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2018年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 
 
 9/現在地
 10
 
このページの本たち
イシャーの武器店』A・E・ヴァン・ヴォークト
空飛ぶ木』ラフィク・シャミ
偶然世界』フィリップ・K・ディック
炎と茨の王女』レイ・カーソン
白金の王冠』レイ・カーソン
 
魔法使いの王国』レイ・カーソン
容疑者』ロバート・クレイス
ジェイクをさがして』チャイナ・ミエヴィル
闇の戦い4 樹上の銀』スーザン・クーパー
天のさだめを誰が知る』D・R・ベンセン

 
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2018年10月31日
A・E・ヴァン・ヴォークト(沼沢洽治/訳)
『イシャーの武器店』創元SF文庫

 1951年。
 ミドル・シティーに、一見銃砲店ふうの奇妙な建物が出現した。取材に赴いた記者のマカリスターは店内に入り、奇妙な現象に遭遇してしまう。
 武器店は、イシャー王朝紀元4784年に存在していた。マカリスターは、知らずして7000年をひとまたぎしていたのだ。
 世界に君臨する女帝イネルダは、武器製造者ギルドを目の敵にしていた。女帝のひそかな攻撃により、店が時間を超越してしまったらしい。
 マカリスターは絶縁服を与えられ、過去へ送り返されるが……。
 一方、グレイ村でも、武器店の出店に大騒ぎしていた。
 モーター修理人ファーラ・クラークは、イネルダ女帝の崇拝者。武器店にはげしく抵抗するが、あしらわれてしまう。
 女帝を崇拝していることでは、ファーラの息子ケイルも同様。だが、父親に反抗的で、武器店の娘ルーシー・ラルに魅せられてしまう。ケイルはルーシーを追いかけて、帝国首都へと赴く。
 実は、武器店の統合調整部長ロバート・ヘドロックが、ケイルの潜在能力に目を留めていた。女帝の武器店破壊計画阻止に利用するため、ルーシーを近づけたのだ。
 ケイルはそんなこととはつゆ知らず。トラブルに巻き込まれてしまう。ルーシーは、任務を越えてケイルを助け出そうとするが……。

 偶像劇。
 『武器製造業者』の前章篇。
 マカリスターの受難はあくまで幕間。
 ファーラの人となりが書き込まれるので、ファーラが主人公かな? と思っているとケイルが出てきてケイルに焦点が合い、裏ではヘドロックが暗躍する。まだ若いイネルダ女帝も精力的に動いてます。
 いろんな人物のさまざまな事情がからみあって、有名なラストにつながっていきます。
 13年ぶりの再読ですが、ラストだけは覚えてました、というかラストしか覚えてませんでした。そのくらい鮮烈なんです。


 
 
 
 
2018年11月09日
ラフィク・シャミ(池上弘子/訳)
『空飛ぶ木』西村書店

 小話14篇。
 アラビアンなものが多め。

「タマネギ」
 昔むかし、暮らしに必要なものはなんでもとれる国があった。なのに、国民たちはとても貧しい暮らしをしていた。
 毎年、収穫が終わると村々に兵士がやってくる。農夫たちは不平たらたら。それでも兵士たちの狼藉をおそれて、言いなりになっていた。
 この国の小さな村に、年老いた貧しい農夫アミンが暮らしていた。アミンは貧しいが故に、奪われるものをなにも持っていない。そのためアミンはこわいもの知らず。
 村の人々はアミンを地に足のつかない夢想家と見ていたが……。

「美しい声のファティマ」
 昔むかし、小さくて貧しい村に、ファティマという少女がいた。
 ファティマはとても美しい声をしていた。その歌声を聞くと、みんな心配事も忘れてしまう。それほど美しい声だった。
 さて、都を治める王には、バラール、ハラール、サラールという3人の息子がいた。このうちサラールがファティマの声を聞きつけ、王宮に迎え入れた。
 ファティマは、両親や村のみんなのことが心配でならない。王子が村人たちにたくさんの食料を届けたことを聞き、心の底から感謝した。
 ファティマは王子の希望どおり、宴会の席で歌った。王子が聞きたがったのは、悪い王の歌や正義の王子の歌。ファティマは歌の意味が分からなかったが、何度も歌って人々に聞かせた。
 ファティマの人気はどんどん高まっていくが……。
 枠物語。ファティマという少女のための、ファティマの物語。そうなるかもしれないことを物語に託して聞かせてきたのが、文化になっていったんだろうなぁ、と。

「オオカミの皮を着た羊」
 羊のヒルーは、ほかの羊たちと、広い牧草地に暮らしていた。ヒルーだけは、いつも不満たらたら。満足することがなかった。
 ある日、羊飼いがオオカミを撃ち殺した。羊飼いはオオカミの皮を剥して念入りに洗い、乾かすために大きくて平らな石の上にひろげた。
 羊たちは、みんな吐き気をもよおして、目をそらした。ただヒルーだけは、羊飼いのやることをじっと見ていた。皮が乾くとヒルーは、皮を被って仲間たちを脅かすが……。

