライトは驚愕する。
 5日後。
 ライトの元に、ノートの持ち主を名乗る死神リュークが現れる。そのころにはライトは心を決めていた。
 犯罪者のいない世の中を作る。
 デスノートで、世の中を変える。
 そして、正義の裁きをくだす者として、新世界の神となるのだ。
 ライトは次々に、凶悪犯罪者を葬り去っていく。謎の殺人者のことは人々の知るところとなり、いつしか〈キラ〉と呼ばれ始める。
 そのころ、ICPO国際刑事警察機構会議は紛糾していた。刑務所に入っている、あるいは所在不明だった犯罪者が、原因不明の心臓麻痺で死んでいく。とても偶然では片付けられない数だった。
 大組織による緻密な計画殺人ではないのか。
 そんなときICPOに〈L〉が接触してくる。
 正体不明の〈L〉は、数々の迷宮入り事件を解いてきた、世界の影のトップ。これまた謎の男ワタリを通じてのみ、コンタクトをとれる存在。
 ICPOは〈L〉に全面協力することを決議。〈L〉の見立てでは、犯人は日本に潜伏しているという。それも関東地方に。
 日本に捜査本部が設けられ〈キラ〉と〈L〉の対決がはじまるが……。

 漫画。
 まったく違うことを考えているふたりの登場人物を同時に見せるなど、漫画ならではの表現手法がうまいなぁ、と感嘆する一方、言語の扱いがとんでもなく緩いのが気にかかる。
 おそらく「漫画だから」で片付けられていることなのでしょうけど、「漫画だから」というフィルターをかけて読まなきゃならないとは、なんとももったいない。
 全体としては、設定とか、展開とか、駆け引きとか、おもしろいんですけど、とにかく後出しが多い印象。
 ひとつのエピソードの結果が判明したのち、実はこういうことでした、と種明かしされます。一応、結果の前に、関係者が何やら相談しているらしい場面は入ります。ただ、読者へのヒントがないことが多いんです。
 これでは、ただ読むだけ。
 ただ読んで楽しむには歳をとりすぎたようです。

 
 

 
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