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2016年の記録
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このページの本たち
エンデュミオン・スプリング』マシュー・スケルトン
町でいちばん賢い猫』リタ・メイ&スキーニー・パイ
北壁の死闘』ボブ・ラングレー
東雲ノ空』佐伯泰英
秋思ノ人』佐伯泰英
 
春霞ノ乱』佐伯泰英
散華ノ刻』佐伯泰英
木槿ノ賦』佐伯泰英
徒然ノ冬』佐伯泰英
湯島ノ罠』佐伯泰英

 
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2016年05月22日
マシュー・スケルトン(大久保 寛/訳)
『エンデュミオン・スプリング』新潮社

 ブレークはオックスフォード図書館で、奇妙な本を見つけた。
 とても古いもので、かつて本を閉じていたふたつの小さなとめ金は壊れてしまっている。表紙には、名前かタイトルか、判然としない活字が刻印されてあった。エンデュミオン・スプリング、と。
 本は、まるで生きているようにふるまった。興味をひかれたブレークが中を見ると、どこにも何も書かれていない。
 ところが、白紙のページに文字が現れたのだ。
 その言葉はブレークだけが見えるもの。妹のダッグには、見えないらしい。
 一方、15世紀、ドイツのマインツでは、エンデュミオン・スプリングが印刷術を学んでいた。
 エンデュミオンは2年前まで、飢えた浮浪児だった。その境遇から救ってくれた人こそ、グーテンベルク親方。エンデュミオンは弟子となり、画期的な印刷機の開発を手伝っている。
 ある夜、ヨハン・フストという男が訪ねてきた。
 親方はフストに説得され、取引を交わす。フストの狙いは、グーテンベルクの印刷技術。どうしても作りたい本があったのだ。
 フストは、それはそれは美しく不思議な紙を持っていた。
 その正体は、紙となったドラゴンの皮膚。今でも生きている紙には、永遠の英知の秘密が隠されているという。特別なインクさえあれば、英知を読み、全世界を支配できるようになるのだ。
 エンデュミオンは、まるで翅のような紙に魅せられ盗んでしまう。魔法のように書籍と変化したそれを隠すため、オックスフォードを目指すが……。

 予備知識なしで読みました。
 主軸はブレークの章。
 オックスフォード図書館の雰囲気に惚れて、不思議な本を見つけたところでわくわくし、あのグーテンベルクの登場で高まる期待。(グーテンベルクは活版印刷技術の発明者)
 フストが摩訶不思議な紙の来歴を語ったところで、ようやく児童書と気がつきました。古書の謎解きミステリですが、ファンタジー入ってます。

 少年ブレークの両親は仲違いをしています。ブレークとダッグは母が引き取っていますが、この女性は自分優先で、ちょっとやりきれない。
 ダッグは、いつも黄色いレインコートを着ています。始まりは、両親が激しく口論をしたとき。「このレインコートを着ていれば、パパとママの涙で濡れなくですむのよ」と。
 このエピソードには涙腺が緩みました。ところが、ダッグには天才児という設定がありまして、かわいいばかりではありません。子供故の傲慢さに小生意気が重なった、年齢不詳の幼児に仕上がってます。

 これまでの読書経験で何度か「全世界を手に入れられるほどの英知」という売り文句を目の当たりにしました。その結末は、たいてい肩すかし。
 本作は、そういう点では、納得のできるものでした。


 
 
 
 