「地獄」
 地獄はとにかく熱いもの。燃やす硫黄がつきると、石炭を、それから石油も掘りだした。しかし、やがて石油も底をついてきた。
 悪魔の総元締ルシフェルは、地獄にいる物理学者に目をつけた。
 彼らは、太陽エネルギーを暖房に利用してはどうか、と提案した。そして、エネルギーの大切さを説いた。確かに、温度を一度あげたところで、地獄の業火に焼かれる者たちの苦痛が増すわけではない。
 悪魔たちも、時の流れには逆らえなかった。
 太陽熱収集装置がつくられ、地獄にも、快適な環境を整える余裕が生じた。ルシフェルは、地獄も独立できると喜ぶが……。
 弟子が老師に、地獄はとても熱くて硫黄のにおいがぷんぷんするというが本当か、と尋ねた答えがこの物語。坊主にだまされるなよ、と。

「パン屋といかさま師」
 ダマスカスにサレームという名のパン屋がいた。サレームは昼も夜も働きづめ。何年もかけて蓄えた金貨は、もう相当な額になっていた。
 ある日、ひとりの若いフランス人がパン屋にやってきた。フランス人のアラビア語は完璧。フランス人をたいへん尊敬していたサレームが話を聞くと、エルサレムへ贖罪の旅の途中だという。
 サレームはフランス人の不思議な話に感銘を受けるが……。

「黒い羊」
 羊の群の中で、一匹だけ、タールみたいに真っ黒な羊がいた。黒い羊は仲間たちから疎まれてしまう。そんな中、一匹だけ、黒い羊の話を聞いてくれる白い羊が現われるが……。

「そしてコオロギは鳴き続けた」
 昔、おばあさんから聞いたのは、夏のあいだ、歌とヴァイオリンに明け暮れたコオロギが、冬になって食べ物を求めて物乞いに歩いたけれど、だれも恵んでくれなかったという物語。
 疑問に思っていると、小さなコオロギが本当の話を教えくれた。
 冬になってコオロギを助けたのは、クワガタだった。
 クワガタは森のみんなのために、愉快な催しを開いた。なにしろ冬の夜は長くて退屈。ちょっと気分転換に、ひと晩楽しく過ごそうというわけ。お代は、穀物ひと粒。
 みんな、ひと粒ならと集まってくるが……。
 日本ではアリとキリギリスですが、東欧ではコオロギのことが多いそうで。

「監視人」
 地中深くに掘られた穴に、大勢の蟻が住んでいた。
 ある夕暮れ、一匹の蟻が、恐ろしい知らせを持って戻ってくる。
 ちょっといったところに、灰色の大きな怪物がいた。その怪物の目はギラギラして、口にはとてつもなく大きな歯が生えている。怪物が言うには、蟻たちを片手でつかまえて、一撃でやっつけることができるらしい。海の水をあふれさせて、おぼれさせることも。
 だが、もしも毎日十匹ずつ仲間を引き渡すなら、生かしておいてやる、と。
 十匹の仲間が犠牲になることでほかの千匹を救うのは偉大な行為だ。そう思ってはいても、自分から生け贄になろうと申しでる蟻は一匹もいなかった。
 蟻たちは、働きぶりのよくない者のなかから選ぶことを決める。十匹の監視人が選びだされ、毎日十匹の蟻がつれていかれるが……。

「南風」
 昔むかし、ダマスカスの近郊に、ひとりの金持ちが住んでいた。その御殿の豪勢なことといったらなかった。庭の、カーネーションの花壇と、手入れの行き届いた芝生もすばらしかった。
 欠点は、ただひとつ。隣接する家と畑だった。いまにも壊れそうな住まいと、ロバとヤギの小屋は、みすぼらしく、荒れ放題に見えた。 
 金持ちは、もう長いあいだ、その一画を農夫のオマールからとりあげようと、ありとあらゆる手を打ってきた。しかし、農夫はなかなかしぶとい。たとえ世界じゅうの金を積まれても、畑を譲ろうとしなかった。
 金持ちは、壁を築きはじめるが……。

「空飛ぶ木」
 昔、ある小さな畑で小さな木が、地面から明るい地上へ顔をだした。若い木には新しい葉がたくさんついて、何枚かは、まるで星のよう。蚊を追ってきたツバメは、にぎやかな葉をおもしろがり、仲間を連れてきた。
 ツバメたちは、物語のまたとない語り手だ。彼らは世界じゅうを旅して、見たり聞いたりしたいろんなことを、ぜんぶ覚えていられるのだ。
 秋になるとツバメたちは南の国へ飛んでいった。若い木はツバメたちのことを思い浮かべ、彼らから聞いた話を夢に見た。
 春になってツバメたちが戻ってくると、若い木は一緒に南へ行きたいと懇願するが……。

