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2016年の記録
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このページの本たち
空蝉ノ念』佐伯泰英
弓張ノ月』佐伯泰英
失意ノ方』佐伯泰英
猫は手がかりを読む』リリアン・J・ブラウン
ビースト・マスター』アンドレ・ノートン
 
青い瞳のダミア』アン・マキャフリイ
アレクシア女史、埃及で木乃伊と踊る』ゲイル・キャリガー
鉄の魔道僧2 魔女の狂宴』ケヴィン・ハーン
密謀』藤沢周平
僕僕先生』仁木英之

 
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2016年07月02日
佐伯泰英
『空蝉ノ念』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ45
 坂崎磐音(いわね)は、剣の達人。時の権力者、老中の田沼意次に目をつけられ、一旦は江戸を離れて身を潜めていたものの、仲間たちの協力を得て、江戸は小梅村に尚武館道場を再興した。
 尚武館にはしばしば道場破りや剣術自慢が腕試しにやってくる。
 その日訪れた武芸者は、河股新三郎。肱砕き新三の異名を持つ者だった。磐音と同じく直心影流で、もはや伝説となっている長沼活然斎の直弟子だという。
 長沼道場はその昔、小梅村の尚武館坂崎道場の前身、神保小路の佐々木道場と二分する実力を誇っていた。
 磐音は、松平辰平に対戦を指示するが……。
 一方、磐音が気にかけていた佐野善左衛門が、白河藩主の松平定信の屋敷にかくまわれているという情報が入る。ふたりがどのような経緯で知り合ったのかは分からない。だが、善左衛門も定信も、田沼意次を快く思っていないことは間違いない。
 磐音は松平邸の動きを注視するが……。

 今作で、遠距離恋愛中だった松平辰平と博多の豪商箱崎屋の末娘お杏との仲が大きく進展。その上、辰平の、筑前福岡藩への仕官の道が開けます。尚武館は、職業斡旋状と化しているような……。
 佐野善左衛門が、というより松平定信がなにか企んでいるようで、磐音はやきもき。定信の屋敷には反田沼派の人たちが出入りして、なにかが起こりそうな雰囲気があります。


 
 
 
 
2016年07月03日
佐伯泰英
『弓張ノ月』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ46
 坂崎磐音(いわね)は、剣の達人。時の権力者、老中の田沼意次に目をつけられ、一旦は江戸を離れて身を潜めていたものの、仲間たちの協力を得て、江戸は小梅村に尚武館道場を再興した。
 そして、天明4年(1784年)。
 白河藩主の松平定信の屋敷にかくまわれていた佐野善左衛門が、ついに動いた。突如として、自身の屋敷に帰ったのだ。しかも、明日登城するという。
 突然のことに、家臣たちは戸惑い、動揺する。その様子を霧子が見張っていた。
 霧子から一報を受けた磐音は、奏者番速水左近に知らせる。この日、速水は非番。従者に扮した弥助を連れ、急遽登城するが……。

 主な登場人物たちが、変わることのない日常を送っています。よくある嵐の前の静けさ感。ここ最近の、つなぎのために書いているような、ぬるめの展開から一転、物語が加速していきます。
 中盤で、佐野善左衛門が事件に及びます。
 実は、善左衛門の使った刀は、定信から拝借した粟田口一竿子忠綱作のもの。霧子からの情報を元に磐音が手を打って、刀のすり替えが行われます。
 善左衛門は、これまでの、なんとも煮え切らない性格が生かされていました。田沼意次を恨んでいたのに、なぜ、本人ではなく子の田沼意知を襲ったのか。この善左衛門なら、そうなるだろうなぁ、と。

 ちなみに、この事件は実際に起こったことです。ただ、記録によると、佐野善左衛門は一竿子忠綱作の大脇差で斬りつけているようなのですが。


 
 
 
 
