ハル・クレメント『20億の針』
宇宙を舞台にした追跡劇の後、犯罪者と追手の宇宙船はどちらも惑星に墜落してしまった。そこは地球の南太平洋。宇宙船に乗っていたゼリー状の半液体生物たちは、宿主なしには生きられない。追手は浜に居合わせた少年キンネアドに入りこみ、コンタクトを成功させる。犯罪者を追って、共同捜査を開始するが……。
復刊したおかげで読むことができました。名作との話は耳にしていましたが何ぶん古い作品ですから、半信半疑。続編の『一千億の針』も一緒に復刊されましたけど、そちらは置いといて、とりあえず買ってきました。が、読了直後に買いに走りました。
いろんな作品に影響を与えた名作。古いかもしれませんけど、原点になった理由がよく分かります。
飯嶋和一『雷電本紀』
江戸中期に実在した稀代の相撲人・雷電為右衛門の生涯を、商人・鍵屋助五郎の視点を交えて描いた伝記的作品。
のちに雷電となる太郎吉は百姓の倅。恵まれた体格だけでなく、知能も充分。祭礼相撲で大活躍していた。おのずと注目され、江戸相撲からスカウトを受ける。本来なら、百姓が大切な一人息子を手放す訳がない。しかし父・半右衛門は、太郎吉の将来を憂い、相撲取りへの道を承諾する。
鍵屋助五郎は、大火災で焼け野原と化した江戸で、はじめて雷電と出会った。気位が高い相撲取りが多い中、雷電は庶民に混じり、子供に厄災払いをしていた。勧進相撲など興味のなかった助五郎だが、雷電に感銘を受け化粧回しを贈る。それがきっかけで交流が始まるが……。
力作で名作で……。頭から結末まできっちりと時系列がととのっているわけではないので、すんなりとは読めません。でも、読み返すたびに、行間にまであふれる時代の景色と人々の心情とが迫ってきます。話題にはなっても世間一般にまで浸透していないのは、この本がすごすぎるから。この年の読了本ベスト1。
ロバート・A・ハインライン『ラモックス』
ジョン・トマス・スチュアート11世のペットは、スタービースト。愛称はラモックス。曾祖父が、宇宙船トレイル・ブレイザー号の冒険で連れ帰ってきたのだ。このラモックスが大食漢で、すでに怪物級の巨体。ジョンの留守中つまみぐいに出かけてしまい、街中大パニックに陥る。ラモックスは無事帰宅するが、ジョンは被害者たちに裁判を起こされてしまった。時を同じくして、地球には正体不明の宇宙船が訪れていて……。
基本はジュブナイル。大人も読めるジュブナイルはたくさんありますけど、大人も楽しめるジュブナイルは数少ない。これは、その数少ないうちの一つ。
バリントン・J・ベイリー『スター・ウィルス』
人類は異星人ストリールと遭遇したが、彼らは、おのれを銀河を支配する存在だと確信しており、人類に対し冷ややかな悪意を抱く程度。宇宙海賊ロドロン・チャンはストリールの哲学に異を唱え、彼らが欲していたあるものを横取りすることに成功するが……。
雰囲気を楽しむ作品。2001年から少しずつ読んでいるベイリーの処女長編です。文句なしのベストではなく、処女作だしそろそろ入れてもいいかな程度ですが、とりあえず。
ロバート・J・ソウヤー『ゴールデン・フリース』
宇宙船〈アルゴ〉は、47光年彼方の星をめざして航海中。乗組員は、10,034名。宇宙船のコンピュータ・イアソンは人々から盲目的な信頼を得ていたが、科学者・ダイアナにある秘密をかぎつけられてしまう。イアソンは秘密を守るためダイアナを殺害、事故に見せかけるが……。
宇宙船を舞台とした倒錯ミステリイ。再読です。翻訳されたソウヤー作品はすべて読んでいるのに、記録が残っているのはたった3冊。こりゃいかん、と思って、未記録の5冊を順次再読することにしました。「愛読書」に入れる可能性も視野にして。
ベストに入れるかどうかで悩んだのが、
ジョージ・アレック・エフィンジャー『重力が衰えるとき』
マリード・オードラーンは、アラブの暗黒街・ブーダイーンの一匹狼。ブーダイーンで発生した連続殺人事件について捜査するように、権力者、フリートレンダー・ベイに命令されてしまう。ベイの手先にされてしまったことで仲間たちから見放されるが……。
アラブ社会独特の、社交辞令や定型の文句の数々が後からじわじわと懐かしく思い出されます。読了直後の感触はそれほどよくはなかったのでベストには入れませんでした。でも、入れるんだった、とちと後悔。
【追記−2007年07月】
当時は存在した「愛読書」コーナーに掲載した本は年間ベストから外していました。当年は、下記の本がそれに当たります。
『スタープレックス』ロバート・J・ソウヤー