まずは《敵は海賊》とは?
ラテルは、対宇宙海賊課の一級刑事。生態が謎につつまれている黒猫型異星人アプロと、対コンピュータ・フリゲート艦ラジェンドラとチームを組んでいる。「公認された海賊」と陰口を叩かれている海賊課で最強チームだ。ラテルが宿敵と狙っているのは(ヨウ※)冥・シャローム・ツザッキィ。人に干渉されるのを嫌い、邪魔者には容赦がない幻の海賊だ。海賊と海賊課は日夜戦いを繰り広げているが……。
※(ヨウ)の漢字は「Unicodeの530B」「UTF8のE5 8C 8B」「JIS(XO213)の2-03-45」。以下、カタカナ表記させていただきます。
第一作が1981年の発表。長編第六巻は1997年。さすがに16年もあると、作風も変わってきます。成長しながら読んでいたときには、それほど違いが分かりませんでした。それが、短期間で一気に読んでみると、初期の怒濤のおしゃべりに唖然。途中から入ってくる内証具合に、神林長平らしさを感じ取ってフムンとなるのでした。
これから読みはじめる人は、いきなりこの変化に遭遇することになるのですね。
さらに、このシリーズは少し特殊で、シリーズ第六巻『敵は海賊・A級の敵』の作者あとがきによると、それぞれの物語は直接関連しておらず、共通の設定を元に書かれた劇中劇というスタイルになってます。ただし、どこまでが基本の設定なのかは明らかにされていないので、すでに語られたことが、次の物語に引き継がれていたり、いなかったり……。
1983年『敵は海賊・海賊版』
ランサス星系の王女が行方不明になった。王女づきの首席女官シャルファフィンは、ヨウメイに助けを求める。ヨウメイは魔女の訪問を受けた後。魔銃フリーザーと謎の座標を得ていた。一方、ヨウメイを追いかけるラテルチームは天使に遭遇し、同様に聖銃レイガンと謎の座標、そして卵から孵ったラテルの娘メイシアと行動を共にすることに……。双方がたどりついた世界とは?
第一作から2年。
物語全体の設定は、引退した海賊のカルマがヨウメイから聞いた本当か嘘か分からない話。主役はラテルだけど、中心人物はヨウメイ。ヨウメイの魔銃の秘密。ヨウメイの良心が分離して生まれた猫クラーラの秘密。ヨウメイ自身の秘密。その他いろいろが、詰め込んだふうにでてきます。
このころは、おしゃべり全快。まるで戯曲のように会話主体で進むため、すぐに読み切ってしまいます。若年層が対象読者だったんですねぇ。
1988年『敵は海賊・猫たちの饗宴』
ラテルとアプロは、ついに海賊課をクビになってしまった。紹介された再就職先に行ってみると、おかしなことに。海賊らに乗っ取られていたのだ。ラテルたちは建造中の海賊船を破壊し、意識不明の社主を救出する。ふたりのクビは解除され、改めて任務を与えられるが……。
第一作から7年。前作から5年。
色濃かったファンタジー色から、多少離れました。「猫じゃらし作戦」「猫かぶり前哨戦」「猫いらず大騒動」の三部構成。二級刑事マーシャ・Mの登場で、ラテルの受難が鮮明に……。“遊び”が感じられる作品でした。会話の比重は相変わらずですけど。
1991年『敵は海賊・海賊たちの憂鬱』
太陽圏連合の次期首長候補マーマデュークは、海賊を一掃する気でいた。ヨウメイはおもしろくない。マーマデュークの情報を消して疑われるように仕向ける。無法地帯サベイジを拠点にする故買屋チェンラもまた、マーマデュークに脅威を感じていた。手を下し、遺体を奪い取るが……。
第一作から10年。前作から3年。
すばやくマーマデュークの過去を消してしまうヨウメイに、ようやく海賊としての実力を垣間見た感じ。今までは、高性能な海賊船カーリー・ドゥルガーに負うところが大きかったですから。とはいえ、その後、片腕のような海賊ジュビリーに、なにをしたのかしゃべること、しゃべること。もうちょっと寡黙になってくれ〜。
1993年『敵は海賊・不敵な休暇』
海賊課チーフ・バスターが長期休暇をとり、チーフ代理にラテルチームを指名した。バスターは、超高級リゾート地バンデンパースに行くという。潜入捜査ではないかと疑うラジェンドラ。一方、無法地帯サベイジでは、ヨウメイが、特殊捜査官アセルテジオの罠にかかっていた。実は、アセルテジオの罠にはまったのはヨウメイだけではなく……。
第一作から12年。前作から2年。
シリーズでもっともボリュームのある一冊です。これまでは、内証がチラチラとでてきても、圧倒的な会話の前に立ち消えになってました。今回は、アプロがシリアスに大活躍。ヨウメイと対決してたじたじにさせます。そして、徐々に明らかになるアプロの秘密。
一応、主役はラテルなんでしょうけどね、アプロとヨウメイの影に隠れてしまってる感じ。
1995年『敵は海賊・海賊課の一日』
アプロの666歳の誕生日。ラテルチームは、苦情処理係を命じられる。ラテルの元にかかってきたのは、過去からの映話だった。叔父グライドが、ラテルの家族が海賊に皆殺しにされた事件の再捜査を求めていたのだ。ラテルは、過去へとつながった回線を利用して、事件の真相に迫ろうとするが……。
第一作から14年。前作から2年。
内容が内容だけに、ラテルの心の中のもやもやが前面にでてきます。前回、ラテルの影があまりにうすかったので、名誉挽回のために用意されたかのような……。とはいえ、やっぱりアプロが大活躍するんですけど。アプロの能力が明らかになってしまった今、もう単なるおふざけキャラとしては使えない、ということでしょうか。
1997年『敵は海賊・A級の敵』
宇宙キャラバンが何者かに襲われた。海賊課の刑事セレスタンが調査を開始する。実は、このキャラバン。海賊の偽装したものだった。ヨウメイもまた、調査に動き出す。マグファイヤを破壊したものの正体とは?
第一作から16年。前作から2年。
海賊と海賊課、双方が相手を利用しようと画策します。第一長編『敵は海賊・海賊版』とはずいぶんと趣が変わりました。圧倒的に紙面を占めていた会話の応酬は脇役になって、心のうちでどんなことを考えているのか語られます。
はじめて弱気になったアプロがかわいい……。
最後の長編が出版されて、早10年。早川書房は、SFマガジン増刊号「SFが読みたい!」で、2004年、2005年、2006年、3年連続で《敵は海賊》の新作予告を出しているのですが、いまだにお目にかかれません。
今年こそ、お願いします〜。