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2016年の記録
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このページの本たち
姥捨ノ郷』佐伯泰英
紀伊ノ変』佐伯泰英
一矢ノ秋』佐伯泰英
Y氏の終わり』スカーレット・トマス
ノービットの冒険 −ゆきて帰りし物語−』パット・マーフィー
 
二十四の瞳』壺井 栄
竜の戦士』アン・マキャフリイ
勇者にふられた姫君』L・S・ディ・キャンプ&D・ドレイク
スフィア −球体−』マイクル・クライトン
えどさがし』畠中 恵

 
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2016年04月29日
佐伯泰英
『姥捨ノ郷』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ35
 佐々木磐音(いわね)は、将軍嗣子家基の剣術指南役。家基は、聡明さを老中の中田沼意次に疎まれ、暗殺されてしまった。親家基派の幕臣は退けられ、磐音も江戸を脱出する。
 内儀のおこん、将軍お庭番だった弥助と弟子の霧子と共に逃避行を続けた磐音だったが、ようやく尾張名古屋城下に落ち着くことができた。尾張徳川家は徳川御三家の筆頭。紀伊閥が幅を利かせる幕府とは一線を画している。
 だが、追っ手の雹田平(ひょうでんぺい)に見つかってしまうと、意次が尾張藩に圧力をかけてきた。
 尾張藩に迷惑をかけたくない磐音は、みずから旅立つことを決意する。ちょうど、門弟の重富利次郎が土佐高知城下に、松平辰平が筑前福岡にて武者修行中。修行の成果をたしかめに赴くことを口実にしたのだ。
 そんな磐音を支援したのは、尾州茶屋中島家だった。
 磐音たち4人は、芸州広島行きの商い船に乗り込む。それは雹田平を欺くため。伊勢湾河口でひそかに下船し、員弁川を遡上したのち鞍掛峠を越えて琵琶湖のほとりの彦根城下へ向かう計画だ。
 最終目的地は、京の尾州茶屋本家。
 事前に尾州茶屋と打ち合わせした磐音だったが、一行は途中で姿をくらます。京に尾州茶屋の本家があるのは誰もが知っていること。容易に行方が知れてしまうおそれがあった。
 目的地が定まっていないことを知った霧子は、自身が幼いころに育った郷に隠れることを提案する。そこは雑賀衆の隠れ郷で、真言密教の聖地、高野山の奥に連なる山々の懐にある。
 磐音たち一行は、霧子の案内で山道を行くが……。

 この巻で、座敷牢に入っていた速水左近が、甲府勤番を命じられます。いわゆる山流しなんだそうで。江戸からはなれたところでこっそりと送別会が催されます。
 それから、おこんが出産。
 そして、磐音の言い訳に使われていた利次郎と辰平も登場。ふたりで磐音の元に駆けつけようとします。
 磐音が手紙をくれたので、おおよその位置は分かっているものの、いかんせん、雑賀衆の隠れ郷。なかなかみつかりません。
 ふたりの行動は何通りかの目線で語られます。そういう書き方がこのシリーズでは珍しいこともあって、楽しめました。


 
 
 
 

