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2017年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 
 8/現在地
 
 
このページの本たち
ヴェニスの商人』ウィリアム・シェイクスピア
ソウル・コレクター』ジェフリー・ティーヴァー
火星の人』アンディ・ウィアー
かもめのジョナサン〈完成版〉』リチャード・バック
宇宙の珊瑚礁へ』フレデリック・ポール&ジャック・ウィリアムスン
 
リア王』ウィリアム・シェイクスピア
スター・チャイルド』フレデリック・ポール&ジャック・ウィリアムスン
ミルトン屋敷の謎』エニード・ブライトン
新たなる誕生』フレデリック・ポール&ジャック・ウィリアムスン
インド展の憂鬱』リチャード・T・コンロイ

 
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2017年10月20日
ウィリアム・シェイクスピア(福田恆存/訳)
『ヴェニスの商人』新潮文庫

 アントーニオーはヴェニスの商人。
 ある日、友人のバサーニオーから借金の申込みを受ける。
 バサーニオーの家は、元々は裕福だった。だが、派手な浪費生活を続けていたために、転落。そんなとき、ベルモントの貴婦人に恋をしてしまった。求婚のためには、資金が必要だ。
 アントーニオーの生業は、海運業。全財産は海の上にある。船が戻るのは2ヶ月後だ。それまでは、現金もなければ品物もない。頼むところは信用だけ。
 アントーニオーはバサーニオーのために、金貸しのシャイロックから3000ダカットを借りた。期間は3ヶ月。
 シャイロックは、アントーニオーのことが大嫌いだった。アントーニオーは、聖なるユダヤ人を目の敵にして、なんのかんのと文句をつける。商人たちの目の前で、正当な取引きに、けちをつける。邪教徒の、人噛み犬のと、着物に唾を吐きかけられたこともある。
 シャイロックはアントーニオーに、提案をした。
 彼らクリスト教徒は、利のついた金の貸し借りはしない。その流儀に沿い、びた一文の利子もとらない。しかし、返済できないときには、きっちり1ポンド、アントーニオーの肉をどこでも好きなところを切りとっていい。
 アントーニオーは、快く応じた。
 こうしてバサーニオーは、ベルモントの貴婦人を訪れるための資金を得た。
 貴婦人の名は、ポーシャ。 
 すばらしく器量よし。それどころか、その器量よりもっといい器量を、すなわち得がたい美徳を身につけている。その値うちは世界中に知れ渡っている。東西南北、四つの風が、あらゆる岸辺から、名だたる求婚者を送りこんでくる。
 ポーシャは、父の遺志に縛られていた。
 ポーシャの結婚相手は、3つの小箱から正しい箱を選んだ者。3つの箱は、金と、銀と、鉛からなる。それぞれに銘が刻まれ、正しい箱には、ポーシャの絵姿が入っているという。
 ポーシャも、バサーニオーに好感を抱いていた。さりげない助言で、正しい箱をひきあてさせる。喜びもつかの間、ヴェニスから知らせが舞いこんだ。
 アントーニオーが窮地に立たされていた。船が海に沈んでしまったのだ。ヴェニスではアントーニオーの裁判がはじまるが……。

 シェイクスピアの有名な戯曲のひとつ。
 アントーニオーは、バサーニオーのために死ぬ覚悟。シャイロックは、倍の6000ダカットを返済するという申し出をはねつけます。一方、シャイロックの娘は、父の財産を持って駆け落ちしてしまいます。
 バサーニオーがヴェニスに駆けつけ、ポーシャも、バサーニオーに内緒でヴェニス入り。アントーニオーの裁判の行方は?