「ニンニク」
 昔むかし、ある遠い国に、ひとりの裕福な農民が三人の息子と暮らしていた。
 長男はスノープといった。なかなかの男前で、背が高く、黒々とした髪にきらきら輝く青い目をしていた。スノープの望みは、国じゅうでいちばん美しい娘と結婚すること。スノープは父親から、羊と、ラクダと、馬を相続した。
 次男のフォープは、荒っぽい性格で、支配欲が強く、人づきあいなどには目もくれなかった。人間を敵か奴隷としか見なかった。望みは、この国の最高権力を握ること。フォープは父親から、家作と畑を相続した。
 いちばん下のクノープは、背は低く、ひょろひょろして、髪が白いせいで、少年というよりは老人のように見えた。クノープには、たゆまぬ探究心があった。クノープは父親から、ロバを相続した。
 クノープは死んだロバから、賢者の教訓を教えられた。クノープは老ジプシーの弟子となり、脱出芸を極めるが……。
 スノープとフォープの人生はダイジェスト。クノープは一角の人物になっていきます。話のオチが、最後にちっこくある一言の注釈なのは、翻訳ものならでは。

「さすらうネズミの最後の言葉」
 年老いたネズミに、死期が迫りつつあった。ネズミは仲間たちのために、自分の命と引きかえに安全を買おうとしていた。
 ここには、いたるところに豊富な食料がある。だがジャスミンの香りが、どうもうさん臭い。そこで毒味を引き受けようというのだ。
 ネズミは最後に、誰にも話していなかった生い立ちを語りだすが……。

「逆立ち鳥」
 昔むかし、一本の古いクルミの木に、カラスが大勢住んでいた。その中に、母親とふたりだけで暮らす幼いカラスがいた。父親は、どう猛なワシの餌食になってしまったのだ。
 子ガラスは、ひとりぼっちで巣に残されることが多かった。子ガラスは退屈すると巣からはいだし、枝をぴょんぴょん伝ってよその子どもたちを訪問した。毎日のように新しい遊びを考えだし、くちばしを下にして逆立ちしたりしていた。
 そんなある日子ガラスは、鳥の王さまであるクジャクの物語を耳にした。クジャクはこの世でいちばん美しい鳥で、陽がのぼってから沈むまで、それはそれはみごとな翼を大輪のようにひろげて、全世界をとりこにしているという。
 子ガラスは、暗い森の奥の草原にいるクジャク王を訪ねて旅に出るが……。

「吸血鬼とニンニクの真実」
 連載担当の編集長が言うには、そろそろ、環境にやさしく、平和を愛するドラキュラ伯爵の真の姿を伝えてもいいころだろう、と。
 ドラキュラについては、それを題材に数多くのホラー小説が書かれているし、あらゆるタイプの映画もある。キリスト教徒の記事は、神聖なる十字架は奇跡を起こしたもうた、となりがち。もはや誰も見向きもしない。
 そこで、モハメド・アブドゥラ・アマールサマーンの出番というわけ。編集長は、ヨルダン人特派員記として、センセーションに売り出すつもりらしい。
 ドラキュラと平和運動の関係がのみこめないものの、金のために取材にでるが……。


 
 
 
 

2018年11月11日
フィリップ・K・ディック(小尾芙佐/訳)
『偶然世界』ハヤカワ文庫SF241

 ワゾウ-リル・ヒルは競売にかけられ、有級雇用者の半分を解雇するに至った。
 テッド・ベントレイは、クラス8−8の生化学者。16歳のころからヒル・システムで働いてきた。ベントレイの見るところ、ヒルは腐敗し、システム全体が堕落している。
 ワゾウ-リルで各種の熟練技師が馘首されたとき、ベントレイもその中にいた。悲壮感はなく、むしろ忠誠の誓約が解かれたことに喜んでいた。解雇されれば、P(パワー)カードを取り戻すことができるのだ。
 最高権力者であるクイズマスターへの職務誓約は、生涯に一度きり。しかもPカードが必要だった。
 執政庁を訪れたベントレイは、クイズマスター・リース・ベリックの個人秘書であるエリノア・スティーブンズを相手に、誓約を行う。職務誓約ではなく、ベリック個人に対するものだったが、問題にはしなかった。なにしろベリックは、この10年クイズマスターであり続けたのだから。
 ところが、そのときすでにベリックはクワックされていた。
 ボトル転位が行われ、コンピュータは新たなクイズマスターとして、プレストン会会長のレオン・カートライトを指名していたのだ。ベリックは失脚し、最下位へ転落していた。いまやベリックは何者でもない。
 だが、ベリックは逆転の秘策を暖めていた。公認挑戦者制度を利用し、カートライトを抹殺すればいい。そのための準備は在職中からおこなっていた。
 ベリックが手配した刺客は、キース・ペリッグ。テレパス機関をもあざむく策略に、ベントレイも関わることになるが……。

 ディックの第一長篇。
 13年ぶりの再読。ほぼ忘れてました。前回も同じく忘れていたようなので、記憶に残りにくい話なのかもしれません。
 中心人物は、ベントレイ。行動を共にするのは、執念を燃やすベリックと、元テレパスのエリノア、ベントレイと同じクラス8−8で対抗意識をあらわにするハーブ・ムーアなどなど。
 対するは、命の危険に怯えるカートライト。プレストン会はちょうど、ジョン・プレストンの語った第十惑星〈炎の月〉があるという未知の空域へ、宇宙船を派遣したところです。

 最初期の作品だけあって、理解しにくく、ゴツゴツした印象が残ります。ディックなんだけど、ディックでないような。なんでも、ヴォクトを意識して書かれたそう。


 
 
 
 