2016年06月08日
リタ・メイ・ブラウン&スキーニー・パイ・ブラウン
(茅 律子/訳)
『町でいちばん賢い猫』ハヤカワ・ミステリ文庫

 《トラ猫ミセス・マーフィ》第一巻。
 クロゼットは、アメリカはヴァージニア州の人口3000ほどの田舎町。
 メアリー・マイナー・ハリスティーン(通称ハリー)は、クロゼットで歴代最年少の女性郵便局長を務めている。郵便局があるのは町の中心部。駅に隣接する白い縁のついた灰色の小さな建物のなかだ。
 ハリーは、職場が中心部にあるだけでなく、噂の的にもなっていた。
 というのも、夫のファラマンド・ハリスティーンを家から追い出し、離婚を迫ったから。クロゼットのような小さな町は、住人の誰もが顔見知り。離婚は大きな事件なのだ。
 そんなクロゼットで、凄惨な事件が勃発する。
 ケリー・クレイクロフトの死体が発見された。それも、大型コンクリート・ミキサーの中で。ケリーは原型をとどめていなかった。
 ケリーの妻ブーム・ブームに、ファラマンドがいいよっていたのは誰もが知っている。ファラマンドに嫌疑がかかるが……。
 一方、ハリーと共に暮らしているトラ猫ミセス・マーフィーとコーギー犬ティー・タッカーは、独自に情報を入手していた。
 仲間によると、例のコンクリート・ミキサーの後部には両生類の臭いが漂っていたらしい。大きなカメのような臭いがした、と。
 人間たちは誰も気がついていない。ミセス・マーフィーとタッカーは独自に調査を開始するが……。

 リタ・メイ・ブラウンの飼い猫スキーニー・パイが書いた、という設定の物語。
 とにかく、読みづらいです。
 人間側の中心はハリーで、動物側はミセス・マーフィー。視点が人間だろうと動物だろうと書き分けなし。その他の脇役たちの視点からも語られるごった煮状態。
 もしかすると、作者が「猫」であるため、わざとそうしているのかな、と。

 本書の特色は、動物たちがおしゃべりする人間批判。どうせなら人間側の視点は捨てて、動物たちに固定すればいいのに……と思いながら読んでました。


 
 
 
 

2016年06月12日
ボブ・ラングレー(海津正彦/訳)
『北壁の死闘』創元推理文庫

 1944年7月。
 ドイツ国防軍のエーリッヒ・シュペングラー軍曹は、突如として、第五山岳歩兵師団の少尉に大抜擢された。
 実はシュペングラーは戦争前、クライマーとして名を馳せたことがあった。だが、アイガー北壁での事故をきっかけに、山から離れていた。精神を病み、もはや登れなくなっていたのだ。
 しかし軍部は、シュペングラーの事情などおかまいなし。厳しい訓練に追い立てる。
 クライマーを集めた第五山岳歩兵師団の任務は、ヴァルター・ラッサー博士の誘拐にあった。
 ラッサーは、ウラニウム原子の分裂を成功させ、アメリカの原子力計画で重要な役割を果たしていた。現在は、スイスのユングフラウヨッホ頂上の研究施設にいる。
 通常研究所へは、アイガー北壁の内部を抜けるトンネルで出入りする。トンネルはスイス軍が警備しており、使えない。そこで、外から急襲する。そのための第五山岳歩兵師団だった。
 ラッサーに原子爆弾を作らせれば、戦況は変わる。
 シュペングラーたちは悪天候の中、出発するが……。
 
 序章は、戦争から40年程が経過した現代。
 アイガー北壁を登攀中のクライマーが、ドイツ軍人らしき遺体を発見したところから。遺体は回収されますが、一般には伏せられたまま。たまたま噂を聞きつけたのが、BBCの補助調査員。
 調査員が調べた結果を小説にした……というのが本書です。
 売り文句は、山岳冒険小説の傑作。
 おそらく、過酷な環境の下で主人公にアイガー北壁を登らせるには……と考えた結果、背景が決められたのだろうな、と想像しました。戦時中の逃げられなさとか、アイガー北壁にトラウマがあり、それを克服するためにも登らなければならない精神構造とか。
 そのためか、アイガー北壁に挑戦するまでがちょっと長め。それと、ときどき漂う無理矢理感……。
 でも、おもしろいです。山岳冒険小説を読むのは久しぶりですが、またぞろ読みたくなってきました。


 
 
 
 