 時代背景を分かっていないと、シャイロックに同情してしまいそうです。当時、金貸しがどのように思われていたのか。キリスト教徒が、どのような理由で、ユダヤ人のことをどう思っていたか。
 セリフだけなのも、お芝居めいているのも、戯曲なのであたりまえ。言葉のひとつひとつが、どれもこれも美しい。舞台で演じられている様子を想像しつつ、読んでいました。


 
 
 
 

2017年10月22日
ジェフリー・ティーヴァー(池田真紀子/訳)
『ソウル・コレクター』文藝春秋

 《リンカーン・ライム》シリーズ、第八作
 リンカーン・ライムは、犯罪学者。科学捜査の専門家。四肢麻痺という障害を抱えているが、明晰な頭脳は健在。障害者だからと気を遣われることを何よりも嫌っている。
 ある日ライムの元に、強盗殺人事件の連絡が入った。
 事件が起こったのは、先々週の木曜。被害者はグリニッチヴィレッジに住むアリス・サンダーソン。犯人は被害者を刺殺したあと、ハーヴィー・プレスコットの絵画を盗んだ。
 目撃証言や遺留物などをもとに、容疑者は捕らえられている。
 ライムの元に解決した事件の連絡が入ったのには理由があった。捕まったのは、アーサー・ライム。リンカーン・ライムのいとこだったのだ。
 第一級謀殺は25年以上の実刑だ。司法取引に応じれば刑期を短縮できる。ところがアーサーは、あくまで無実を訴えるつもりらしい。
 捜査資料を取り寄せたライムは、証拠がそろいすぎていることに疑問を抱いた。もしアーサーが無実なら、何者かが手間暇かけてアーサーに濡れ衣を着せたということになる。
 アーサーははめられたのか。
 犯人の目的が絵画だとしたら、一度かぎりの犯行とは考えにくい。老刑事に尋ねてみると、過去に似たような事件があったという。
 しかし、いきなりの再捜査は難しい。そんなときだった。
 警察に匿名の通報があった。もたらされた情報内容は、アーサーの事件と同じ。
 ただちに容疑者にされそうな人物が調べ上げられ、刑事たちは真犯人が証拠を置きにやってくるところを待ち伏せするが……。

 今作では、情報化社会の危険性がクローズアップされます。なんともおそろしい展開でした。
 サブストーリーとして、リンカーン・ライムの生い立ちが語られます。リンカーンとアーサーは、ある時期までは仲が良かったのですが、やがて確執が生まれ疎遠になります。その断絶は、リンカーンが見舞われた大事故によって決定的なものになっていました。
 それから、前作『ウォッチメイカー』で登場した殺人者を相手にした事件もあります。殺人者はイギリスで仕事を請け負っており、ライムは電話で捜査協力してます。
 以前ライムが相棒のサックス刑事に、ふたつの事件を同時に手がけるのは云々、と諌めるエピソードがありました。今度は自分が似たような立場。ライムは、きちんと一貫した態度をとってくれます。キャラクターがしっかり固まっているのは、読んでいて安心感があります。

 内容は盛りだくさん。一方で、トレードマークであるどんでん返しはおとなしめ。サブストーリーが何本かあるので、すっきり読みやすい方向に微調整したのかな、と。
 ウォッチメイカーとの諍いはまだまだ続きそうです。


 
 
 
 

2017年10月26日
アンディ・ウィアー(小野田和子/訳)
『火星の人』ハヤカワ文庫SF1971

 マーク・ワトニーは、宇宙飛行士。負傷して、火星でひとり、立往生している。発端は、想定外の砂塵だった。
 ワトニーは、植物学者兼メカニカル・エンジニア。NASAによる、3回目のアレス計画のクルーだ。
 アレス計画では、宇宙船〈ヘルメス〉を使う。ただし〈ヘルメス〉には、離着陸の能力はない。ただ単純に、地球と火星を往復するだけ。
 火星の離着陸に使うのは、MDV(火星降下機)とMAV(火星上昇機)だ。
 クルーたちがMDVで火星に降り立ったとき、火星は準備万端の状態で迎えてくれた。先行して届けられている物資は、余裕たっぷり。計画どおり、訓練どおりに、火星生活はスタートした。
 そして迎えた6日目。
 基地が砂塵に見舞われた。予想をはるかに上回る暴風にNASAの下した決断は、ミッションの中止。クルーは荷物をすべてそのままにして、MAVへと向かった。
 ワトニーが負傷したのはそのときだ。
 折れて吹き飛ばされたアンテナに襲われてしまったのだ。アンテナは宇宙服とワトニーを刺し、生体モニターをも破壊した。意識を取り戻したときワトニーは、MAVが消えていることを知った。
 死んだものとして、置き去りにされてしまったのだ。
 ワトニーは、決断したルイス船長に理解を示す。しかし、そのことを伝えようにも手段がない。通信装置が壊れたときのバックアップは用意されていたが、すべてMAVがあることが前提になっていたのだ。
 残された希望は、4回目のアレス計画だった。そのための物資がすでに火星に届いている。ただし、着陸予定地は3200キロ彼方。そのうえ、ふたたび〈ヘルメス〉がやってくるのは4年後だ。
 ワトニーは生き抜くために、専門知識をフル動員して火星に挑むが……。