2016年07月04日
佐伯泰英
『失意ノ方』双葉文庫

居眠り磐音江戸双紙》シリーズ47
 坂崎磐音(いわね)は、剣の達人。時の権力者、老中の田沼意次に目をつけられ、一旦は江戸を離れて身を潜めていたものの、仲間たちの協力を得て、江戸は小梅村に尚武館道場を再興した。
 佐野善左衛門が江戸城中で、若年寄の田沼意知を襲った。意知は亡くなり、善左衛門は切腹を命じられる。事件は、善左衛門の乱心として片付けられた。
 世間では、善左衛門が「世直し大明神」として崇められるようになる。一方、嫡男を失った田沼意次だったが、変わることなく登城し続けていた。
 磐音と善左衛門は面識があった。そのために、意次にいらぬ疑いをかけられることを危惧していた。世間と同じように、自粛することを決める。
 そのころ弥助は、尚武館を離れていた。
 己が手をかけた藪之助の遺髪を手に、伊賀者の先祖の地に向かっていた。供養を済ませると、苦境に立たされているという、出羽国山形の前田屋奈緒母子のもとへ旅立つ。
 磐音は、霧子も山形に向かわせるが……。

 これまで、ちょこちょこと話題になっていた、奈緒の苦難。ようやく解決、なのか、一歩前進、なだけなのか。とにかく一段落つきます。
 その他、絵師の北尾重政が、尚武館坂崎道場に居候することになります。そんなときに現れる道場破り。もはや妖としか呼べない娘御で、重政の絵心に火をつけます。
 そして、ついに田沼意次が登場。磐音と会話します。これまで意次は、伝聞などでしか書かれてきませんでしたが、シリーズ(全51巻)も終盤になってようやく。
 いよいよラストスパート、ということなのでしょうか。


 
 
 
 

2016年07月10日
リリアン・J・ブラウン(羽田詩津子/訳)
『猫は手がかりを読む』ハヤカワ・ミステリ文庫

シャム猫ココ》シリーズ1
 ジム・クィラランは、新聞記者だった。
 はじまりは、スポーツ記者。その後警察を担当し、従軍記者となり、新聞社連盟優秀賞を受賞した。著書を出版したこともある。やがて、小規模な新聞社から新聞社へと転々とするようになり、いつしか仕事を失っていった。
 窮したクィラランがたどり着いたのが、〈デイリー・フラクション〉紙だった。
 雇ってもらえるだけでも御の字のクィラランだったが、編集長が提示したのは畑違いの美術記者。先入観のない分いい記事ができると確信しているようだった。
 このころ〈デイリー・フラクション〉では、美術評論家のせいでちょっとした問題が起こっていた。
 美術評論家の書く批評が芸術関係者を大激怒させていたのだ。その分、一般大衆には大うけ。 彼のコラムには毎週何百通〜何千通もの投書が寄せられ、この町全体が美術熱に浮かされる始末。美術欄の方がスポーツ欄より読者数が多い異常事態になっていたのだ。
 彼の名は、ジョージ・ボニフィールド・マウントクレメンズ3世。
 採用が決まり取材をはじめるクィラランだったが、芸術家たちは、誰も彼もがマウントクレメンズの悪口を言う。ただし、絶賛されて評価の上がった芸術家は別として。そのためか、芸術家同士の諍いが巻き起こっていた。
 諍いは、殺人事件へと発展してしまう。
 殺されたのは、画廊を経営しているアール・ランブレス。その妻ゾーイは、マウントクレメンズの好評価のおかげで脚光を浴びた画家だった。
 事件に関わることになってしまったクィラランは、独自に調査を開始するが……。

 人物紹介がかなり丹念に書かれていて、事件は、半ばにさしかかったころまで待たねばなりません。
 殺人事件を期待していると、やきもきしてしまうかも。あるいは、事件が起こるまでの出来事がおもしろくて楽しんでいるときに死体がでてきてしまって、単なる殺人事件ものになるのかと、がっかりしてしまうかも。
 ちょっと構成のバランスがよくないな、と。

 シリーズ名は、マウントクレメンズが飼っている雄のシャム猫カウ・コウ=クン(通称ココ)から。
 マウントクレメンズによるとココは、いくつかの時代の芸術に対して一家言持っており、新聞の見出しが読めるスーパーキャット。それも、右から左に。グルメで、賢い、神秘的。
 ココの存在はとても大きいです。なにか分かっていそうなそぶりを見せることもあります。が、あくまで猫。分かっているようにも見えるし、偶然にも見えるし。
 そのあたり、とてもうまいです。猫好き垂涎のシリーズ、と呼ばれるのも納得。


 
 
 
 

