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2017年の記録
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このページの本たち
アレフの彼方』グレゴリイ・ベンフォード
ダミアの子供たち』アン・マキャフリイ
ライアン家の誇り』アン・マキャフリイ
赤い予言者』オースン・スコット・カード
M・D』トマス・M・ディッシュ
 
月と六ペンス』サマセット・モーム
ローワンと白い魔物』エミリー・ロッダ
猫はソファをかじる』リリアン・J・ブラウン
猫はスイッチを入れる』リリアン・J・ブラウン
猫は殺しをかぎつける』リリアン・J・ブラウン

 
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2017年06月05日
グレゴリイ・ベンフォード(山高 昭/訳)
『アレフの彼方』ハヤカワ文庫SF591

 木星の衛星ガニメデは、人類によるテラフォーミングの真っ最中。地表は暖められ、有害物質を分解する人工生物が放たれている。とはいうものの、環境の変化は非常にゆっくりとしており、人間が住めるまでにはまだ幾代か必要だ。
 開拓民たちはドームの中で農耕を行い、機密服を着ずに外出することはできない。
 サイドン・セツルメントで暮らすマヌエルは13歳。はじめて、父ロペス大佐の率いる狩猟隊に参加が許された。
 狩猟は、変異を起こした人工生物を狩るため、ときおり行われている。それは、閉鎖空間で生活する人々には気晴らしともなる。
 実はガニメデには、怪物がいた。
 木星にある異星人の遺物との関連が考えられているものの、正体はまったく分からない。果たして、機械なのか、生物なのか。ヘブライ語のアルファベットの第一字をとってアレフと名づけられ、今も研究がつづけられている。
 アレフは、白くて、巨大。
 目撃されるたび、姿が違う。レーザーや電子ビームの電撃の直射でさえ、なんの手応えもなかった。そもそも、人間の存在に気がついているのかどうか。
 アレフは、畏怖の対象ともなっていた。
 マヌエルも、自分がアレフを倒してやるんだと決意していたが……。

 マヌエルのパートナーとなるのは、老人のマット・ボウレス。
 後日、この老人がただの老人ではないらしいことが明らかになるのですが、「らしい」で終わり。一事が万事そんな調子でした。読み飛ばしてしまっているのか、いろいろと察して読まねばならないのか、細かいことは無視するべきなのか。
 アレフが想像しづらいのは変幻自在だからとして、他のあれこれもどうも見えてこない。読み手の力不足でしょうか。
 なんとも消化不良な読後感でした。


 
 
 
 

2017年06月09日
アン・マキャフリイ(公手成幸/訳)
『ダミアの子供たち』ハヤカワ文庫SF1137

 《九星系連盟》シリーズ3
 人類が誇る能力者(タラント)たちはFT&T(連邦テレパス&ネットワーク)に所属し、さまざまな場面で活躍していた。中心となっているのは、プライムと呼ばれる超一流のタラントたち。
 タラントたちは思念を融合させ、異星種族〈ハイヴ〉の侵略を退けた。
 そしてまもなく、同じく〈ハイヴ〉の脅威にさらされていた異星人〈ムルディニ〉の接触を受ける。人類と〈ムルディニ〉は同盟を結び、共に〈ハイヴ〉に立ち向かうこととなった。
 ラリアは、オーライガ・プライムのダミアを母に、その片腕のタラント、アフラを父にもつ。自然豊かで広大な地所に建つ屋敷に暮らし、ティプとハフというディニ(ムルディニ人)のペアと成長した。
 両種族の子どもたちを一緒に育てる試みは、各所で行われた。留学は一方的なものではない。
 ラリアはまもなく、〈ムルディニ〉のホームワールドに移り住むことになる。交換留学の約束を果たすため。それにラリアは、ゆくゆくは、現地のクラーフ・タワーのプライムになるはずだ。
 そのころ、両種族合同で組織された艦隊が、〈ハイヴ〉船のイオン航跡を発見していた。
 実は、〈ハイヴ〉のことはよく分かっていない。女王たちが頂点に君臨し〈多数の心〉を形成していることは判明している。だが、彼らの母星系がどこにあるのか不明なまま。これからどこを侵略しようとしているのかさえも。
 イオン航跡は、重要な手掛かりとなることだろう。
 艦隊への増援が決まり、FT&Tはプライム派遣の要請を受けた。プライムの数は少ない。選ばれたのは、16歳になったばかりのラリアの弟、ティアンだった。
 ティアンは、はじめての正式な任務に大張り切り。パートナーであるディニのペア、ムルとディプと共に宇宙戦艦〈ヴァディム〉に乗り込んだ。
 ところが、淀んだ〈ヴァディム〉の空気が悪かったのか、ムルが瀕死の状態に。あわてたティアンは、おおっぴらに海軍規則を破ってしまうが……。