 ワトニーによる、火星サバイバル。
 物語の中核は、ワトニーのログ(日記)。なにを考え、どう実行して、成功したのか失敗したのか。それらがジョークまじりに綴られていきます。
 ワトニーは宇宙飛行士になるくらいですから、とにかく優秀。そして、諦めない。トラブルの連続ですが、乗り越えていきます。
 ワトニーの火星での活動は、やがて地球サイドの知るところとなります。
 当初の問題は、通信手段がないこと。それも、ワトニーがあることに気がついて解決します。ワトニーの行動を地球から観察していた人たちも、彼がなにをしようとしているのかに気がつき、応えようとします。
 どちらのサイドも持てる能力を出し切っていて、足をひっぱるのは火星の大自然くらい。それが一筋縄でいかないんです。
 となかく読み応えがありました。


 
 
 
 

2017年10月29日
リチャード・バック
(五木寛之/創訳、ラッセル・マンソン/写真)
『かもめのジョナサン〈完成版〉』新潮社

 ジョナサン・リヴィングストンは、カモメだった。
 ふつうのカモメは、飛ぶという行為について、あえて学ぼうなどとはしない。どうやって岸から食物のあるところまでたどりつき、さらにまた岸へもどってくるか。それさえ判れば充分。
 重要なのは飛ぶことではなく、食べることなのだ。
 ジョナサンにとって重要なのは、食べることよりも飛ぶことだった。毎日のように、ひとりきりで朝から晩まで何百回となく低空飛行をこころみ、実験をくり返す。
 そして、ついに時速342キロに達した。限界を突破したのだ。
 しかし、群れの仲間たちの理解を得ることはできなかった。ジョナサンは、追放を宣告されてしまう。
 輝かしい飛行への道が目前にひろがっているのに、仲間たちは信じようとしなかった。彼らは目をつぶったまま、それを見ようとしなかった。
 そのことが、ジョナサンにとってただひとつの悲しみだった。
 年月が流れ、ジョナサンは二羽のカモメに出会った。彼らの飛行技術は高い。ジョナサンは、さらなる高みへ、本当のふるさとへと誘われるが……。

 寓話とよばれる小説。
 元々4部構成だったのが作者判断で3部構成として発表されていました。その後、半世紀ほどがたって、時代の流れやら作者の心境の変化などがあったためか、切り捨てられていた第4部が追加されました。
 本書は、4部構成になっている完成版。
 究極の飛行を追い求めるジョナサン。二羽のカモメが出てきてさらなる高みに向かったあたりから、精神世界に突入したという印象が強くなりました。
 第4部を読むと、そこまでのジョナサンの物語がすべて前フリに思えてきます。作者が、ジョナサンの物語なのだから第4部は不要、と判断したの、よく分かります。でも、第4部こそが、もっとも言いたかったことなんだろうな、と。


 
 
 
 