2016年06月18日
佐伯泰英
『東雲(しののめ)ノ空』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ38
 坂崎磐音(いわね)は、剣の達人。将軍嗣子家基の剣術指南役を務めていたが、家基が暗殺されてしまった。自身も狙われた磐音は、内儀のおこんや仲間たちと放浪の旅に出る。一行を受け入れてくれたのは、雑賀衆の姥捨の郷だった。
 老中田沼意次の刺客との対決に勝利した磐音は、ついに、江戸に帰還することを決意する。
 江戸の小梅村では、今津屋が御寮を空けて磐音の帰りを待っていた。しかも今津屋は、住む者のいない隣家を買い取り、道場に作り替えていた。
 磐音は、尚武館道場を再出発させるが……。

 おなじのみの登場人物たちの再確認の巻。
 江戸の帰還を邪魔しようとする田沼一派と、身代わりを立てて目をくらまそうとする磐音たち。磐音の代役を務めたのは、品川柳次郎とお有の夫婦。
 重富利次郎は、ついに霧子への想いをおおっぴらにします。そのついでなのか、松平辰平にも博多の豪商箱崎屋の末娘お杏との文通が発覚。
 それと『孤愁ノ春』と『一矢ノ秋』で登場の佐野善左衛門はまだ退場ではありませんでした。善左衛門は意次に取り入って出世を目論んでいるようで。危なっかしい人だな、と。
 今作は、大きな動きもなく、つなぎのような印象のまま終わってしまいました。


 
 
 
 
2016年06月19日
佐伯泰英
『秋思(しゅうし)ノ人』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ39
 坂崎磐音(いわね)は、剣の達人。時の権力者、老中の田沼意次に目をつけられ、一旦は江戸を離れて身を潜めていたものの、仲間たちの協力を得て、江戸は小梅村に尚武館道場を再興した。
 一方、将軍御側御用取次役だった速水左近は、失脚して江戸を追われていた。甲府勤番追手組支配として、4年目の秋を迎えているところ。
 甲府勤番は「山流し」とまで揶揄される役職。田沼意次は嫡男意知を後継者とするべく準備に怠りがなく、左近が江戸に帰れる見込みはない。
 そんな左近の元に、知らせが届く。
 甲府勤番支配解職が命じられたのだ。後職は奏者番であるという。
 磐音が、伝を頼って働きかけた結果だった。田沼意次の専横を快く思わない徳川御三家が連携し、速水左近の復権を後押ししたのだ。
 磐音は、江戸への帰路につく左近を警護する手はずを整える。ところが、出立の日取りを巡って命令は二転三転。突如早まったため、出遅れてしまう。
 磐音はとりいそぎ、迎えに出向くが……。

 磐音に先行して速水左近の警護についていたのが、元御庭番の弥助。その後、出立が繰り上げられたことを聞きつけた磐音は、速水左近の息子たちと霧子をつれて、こっそり出発します。かつての磐音だったら、重富利次郎と松平辰平を連れて行ったと思うんですけど、もう世代交代しつつあるんですねぇ。
 今作は、速水左近の江戸帰着のアレコレが大半。
 なにしろ、速水左近の一行もこっそり旅なので、なかなか出会えません。そんなこんなのエピソードがあって、おすなの弟・五十次のエピソードと、佐野善左衛門のことも語られます。
 佐野善左衛門は『孤愁ノ春』『一矢ノ秋』『東雲ノ空』に続いての登板ですが、なかなか一筋縄ではいかないようで。最終的な場面がもう少し先なので、忘れられないようにちょこちょこと出している印象が残りました。


 
 
 
 
2016年06月21日
佐伯泰英
『春霞(はるかすみ)ノ乱』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ40
 坂崎磐音(いわね)は、剣の達人。時の権力者、老中の田沼意次に目をつけられ、一旦は江戸を離れて身を潜めていたものの、仲間たちの協力を得て、江戸は小梅村に尚武館道場を再興した。
 一方、磐音の旧藩、豊後関前藩の中居半蔵は、江戸留守居役と用人を兼ねた職を命じられていた。
 実は、家中に新たな疑念が生じていた。
 豊後関前藩は、藩物産取引で大いに潤っていたが、何者かが不正を働いているようなのだ。それも阿片の抜け荷だという。幕府に知れたら、藩が取り潰しになるほどの重罪だった。
 磐音は藩を出た身だが、実の父は国家老の坂崎正睦。藩物産取引の初期に関わっていたこともあり、調査の協力を要請される。
 戸惑う磐音の前に、実母、照埜が現れた。関前では、国家老夫妻は病気と偽り、ひそかに新造船〈明和三丸〉で江戸入りしていたのだ。
 詳しい事情を聞かされていない照埜は、小梅村に身を寄せ、孫たちとの対面に喜びもひとしお。
 ところが、照埜の後から船を降りた正睦が、何者かに誘拐されてしまう。磐音は正睦の行方を追うが……。