 前巻『青い瞳のダミア』の一応の主人公、ダミアの子どもたちの物語。ダミアとアフラには8人の子どもがいますが、中心となるのは、上の4人。ラリア、ティアン、ロジャー、ザラまで。
 親族が多いうえにディニのペアもわんさかいて、にぎやかなこと。視点が切り替わっていくので、人物関係を把握していくのが大変でした。
 というか、物語は完結してません。1冊使って、中途半端なところで終わってます。せめて、形だけでもまとめてもらいたかった……。


 
 
 
 
2017年06月14日
アン・マキャフリイ(公手成幸/訳)
『ライアン家の誇り』ハヤカワ文庫SF1147

 《九星系連盟》シリーズ4
 人類が誇る能力者(タラント)たちはFT&T(連邦テレパス&ネットワーク)に所属し、さまざまな場面で活躍していた。中心となっているのは、プライムと呼ばれる超一流のタラントたち。
 人類と異星種族〈ムルディニ〉は同盟を結び、共に侵略者〈ハイヴ〉の脅威に立ち向かっている。合同の艦隊は、破壊された〈ハイヴ〉の巨大な球体船を発見していた。どうやら、膨張するノヴァの熱にやられたらしい。
 ディニ(ムルディニ人)たちは、〈ハイヴ〉のホームワールドが破壊されたと確信。人類側は、そこまでの確証を持てずにいる。
 球体船には、脱出ポッドが使われた形跡があった。それらを追いかける任務が各艦に割り当てられる。ポッドのひとつには、生きた女王が乗っていた。
 生きている〈ハイヴ〉を見るのは、両陣営ともはじめて。生かしておくことに、賛否両論巻き起こる。
 一方、〈ハイヴ〉船を追跡したことで、〈ハイヴ〉が侵略した星系が発見されていた。監視が続けられることになるが、その決定に不満をいだく者もいた。
 軍艦〈ジェネシー〉に同乗していたプライムのロジャーは、ディニの軍艦〈クトゥトゥス〉に呼びだされていた。艦長のプルトゥグルムは、己の栄光のために〈ハイヴ〉を攻撃しようとしていたのだ。ロジャーを利用して。
 ロジャーはプルトゥグルムから脅迫を受ける。ロジャーを守ったのは、パートナーとして共に育ってきたディニ、ギルとカットだった。
 それらの犠牲で逃げ出せたロジャーだったものの、心の傷は計り知れない。そのまま行方不明となってしまう。
 ロジャーの不在は、まもなくFT&Tの知るところとなった。やがて発見されたロジャーは、デネブにある祖母のコテージに引きとられ、治療に専念するが……。

 シリーズ4作目、というより前作『ダミアの子供たち』の後半のような内容。〈ハイヴ〉のことが少しずつ分かってきます。と同時に、それほど詳しく書かれてこなかった〈ムルディニ〉のことも、ここにきてようやく明らかに。 少しだけですが。
 かなり進んでから、物語に変化が出てきます。もうページ数も残り少ないのに大丈夫か……と思っていたら、いろいろと放置されたまま終わってしまいました。
 残念。

 翻訳されているのはここまで。
 どうやら本国では、あと1冊あるらしいのですが、本書が翻訳されて21年。 もう紹介されることはないのでしょう。


 
 
 
 