2017年11月03日
フレデリック・ポール&ジャック・ウィリアムスン
(矢野 徹/訳)
『宇宙の珊瑚礁へ』ハヤカワ文庫SF874

スター・チャイルド》第一巻
 スティーブ・ライランドは数学者。危険分子と判定され、北極圏内にある最高保安強制収容所に入れられている。
 このころ世界は《人間計画》に基づき《計画機械》によって支配されていた。人々は、行動を逐一《機械》に報告せねばならない。そして《機械》の指示は絶対だった。
 ライランドは自分の境遇を、誤った情報が《機械》に登録されたためだと考えていた。なにしろ《機械》は、決して間違いをおかさないのだから。何度となく知らないことを尋問されたのは、そのせいなのだろう。
 ある日ライランドは、新たな命令を受ける。ジェットレス推進を開発しろという。
 ジェットレス推進は、反作用なしで推進するシステムだ。尋問で、反逆者ロン・ドンデレボの名と共に、何度となく耳にした言葉だった。
 ライランドは疑問を抱く。《人間計画》は、イオン・ジェット宇宙船を持っている。それだけで、多くの惑星へ行くのに充分なはずなのだ。
 実は、冥王星の彼方で珊瑚礁が発見されていた。
 イオン推進の限界を超えたところだ。宇宙空間に生きる小さな生物が、長い年月をかけて作り上げたらしい。そこには、《人間計画》が必要とするあらゆるものが豊富にあった。
 ライランドは、すでに研究をはじめていた技術軍団に引き合わせられる。チーム・リーダーは、ルドルフ・フリーマー将軍。彼らは捕まえた宇宙海驢(スペースリング)を研究することで、ジェットレス推進の秘密をさぐろうとしていた。
 ライランドは、新たなリーダーとして任命されるが、権力闘争に巻き込まれてしまう。フリーマー将軍の策略で《天国》へと送られてしまうが……。

 《天国》の別名は《肉体銀行》。死ぬまで出られないとされている、あることを目的とした施設です。
 かなり早い段階で、ライランドの記憶が数日分、欠けていることが判明します。失われた記憶をさまざまな角度から調査……という状況にはなりません。あるキッカケで思い出すまで、悶々と考えるのみ。
 置かれている環境からして仕方ないですが、ライランドが暗いのです。世界設定が暗くて、主人公も暗い。読んでてつらいです、こういう話。


 
 
 
 

2017年11月06日
ウィリアム・シェイクスピア(安西徹雄/訳)
『リア王』光文社古典新訳文庫(Kindle版)

 リア王は、自分が生きているうちに、3人の娘たちそれぞれに遺す財産を明らかにし、将来の争いの種を断とうと考えていた。譲るのは領土だけではない。国王たる大権、至上の権威、王位にともなうさまざまの栄誉の印。持てるものすべてが含まれる。
 リア王は娘たちに問うた。
 誰がもっとも父を愛しているのか。子としての情愛からしても、身についた徳からしても、もっともふさわしい者に、もっとも大いなる贈り物を与えたい。
 長女ゴネリルと次女リーガンは、深い敬愛の念と惜しみない賛辞を父王に語った。末娘のコーディリアは、真実だけを口にした。
 リア王がもっとも可愛がり頼りにしていたのは、コーディリアだった。そのコーディリアから聞かされた言葉にリア王は大激怒。親子の縁を切ったうえに呪いの言葉をあびせてしまう。
 リア王は、すべての財産をふたりの姉娘に振り分けた。手許に残したのは、百名の騎士だけ。それらにともなう出費は娘たちが負担し、月毎に、娘たちの館に逗留することも決めた。
 はじめは快く承諾したゴネリルとリーガンだったが、やがて、父を疎ましく思うようになってくる。なにしろリア王は、いつまでも君主きどり。随行する百名の騎士たちの素行も目に余る。
 いらだったゴネリルは、勝手に護衛の騎士を減らしてしまった。
 リア王はリーガンに助けを求めるが、リーガンも態度は同じ。見捨てられたリア王は、ついには荒野を彷徨うまでに落ちぶれてしまう。
 そのころコーディリアは、真の心だけを持参して、フランス王妃となっていた。父王の苦境を知り、フランス軍と共に上陸。リア王を助けようとするが……。

 シェイクスピアの有名な戯曲のひとつ。
 本書も戯曲形式でした。
 主軸は、リア王の自業自得的な人生の変遷。それにしてもコーディリアも、ちょっと言葉が足りないというか、他に言い方があるだろというか。リア王を大激怒させなければならない場面とはいえ、ねぇ。
 もうひとつの物語は、エドマンドのもの。
 エドマンドは、リア王の臣下グロスター伯の庶子。認知されているものの、兄エドガーは正妻の子で勝ち目はありません。これまで殊勝にふるまってきたようですが、国内が動揺している今がチャンスと、策略をめぐらします。
 重要な役回りなのは、道化者。ずっとリア王に付き従ってきた者もいますし、道化を装っている者もいます。