 今作は、何度目かの豊後関前藩のお家騒動。田沼意次との対決は一時棚上げかと思いきや、ちょっと絡んでました。
 なんと、江戸家老の鑓兼参右衛門が、紀伊和歌山の伊丹家から豊後関前の鑓兼家に養子に入った人物で、辿っていくと、田沼意次につながっている、と。ちっちゃな藩にまで気を配る田沼意次、出世するはずだわ、というのが正直なところ。
 騒動には決着がつきますが、鑓兼参右衛門や、後押ししていた藩主の正室お代の方はそのまま。次巻を待て、ということでしょうか。


 
 
 
 
2016年06月24日
佐伯泰英
『散華ノ刻(さんげのとき)双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ41
 坂崎磐音(いわね)は、剣の達人。時の権力者、老中の田沼意次に目をつけられ、一旦は江戸を離れて身を潜めていたものの、仲間たちの協力を得て、江戸は小梅村に尚武館道場を再興した。
 一方、磐音の旧藩、豊後関前藩では藩物産取引をめぐる不正に決着がついたところ。とはいうものの、すべてが正常に戻ったわけではない。磐音の実父にして江戸入りした国家老坂崎正睦は、いまだ江戸屋敷に入らず、小梅村に身を寄せている。
 そもそも不正の発端となったのは、藩主福坂実高と正室お代の方の仲違いにあった。実高には世継ぎがおらず、ここにきて側室を迎えた。だが、事前に知らされていなかったお代の方は不信感を募らせ、江戸家老・鑓兼参右衛門の言うことにのみ耳を傾けるようになってしまったのだ。
 正睦は、藩主の名代として藩邸に乗り込むが……。

 前作『春霞ノ乱』に続いて、豊後関前藩騒動。
 お代の方の変わりっぷりにはびっくり仰天。いくら鑓兼に言いくるめられてるとはいえ、こうはならないだろうと思うのですがねぇ。
 まるで、おすなが憑依しているかのようでした。むしろ、おすなが怨霊になってとりついた、としてくれた方が納得できたかもしれません。


 
 
 
 
2016年06月25日
佐伯泰英
『木槿(むくげ)ノ賦』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ42
 坂崎磐音(いわね)は、剣の達人。時の権力者、老中の田沼意次に目をつけられ、一旦は江戸を離れて身を潜めていたものの、仲間たちの協力を得て、江戸は小梅村に尚武館道場を再興した。
 磐音の旧藩、豊後関前藩の騒動も一段落つき、尚武館道場は日常に戻りつつある。
 豊後関前藩主の福坂実高は養子を迎えていた。上様のお目どおりも済ませ、俊次が名実共に継嗣となったのだ。今後俊次は、江戸に住まなければならない。
 俊次は尚武館道場の入門を願い、許される。藩主となる教育を受けつつ、道場に通うが……。

 今作は、『散華ノ刻』と『春霞ノ乱』の2冊に渡って続いた関前藩騒動のその後の話がメイン。江戸に出てきていた国家老夫婦が帰途についたり、尼寺に入ったお代の方のその後が語られたり。
 終盤、大事件が勃発します。
 南蛮渡りの猛毒の使い手が俊次を狙っていて、それを察知した尚武館の面々が撃退するものの、霧子が毒にやられてしまいます。
 久しぶりに、若狭小浜藩の中川淳庵が登場。最近、医者というと幕府奥医者の桂川国瑞の方が出てきていたので、もう中川淳庵はお役御免になったのかと思ってました。今後、なにかに関わらせるつもりなのか。
 珍しく怒った磐音は、起倒流鈴木清兵衛道場に乗り込みます。というのも、猛毒の使い手が道場関係者であったため。
 磐音は、道場主に尋常の勝負を挑み、実力の差を見せつけてやります。
 尚武館道場に嫌がらせをしていた鈴木清兵衛道場(背後に田沼意次あり)も、これで終わりでしょうねぇ。