2017年06月16日
オースン・スコット・カード(小西敦子/訳)
『赤い予言者』角川文庫

奇跡の少年』続刊
 18世紀末。
 アメリカ人将軍ウィリアム・ハリソンは、自身が治めるカーティッジ・シティをウォビッシュ州の首府だと自称させていた。州の北部には、ライバルのアーマーオブゴッド・ウィーヴァーのヴィゴール・チャーチがある。
 ウィーヴァーは、インディアンとの共存を模索していた。それがハリソンにはおもしろくない。
 ハリソンは、インディアンたちをウイスキーで骨抜きにしている。その見本として、隻眼のローラ・ウォシキーを足下に置いていた。まるでペットのように。
 ローラ・ウォシキーは、かつて予言者だった。目の前で父親を射殺されたとき、力は失われた。以来、ショックから立ち直ることができず、酒にすがってきた。父を射殺した犯人はハリソンなのだが、自分ではどうすることもできない。
 そんなハリソンとローラ・ウォシキーの元に、インディアンの指導者タクムソーがやってくる。タクムソーはハリソンに、条約を守るように警告するが、ハリソンは取り合おうとしない。
 タクムソーは、ローラ・ウォシキーの兄だった。弟に、帰ってくるよう説得するが、ローラ・ウォシキーは酒樽を手に入れると立ち去ってしまう。
 実は、ローラ・ウォシキーはヴィジョンを得ていた。北方に白い光を見たのは五年前。自分のドリーム・ビーストが呼んでいるのだ。酒樽を担いで歩き続けたローラ・ウォシキーは、ヴィゴール・チャーチにたどり着く。
 ヴィゴール・チャーチには、アルヴィン・ミラー・ジュニアがいた。アルヴィンは、大地や自然と心を通わせ、ケガや病気を癒す奇跡の力を持っている。
 ローラ・ウォシキーは、アルヴィンこそが自分のドリーム・ビーストだと悟った。そして、正しい力の使い方を知らないでいることを見て取った。そこでローラ・ウォシキーは、夢を使ってアルヴィンに接触する。
 アルヴィンを導くこと、それは同時に、自身を癒すことでもあった。回復したローラ・ウォシキーは、予言者テンスクワタワとなった。
 そのころハリソンは、ウィーヴァーを罠にかけようと準備を進めていた。その罠に、アルヴィンも絡めとられてしまうが……。

 シリーズの主役はアルヴィン。そのためアルヴィンにも光は当たりますが、本作の中心人物は、タクムソーとテンスクワタワのインディアン兄弟。
 前作『奇跡の少年』でアルヴィンは〈シャイニングマン〉の夢を見ましたが、その人物こそローラ・ウォシキー。前作のことはきれいに別れていて、なにやら既視感があるなと思ったら、そういうことでした。

 インディアンにはさまざまな部族があって一枚岩ではないし、植民者たちもアメリカ、イギリス、フランスと一枚岩じゃない。そういう複雑な情勢の中、タクムソーはインディアン全体のために奮闘します。テンスクワタワは、さらに高い次元にいる感じ。
 アメリカ史がインディアン側から読めるのが、興味深かったです。ただし、このシリーズは歴史ものではなく、パラレルワールドもの。ちょこちょこと史実を拾ったところもあれば、異なった展開になっているところもあるようです。


 
 
 
 