2018年11月12日
レイ・カーソン(杉田七重/訳)
『炎と茨の王女』創元推理文庫

炎と茨の王女》三部作、第一部
 ルセロ・エリサ・デ・リケサは、オロバジェ国の第二王女。120年にひとりという、ゴッド・ストーンを帯びた者だ。神から授けられる石を帯びた者は、偉大な人物になることが約束されているという。
 姉のフアナ・アロディアは、背が高く美人で有能で、父王の後継者としての評価も高い。
 エリサは国事に携わったことはない。三種類の言語が話せて、戦略を網羅した『ベレサ・ゲッラ』や、聖典の『スクリプトゥラ・サンクタ』はほとんど暗記している。だが、意見を求められることはない。
 エリサが間もなく16歳になるというころ、ホヤ・ド・アレナ国の王アレハンドロ・デ・ベガとの結婚が決まった。ホヤ国は、領土の広さも富の量も優に二倍ある大国だ。容姿にも体形にも劣等感を抱いているエリサは、本当は姉への求婚だったのだろうと勘ぐってしまう。
 あわただしく結婚式を挙げ、ふたりはオロバジェ国を出発した。
 ふたつの国は、ヒンダー山脈に隔てられていた。密林には、ペルディートと呼ばれるならず者たちがいる。警戒は怠らなかったものの、一行は襲撃に遭い、エリサは信頼のおける侍女を失ってしまった。
 なんとかホヤ国の首都ブリサドゥネセに到着するが、アレハンドロ王は、婚姻を公表しないという。エリサの滞在は、あくまでオロバジェ国王の名代として。どうやらアレハンドロ王は、美しい女伯爵アリーニャを愛人にしているらしい。
 このころホヤ国は、インビエルノ国に国境を脅かされていた。インビエルノの目的は港らしいのだが、詳しいことは分からない。
 王の諮問機関である評議会に出席したエリサは、アレハンドロ王の煮え切らない態度に唖然とする。彼は決断ができないのだ。結婚が秘されているため、エリサも曖昧なことしか言えない。
 そんなある日、エリサは誘拐されてしまった。
 彼らの目的は、ゴッド・ストーンを帯びた者。エリサは、誘拐犯たちと一緒に砂漠を踏破するために陥ってしまうが……。

 エリサの大冒険もの。
 エリサの一人称で語られます。
 だいたい3分の一くらいのところで誘拐されますが、そこからが本番。少ない食事に激増する運動量のおかげで、贅肉が落ち、身軽になって動き回ります。
 アレハンドロ王は典型的な優男。平時はそれでもいいけど、危機的状況のときには最悪。一方のエリサは、国事にかかわっていなかったと語られているものの、重要な場面に立ち会うことはよくあったようで、それなりに対処できてます。こういうとき姉ならどうする、と考えて真似しているのが印象的。
 三部作ですが、本書がデビュー作。一段落ついてます。


 
 
 
 
2018年11月13日
レイ・カーソン(杉田七重/訳)
『白金(しろがね)の王冠』創元推理文庫

炎と茨の王女》三部作、第二部
 ルセロ・エリサは、ホヤ・ド・アレナ国の女王。神に選ばれし、ゴッド・ストーンを帯びた者。亡くなったアレハンドロ王に代わって国を治めている。
 インビエルノとの戦争で勝利をおさめたのは、エリサの力あってこそ。それゆえ大多数の民衆からは支持されている。だが、インビエルノの脅威が取り除かれたわけではなく、復興もままならない。不満の声が高まっていた。
 エリサはアレハンドロ王が眠る地下墓地で、何者かの襲撃を受けてしまう。重傷を負ったエリサが動けないでいるうちに、女王の権威をおびやかす動きが相次ぐ。
 いかんせんエリサは17歳になったばかり。評議会から、摂政をおくか、政略結婚するか、迫られてしまう。
 エドゥアルド伯爵とルス・マヌエル将軍は、北方の領主との婚姻を望んでいた。候補としてやってきたのは、アルタパルマのリアノ卿。だが、エリサは嫌悪感しか抱けない。
 もうひとり、エリサは南方セルバリカのトリスタン伯爵からも求婚される。好人物だが、トリスタン伯爵との婚姻がどう役に立つのか分からない。
 そんなころエリサは、インビエルノだが自称〈陛下の忠実なる臣民〉であるストームと出会う。ストームは、元はといえば大使。任務を遂行できずに亡命し、ホヤ国に潜んでいた。
 エリサはストームから、インビエルノが語り継ぐザフィラについて聞き出す。
 ザフィラは、世界の塊。魔法の力の源。
 ストームによると、セルバリカの古い伝説にも語られている命に通じる門は、海を越えた先にあるという。門を見つけられるのは、神に選ばれし者のみ。門を通り抜けた先に、ザフィラがある。
 エリサは、ザフィラに到達することで、インビエルノに打ち勝ち、自身の基盤強化にも役立つと確信する。トリスタン伯爵からの求婚を利用し、南へと旅立つが……。  