 
 
 
 
2016年06月26日
佐伯泰英
『徒然ノ冬』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ43
 坂崎磐音(いわね)は、剣の達人。時の権力者、老中の田沼意次に目をつけられ、一旦は江戸を離れて身を潜めていたものの、仲間たちの協力を得て、江戸は小梅村に尚武館道場を再興した。
 雑賀衆の女忍だった霧子は、南蛮渡りの猛毒の使い手から門弟の福坂俊次を守ろうとして、毒に侵されてしまった。命はとりとめたものの、なかなか意識が戻らない。
 霧子は、治療を受けていた若狭小浜藩の江戸藩邸から尚武館に移された。日常だった稽古の音などを聞かせる狙いだ。
 磐音は、心のうちで戦っている霧子に気を送るため、まだ暗いうちから起きだし、直心影流奥義伝の形稽古を霧子に献じていた。いつしか、弟子の重富利次郎と松平辰平も加わっていく。
 ついに霧子が目を覚まし、尚武館は喜びであふれた。
 そのころ、若年寄の田沼意知が気になる動きを見せてた。突如として領地の遠江相良に帰ったのだ。年もおしせまるこの時期に、田沼親子はなにを企んでいるのか?
 磐音は、元御庭番の弥助にさぐらせるが……。

 今作ではその他に、竹村武左衛門の長男・修太郎のエピソードが語られます。
 立派な武士になって欲しい、そんな母の思いが重たくて身動きとれなかった修太郎でしたが、ついに自分がやりたいことを見つけ出します。もちろん、磐音のおかげで。
 一方、出羽国山形では、磐音の豊後関前藩時代の許嫁の奈緒が、またもや災難に見舞われてます。こちらは続報待ちの状態。今後、新たな展開があるのかどうか。
 そして、最近ちょこちょこと登場していた佐野善左衛門が、なにかやらかしそうな雰囲気を出してきてます。

 伏線をはるための巻だったのかもしれません。


 
 
 
 
2016年06月27日
佐伯泰英
『湯島の罠』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ44
 坂崎磐音(いわね)は、剣の達人。時の権力者、老中の田沼意次に目をつけられ、一旦は江戸を離れて身を潜めていたものの、仲間たちの協力を得て、江戸は小梅村に尚武館道場を再興した。 
 磐音の元に、陸奥白河藩藩主の松平定信が訪ねてきた。
 定信は八代将軍吉宗の孫。将軍にもなれる生まれだが、白河藩に養子に出され、夢はついえた。そのこともあって、田沼意次を快く思っていない。
 定信は磐音に弟子入りする。
 一方、同じように田沼意次を恨む佐野善左衛門は、闇読売を使って、田沼親子を告発しようと目論んでいた。その情報を聞きつけた磐音は、尚武館が巻き込まれることを懸念する。読売屋の協力を得て手を打つが……。

 いろいろと世代交代の進んでいる昨今。
 磐音の旧藩、豊後関前藩が、重富利次郎を藩士として迎えることを了承してくれます。商売をして潤っているからこそできる技。
 もうひとり、利次郎と対にして語られることの多い松平辰平は、なんと行方不明になってしまいます。どうやら誘拐された様子。
 顔見知りの犯行、それも奉行所が絡んでいることが分かってきて、昵懇の間柄である南町奉行所の年番方与力、笹塚孫一のところに話がいきます。
 奉行所にも田沼意次につながる者たちがいて、しかも誰がそうかは分からない状況。腹の探り合いが展開されます。

 いよいよ終盤が近づいてきたな、と感じさせる一冊。
 なお、前巻で毒から回復した霧子は、リハビリを続けてます。

 
 

 
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