2016年04月30日
佐伯泰英
『紀伊ノ変』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ36
 佐々木磐音(いわね)は、剣の達人。剣術指南役を務めていた将軍嗣子家基が暗殺され、江戸を脱出。老中田沼意次の刺客につきまとわれ、今は姥捨の郷に隠れ住んでいる。
 磐音と行動を共にしているのは、内儀のおこんと、里で産まれた嫡男空也、将軍お庭番だった弥助と弟子の霧子。門弟の重富利次郎と松平辰平もかけつけていた。
 姥捨の郷は、雑賀衆の隠れ郷。霧子が生まれ育ったところだ。真言密教高野山の奥に連なる山々の懐に隠され、磐音を追う雹田平(ひょうでんぺい)も、得意の卜占を使っても居場所を特定できずにいた。
 雑賀衆の一族を結束させるのは忍びとしての誇り。そんな彼らの暮らしを支えているのは、丹の採掘だった。丹は古より、不老長寿の秘薬と珍重されてきた。
 その丹が、幕府に狙われていた。
 京の丹売り店に、京都町奉行所から差し紙が届けられたのだ。幕府が丹会所を設け、直接丹の採掘を差配するという。幕府の背後に意次がいることは想像に難くない。
 丹会所設立の波紋は、広がっていく。
 実は、高野山でも丹を重要な収入源にしていた。窮した高野山が頼ったのは、和歌山藩だった。外交を担う奥之院副教導の室町光然が和歌山藩との会見の場に出向き、磐音も護衛として同行することになる。
 このころ和歌山藩は、割れていた。
 田沼家は本来は紀州徳川家の家臣。にもかかわらず藩主を軽んじているのを快く思っていない門閥派と、意次に頼ろうとする江戸開明派。両者の対立は、重臣の暗殺騒ぎにまで発展していた。
 磐音も巻き込まれてしまうが……。

 丹会所って、まるで『紅花ノ邨』の紅会所の騒動みたいだなぁ、と思いつつ。展開のしかたはまるで違いますが。
 本作では、品川柳次郎と椎葉お有に進展があります。ふたりは磐音に仲人を頼んでいました。江戸から逃亡した磐音は、律儀に柳次郎にお詫びの手紙を送ります。
 お有の父は出世欲の塊。柳次郎の交遊範囲がなにげにすごいので、貧乏御家人にもかかわらず品川家への嫁入りを許した経緯があります。今となっては、お有の父の気がいつ変わるか……。
 という状況で困り果てた柳次郎は、今津屋に相談します。すると今津屋は、柳次郎の知人にお有の父も納得のいい人がいるじゃん、と指摘してくれるんですね。それで晴れて結婚できました。

 作中、和歌山藩と紀州藩が登場します。それで混乱しながら読んでいたのですが、後で調べたら同じ藩でした。書き方が分かりづらいのか、読み飛ばしてしまったのか。
 もったいないことをしました。


 
 
 
 

2016年05月01日
佐伯泰英
『一矢ノ秋(とき)双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ37
 佐々木磐音(いわね)は、剣の達人。剣術指南役を務めていた将軍嗣子家基が暗殺され、江戸を脱出。老中田沼意次の刺客につきまとわれ、今は雑賀衆の姥捨の郷に隠れ住んでいる。
 磐音と行動を共にしているのは、内儀のおこんと、里で産まれた嫡男空也、将軍お庭番だった弥助と弟子の霧子。門弟の重富利次郎と松平辰平もかけつけていた。
 磐音たち一行は姥捨の郷に受け入れられ、平穏な日々を送っていた。ところが、この隠れ郷へと至る道で、雑賀衆の儀助親方が遺体となって発見された。もはや隠れてばかりもいられない。
 磐音は方々に人を派遣する。
 江戸への潜入を命じられたのは、辰平だった。そのころ江戸では品川柳次郎の内儀お有が懐妊し、岩田帯の祝の席が設けられていた。辰平はひそかに仲間たちと接触する。
 辰平の江戸での目的はもうひとつあった。佐野善左衛門に面会し、磐音の手紙を届けることだ。
 そして、3日後。
 返書を受けとりに訪れた辰平は、善左衛門がすでに旅立ったことを知る。どうやら善左衛門は、系図家雹田平(ひょうでんぺい)のいる京に向かっているらしい。
 慌てふためいた辰平は、小梅村の小田平助と共に善左衛門を追いかけるが……。

 風雲急を告げる第37巻。
 逃げ回っていた磐音が反撃に出ます。そういう変化を知ってか知らずか、自ら高野山に乗り込んでくる〈神田橋のお部屋様〉こと意次の愛妾おすな。すごい女狐感。
 意次は名前しか出てきません。「本当の黒幕はおすなで、おすなの正体は九尾の狐。意次は操られているだけ」と言われても受け入れられそうです。そういう話ではありませんが。
 今作では、『孤愁ノ春』で語られた、佐野家の家系図がクローズアップ。意次の来歴詐称の証拠となるもので、今後に続きそう。
 磐音をつけ狙う雹田平は異能の持ち主なのですが、ちょっと抜けてます。そうでないと物語が動かないので仕方ないのでしょう。


