フィリップ・プルマン『黄金の羅針盤』
ライラ・ベラクア11歳の冬。オックスフォードではゴブラーが子供たちをさらっているという噂が広がり、ライラの親友ロジャーも行方不明になってしまう。心配するライラだったが、オックスフォードをはなれ、ロンドンに移り住むことに。ライラはロンドンでゴブラーの正体を知り、さらわれた子供たちが北極に送られていることをつかんだ。ライラはロジャーを助けることを誓うが……。
ライラの冒険三部作の第一巻。(『神秘の短剣』『琥珀の望遠鏡』)三部作を代表して……と言いたいところですが、このベストはあくまで第一作に対して。二作目以降もけっしてつまらなくはないけれど、第一作でギャフンとやられた身としては、やや物足りない。
ハル・クレメント『重力の使命』
高重力惑星メスクリンは水素の大気とメタンの海を持つ星。メスクリン人バーレナンは人類と出会い、その言葉を学んだ。バーレナンは船長であり、商人でもある。人類に頼まれ、極地への旅にでることにするが、心の奥底にはある計画が……。
古典的名作。古書店で偶然手に入れて、うきうきしながら読みました。いくつかのSFの解説で内容は知っていたものの、なかなか読む機会に恵まれなくって……。読んだ後もうきうき。現在は、創元SF文庫から『重力への挑戦』というタイトルで刊行されてます。
飯嶋和一『始祖鳥記』
江戸時代中期、岡山城下に暮らす幸吉は天才的な表具師。誰もが認める腕を持っていたが、空を飛ぶことにとりつかれたがために、所払いの刑に処せられてしまう。乞食同然となった幸吉は、いったんは空を飛ぶ夢から遠ざかるが……。
傑作。
天才の、意識してない存在感のすさまじさ。いろんな人の心に残り、行動を駆り立てていきます。名作『雷電本紀』(1994年刊行)を書き始めたのが1989年で、きっかけが、この幸吉を書くための資料集めからだそうです。書きたくても書けなかった人物をようやく書けた……。そんな肩肘はった感じはまったくありません。
スタニスワフ・レム『エデン』
惑星エデンに不時着した宇宙船“防御号”。6名の乗組員は、宇宙船を修理するかたわら、エデンを探索する。見つけたオートメーション工場は、まったくの無人。生産物が示す意味も汲み取れない。そして別のところでは、エデン人と思われる生物の死骸でできた壁を発見する。エデンとはいったい?
未知なるものとの遭遇を突き詰めた、レムの三部作(『ソラリスの陽のもとに』『砂漠の惑星』)のうちの一冊。3作品の中で一番長く、また唯一交流らしいものが生まれるので、とっつきやすさでは一番好きな作品です。
2月5日づけの書的独話「レムの異質生命体との遭遇(仮)三部作」でもちょこっと書きました。
ジョナサン・レセム『マザーレス・ブルックリン』
ライオネル・エスログは、トゥーレット症候群を持つ青年。言葉と運動のチックに悩まされている。仕事は探偵事務所の使いっ走り。ある日、ボスにして恩人のフランク・ミナが殺されてしまった。ライオネルは調査にのりだすが……。
ハードボイルド。ただし、語り手のライオネルがトゥーレット症候群。地文にも現れる他意のない言葉遊びの数々。もちろん、ライオネルはいたってまじめなのですが……。おどろきでした。
ベストに入れるかどうかで悩んだのが、
カート・ヴォネガット・ジュニア『タイタンの妖女』
大富豪のマラカイ・コンスタントは、未来を知っているウインストン・ナイルス・ラムファードに、告げられた。コンスタントは火星で、ラムファードの妻と番わせられる運命にある。コンスタントは予言に抵抗し、火星に赴く可能性を抹殺しようと画策する。〈ギャラクティック宇宙機〉の持ち株を売り払ったのだ。しかし、酔った勢いで油田の大盤振る舞いをした結果、無一文になってしまった。やむなく軍隊に入り火星に向かうコンスタント。
ラムファートの意図とは?
名作。それでも年間ベストに入れなかったのは、ただ単に表紙に書かれたタイトルが手書き風だったから。苦手なものはしょうがない。
11月11日づけの書的独話「『タイタンの妖女』と手書きタイトルそして『分解された男』」でも触れてます。
【追記−2007年07月】
当時は存在した「愛読書」コーナーに掲載した本は年間ベストから外していました。当年は、下記の本がそれに当たります。
『天の筏』スティーヴン・バクスター
『さよならダイノサウルス』ロバート・J・ソウヤー