2017年06月18日
トマス・M・ディッシュ(松本剛史/訳)
『M・D』上下巻/文春文庫

 クリスマスの休暇を控えたある金曜日のことだった。
 ビリー(ウィリアム)・マイケルズは、〈慈悲の聖母〉学校の幼稚園クラスで、衝撃的なことを教えられた。シスターが言うには、この世にサンタクロースはいないというのだ。
 実は、ビリーはサンタを見たことがあった。ふつうに見るのとはちょっとちがうやりかたで。ビリーは、もうひとつの見方でものを見ることができたのだ。
 そうして見たのは、確かにサンタだった。
 必死にシスターに反論するビリーだったが、シスターには相手にされない。衝撃を受けたまま、コートも持たずに彷徨い出てしまう。
 ビリーが、誰もいない公園で寒さに震えていると、いつか見たサンタが現れた。
 ビリーは家に帰るように諭される。そうすれば、兄ネッドの〈毒の杖〉の隠し場所を教えてくれるという。
 〈毒の杖〉は、ネッドが造ったもの。二重にねじれあった木の棒の先端にひからびた雀の死骸をくくりつけてある。奇妙なふうにねじりあった木は、一対の蛇のようにも見えた。
 ネッドは自作の〈毒の杖〉が、オノコロ・インディアンの〈魔法の杖〉や、古代ローマ人に信仰されていたメルクリウス(マーキュリー)の〈カデューシアス(使者の杖)〉に似ていることに気がついていた。ただ、弟をこわがらせる遊びにおもしろがって使っていただけだったが。
 ビリーがあのサンタに再会したのは、無事に帰宅した数日後のことだった。そのときのビリーは、相手がサンタではないことに気がついていた。
 彼の名は、マーキュリー。マーキュリーは、ビリーが自身の指示どおりに動き、神として崇拝すれば〈カデューシアス〉の使い方を教えてくれるという。
 〈カデューシアス〉の力は、生きて育っていくもの、すべてに効果がある。病気にしたり治したり自由自在。ビリーがするのは、韻をふんだ呪いの言葉を紡ぐだけ。ただし、一度かけた呪いを解くことはできない。
 ビリーは、徐々に〈カデューシアス〉を使えるようになっていくが……。

 時代は、ウォーターゲート事件の真っ最中。
 ビリーは、実父ヘンリーと、ヘンリーの再婚相手のマッジ、マッジの連れ子の義兄ネッド、マッジの母ミセス・オブストシュメッカーの5人家族。
 ちなみに、ネッドの実父ランスは徴兵忌避者としてカナダに逃亡中。ビリーの実母サンドラは、裕福なベン・ウィンケルマイヤーと再婚してます。ベンにはジュディスという連れ子がいます。ジュディスの実母ローダも健在。
 この複雑な人物関係がいきなり襲ってくるので、当初は登場人物表と照らし合わせながら読んでました。
 幼少期のビリーが〈カデューシアス〉ですることは、子どもならでは。いじわるされた仕返しが、とんでもない結果を招きます。それでもあっけらかんとしているのが実に子どもっぽい。
 物語はヘンリーの事故死によって急展開。ビリーはサンドラに引き取られますが、ショックで記憶喪失に陥ってます。もちろんマーキュリーのことも記憶の彼方。
 ついに思い出し、13歳の誕生日にふたたび〈カデューシアス〉を手にしたウィリアム。さすがに、6〜7歳のビリーとはやることが違う。というか、ここからが〈カデューシアス〉の本番といいますか。

 ジャンル分けでは「ホラー」になってます。実際、おそろしい物語なのですが、マーキュリーは人間から崇拝されないとなにもできない、と言っていいと思います。本当におそろしいのは、人間だった、と。
 頭はいいけど論文をコピペしてしまうウィリアム、マーキュリーと出会わなかったら、どんな大人になっていたんでしょうねぇ。
 傑作でした。


 
 
 
 

2017年06月24日
サマセット・モーム(中野好夫/訳)
『月と六ペンス』新潮文庫

 チャールズ・ストリックランドの一生は、完全に無名の一生だった。いまでは伝説となり、彼が天才であったということは、疑うことのできない事実である。
 ストリックランドを知ったのは、まだ画家になる前のこと。
 ロンドン文壇の女流作家、ローズ・ウォータフォドのお茶会に招かれ、ミセス・ストリックランドを紹介された。ミセス・ストリックランドは読書好き。文士たちをよく午餐に呼んでいた。
 その縁で面識を得たのが、チャールズ・ストリックランドだったのだ。
 そのときの彼は、株式仲買人。社交的才能はなく、全くの善良、平凡。よき夫であり、よき父であり、そして正直なブローカーであった。
 おそらくりっぱな人間だったろうチャールズ・ストリックランドは、突然、出奔してしまった。噂では、若い女とパリに逃げてしまったのだと。
 だが、ミセス・ストリックランドに頼みこまれてパリへ行くと、事情はまったく異なっていた。ストリックランドがいたのは豪勢なホテルではなく、多少いかがわしい界隈にある、安宿。女の影はなく、ただ絵が描きたいのだという。
 ストリックランドはどんなに説得しても、描かないじゃいられない、の一点張り。
 貧乏暮らしを続けた挙げ句、病気になってしまうが……。