 新しい文庫シリーズのための新訳、というおかげか、よみやすさを感じました。ただ、シェイクスピアなので、古びた言葉で読むのも一興だったかもな、と。もしかすると、違う翻訳のコーディリアの言葉は、もう少し納得できるものなのかもしれません。 


 
 
 
 
2017年11月08日
フレデリック・ポール&ジャック・ウィリアムスン
(矢野 徹/訳)
『スター・チャイルド』ハヤカワ文庫SF918

スター・チャイルド》第二巻
 ボイジー・ガンは、26歳にして《機械》少佐。
 技術候補生と身分を偽り、ポラリス・ステーションに派遣された。ステーションには、《人間計画》に敵対する奇妙な活動の噂がある。その調査のために送り込まれたのだ。
 ステーションの役目は、宇宙の珊瑚礁における活動を監視すること。珊瑚礁には《計画》に対して反抗的な人々が住んでいた。ステーションから珊瑚礁までの宙域を通行するものがあればそれを探知し迎撃しなければならない。
 ガンは、《機械》大佐ザファールが、氷の小惑星を秘密裏に訪問していることをつきとめる。だが目的を知ることはできなかった。神経毒を打ち込まれてしまったのだ。
 意識を取り戻したガンは、小さな珊瑚礁にいた。
 その珊瑚礁に住んでいるのは、ハリイ・ヒクソンただひとり。《計画》の支配から逃れた人々は、最大の珊瑚礁〈フリーヘイブン〉で暮らしているらしい。
 ヒクソンは〈フリーヘイブン〉にメッセージを送ると、消えてしまった。
 ガンは、〈フリーヘイブン〉から駆けつけたクァーラ・スノーに助けられる。クァーラの話によると、ヒクソンは3年前に死んだという。
 ガンは〈フリーヘイブン〉に迎え入れられるが、まだ《計画》に忠実だった。いずれは情報を持ち帰るつもりで、学んでいく。
 そんなとき、病人が運ばれてくる。それは、《機械》大佐ザファールだった。病状は、3年前のヒクソンと同じ。
 ザファールの言っていることは支離滅裂で、ガンには理解できない。自分は、星の子供による解放令状を持っていて、地球に送るという。
 ガンは、ザファールが空中に投げた紙片に本能的に手を伸ばし、空気の奇妙な流れに運ばれ、渦の中に落ちた。どこまでも落下していき、着いたところは地球の《計画機械》の心臓部。何人も入れるはずのない聖域だった。
 ガンは捕らえられてしまうが……。

 前作『宇宙の珊瑚礁へ』から50年ほどが経過しています。
 世界はまだ《計画機械》によって支配されてます。ただ《機械》と霊交的意思疎通を行うシスターがいたり、ちょっとヘンテコな世界に変質しています。
 行方不明になった宇宙船のこととか、おもしろく読みました。けれど、それ以上に疑問が続出。不思議でならないままに終わってしまいました。


 
 
 
 
2017年11月15日
エニード・ブライトン
(三津村卓/内田庶/勝又紀子/松本理子/訳)
『ミルトン屋敷の謎』実業之日本社

 《五人と一匹》シリーズ。
 児童書。短編集。
 舞台は、ピーターズウッド村。仲のいい子どもたちが〈五人と一匹〉探偵団を結成し、事件に挑みます。
 リーダーを自称しているのは、13歳のラリイ。ラリイより年下なので遠慮はしているけれど、自分がいちばんだと考えているのはファット。
 ラリイの妹デイジイと、ピップは同い年。ピップの妹ベッツは8歳。ベッツはいつも、留守番とか見張り役を割り振られてます。でも、一番めざとく、いろんな発見をします。  
 忘れてはいけないのは、ファットの飼い犬であるスコッチ犬のバスター。
 以上で、五人と一匹。
 ラリイ、デイジイ、ピップの3人は別々の学校の寄宿舎に入っています。ファットは、元はといえばよそ者です。そのため、長期休みでみんなが村に集っているときが、活動時期となります。