 『炎と茨の王女』続編。
 エリサの一人称で語られます。
 三部作の二作目ですが、前作とは異なるところもありました。
 読み切りのつもりで書いたけれども、好評につき三部作に拡張してこまかな設定を追加した結果、齟齬がでてしまった、といった雰囲気。気になるほどではありませんが、続けて読まずに、ほどよく忘れたころに読むべきでした。
 次作の『魔法使いの王国』とは前後編のようになってます。

 本作ではエリサと、近衛師団司令官のヘクトール卿のあれこれにかなりの文量が割かれてます。
 エリサはヘクトール卿に恋心を抱くようになるのですが、未成年の女王という立場上政略結婚が必要なので悲嘆にくれてます。ヘクトール卿もエリサのことが気になっている様子。
 おそらく、今作では叶わぬ恋を展開したかったんでしょう。そういうのが好きな人は楽しめると思います。ただ、都合でそうなっているだけの、表面的な軽さが気になりました。
 そもそも、領主ではないリアノ卿に求婚者としての資格があるのなら、ベンティエラ伯爵の息子であるヘクトール卿も資格充分。なにを悶々としているのか、不思議でなりませんでした。(一応、後で理由づけはされてます)
 いろんなところで、もうちょっと必然性が欲しかった、というのが正直なところ。


 
 
 
 
2018年11月14日
レイ・カーソン(杉田七重/訳)
『魔法使いの王国』創元推理文庫

炎と茨の王女》三部作、完結編。
 ルセロ・エリサは、ホヤ・ド・アレナ国の女王。神に選ばれしゴッド・ストーンを帯びた者。
 ホヤ国は内乱の一歩手前。そのうえ、エリサの愛するヘクトール卿が敵国インビエルノに連れ去られてしまった。
 インビエルノの本当の狙いは、エリサのゴッド・ストーン。エリサ自身がインビエルノに向かわねば、ヘクトール卿を救出できない。
 エリサは時間をかせぐため、独断でヘクトール卿との婚約を発表する。ヘクトール卿は、南部に地盤を持つ有力貴族でもある。婚姻によって一時的にせよ南部の騒乱が鎮まると考えたのだ。
 エリサは仲間たちと、インビエルノを追跡する。
 行動を共にするのは、侍女のマーラ、亡命インビエルノのストーム、斥候のベレン。エリサは道中ストームから、ゴッド・ストーンの攻撃的活用法を学んでいく。
 ヘクトール卿は、インビエルノの都ウンブラ・デウスに入る前に救出できた。それでもエリサは、ウンブラ・デウスを訪問することに決める。
 インビエルノに力をもたらす門が崩壊にむかっているという。そのために彼らは、猛攻撃を仕掛けてくるかもしれない。その前に和平交渉をはじめる必要がある。
 エリサの切り札は、伝説の地ザフィラ。
 エリサたち一行は、ストームの一族との接触に成功するが……。

 三部作の完結編。
 前作『白金の王冠』とは前後編のようになってます。
 エリサの一人称部分を中心に、ヘクトール卿の語りパートもあり。 内乱状態のホヤ国は後回し。主に、インビエルノでの大冒険が語られます。
 ヘクトール卿が政治的取引の材料としての婚約に難色を示しているため、今作でも、叶わぬ恋のようなものが展開されます。もう、そういうのいいから、と思わない人の方が多いのかもしれませんね。
  
 ホヤとインビエルノで創世神話に隔たりがあるのですが、同一の歴史的事件が発端になっていると思われます。見方によって真っ向から対立する解釈なのが、すごくおもしろいです。
 けれど、太古になにがあったのかは不問。人種によってゴッド・ストーンの授かり方が違う理由も不明のまま。冒険ものとしておもしろいのですが、世界の不思議については、消化不良のまま終わってしまいました。


 
 
 
 

2018年11月15日
ロバート・クレイス(高橋恭美子/訳)
『容疑者』創元推理文庫

 マギーは3歳のジャーマン・シェパード。マギーの指導手(ハンドラー)は、ピート・ギブス伍長。マギーにとってピートはボスで、仲間で、いちばん大事な存在。
 ふたりは、アフガニスタン・イスラム共和国で任務についているとき、襲撃を受けた。ピートは死亡。ピートを守ろうとしたマギーも負傷してしまう。今では、マギーはひとりぼっち。
 一方、ロサンゼルス市では、スコット・ジェイムズ巡査が銃弾に倒れていた。
 午前二時。そのときスコットは、相棒のステファニー・アンダースとパトロール中だった。静寂の中現われたのは、大型のベントレー。なんとも場違いな車種に、ふたりは不信感を抱く。
 まもなくベントレーは、交差点から猛然と飛びだしてきた黒いケンワースのトラックに激突され、横転してしまう。さらに、ケンワースから激しい発砲があり、銃弾はパトカーとベントレーの車体に穴をうがった。出てきた黒マスクの男たちは、ベントレーだけでなく警察官たちも容赦なく銃撃した。
 ステファニーは死亡。スコットも重傷を負ってしまう。
 それから9か月。
 事件の捜査は殺人課特捜班の精鋭チームが担当したが、犯人逮捕にはいたっていない。
 スコットのもとに、チームを率いるバッド・オルソ刑事から連絡が入った。実は、最近になって、近くの店に泥棒が入っていたことが分かった。スコットは資料の閲覧を許され、自分でも独自に捜査してしまう。
 そのころスコットは傷病休暇を断り、新人ハンドラーとして警察犬隊にいた。ステファニーの最期の言葉が忘れられず、人間とパートナーを組むことが考えられなくなっていたのだ。犬が好きなわけでも、ペットとして飼った経験すらなかった。
 スコットが犬に興味を持っていないことは、主任指導官ドミニク・リーランドに見抜かれている。リーランドはスコットの相棒として、とびきり賢く、思慮分別があって、つきあいやすい犬を選んだ。劣等生としての扱いに、スコットは落ち込んでしまう。
 そんなとき、マギーと出会った。
 マギーは再訓練を受けていたが、精神的後遺症を抱え落第寸前。スコットは、パートナーを失ったマギーを自分と重ね、リーランドに直訴する。スコットはリーランドから2週間の猶予を与えられるが……。