 モームの代表作。
 名前の出てこない「僕」が、ストリックランドのことを回想したり、彼のことを知る人から聞いた話をまとめたりします。ときには、情報提供者の話は嘘である、というオチまでついていたり。
 最初は、独白が延々と続いて、辟易しました。転換するのは、ミセス・ストリックランドが登場してから。
 ミセス・ストリックランドの描写には、「僕」というフィルターがかかってます。「僕」のフィルターの変化が、なかなかおもしろいのです。美化されていたのが剥がされる感じ。
 ミセス・ストリックランドの登場はごく一部ですが。

 ほとんど予備知識なしに読み始めました。
 早い段階で「タヒチ」と「画家」のキーワードが出てくるため、ゴーギャンがモデルかなと思いながら読んでた程度。実際その通りらしいですが、いちいち比べてみると相違部分の方が多いようです。
 ぼんやりと知ってる程度が一番楽しめるのかもしれません。


 
 
 
 
2017年06月25日
エミリー・ロッダ(さくま ゆみこ/訳)
『ローワンと白い魔物』あすなろ書房

 《リンの谷のローワン》第五作
 リンの村は、寒さに凍えていた。
 貯蔵庫はほとんどからになってしまったが、雪はまだいっこうにとける気配がない。暦のうえではもう春なのに。
 実は、いつまでも終わらない冬ははじめてではない。〈旅の人〉の言い伝えによると、かつて〈凍れる時〉と呼ばれる時代があった。そのときアイス・クリーパーが、あたたかい肉をむさぼろうとして〈禁じられた山〉から下りてきたという。
 村人たちは、谷を離れて海岸に出ることを選んだ。マリスの民や〈旅の人〉を頼るのだ。
 ただ、村の家畜バクシャーは体が弱り、とても海岸まではつれて行けない。バクシャーの世話係ローワンは村に残ることに決めた。若くて強いバクシャーだけでも生き延びさせられれば……。
 ローワンは〈賢い女〉シバから予言のような詞と、ふしぎなメダルを授けられる。
 詞の恐ろしさに、ローワンは誰にも言うことができない。そのうえ白昼夢を見てしまう。
 三つの人影が〈禁じられた山〉を登っていた。とぼとぼ、と。振り返った3人目は自分だった。
 村人たちが去った村では、事情があって残った数人で共同生活を始める。ところが、バクシャーたちが牧場からいなくなり、村はアイス・クリーパーに襲われてしまった。
 意を決したローワンは仲間たちに、シバの予言を伝える。
 ローワンたちはバクシャーの足跡をたどり〈禁じられた山〉に分け入るが……。

 これまでのシリーズの集大成的物語。
 バクシャー係のローワンが主人公だった意味とか、長老ランの過去とか、シバが孤独を好んでいる理由とか、リンの村人の失われていた歴史とか。
 すべてがつながっていて、とにかく、児童書の枠に押しこんでおくのがもったいない。とても深い物語でした。


 
 
 
 

