書的独話

 
2005年のひとりごと
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2005年02月05日
レムの異質生命体との遭遇(仮)三部作
 
 ポーランドの作家、スタニスワフ・レムのもっとも有名な作品は、『ソラリスの陽のもとに』になるのでしょうか。1972年にはソビエト連邦でタルコフスキーが、2002年にはアメリカでソダーバーグが映画化しました。
 当作は、最初に読んだレムでもあります。

 精神科医のケルビンは、惑星ソラリスの研究ステーションで奇妙な現象におそわれる。かつて自殺した妻のハリーが、目の前に現れたのだ。10年前の、何一つ変わることのない姿で。どうやら、ソラリスの唯一の生命体である“海”が関わっているようなのだが……。

 はじめて読んだとき、実は、あんまり好きになれなくって……。観念的なところがダメだったのか、他のレム作品を読むことからも遠ざかるありさま。読むには読んでも、どうも色眼鏡で見てしまう感じ。ところが、たまたま『砂漠の惑星』が手元にやってきて、これがおもしろかったのです。

 無敵号は、消息を絶った宇宙巡洋艦コンドル号捜索のために、砂漠に覆われた惑星に降り立った。ほどなくしてコンドル号が発見されるが、攻撃を受けた形跡がないにもかかわらず、艦内は混乱をきわめていた。彼らになにが起こったのか?

 無敵号クルーによってたてられた仮説が、すべてを物語る。それが正解とは限らないけれども、そうであろうと言えるもの。未知なるものは未知なまま、なにも語ってくれない。
 ここでようやく、地球外生命体との遭遇を描いたレムの三大長編なるものに気がついたのでした。宇宙人との遭遇SFではなんらかの形で相手を認識するけれども、そう容易にことが運ぶものだろうか? そういったことが原点のようです。
 最初に読んだ『ソラリスの陽のもとに』と、この『砂漠の惑星』(原題は『無敵』)そしてもうひとつ『エデン』が加わって、異質生命体との遭遇(仮)三部作が構成されてます。最後に読んだ『エデン』が、最初に書かれた一冊でした。

 惑星エデンに不時着した宇宙船“防御号”の乗組員たちは、宇宙船を修理するために、エデンの探索を行う。巨大なオートメーション工場を発見するものの、文明人は影も形も見当たらない。それどころか、おびただしい数の死体が見つかった。それらが意味するものとは一体?

 三作中もっともボリュームがあり、最終的にコミュニケーションの試みも果たされます。人間の心の葛藤は抑えられ、エデンに集中することができました。レムの評価はうなぎのぼり。

 ここで、もう一度、あの『ソラリスの陽のもとに』を読んでみることにしました。当時はあまり楽しめなかったけれども、三部作の他の作品を読んだ今なら……ということで。
 結果、途中まで楽しめたのですが、やっぱりよく分からない……。未知なる生命体は、惑星のほぼ全部を覆うほどの巨大な“海”しかも、全体で一個の理解不能な生命体。でも『ソラリスの陽のもとに』で読者が遭遇するのは、ソラリスの海というより、ソラリスの海によってもたらされた、人間であって人間でないモノでした。ケルビンの妻ハリーの姿をしたモノは、自分が何者であるかを知らず、人間ではないらしいことを知って悩み苦しみます。その反応は理解の範疇で、でもハリーが帰属している海は理解の及ばない相手で……。
 前回より楽しめたことは確か。今後、最後まで楽しめる機会はめぐってくるのでしょうか。また、そのうちに再読してみようと思います。


 

 
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