 警察犬もの。
 スコットとマギーが事件の真相に迫ります。
 ふたりがパートナーになっていくのはお約束ですし、事件の真相もよくある展開。それでもおもしろく読めるのは、マギーの存在感でしょうか。
 マギー視点の章も少しだけあります。緑のボールが大好きなのにピートがいないことに気がついて哀しくなってしまうマギーに泣けてくる。
 今作は、マギーがすべて。犬好きな人はもちろん、犬好きでなくても。


 
 
 
 

2018年11月18日
チャイナ・ミエヴィル
(日暮雅通/柳下毅一郎/田中一江/市田 泉/訳)
『ジェイクをさがして』ハヤカワ文庫SF1762

 短編集。
 ミエヴィルの長篇作には、読みはじめは意味不明で大混乱に陥るけれども、いったん世界が掴めると俄然おもしろくなってくる、という印象をもっています。それが短編になると、世界が掴めるようになる前に終わっている、ということなのだな、と。
 とにかく読む人を選びます。
 自分は選ばれませんでした。おもしろいものもありますし、意味が分からなくてもつまらないわけではないけれど、はじめて読むミエヴィルが短篇だったら、今後読まなくていい作家リストに入れていたかもしれません。
 先に長篇作を読んでいたのは幸いでした。

「ジェイクをさがして」(日暮雅通/訳)
 列車がロンドン市内に入っていったとき、まるで煉獄のような光景が広がっていた。この世界を体系づける原理が崩壊し、世界は終わった。今や、すべてのものが変わり、住民が次々と消えていく。
 ぼくはジェイクをさがしてロンドンを彷徨うが……。
 終末もの。煉獄というのは、天国の一歩手前。カトリックの概念なので、プロテスタントなどには煉獄はありません。

「基礎」(柳下毅一郎/訳)
 男は〈家に囁く人〉と呼ばれている。
 男が建物に話しかけると、建物は囁きかえす。なぜひびが広がっているのか、なぜ壁に湿気が浮き出るのか、腐食はどこにあるのか、基礎が秘密を語りかけてくる。地中に埋もれた死者の壁が、すべてを男に告げるのだ。
 すべての通りのすべての家が、その基礎の上に立っていた。
 10年近く建物の声を聞いてきた男は、ようやく探していたものを見つけるが……。
 基礎にたくさんの死者が埋められているエピソードは実話。

「ボールルーム」
(エマ・バーチャム/マックス・シェイファー/共著、田中一江/訳)
 町はずれに、大きな展示場があった。そこには小さなショールームが無数に入っており、店で売る家具をレイアウトしている。店では客のために、さまざまサービスを提供していた。
 そのうちのひとつが、託児所と隣接するボールルーム。ボールルームは子どもたちに大人気。ところがある日、不可解な事故が起こってしまう。
 それでも店はボールルームを継続するが……。
 共著だからか、ふつうにホラーでした。

「ロンドンにおける"ある出来事"の報告」(日暮雅通/訳)
 ある日配達された大封筒は、誤配郵便物だった。同封された書類の最初の何枚かを読んでから、封筒の宛名を見直してようやく気がついた。
 他人の郵便物を開けてしまったことに罪悪感はあった。だが、すでに読んでしまったものに強く興味をひかれていた。もはや読むことを止められない。
 書類によると、人知れず移動する街路があるらしいのだが……。
 断片的な記録から構成された珍しい作品。会議の資料だったり、手紙だったり、メモ書きだったり。

「使い魔」(日暮雅通/訳)
 魔法使いは、ロンドン北部の共同菜園にある納屋を仕事場にしていた。使い魔がいれば都会での自分の仕事に役立つだろう。召喚は軽い気持ちで行われた。
 ところが、現われた使い魔は、想像とはまるで違う生物だった。
 使い魔は、魔法使いの唾液と精液と魔法で凝固した、彼の脂肪と肉の混合物だったのだ。たしかに、そいつは力を持っていた。だが、その存在に耐えられなかった。かといって殺すこともできない。
 魔法使いは使い魔を運河にしずめてしまうが……。