 
 
 
 

2016年05月03日
スカーレット・トマス(田中一江/訳)
『Y氏の終わり』早川書房

 アリエル・マントは、雑誌に〈自由連想〉というコラムを書いていた。
 大学では英文学と哲学を専攻していたが、コラムのはじまりはビックバン。そこから展開させていき、今では人工知能からサミュエル・バトラーにたどり着いている。
 アリエルが、トマス・E・ルーマスという19世紀の作家のことを知ったのは、バトラーの『手帳』を読んだから。当時ルーマスは、さまざまな問題行動を起こし、主にみずからの哲学的思想を形にするのに小説を利用していた。
 ルーマスの研究者は少ない。
 ルーマスについての本は、ほとんどソール・バーレムが書いたものだ。
 あるときアリエルはバーレムの講演を聴講し、話し合ううち、大学院で博士論文を書くことになる。テーマは〈思考実験〉。バーレムが指導教官になってくれるという。
 こうしてバーレムの研究室に入ったアリエルだったが、肝心のバーレムが失踪してしまった。ひとり残されたアリエルは、偶然にも古書店で『Y氏の終わり』を見つける。
  『Y氏の終わり』は、ルーマス最後の著作。バーレムさえも所有していない幻の本だった。その存在が明らかになっているのは、ドイツの貸金庫にある一冊のみ。
 そして、呪われた本だと言われている。それを読んだ者は死ぬのだという。
 ルーマスが『Y氏の終わり』を書き、出版した翌日、関係者が亡くなった。出版人、編集者、植字工までも。そのあとで、ルーマスも息を引き取った。
 アリエルは、ほぼ全財産を使って『Y氏の終わり』を手に入れるが……。

 作中で紹介される『Y氏の終わり』に何が書いてあるかというと、摩訶不思議な薬のこと。アリエルは半信半疑ながらも、薬を作って自分で試してみます。
 薬を飲むと、人の心の中に入れるようになります。多少の制約はありますが。薬のせいでアリエルは、知りたくもなかったことを知り、薬を狙う者たちに追われる身になってしまいます。

 当初は知的な雰囲気がおもしろく思えたのですが、少々納得しかねるところも。単純に理解できなかっただけなのか。


 
 
 
 
2016年05月04日
パット・マーフィー(浅倉久志/訳)
『ノービットの冒険 −ゆきて帰りし物語−』
ハヤカワ文庫SF1357

 ベイリー・ベルトンはノービット族です。
 ノービットたちが暮らしているのは、太陽系の中とはいえ静かな片田舎の小惑星帯。彼らは痛快な冒険よりも、なじみ深い安楽な生活の方を好んでいました。ベイリーがそうであるように。
 ある日ベイリーは、漂流中のメッセージ・ポットを拾います。ポットには、有名なクローン一族〈ファール家〉の紋章が入っていました。
 ベイリーはよいこころがけの持ち主です。紋章を確認すると〈ファール家〉にメッセージを送りました。物置にしまったきり、忘れてしまいましたけれど。
 それから数年。
 突然、ギターナが訪ねてきました。
 ギターナは探検家です。今は亡き、ベイリーの曾祖母ブリータと一緒に冒険をするような仲です。典型的なノービット族であるベイリーにとって、関わりあいになりたい人物ではありません。
 ところがギターナの計画には、これから始まる冒険にベイリーも加えられていました。ギターナと一緒にあのポットを受け取りに来た〈ファール家〉の姉妹(シブ)たちも了承し、ベイリーは冒険に行くことになってしまいます。
 行き先は、ポットに入っていた星図の彼方。どうやら超種族の財宝が待っているらしいのですが……。