2016年07月11日
アンドレ・ノートン(山田 忠/訳)
『ビースト・マスター』ハヤカワ文庫SF694

 クシックスとの星間戦争がついに終結した。
 だが、人類の故郷である地球は侵略軍によって放射能に汚染され、青い燃え殻となってしまっていた。同盟惑星は援助の手を差し伸べるが、故郷を失った痛手から回復できない者は少なくない。
 ホースチン・ストームは、そうした復員軍人のひとり。
 戦時中は、数少ない調獣士(ビースト・マスター)として戦った。ビースト・マスターは、チームを組む動物たちと交感し、彼らと共に工作活動を行う。ストームのチームは、ブラック・イーグルのバク、ミーアキャットのホーとヒング、そして大型化した砂漠のネコ、スラから構成されていた。
 実は、ストームの戦いはまだ続いている。そのためには、復員センターから出なければならない。ストームは、遅発性ショックを心配する医師たちを従順にやりすごし、ようやく自由の身となる。
 ストームが送還を希望したのは、惑星アルゾルだった。
 アルゾルは、故郷と気候が似ていた。主な産業はフラウンの牧畜。ビースト・マスターならば、働き口も簡単に見つかる。
 そしてアルゾルにこそ、ストームが狙うブラッド・クオードがいるのだ。
 アルゾルに降り立ったストームは、牧場主のプット・ラーキンにカウボーイとして雇われる。ラーキンは、繁殖用の馬を春の大競売市へと連れて行くところ。そのために人員を必要としていた。
 このころアルゾルには、原住民ノービーや〈山の殺し屋〉といった問題が発生していた。ストームも襲われてしまうが……。

 ホースチン・ストームは、アメリカインディアン。ディネー族の出身。
 ストームとクオードとの諍いは早い段階で明らかにされます。が、理由はなかなか示されません。それどころか、忘れられているような……。
 最終的には決着がつくんですけど、どうも釈然としない。全般的に若年層向けだからか、ストームがすでに超人と化しているからか。


 
 
 
 

2016年07月12日
アン・マキャフリイ(公手成幸/訳)
『青い瞳のダミア』ハヤカワ文庫SF1119

九星系連盟》シリーズ2
 人類の宇宙探検は、能力者(タラント)によって開花した。
 今では、FT&T(連邦テレパス&ネットワーク)社は惑星間にネットワークをはりめぐらし、連携して物資のやりとりをしている。中心となっているのは、プライムと呼ばれる超一流のタラントたち。
 アフラ・ライアンはカペラ人のタラント。家族の中でもっとも強力なT−4レベルで、両親の期待も高い。だがアフラとしては、古風で窮屈なカペラを脱出したくて仕方がない。
 自身の将来が決まってしまう直前アフラは、カリスト・ステーションのT−4が解雇されたというニュースを耳にする。カリストを率いているのは、超一流だが性格に癖のあるローワン。かつて、姉のゴスウィーナが意気投合した相手だった。
 アフラはカリストに招聘され、ローワンの元で働くこととなる。いつしかローワンに惹かれていくが、ローワンがアフラの思いに気づくことはなかった。
 アフラはローワンの片腕として職務に邁進するが……。

 実は、ローワンの娘(第3子)のダミアが主人公。
 ただしダミアが登場する(生まれる)のは、全11章のうち第4章から。それまではアフラが主人公として展開していきます。それ以降も、アフラは中心人物として居続けます。
 アフラのパートは、前作『銀の髪のローワン』とだいぶ重なってます。同じエピソードを別の視点から書いた、といったところ。本当の主人公ではないからか、駆け足気味な点が気になりました。もっとじっくり読みたかった、というのが正直なところ。
 勝気なダミアより、自制心効かせすぎとはいえ安定したアフラの方が読みやすい、というのもあるかもしれません。


 
 
 
 

