書的独話

 
2017年のひとりごと
01月01日 展望、2017年
01月08日 2016年、ベスト
06月30日 中間報告、2017年
07月12日 後出しの幸い
08月13日 180日の隔壁
09月18日 天国と地獄と煉獄と
12月31日 総括、2017年(準備中)
 



 
 
イラスト
 
▲もくじへ
2017年09月18日
天国と地獄と煉獄と
 

 マシュー・パールの『ダンテ・クラブ』を読みました。
 ダンテ・アリギエーリの『神曲』が素材になったミステリ。

 『神曲』では主人公が〈地獄〉〈煉獄〉〈天国〉を旅してまわります。主人公はダンテ自身だと言われています。

 『ダンテ・クラブ』のパールは、ダンテ研究者。そのためにダンテについての記述は読ませます。が、小説部分はいまひとつ。途中でなにを読んでいるのか、分からなくなることもありました。

 それはさておき
 宣伝文句では『神曲』を読んでなくても大丈夫、ということでした。実際、知らなくても問題ないと思います。でも、第二の殺人事件が起こったとき、思ったのです。

 これは、知っていた方が断然おもしろいはず。

 登場人物が遺体の置かれた現場におもむいたとき、あるきっかけで〈地獄篇〉との類似に気がつきます。後ほど解説があるので、困ることはありません。
 逆に言うと『神曲』を知らないと、

 こいつ、なにかに気がついたようだぞ。

 と、そこまでなのです。解説されるまで分からないのです。
 どうせなら教えられる前に、

 自分も気がつきたい!

 と思いまして。
 半分ほど『ダンテ・クラブ』を読んだところで、とりかかることにしました。ダンテ・アリギエーリの『神曲』に。
 その昔、概略は読んだことがあったのですが、未読だったのです。

 ただ、今さら、あの大長編を読む気にはなれないのが正直なところ。そんなときに知ったのが、こちら。

 阿刀田高の『やさしいダンテ〈神曲〉』

 いわゆる解説本です。『神曲』そのものには書かれてないだろうことも載ってます。
 たとえば、ダンテの略歴。

 1265年にフィレンツェで生まれ、政治活動に身を投じます。一応は貴族ですが、ほぼ商人という身分。30代の中頃、政敵によってフィレンツェを追放されてしまいます。以来、帰国できないままに1321年に亡くなりました。

 ダンテが特殊なのは、美少女ベアトリーチェとの出会いがあったこと。ベアトリーチェの家は、立派な貴族。ダンテとは家柄が違います。
 ダンテは、麗しの聖女を見掛けてドキドキするだけ。それだけで満足。

 このころのフィレンツェは、ローマ教皇のグェルフィ党と、神聖ローマ帝国皇帝のギベリーニ党が対立しています。さらにグェルフィ党は、商人階級を中心とする白党、古い封健貴族をリーダーとする黒党とに分裂していきます。

 さて『神曲』でダンテらしき主人公の案内人を務めたのは、ウェルギリウスでした。叙事詩〈アエネーイス〉を著した人物で、古代ローマを代表する詩人です。
 この人物、ふだんは辺獄(りんぼ)にいます。
 うっかりキリスト誕生以前に生まれてしまったので、天国には入れないんです。紀元前の人は、どれだけ聖人でも、天国には入れないんです。

 ちなみにウェルギリウスの〈アエネーイス〉の主人公は、アエネアス。

 アエネアスはトロイア戦争に敗れて逃亡。祖国再建を願ってさまよい、エーゲ海から地中海、ティレニア海に入っていき、テヴェレ河口にたどりつきます。こうしてローマの礎が成った、と。
 アエネアスも漂流のさなかに地獄を訪れています。

 そんなわけで、案内人に選ばれたウェルギリウスに導かれ、ダンテらしき主人公は旅立ちます。まずは地獄から。
 ダンテが目にするのは、さまざまな理由で罪に問われて罰せられる人々。

 阿刀田氏が主張するに、ダンテの立場は〈崇高なる自己中心〉だそうで。なるほど、罪人はダンテの政敵が多い。
 『ダンテ・クラブ』の登場人物たちはダンテを神格化しているけれど、かなり俗物だったのだな、と。

 『やさしいダンテ〈神曲〉』では『神曲』にどういうことが書かれているのか、分かりました。そもそもの目的だった今回の『ダンテ・クラブ』には、残念ながら役に立ちませんでしたけれど。
 かなり省略されてますし、当たり前ですが、阿刀田氏の色眼鏡ごしでした。他からも情報をとってみると、解釈の違いに気づかされます。
 誰もが自分の色眼鏡で見ているんですねぇ。


 

 
■■■ 書房入口 ■ 書房案内 ■ 航本日誌 ■ 書的独話 ■ 宇宙事業 ■■■