 元ネタは、J・R・R・トールキンの『ホビット ゆきてかえりし物語』。ノービット族のベイリーとは、ホビット族のビルボのことです。探検家のギターナは、魔法使いのガンダルフ。シブたちはドワーフたち。登場人物のほとんどが女性なのは、マーフィーがフェミニストであるからのようです。
 文章は児童書風味。物語の流れは、ほぼ同じ。細部は、微妙に異なるところもあれば、元ネタを踏襲したところもあります。
 
 スペース・オペラに高い高い敷居を感じている人でも難なく読めるので、お勧めできます。スペースオペラを読み慣れている人にも、一風変わった雰囲気が楽しめると思います。
 元ネタを知らない人は、ギュッと詰まった感にわくわくできると思います。元ネタを知っている人は、数々の冒険がSFで解釈されるとどういう表現になるのか、興味津々で読めると思います。
 児童書が苦手な人は、ごめんなさい。


 
 
 
 

2016年05月05日
壺井 栄
『二十四の瞳』新潮文庫

 昭和3年。
 瀬戸内海べりの寒村に、わかい女の先生が赴任してきた。岬にある村はあまりに小さく、分教場にはいつも女学校出の準教員をあてがわれてきた。
 今年はちがった。
 新人なのは変わらないが、女学校の師範科を卒業した正教員だったのだ。名前を、大石久子といった。
 子供たちは小柄な大石先生のことを、小石先生と読んだ。朗らかな小石先生は、たちまち子供たちの信望を集める。先生にとっても、はじめは嫌っていた分教場が、いつしかかけがえのない場所になっていった。
 しかし、洋装姿で自転車にまたがる先生に対し、保守的な村の大人たちは冷ややかだった。
 そんな最中事故が起こってしまう。
 子供たちの作った落とし穴に落ちた先生が、アキレス腱を断裂させる大けがを負ってしまったのだ。すぐに治るわけもなく、先生は分教場へ通うことができなくなってしまう。
 先生が戻ってこないことを哀しむ子供たち。ある日、大人たちには内緒で村を飛び出してしまう。
 先生の家までは片道8キロ。子供たちには距離の感覚がよく分からない。とにかく先生に会いたい一心だった。
 まもなく村では子供たちがいなくなったことに気がつき、大騒ぎ。大人たちは、子供たちが一途に先生を慕っていることを知り、態度を軟化させる。
 子供たちは先生と会うことができ、村に帰ってきた。
 だが先生は、本校へ転任することが決まってしまう。先生は再会を約束するが……。

 昭和3年に始まり昭和21年までの18年間の物語。
 大石先生が赴任して転任したのち、結婚して子供ができて退職してふたたび復帰するまで。やさしい語り口で、大石先生が考えていることが軸になってます。たいていが「なんでなの?」って思考回路で、答えがあったりなかったり。
 大人たちに内緒で先生に会いにいった子供たち。そのときの記念写真が、効果的に使われます。あのときは一緒だったけれど、やがては別れていく……。
 どうしたって泣けてきます。


 
 
 
 
2016年05月06日
アン・マキャフリイ(船戸牧子/訳)
『竜の戦士』ハヤカワ文庫SF483

パーンの竜騎士》シリーズ第一巻。
 レサには特別な力があった。
 レサは、ルアサ城砦を荒廃させるべく力を尽くしてきた。
 本来ルアサはレサのもの。今は、ボロをまとい下働きに身を落としていたが、レサこそがルアサの正当な後継者なのだ。
 あの日、ルアサはファックスの征服を許した。
 ファックスは、ハイリーチェスの城砦ノ太守。次々と近隣の城砦を征服し、その中にルアサも加えられたのだ。
 ファックスによって、名門ルアサの一族は皆殺しにされてしまった。ただひとり、レサを除いて。レサが生き残れたのは、いちはやく危機を察し、見張りフェルの寝床に隠れられたからだった。
 それから10年。
 荒れ果てたルアサ城砦に、ファックスがやってくる。竜騎士たちの要請に応えてのものだった。
 竜と竜騎士が住まうベンデン大巌洞では、近く、女王竜の卵が孵化する。竜騎士たちは、女王竜の騎士となる女性を探索するため、各地に散っていた。ハイリーチェス城砦にも竜騎士が現れ、ファックスは渋々ながらも、彼らを支配下の城砦へと案内したのだ。  
 レサは、竜騎士にファックスを殺させようと画策するが……。