「ある医学百科事典の一項目」(市田 泉/訳)
 バスカード病、あるいは蠕虫語は、ある言葉を発話すると、話し手の精神にまで入り込み、肉体に現われる。単語が宿主に強く働きかけ、ほかの人間のいるところで、何度も何度もその単語を繰り返させる。こうして発話のたびに新たな〈蠕虫語〉が誕生してしまう。
 サミュエル・バスカード医師が研究していたが……。
 医学百科事典の項目のように書かれてます。あくまで、まじめにまじめに。

「細部に宿るもの」(日暮雅通/訳)
 子どものころ母に頼まれて、黄色い家に通っていたころがあった。水曜日の午前9時ごろ。用事があるのは、ミセス・ミラーの部屋だ。
 鍵を使って家に入り、彼女のところへ食事を持っていく。白いプラスチックのボウルに入れられた食事は、火曜日の夜に一時間かけて準備をしたものだ。それと、ミセス・ミラーへの質問とか頼み事を書いた紙や、時には白ペンキがなみなみと入ったプラスチックのバケツを持たされることもあった。
 ミセス・ミラーはほんの少しだけドアを開き、ボウルをつかむとすぐにドアを閉めてしまう。ミセス・ミラーとの会話はドア越しに行われるが……。

「仲介者」(日暮雅通/訳)
 モーリーは、指示を受け取り実行する。筒を公園のゴミ箱に隠せとか、最終列車の座席に置いてこいとか。その都度モーリーは、忠実に指示に従う。
 モーリーには、メッセージがどうやってくるのか分からない。ある日は、パンに入っていた。衝動的に買ったチョコレートの中に入っていたこともある。
 指示を送ってくる相手は、彼の選ぶものを確実に当ててくる。
 モーリーが届けたものがどういう結果になっているのか、知ることはできない。使われずに終わったのかもしれないし、そのせいで何かの戦いに負けたのかもしれない。もう怖がるのはやめていた。
 そんなある日モーリーは、これで最後というメッセージを受け取るが……。

「もうひとつの空」(日暮雅通/訳)
 アンティークショップに不思議な窓が売られていた。
 真ん中にはめこまれているのは、菱形をした深紅のガラス。放射状に細くて黒い鉛の枠が伸び、まわりの透明だったらしいガラスは、緑か青色がかっていて、汚れて変色している。ガラスの質はよくないし、つくりは雑。
 だが、この窓には無視できない何かがあった。
 71歳の誕生日に、自分のためのプレゼントとして購入し、書斎の窓の上側中央に取り替えた。夜になって書斎へ本をとりにいくと、あのガラスに目がいった。あの窓の向こうになにかがあると気がつくが……。
 老人による日記形式で語られる物語。

「飢餓の終わり」(田中一江/訳)
 エイカンはプログラミングの名人。
 ある日エイカンは〈飢餓の終わり〉と呼ばれる組織のホームページに目を留めた。
 地味なサイトだったが、クリック一つでチャリティ活動に募金できるシステムで人気サイトになっていた。訪問者は、並んだスポンサーのどれかをクリックする。各スポンサーはワン・クリックにつき0.5セントを寄付することになっていた。
 エイカンは、複数回クリックできないシステムに怒り心頭。1クリック10ドルにプログラムを書き換えてしまう。
 エイカンと〈飢餓の終わり〉との戦いが始まるが……。

「あの季節がやってきた」(日暮雅通/訳)
 あらゆる古典的なものが商標登録され、合法的にクリスマスを祝うには、ユール社の株を手に入れるとか、エンドユーザー向けの一日ライセンスを買わねばならなくなった。サンタだめ、赤鼻のルドルフだめ、ヤドリギ、ミンスパイ、クリスマスツリー、ツリーの下のプレゼントしかり。
 みんな、非合法な言葉はいっさい口にせず、眉をちょっと上げてにっこりすることで済ませていたが……。
 ちっこいTMマークのオンパレード。それでもまだクリスマスを祝おうとするとは。

「ジャック」(日暮雅通/訳)
 ジャックはみんなの人気ものだった。
 ジャックは何百ノーブルもの金を奪って逃げ、それを通りにばらまいた。しかも、盗んだ先はお役所の税金をしまってある金庫から。あれでドッグ・フェンの貧乏人たちの人気を得た。
 ジャックは肉体的な懲罰を受けた者。改造され、逃げ出した。みんな、ジャックを尊敬し、慕っていた。
 そんなジャックを売ったやつがいる。すぐさま犯人が捕らえられるが……。
ペルディード・ストリート・ステーション』の関連短篇。
 語り手は、ジャックとの仕事をしたことがあるという人物。

「鏡」(田中一江/訳)
 ロンドン市民たちが目ざめたとき、侵入者がまぎれこんでいた。
 兵隊たちは中央司令部との連絡がとれなくなり、孤立した。彼らは敗北したのだ。兵士たちはパニックを起こし、保護を求めようとした市民たちをも殺害した。
 一般市民たちは、死んだか、姿を消したか、逃げ出したか。瀕死の町をうろついて略奪行為をおこなう集団はますます増えてきている。
 ショールには、ある策があった。鏡の魚の居場所をさがし、ある手みやげを渡すつもりでいたが……。
 終末もの。ローカス賞受賞。
 本書でもっともボリュームのある物語。キーワードが鏡で、ヴァンパイアとかイマーゴとか、いろいろ出てきます。 