2017年06月29日
リリアン・J・ブラウン(羽田詩津子/訳)
『猫はソファをかじる』ハヤカワ文庫HM

 《シャム猫ココ》シリーズ第2作
 ジム・クィラランが〈デイリー・フラクション〉で任されたのは、美術記事だった。事件記者としての自負があったクィラランだったが、金がないばっかりに断ることはできなかった。
 それから六ヶ月間。
 このたび〈デイリー・フラクション〉では、52週間にわたって特別日曜増刊号を発行することになった。
 その担当として、クィラランが選ばれる。題材は、
 インテリア・デコレイティング!
 豪邸、高級賃貸アパートメント、住宅のステイタス・シンボル、それに最上流階級の人々と彼らの暮らしぶり。それらを雑誌形式で、たっぷりとしたカラーページで紹介する。一般読者向けの切り口ながら、内容は専門的。
 熟練した新聞記者としてクィラランに白羽の矢が立ったのだ。
 乗り気になれないクィラランだったが、主任記者からサブ・デスクへの昇進がついてくると聞いては引き受けるしかない。早速、婦人部デスクに紹介された〈ライク・アンド・スタークウェザー〉を訪れた。
 デコレイティング・スタジオの共同経営者、デイヴィッド・ライクは、三十代前半のハンサムなデコレイター。雑誌の創刊号にちょうどいい邸宅があるという。
 世間に聞こえた名前、見事な室内装飾、目もあやな色彩、さらに、75万ドルの価値があるという翡翠のコレクション。G・ヴァーニング・テイト邸だ。
 ライクの根回しで取材は順調。テイトは、自慢の翡翠コレクションをすべて撮影してもらおうと、次々と出してくる始末。
 創刊号はスムーズにつくられ、土曜の夜に日曜版の間にはさまれると読者の手元に届けられた。〈優雅なる住居〉誌は話題となり、クィラランは友人たちから祝福されどおし。
 ところが月曜日の朝、思いもよらない知らせが舞いこんだ。
 テイトの家が泥棒に入られた。しかも、それだけではすまなかった。テイト夫人が命を落としたという。どうやら心臓発作をおこしたらしい。
 事件は、クィラランの〈優雅なる住居〉が引き金となったのか?
 落ちこむクィラランだったが、ひっかかることもあった。日曜版を見てテイト邸に狙いを定めたとすると、犯行がはやすぎる。きちんと計画をたてる時間はなかったのではないか?
 そのうえ、クィラランと一緒に暮らしているシャム猫のココが、どうもなにかを言いたいらしい。ココはなにを知っているのか?

 クィラランは、高級アパートに無償で住めることになる一方、日曜版増刊号はさらなるトラブルに巻き込まれていきます。本物の殺人事件も起きて、もうなにがなんだか。
 クィラランが頼りにするのは、自身の口ひげが感じ取る第六感と、ココの教え。

 前作にひきつづき、ココが大活躍します。
 タイトル通りソファをかじるココ。クィラランはヒントだと受け取りますが、ココの異常行動について相談された専門家は、きちんと理由を説明します。
 ココは知っているのかもしれないし、偶然なのかもしれないし。
 そのあたりのさじ加減が絶妙。ココがあくまで猫であることを逸脱していないのが、すごくうまいのです。
 さらなる活躍を読みたくなります。


 
 
 
 
2017年07月01日
リリアン・J・ブラウン(羽田詩津子/訳)
『猫はスイッチを入れる』ハヤカワ文庫HM

 《シャム猫ココ》シリーズ第3作
 ジム・クィラランは〈デイリー・フラクション〉の記者。
 タクシー運転手から、ジャンクタウンのことを耳にした。かつては町のエリートたちの住まいだった高級住宅地が、いまでは安っぽい宿やバーが立ち並び、ジャンクタウンと呼ばれているらしい。
 ちょうどクィラランは、記事コンテストの題材を探していた。
 賞金総額3000ドルの〈デイリー・フラクション〉の記事コンテストは、大晦日が締め切り。麻薬中毒者たちのクリスマスを題材に、心を打つ要素をたっぷり盛りこんだ記事にする。
 ところが、クィラランが耳にしたジャンクタウンは、ジャンキーではなく、ジャンガーの方の意味だった。アンティーク・ショップが軒を並べる界隈だったのだ。
 クィラランはあまり骨董品が好きではない。だが、言い出した以上、記事は書かねばならない。
 クィラランはジャンクタウンへと足を運んだ。
 実はジャンクタウンでは、二ヶ月前にひとりのディーラーが死んでいた。
 アンドリュー・グランツが亡くなることになったのは、はしごから落ちたせい。事故死で処理され、近々、アンドリューの店のストックを処分するオークションが開かれる。
 アンドリューは、尊敬に値する能力を持ったディーラーだったという。善人すぎると考えている人もいたようだ。正義感が強すぎた、と。
 そして、あれは殺人だったと言う人も。
 クィラランは記事にするために、恋人だったというメアリー・ダックワースに取材する。メアリーは高級指向のアンティークショップを開いていた。アンドリューのことを歪めずに書くなら、話をしてもいいと言う。ただし、自分の店のことを記事にされるのは願い下げ。メアリーは、なにかを隠しているようだった。
 クィラランが思うに、ジャンクタウンでは、疑惑を招くような何かが進行中。それはなんなのか?
 クィラランは、精力的に聞いてまわるが……。