2016年07月13日
ゲイル・キャリガー(川野靖子/訳)
『アレクシア女史、埃及(エジプト)で木乃伊(ミイラ)と踊る』
ハヤカワ文庫FT

 《英国パラソル奇譚》シリーズ第五巻(最終巻)
 異界族も共存している19世紀ロンドン。
 アレクシア・マコンは、女王陛下の〈議長〉を務める反異界族。夫のコナル・マコン卿はウールジー人狼団のボスで、異界管理局(BUR)の主任捜査官。ふたりの子どもプルーデンスも2歳になった。
 プルーデンスは、超異界族。超異界族は、触れた異界族の能力を奪い取ってしまう。警戒する吸血鬼たちを納得させるため、生まれる前から、はぐれ吸血鬼アケルダマ卿の養女となることが決まっていた。
 アレクシアたちは、公式にはアケルダマ邸の隣に住んでいる。だが、秘密裏に行き来できるように屋敷を改造し、実際に寝泊まりしているのはアケルダマ邸のクローゼットだ。なにしろ、超異界族の子育てに反異界族は欠かすことができないのだから。
 ある日アレクシアは、エジプトのマタカラ女王からの招待を受けた。プルーデンスをつれ、非公式に訪れてほしい、と。マタカラ女王は3000年は生きている、最高齢の吸血鬼。その要請は無下にはできない。
 エジプトは〈神殺し病〉の発生源。亡くなったアレクシアの父アレッサンドロ・タラボッティも立ち寄っている地。しかも、つい最近、マコン卿がかつて治めていたキングエア人狼団の副官が行方不明になっていた。
 アレクシアは、自身がパトロンとなっているタンステル劇団を隠れ蓑に、エジプトへと渡るが……。

 物語もついに最終巻。さすがにここまでくると、用語の意味とか、どういう人なのか、どういう関係なのか、説明はありません。その分、テンポはいいようです。思い出しながらの読書にはなりましたが。
 ドタバタしているのは相変わらず。これまでの巻で語られたエピソードは、きちんと回収されていきます。もしかすると、続けざまに読んだら粗が目立ったかもしれませんが、いい具合に忘れていて、納得の結末。


 
 
 
 

2016年07月14日
ケヴィン・ハーン(田辺千幸/訳)
『鉄(くろがね)の魔道僧2 魔女の狂宴』ハヤカワ文庫FT

鉄の魔道僧1 神々の秘剣』続編。
 アティカス・オサリヴァンは、ドルイド。
 アメリカのアリゾナ州テンピに、自分の店を持っている。売っているのは、インチキな魔法の本やハーブなどなど。
 アティカスは、遠い昔、ダーナ神族の無敵の剣フラガラッハを手に入れた。そのおかげで、アンガス・オーグのお尋ね者となっていた。
 長らく放浪しながら身を隠していたアティカスだったが、ついにアンガス・オーグと配下のブレスを倒した。だが、神族をふたりも殺めたことで、その筋の有名人になってしまう。
 しかも、最終決戦地トニー・キャビンの広大な土地は死んだまま。アティカスは、腰を据えて再生に手を貸すことにする。
 そんなころアティカスは、魔女の攻撃を受けた。
 ちょうど、地元のテンピ魔女会(カヴン)と不可侵協定を結びつつあるところ。魔女を信用していないアティカスは、彼女らを疑う。しかし、彼女らも攻撃を受けていた。
 カヴンのリーダー、マリーナ・ソコウォフスキーによると、先の戦いで力の空白地帯ができ、この地が方々から狙われているのだという。
 アティカスやテンピ・カヴンを攻撃したのは、敵対するドイツのカヴン。彼女らは地獄からデーモンを召還しているらしい。そして、酒神バッカスの巫女までも。
 アティカスは方々から頼られてしまうが……。

 二作目ということで、基本設定の説明はなし。
 あくまで、前作を読んでいることを前提に展開していきます。
 未回収のネタが多く、その話はいずれまた、ということなんだろうな、と思いながら読んでました。インドの魔女に仕事をしてもらうために、イズンの黄金のリンゴをとってくる約束をしたり、ヴァンパイアの協力を得るために、トールを殺す手助けを申し出たり。
 世界各国の神話の知識があると、読みやすいと思います。イズンやトールを知らなくても、最低限の説明はありますが。

 今作でも、アイリッシュ・ウルフハウンドのオベロンは健在。
 とにかくオベロンがいいです。思念を使って会話もしますが、変に人間くさくなく、どこまでいっても犬っぽい。
 犬好きというわけではないのですか、オベロンはいいです。続刊が出たら、オベロンに会うために読むことになりそうです。


 
 
 
 