 惑星パーンでは200巡年に一度、糸胞が降り注ぎます。糸胞は触れるものを焼き尽くし、甚大な被害をもたらします。それに立ち向かうのが、竜と竜騎士たち。
 そのため彼らは特権的な地位を獲得していました。ところが、平穏な時代が400巡年つづいたために、今では疎まれる存在になりつつあります。ファックスも内心では竜騎士を小馬鹿にしています。

 レサの計略はまんまと成功し、ファックスは亡くなります。ただ、ルアサ城砦を相続することはできませんでした。レサは女王竜ラモスの騎士にして、ベンデン大巌洞ノ洞母になります。
 それが序盤の出来事。
 その後物語は、久しぶりに襲ってきた糸胞に立ち向かう展開に突入。レサと、レサを見いだした竜騎士フ−ラルを中心に、いろんな事件が起こります。

 現在、正伝10巻と、外伝3巻が翻訳されてます。初読のときには分からないことだらけで、こまかいところはさておき、雰囲気を読んでいた記憶があります。
 前回の読書から9年。
 こんなに暗かったんだなぁ、というのが驚き。
 それと、女性の価値をはかるのに「美しさ」があるのが気にかかりました。一緒に暮らしてて美人の方が士気が上がるんでしょうけど、ちょっとひっかかる。
 50年近く昔の作品なので、そういうものなのでしょうかねぇ。


 
 
 
 

2016年05月10日
L・スプレイグ・ディ・キャンプ&デイヴィッド・ドレイク
(関口幸男/訳)
『勇者にふられた姫君』ハヤカワ文庫FT

 長編と中編の合本。
 単独で本にできるだけの文量があるディ・キャンプ「勇者にふられた姫君」に、ディ・キャンプに捧げられたドレイクの短編「兎にされた姫君」を併せてあります。
 ドレイクの作品はディ・キャンプ作品へのオマージュ。そのため両者は似通ってます。一冊で二度おいしいと受け取るか、また同じ系統の作品と思ってしまうか……。

L・スプレイグ・ディ・キャンプ
「勇者にふられた姫君」

 ロリン・ホウバートは、ひねくれ者の仕事中毒人間。ある日、隠遁者を自称する老人ホイモンに拉致されて、異世界に連れ去られてしまう。
 ホイモンによると、ロリンは勇者なのだという。役目は、ロガイア国のアルギマンダ姫を救い出すこと。ロガイアのゴルディウス王は、成人に達した長女をアンドロスフィンクスに差しださねばならない呪いにかかっていたのだ。
 ロリンが到着したとき、姫はアンドロスフィンクスに捧げられる寸前。アンドロスフィンクスは、頓知と論理の妙でのみ打ち負かすことができる。ロリンの屁理屈は、効果絶大だった。
 見事アンドロスフィンクスを撃退したロリンは、ゴルディウス王から王国の半分を与えられる。さらに、アルギマンダ姫との結婚を押し付けられてしまう。
 ロリンは、早く帰って仕事がしたくて仕方がない。ところが肝心のホイモンが姿を消し、ロガイア国にとどまることになってしまった。
 アルギマンダ姫はロリンに好意を示してくれるものの、姫は完璧すぎた。怖じ気づいたロリンは逃げ出してしまうが……。

デイヴィッド・ドレイク
「兎にされた姫君」

 ジョー・ジョンソンはフリーライター。空港でどういうわけだが異世界に転移してしまう。乗客移送車に飛び乗ったと思ったら、馬車の中だったのだ。
 ジョーは、馬車に乗っていたハミッシュのデレンドル王子に魔法使いと勘違いされてしまう。デレンドル王子は、竜を倒す手助けを欲していた。
 王子に連れられてハミッシュの宮殿にやってきたジョー。宮殿には本物の魔法使いエゼキエルがおり、ジョーのことを快く思っていない様子。
 ジョーは竜を退治するため、火薬を調合することを思いつくが……。

