A・E・ヴァン・ヴォークト『武器製造業者』
人類の支配者として君臨するイシャー帝国。目障りなのは、武器を買う自由を人々に説く武器店の存在。不死人ヘドロックは、武器店側の人間としてイシャー宮廷に潜入していた。しかし、女帝イネルダにスパイの疑いをかけられ、死刑宣告を受けてしまう。なんとかイシャー帝国からは逃れるものの、今度は武器店からも、死刑判決が出されてしまった。ヘドロックは宇宙に逃げるが……。
地球唯一の不死人ヘドロックは
『イシャーの武器店』
でも暗躍してます。
ヘドロックはいかにして不死人となったのか?
なんて、聞くだけ野暮。一部の人間が夢見た不老不死も、物語の中で重要な位置を占めていない以上、あたりまえのこととして処理されてしまいます。ヴォークト特有の現象でしょうが。
対して、どうでもいいことながらもおざなりな説明が入ってるのが、これ。
ラリイ・ニーヴン『リングワールド』
探検家ルイス・ウーは、ある日、パペッティア人のネサスに冒険へと誘われる。目的地は、リング状の超巨大構築物。その大きさたるや、G2型恒星のまわりをとりまくほど。パペッティア人は、元来臆病な種族だ。危険なことはしないはずなのだが……。
実は、ルイス・ウーは200歳。でも、医学的処置を受けているので、肉体的には20歳代。この作品には別の種類の不老不死もでてきます。調査の対象となったリングワールドの住民は、薬でもって長命を保ってました。
若くてピチピチした人に奥深い精神を宿らせたいときに便利な手法だな、不老不死は。と思うものの、ルイス・ウーがそういう人物かというと、ちと疑問。まぁ、長生きしたからといって人生を達観できるとは限らないので、そういうものなんでしょう。
さて、ここからが本題。
死ぬことのある不死世界。自身のクローン体を乗り換えつつ、記憶を保持し続けることで達成した永続性。外見は若々しくても、目を見れば年上か否か分かっちゃう、そんな世界。
よぼよぼになるまで身体を愛用してもいいし、好きなときに取り替えてもいい。一年に何度でも。いつでも、記録したところからリセット可。
コリイ・ドクトロウ『マジック・キングダムで落ちぶれて』
ジュールズは、ディズニー・ワールドのリバティ・スクエアでスタッフとして働いていた。そこへ、北京で大成功をおさめたデブラが乗り込んでくる。危機感を募らせていたジュールズは何者かに銃殺されてしまった。デブラの企みなのか? 再生したジュールズはリバティ・スクエアを守るために行動を起こすが……。
読んでいる最中に思い浮かべていたのは、ジョン・ヴァーリイの《八世界(エイトワールド)》シリーズ。記憶の保管とクローン体の利用は、同じ手法。ただし、ドクトロウのクローンが手を加えない純粋なクローンだったのに対して、ヴァーリイのクローンは肉体改造あたりまえ。どうせクローンを作るなら、悪いところは直したいものね。
ジョン・ヴァーリイ『へびつかい座ホットライン』
リロは化学者。人間のDNA改変という違法な研究に手を出した廉で、死刑を宣告される。そんなリロに、元・大統領トイードが取引を持ちかけてくる。条件は、ある秘密計画に手を貸すこと。リロは書諾する。トイードの計画とは、へびつかい座方面から送られてくる謎のメッセージに関することなのだが……。
何度か死に至るリロ。クローン体で生き返り、自分が死んでしまった(企てが失敗に終わった)ことを痛感します。生き返るといっても、記憶がはじまるのは記録したところから。どうしても現在までの空白が生じてしまう。その間なにが起こったのか、推測するしかない。
その点ドクトロウの不死世界では、第三者の視点からの映像を多角的に学習することで、ある程度補足できます。というのも、ヴァーリイの世界の人々が精神的には独立しているのに対して、ドクトロウの世界の人々は、ハイパーリンクでつながっているから。不死世界は相互監視社会でもあったのです。これは願い下げだなぁ。
ところで、クローン体こそはでてこないけれど、記憶を記録して他人の脳内で再生する一風変わったSFがあります。
ロバート・シルヴァーバーグ『いまひとたびの生』
生前に記録された人格を、死後、他人の頭の中で復活させるパーソナ移植。人類は、移植した死者たちの知識や感性を自身のものとして、より豊かな人生をおくることが可能となった。実業家ローディティスは、財界の大物カフマンのパーソナを手に入れることで格を高めようと奔走する。カフマンの後継者マークは、それを阻止しようと画策するが……。
生きている人間の頭の中ではじまる、死後の世界。といっても、享受できるのは金持ちのみ。記録するのも移植してもらうのにも金がかかる。金がかかることである以上、金持ちたちのステータスとなり得るわけだ。
ローディティスは、パーソナをうまく利用してました。でも、中にはパーソナに身体を乗っ取られる弱い人間も……。
年々忘却力がついてきて、ときどき記憶を記録しておきたくなります。すべての記憶を記録していったら、その量はいかばかりか? それらを参照するには、きちんとした分類と整理とラベル付けの下準備が必要になりそうです。人の記憶なんて曖昧模糊なもの。検索システムでは対応しきれないでしょうから。
まだ物語の中の技術なので、分類の心配は必要なさそうですが。