初心者限定じゃなく、最近読んだおもしろいの、とフツーに聞かれて答えたことは何度かあります。それが“初心者”限定になると、ちょっと困ってしまう。自分にとっておもしろかったものなら、いくらでも挙げられるけれども。
乱読でなんでもかんでも読んできたので、そもそもジャンルを意識したことがありませんでした。気がつくとSF中心の読書になっていて……。おかげさまで、SF初心者だった時期の記憶がない。記憶がないから、初心者像を想像するのが難しい。
こんなの読むといいんじゃない?
というのが思い浮かばない。読む順番を決めたこともないし。ということは、どれから読んでもいいってことか。
今にして、読んでおいてよかったな〜と思えるのは、
ポール・アンダースン『タウ・ゼロ』
50人の男女を乗せた恒星船レオノーラ・クリスティーネ号は、おとめ座ベータ星の第三惑星に向かっていた。主観時間で、片道5年の旅。しかし、地球を飛び立ってから3年後、予期せぬ事故で減速システムが壊れてしまった。船は止まることができずに加速しつづけ……
ハードSF(※)だと知ったうえで読みました。すでにSFは読んでいましたが、いわゆるコアなハードSFを意識して読んだのははじめて。ハードSFも小難しくはないんだなぁ〜と思ったのを覚えてます。
※ハードSF:科学性がより強いSF。科学技術と、その技術が存在しえる理由が明らかにされている。(人によって定義がちがう)
とはいえ、今考えると“初心者”にはどうなんでしょうね、この作品。よく覚えてないのになんですけど。意識しないで読んでいたハードSFもあるので、実は、はじめての出会いではなかったですし。
おそらく“読みやすさ”という点を考慮すると、ジュブナイルでしょうか。最近の和製ジュブナイルSFは全然読んでないんですけど、翻訳物ならいくつかは……。
ロバート・A・ハインライン『ラモックス』
は好きな作品の一つ。
ジョンのペット、ラモックスは、ある日、庭を抜け出して町に遊びにでかけた。しかし、ラモックスはただのペットではなく、ジョンの曾祖父が宇宙冒険で連れ帰ったスタービースト。見慣れぬ巨大な姿に、町中大パニックに陥ってしまう。やがてジョンによって保護されるが、被害者たちから裁判を起こされて……
これは、おもしろい。とりあえず主役は少年少女なものの、宙務省次官のキク氏が主役級に活躍して、この人がまたいいんです。ですけど、オトナがいきなりジュブナイルっていうのも、楽しめない要因になるかもなぁ。SFなんて子供向け、なんて変に悟った気になられてもねぇ。
同じく宇宙人が裁かれる仕掛けでも、もうちょっと高い年代向けなのが
ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』
ついに人類は、宇宙人とのファースト・コンタクトを果たした。しかし、その立会人であった天文学者カルフーンの惨殺死体が発見され、宇宙人ハスクが逮捕される。かくして、宇宙人を被告とする裁判が開始されるが……
エンターテナーな作者だけに法廷ミステリとして楽しめるんですけど、事件が起こるまでが少々退屈なのが弱いところ。1997年(翻訳は2002年)と、かなり新しめの作品なので感覚的にはとっつきやすいでしょう。たぶん。
もちろん、古くってもおもしろい作品はたくさんあります。オールタイム・ベストで常に名前の挙がるハインライン『夏への扉』は1957年の作品ですし、今年新装版が出たばかりのアイザック・アシモフ『われはロボット』は1950年。認知度が一番ありそうなアーサー・C・クラーク『2001年宇宙の旅』は1967年。
現代とズレている点は否めないですけど。
人様はどんなものをすすめているのだろう?
と、ちょっとだけ調べてみたのですが、初心者にすすめるSFとして、
ダン・シモンズ『ハイペリオン』
が挙がってることが多いみたいです。
辺境惑星ハイペリオンにある遺跡〈時間の墓標〉では、殺戮者シュライクが封じこめられている。その〈時間の墓標〉が開き始め、宇宙連邦に激震が走った。時を同じくして、蛮族アウスターがハイペリオンへと侵攻を開始。宇宙連邦は、〈時間の墓標〉の謎をアウスターより先に解明するため、七人の男女を送りだしたが……。
七人の男女の語りで構成された物語。SF的手法が何種類も登場するので、いろんなバージョンのSFを知るのに手っ取り早い利点があります。かなり長いのですが、短編の寄せ集めと思えば読み切るのも苦ではない……なんてことはないか。
個人的には好きになれなかったんですけど。
ところで、いわゆる“初心者”を自認する方は、いったいどんなのをすすめてもらいたいのでしょう?
教えてください。