 今作から、シャム猫ココだけでなくヤムヤムも登場。
 二匹いると、とにかく賑やか。同じシャム猫でもそれぞれに個性があって、きちんと書き分けられています。
 クィラランの新居は、アンティークショップの二階。実は、アンドリューが住んでいた部屋です。事故以降、借り手が見つかっていなかったのですが、安ホテル暮らしに辟易していたクィラランが飛びつきました。それでアンティークに囲まれて暮らすことに……。
 それにしても、当初は骨董品を毛嫌いしていたのに、すぐにそんな描写はなくなってしまいます。あの設定はなんだったのか。


 
 
 
 
2017年07月03日
リリアン・J・ブラウン(羽田詩津子/訳)
『猫は殺しをかぎつける』ハヤカワ文庫HM

 《シャム猫ココ》シリーズ第4作
 ジム・クィラランは〈デイリー・フラクション〉の記者。医者から食事制限を指示されているにもかかわらず、グルメ記事を担当することになってしまう。
 グルメ記事担当者は、あちこちのめぼしいレストランで食事をし、定期的にコラムを書く。〈フラクション〉は二名分の費用を持ってくれるという。
 ダイエットは遠のくが、グルメな飼い猫たちにお持ち帰り袋をみやげにできるのはいい。シャム猫のココとヤムヤムは、猫缶など目もくれないのだ。
 クィラランは手始めに、いちばん値のはる〈トレドの墓〉に狙いを定めた。自身のアドレス帳の中でひときわ華やかなメアリーを誘うが、都合が悪いと断られてしまう。代わりにメアリーは、マウス・ハウスで開かれるグルメクラブのディナー会を紹介してくれた。
 マウス・ハウスはその昔、自殺事件のおきた曰くつきの物件。
 石造りの、人を寄せつけない神秘的な雰囲気を漂わせている。かつては本物の芸術施設だった。今では、弁護士のロバート・マウスの自宅。下宿屋にもなっている。住んでいるのは、芸術家や芸術家の卵、レストラン・オーナーなどなど。
 パーティに出席したクィラランは、偶然にも昔の恋人ジョイ・グレアムと再会する。ジョイはマウス・ハウスに暮らし、夫とふたりで陶器を創作しているという。
 クィラランは、昔と変わらず魅力的なジョイが気になって仕方がない。ちょうど部屋がひとつ空いていると聞き及ぶと、すぐさま引っ越してしまう。
 ジョイは、どうやら夫のダンとうまくいってないらしい。必死に、窒息しそうな状態から抜け出そうとしていた。
 クィラランはジョイのために、750ドルの小切手を書いて渡す。
 ところがジョイが蓄電してしまう。
 ジョイはどこに消えたのか?
 クィラランが聞いた夜中の悲鳴や、車の発信音にはどういう意味があったのか?

 ジョイにつられて引っ越したクィラランですが、最優先は飼ってるシャム猫のココとヤムヤム。飼ってるというより、もはや飼われてる?

 猫は殺しをかぎつけるのですが、なかなか殺しが出てこない。昔の自殺事件や、ジョイの失踪、ロバートの顔の痣、ココとヤムヤムの不可解な行動、といろんな不思議がでてくるのですが、死体は出てこない。
 と思っていたら、本当に殺しをかぎつけていて、しかもそれが猫の本能を逸脱しておず、うまいなぁ、と。

 
 

 
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