「前線へ向かう道」
(ライアム・シャープ/画、日暮雅通/訳)
 ある日、兵士を見かけた。彼は、バスを待っていた。今度は地下鉄で、別の兵士に会った。
 彼らはどこへ行くのか?
 疑問を抱き質問するが……。
 漫画。


 
 
 
 
2018年11月20日
スーザン・クーパー(浅羽莢子/訳)
『闇の戦い4 樹上の銀』評論社

 《闇の戦い》四部作、完結編。
 この世界の彼方には宇宙があり、上なる魔法の下にはふたつの極がある。それらは〈光〉と〈闇〉と呼ばれている。〈光〉と〈闇〉は、ほかの力に支配されているのではなく、単に存在しているだけだ。
 〈闇〉は、暗い本質に従って人間に影響をおよぼし、ついには人間を通じて地球を支配することをめざしている。〈光〉の役目は、そうならないようにすること。世界がどうあるべきか決めるのは人間なのだから。
 もうじき〈闇〉が、最後の攻撃をしかけてくる。今までになく危険が大きい。今度こそ、永久に追い払い、人間の世界を自由にしなくてはならない。
 ウィル・スタントンは、攻め寄せる〈闇〉から世界を護るよう、動かし難い掟によって縛られた〈光〉の守護者〈古老〉たちの、最後に生まれた者。六つのしるしを輪につなぎ合わせ得た者。ウィルが11歳で〈古老〉としての力にめざめた時、輪は完全になった。
 今こそ〈光の輪〉が召集される。
 続々と〈古老〉たちが集うが、〈老女〉が姿を現さなかった。老女こそが〈古老〉の要。大集団を溶接して究極的な魔法の道具となし、〈闇〉を打ち負かす力となる存在。
 老女は、おととしの輪つなぎの儀式で、力を使い果たしてしまったらしい。お連れするために、なんらかの魔法を働かせ、その助けを借りねばならない。
 全ての探索の終わりが始まるが……。

 これまでのシリーズで登場した人たち総出演。
 主人公は、おそらくウィル。
 第二巻の『みどりの妖婆』から、ドルー家の3兄弟、サイモン、ジェーン、バーナバス。第三巻の『灰色の王』からは、ブラァン・デイヴィーズ。その他にもいろんな人が、なんの説明もなしに登場します。続けて読まないとダメなやつでした。
 今作でも、超絶有名なある伝説が絡んでます。知っている前提で物語が展開していくので、知らないと戸惑いそう。でも、ネタバレになるので、どの伝説なのかは言いづらい。
 第一巻の『光の六つのしるし』のコメントで「〈古老〉のメリマンは《指輪物語》でいうガンダルフ」説を書きましたが、超絶有名な伝説の関係者だったと、ようやく思いいたりました。


 
 
 
 

2018年11月22日
D・R・ベンセン(村上博基/訳)
『天のさだめを誰が知る』創元推理文庫

 ウォンダラー号は宇宙探査船。
 トラブルが発生し、ある惑星めがけて墜落しつつあった。乗組員は4人。キャプテンのダーク、超歴史学者アリ、統合員ヴァルミス、記録員ラフ。
 地表に激突する直前、ウォンダラー号の操縦装置が奇跡的に回復した。だが、故障していることに変わりはない。不時着したものの、もはや飛び立つことはできない。
 故郷に帰るには原住民の助力が必要だ。
 見たところ、第四段階の文明があるようだった。宇宙船の修復には、第七段階の修理技術をぜったいに必要とする。ダークは、異星文化に干渉して彼らの技術レベルをひきあげる提案をする。
 そういった干渉は、宇宙探検隊のいちばん厳しい戒律にふれる。ラフは大反対。同じように反対するはずのヴァルミスは、思いがけない告白をする。
 異星文化どころか、すでにすべての世界に介入しているのだ、と。 
 ヴァルミスは、可能性転位装置を作動させていた。現実の宇宙ではウォンダラー号は地表に激突し、めちゃめちゃな原子になって雲散霧消している。ところが、ヴァルミスが動転して装置を使ったために、激突しなかった世界に転位していたのだ。
 こうなった以上は、それに対処していかなければならない。
 荷物をまとめて船を出た4人は、どうにか原住民に異星からきたことを伝え、この惑星の政治的筆頭者の一人と会えることになる。
 だが、ちょっとした問題があった。
 この星のささやかな見聞からすると、ここは無益無用とみなされる者には、あまり愛想のいいところではなさそうなのだ。なにしろ一行は、宇宙船が壊れたためにろくな探査も観測もできない探査隊。そこでダークが、銀河帝国の使節団をふれこもうと言いだした。
 こうして一行は使節団として、アメリカ合衆国大統領テディ・ローズヴェルドと会うことになるが……。

 歴史改変SF。
 主人公はラフ。ラフの語りで展開していきます。
 実は、13年ぶりの再読。昔は大絶賛していたけれども、年月がたって、ややトーンダウン。改変された歴史より、4人のやりとりをおもしろく思って読みました。
 ウォンダラー号の面々はおしのびで出かけたりもしてます。宇宙人というより、未来人といった方がしっくりくる。そのくらい人間くさいです。

 
 

 
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