2016年07月16日
藤沢周平
『密謀』毎日新聞社

 兼続が、越後の上杉氏の重臣直江家を継いで2年。そのとき直江兼続は、直江家に仕える草の者たちをも引き継いだ。
 兼続は、上杉景勝と幼馴染のように育ってきた。寡黙な景勝の代わりに語り、ふたりきりになると熱く語り合った。さながら仲のよい家族のような主従関係だった。
 この年、小牧、長久手の戦が勃発していた。
 発端は、羽柴秀吉と織田信雄の不和にあった。秀吉は織田家の宿老との抗争に勝利して以降、露骨に権力誇示につとめている。その象徴として、大坂の地に築城をはじめていた。
 信雄にとってはおもしろくない。そんな信雄をけしかけたのは、徳川家康だった。こうして小牧、長久手の戦が始まり、初戦は家康が勝利した。
 だが、天下の趨勢は秀吉の下に帰しつつあるようだ。秀吉は信雄を取り込むことに成功し、講和がなった。秀吉は、信長の跡を継ぐ天下人へとまた一歩近づいていく。
 上杉家にも、秀吉から再三の上洛の誘いがあった。このとき、家康もまだ上洛していない。そのことを知りつつ、上杉主従は準備をゆっくりと進めていく。
 ようやく上洛すると、秀吉は驚くばかりの歓待ぶりを示した。上杉は同盟者として持ち上げられる。だが、いざというときには家臣扱いされてしまう。
 上杉は、秀吉の忠実な武将として過ごすこととなった。
 兼続は、秀吉配下の武将石田三成と親交を深めていくが……。

 一応、主人公は直江兼続。
 ただ、兼続は優等生で、ちょっと面白みに欠けるところがあります。そこで登場するのが、直江家に仕える草の者たち。
 頭の喜六は、小牧、長久手からの帰り路、母を亡くした兄妹をひろいます。兄静四郎は喜六にひきとられ、妹まいは、直江家で面倒をみることになります。
 歴史ドラマは兼続が、人間ドラマは草の者たちが担います。

 物語で扱われるのは、関ヶ原のあたりまで。
 景勝と家康は対立していて、直江兼続による家康宛の書状が関ヶ原の発端となったのは有名な話。ところが上杉は、背後から東軍をたたくことをしなかった。それはなぜなのか?
 というのがクライマックス。
 そこにいたるまで、上杉の「義」なるものが積み重ねられていきます。納得はできるけど、参戦せずだから、いかんせん盛り上がりには欠ける。
 直江兼続って難しい題材なんだなぁ、と改めて感じ入った次第です。


 
 
 
 

2016年07月19日
仁木英之
『僕僕先生』新潮文庫

 中国は唐の時代。
 22歳の王弁は、働くでもなく勉学に励むでもなく、うらうらと風に乗るような日々を過ごしていた。
 王弁の父は元の県令。趣味は道術探求。老後を十分裕福に暮らせるだけの金品を貯めてから引退した。その恩恵あってこその王弁の生活だった。
 そんなある日、王弁は父に頼み事をされる。
 黄土山に仙人が住まわれたという噂がたっていた。その仙人は、ときおり里に出ては下界のものと言葉を交わされるらしい。そして、病に苦しむ者には薬丹を処方してくれるという。
 父の頼みとは、その仙人に供物を持って行く、というもの。
 王弁はしぶしぶ黄土山に向かうが、現れたのは、僕僕と名乗る小柄な美少女だった。しかも、王弁の父が探す仙人とは自分のことだという。半信半疑の王弁だったが、僕僕に仙術を見せられては納得せざるを得ない。
 僕僕によると王弁には、仙骨はないが仙縁ならあるらしい。つまり、仙人にはなれないが仙人に近づけるということ。そして、父にはどちらもない。
 王弁の父は弟子入りを願っているが、縁すらなければ無意味なこと。代わって王弁が僕僕に弟子入りすることになるが……。

 ファンタジーノベル大賞受賞作。
 どういうわけだか僕僕に気に入られた王弁。やがて、僕僕に連れられて不思議な旅に出ることになります。
 一応、弟子、ということですが、仙術を教えてはもらえません。ただ、細かなエピソードの積み重ねで、やる気のない王弁も徐々に成長していきます。
 そういう基本的な流れの中に、恋愛要素が入ってます。僕僕は気さくな美少女で、王弁は振り回されつつも惹かれていきます。
 軽妙でおもしろいのですが、この恋愛要素のおかげで評価が分かれそう。
 その展開、いらないんじゃないか、と。それがいい、というのと。

 
 

 
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