「火をふく小屋」
 春休みのこと。
 ヒックさんが仕事場にしている小屋が火事で焼けてしまった。事故ではなく、だれかが火をつけたらしい。
 ファットはホテルから、ヒックさんとこの庭の中に、きたない服を着たじいさんがうろうろしているのを見ていた。
 あやしい人はそれだけではない。火事のあった日、助手のピークスさんがヒックさんとけんかして出ていった。スメリイさんは古い書類のことで意見があわずにけんかしていた。調理係のミンズさんにも疑いがあることが分かった。
 子どもたちは、ひとりずつ調べていくが……。
 探偵団発足の物語。展開がすごく強引で読みはじめたのを後悔することしばし。子どもゆえの視野の狭さを考えて、そんなものなのかな、と納得しました。

「消えたシャムネコ」(旧題「きえたシャムネコ)
 夏休みのこと。
 ずっと空き家だったベッツの隣の家に、だれか引っ越してきた。
 ベッツによると、とてもおかしなネコがいっぱいいるという。おかしなネコとは、シャムネコのことだった。それも、コンテストに出て、たくさん賞金をもらっているネコばかり。
 あるじは、キャドリング夫人。ネコの世話をしているのはハマーさん。庭園を管理しているのはタッピングさん。タッピングさんの下で働いているのは、15歳のリューク。
 子どもたちはリュークと仲良くなった。
 そんなある日、いちばんのネコ〈黒い女王〉が、いなくなってしまった。そのとき檻のすぐそばにいたのは、リュークだけ。子どもたちは、だれかがリュークを犯人にしようとしていることに気がつき、真犯人をさがそうとするが……。
 リュークの家庭環境がなかなかハード。学習障害があるのか、探偵団の子どもたちよりも幼い印象でした。リュークにも疑わしい点はあるのですが、それでも友だちを信じて行動する子どもたち、心が洗われます。  

「ミルトン屋敷の謎」(旧題「ひみつのへや」)
 冬休みのこと。
 ミルトン屋敷は、丘をこえて、栗の木小路といわれるさびしい道の、いちばんはしの家で、木の茂みに建っていた。庭は荒れ放題。木はぼうぼうにのびている。家はだだっ広く、三階建てで、へんな塔が、二つ三つついていた。
 空き家だと思っていたミルトン屋敷の庭の木に登ったピップは、三階のひと部屋だけに、人が住んでいるのを発見した。しかも、窓には、さくがしてあった。
 実は、ミルトン屋敷は1年前に、ミントン町のクランプさんが買っていた。クランプさんの話では、家を買ったあとで、おかしなことがあったという。
 男がやってきて、どうしても家を売ってほしいと頼んできた。自分はそこで育ったから、と。あまりにしつこく、クランプさんはミルトン屋敷を、そのジョン・ヘンリイ・スミスなる者に譲ったというが……。
 人の気配がして柵があったというだけで「あやしい事件」だと決めつけて調査をはじめる子どもたち。子どもゆえの短絡さ。と思ったら、子どもゆえのすごい嗅覚でした。
 脱帽。


 
 
 
 

2017年11月18日
フレデリック・ポール&ジャック・ウィリアムスン
(矢野 徹/訳)
『新たなる誕生』ハヤカワ文庫SF943

スター・チャイルド》最終巻
 アンドレアス・クァモディアンは、星のコンパニオン。エクシオン調査ステーションで、地球からのメッセージを受け取った。
 差出人は、モリー・ザルジバー。
 5年前のことだった。あのときモリーが選んだのは、ちびでお人好しのアンディー・クァムではなく、クリフ・ホークだった。今でもアンディーはモリーの夢を見る。
 そんなアンディーにモリーは、助けを求めてきた。クリフ・ホークが無頼恒星(ローグ・スター)を作ろうとしているらしい。誰かが止めなければならないが、地球のコンパニオンたちは信じようとしない。
 アンディーは、ローグ・スターの一番の専門家であるソロ・スコットを捜す。ところがスコットは、ローグ・スターというのは神話だったと断言する。そのうえアンディーは殺されそうになってしまう。
 なんとか逃げて地球へと向かったアンディーだったが、トランスフレックス・キューブでトラブル発生。知らない惑星に到着してしまった。
 どうやら何者かに妨害されているらしいが……。