 ディ・キャンプは、読みにくいけど分かりやすいです。理解はできるけれど、たびたび読み止めて、一休みしながらの読書になってしまいました。なにがあったかは分かっているのに本を置きたくなるのは何故なのか。
 ドレイクは、読みやすいけど分かりづらくて、何度となく読み返してしまいました。すいすい読めるのに不思議です。


 
 
 
 
2016年05月14日
マイクル・クライトン(中野圭二/訳)
『スフィア −球体−』早川書房

 ノーマン・ジョンソンは53歳になる心理学教授。
 ここ10年ノーマンは、連邦航空局の墜落現場調査班のメンバーに名を連ねていた。調査班に属すると、呼び出しに応じて、民間機の墜落事故現場に急行せねばならない。心理学者がチームに加わっているのは、生き残った乗客や、時にはその家族が受ける非常に大きな精神的ショックに対処するためだった。
 ノーマンは今回の呼び出しも、飛行機の墜落事故があったのだと聞かされていた。
 ところが、連れて行かれたのは南太平洋。サモアとフィジーの中間地点。海洋調査船に護衛の駆逐艦までもが待機していた。
 現場は、300メートルの海底だという。
 しかも、墜落しているのは巨大な宇宙船。
 それも、300年は昔のもの。
 プロジェクト指揮官の米国海軍ハロルド・C・バーンズ大佐は、海底で埋もれているのは異星人の宇宙船だと断言する。
 ノーマンはかつて、未知の生命体(UFL)計画に参加していた。
 ワシントンの国家安全保障会議の接触を受け「異星人の〈接触〉があったときに対応する緊急チームに関する最善の編成」についてレポートをまとめたことがあったのだ。ノーマンにとっては純粋に金のための、冗談のような研究だった。異星人を信じているわけではない。
 海洋調査船には、そのとき提案したチームのメンバーが揃っていた。ノーマンも、宇宙船の調査に同行することになるが……。  

 海底に沈んでいる物体をめぐる騒動。
 科学的な考察もありますし、人間的なこともあれば、不可思議な出来事も起こります。SFというより、ホラーとかパニックものとか、そういう内容でした。
 中心となるのはノーマンの他、数学者で論理学者の天才児ハロルド・J・アダムズと、動物学者で生化学者のエリザベス・ハルパーン。

 アダムズは超一流の論理的思考とやらの持ち主。さまざまなことを見通していそうなのに、多くを語ろうとしません。
 アダムズは、海底にあるものは異星人の宇宙船ではないと断言します。それはバーンズも知っている、と。
 それでは何なのか?
 というところから、二転三転。
 エリザベスは、不注意な人という印象。学校の成績はよくても人間としてどうなのかな、というタイプ。おかげで展開は素早くなりますが、少々イラっとさせられます。
 登場人物の個性にひっかかってしまうと、読むのがつらくなりそうです。


 
 
 
 
2016年05月15日
畠中 恵
『えどさがし』新潮文庫

 《しゃばけ》シリーズ外伝
 一太郎は、廻船問屋兼薬種問屋、長崎屋の若だんな。齡三千年の大妖を祖母にもつ。
 一太郎の世話をあれこれと焼くのは、手代の佐助と仁吉。ふたりの正体は、犬神と白沢。祖母によって送り込まれてきた。というのも一太郎が、商売よりも病に経験豊富であるほど病弱であったから。
 両親も手代たちも、遠方まで噂になるほどの過保護ぶり。一太郎は、甘やかされすぎることに憤るものの、それで性根が曲がることもなく、妖(あやかし)たちに囲まれた日々を送っている。