 前作『スター・チャイルド』よりさらに時間が経過してます。
 この時代の人類は、白鳥座という複合市民と同盟を結んでいます。主星アルマリクの元に、ヒューゾリアン、星々、ロボット、人間による共生連合を形成。個々の自由を放棄してヒューゾリアンとの共生に活路を見出しています。
 アンディーやモリーのように、共生していない人もいます。人類以外の知性体もたくさんいます。

 どうも重要な事項を読み飛ばしてしまったのか、世界設定を把握することができませんでした。
 アンディーはなにかというと、コンパニオンだぞ、モニターだぞ、偉いんだぞ、と大騒ぎします。
 コンパニオンもモニターも、どういう身分でどういう立場なのか分からないままに読んでいました。アンディーの要求はたいてい拒否されるので、本人が主張するほどの身分ではないのでしょう。そういえば、地球にたどりついた先で出会った少年ルーフェは、アンディーのことを「牧師さん」と呼んでました。

 人間のちっちゃい思いは捨ておいて、ローグ・スターと知性ある星との壮大なドラマだけでもよかったような……。


 
 
 
 
2017年11月25日
リチャード・T・コンロイ(浅倉久志/訳)
『インド展の憂鬱』創元推理文庫

 《スミソニアン・ミステリ》第二作
 ヘンリー・スクラッグズは、スミソニアン協会の渉外業務室職員。国務省から出向してきているだけで、学芸員ではない。
 ヘンリーはひょんなことから、インド展を担当することになってしまった。テーマは、K・V・チャンドラ。チャンドラの生誕150年を祝っての企画展だ。
 チャンドラは、イギリス支配下のインドに生まれた。祖父はスコットランド人。一門のバックアップで、エジンバラ大学に留学。カースト最高位のバラモンに所属し、非常に裕福だった。
 ところがあるとき、すべてを捨てて僧侶に転身。インド全土を放浪し、ヒンドゥー教徒とムスリム教徒の和解、義務教育、階級差別の打破、そしてイギリスからの独立を説いた。その思想はガンジーに受け継がれた……可能性もある。
 展示ホールで圧倒的な存在感を放っているのは、190センチの背丈の黄金立像だった。一流の彫刻家が制作し、チャンドラの修行場へ寄贈されたという。現在は、チャンドラの子孫が所有している。
 ヘンリーは展示の出来映えにご満悦。この功績の半分は、ヴァイオレット・ストラウスによるものだった。ヴァイオレットは展示企画者として、天才的手腕を発揮した。薬物マニアで、自殺願望があったとしても。
 オープニングまで、一時間足らず。ところが、肝心のヴァイオレットの姿が見当たらない。ヘンリーは心当たりをさがすが、展示室で異様な光景を目の当たりにしてしまった。
 500キロの目方の黄金像が消えていたのだ。
 1000万ドルの保険がかけられた立像が。
 オープニングセレモニーは中止。捜索がはじまるが……。

 スミソニアン博物館を舞台にしたミステリ、第二作。ただし、実際は第一作『スミソン氏の遺骨』より先に執筆されたそうです。
 物語は、黄金像の盗難からはじまります。ヴァイオレットの知人が関係者を装って盗みにきますが、そのときにはすでに黄金像はなくなってました。
 そして、一年程さかのぼって、そもそも記念展が開かれることになった経緯から語られます。
 発端は数年前。当時の副大統領が開催を約束していたのです。副大統領は選挙で負けて、現在は政界の中枢にはいません。そのためアメリカ側は積極的になれず、かといって放っておくこともできず、手っ取り早くヘンリーが担当することになってしまいます。
 いろんなドタバタ(とヘンリーの浮気)の合間に準備が少しずつ進んでいき、ついに迎えるオープニング……というところまでで、だいたい半分。

 お役所仕事ぶりは相変わらず。そこが、このシリーズの面白みのひとつだと思います。とりわけ今作は死体が少なめなので、ミステリを期待しているとがっかりするかもしれません。

 
 

 
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