「五百年の判じ絵」
 弘法大師空海によって描かれた犬神は、絵から外に飛びいで、妖としてその姿を現した。そして、いつの頃からか佐助と名のるようになっていた。
 長命の妖ゆえ一カ所に留まることはできず、これまで佐助は、旅をして過ごしてきた。今は、東海道を京から江戸へ向かっているところ。途中の街道脇の茶屋で一服しているとき、柱に貼られた判じ絵に興味をひかれた。
 判じ絵は、絵の組み合わせで、言葉やものを表す謎解き。その文章はどうやら「さすけ」に向けて書かれているようなのだ。覚えていますか五百年前のことを、と。
 判じ絵が縁で佐助は、化け狐の朝太の道連れとなるが……。
 若だんなに出会う前の佐助が主人公。シリーズに無理矢理つなげたかのような、どうも腑に落ちない物語でした。シリーズのどの段階で、この出来事が人物設定に加えられたのか、少々気になります。

「太郎君、東へ」
 坂東の地である江戸が、徳川という領主を迎え、発展し始めた頃のこと。
 利根川の禰々子(ねねこ)は河童の大親分。利根川は、坂東の地にある一の大河。長男とも言うべき川だとして、人々に坂東太郎と呼ばれている。
 このところ、大河太郎の様子がおかしい。流れがきつく、河童すら流される始末。いぶかしんだ禰々子は太郎に理由を問いただすが……。
 禰々子は「雨の日の客」(収録『ゆんでめて』)で登場。気っ風のいい豪快な姉さんなのはいいけれど、腕力で解決しようとする困った河童。最後の一文は好きなのですが。

「たちまちづき」
 秋英(しゅうえい)は、上野は広徳寺の高僧、寛朝(かんちょう)の唯一の弟子。大層大真面目で、寛朝の儲け主義に眉をひそめている。
 ある日寛朝の元に、口入屋大滝屋の夫婦が相談にやってきた。妻のお千によると、主人の安右衛門がおなごの妖に取り憑かれているという。ただ、妖を見る力のある秋英には、怪しきものの影など映らない。
 いもしない妖を退治できるわけもなく、そうこうするうち、安右衛門が何者かに襲われて大怪我をしてしまった。お千が主人の代わりをが務めることになるが……。
 秋英は「ちんぷんかん」(収録『ちんぷんかん』)などで登場。
 謎解きものになっていて、《しゃばけ》本篇に入っていてもおかしくない雰囲気。長崎屋の面々をそこかしこに感じます。

「親分のおかみさん」
 岡っ引きの清七親分の女房おさきは寝込みがち。寝付いてから3日がたち調子がよくなってきたころ、おさきは赤子の泣き声を耳にした。なんと、自分が暮らす長屋の土間に、籠に入れられた赤子が捨てられていたのだ。
 通常、長屋に捨て子があった時は、まずは差配へ知らせる決まりだ。差配が手配して親を探し、見つからなければ養い親を探す。しかし、岡っ引きの家の中にわざわざ捨てていったとは、尋常とは思えない。
 やがて、足袋屋の手代で市松と名乗る男が、捨て子を尋ねてくるが……。
 捨て子事件は長崎屋とも関係があります。
 おさきは病弱だけあって、いかにも気弱。いろんなことを考えますが、やや後ろ向き。自分でも前向きになろうと努力している様子がうかがえます。
 
「えどさがし」
 江戸の地が東京と称するようになって20年ばかり。仁吉や佐助ら妖たちは長崎商会を隠れ家に、生まれ変わっているはずの若だんなを探す日々。
 多報新聞に載った投書が気になった仁吉は、新聞社を訪れた。投書を担当した望月に話を聞こうとするが、望月はピストルで胸を撃ち抜かれてしまう。
 駆けつけた巡査の秋村は、実は妖。仁吉は秋村と、ある取り決めをするが……。
 他の4作品とは毛色の異なる物語。
 慣れの問題か、東京と妖の組み合わせが、どうもしっくりきませんでした。《しゃばけ》本篇で活躍している妖たちを知っていることを前提にして書かれている印象。

 
 

 
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