地球低軌道への“旅行”をウリにしている民間会社の宇宙船でトラブル発生。通信回路が破壊され、トーシローの乗客がひとり立往生。絶望的な状況に観念して、備品のラップトップに赤裸々な回想録をつけはじめたところ、スパイウェアが仕込まれていたためにネットに流出。全世界が読者となるが……。
作者のナンス、ふだんは、航空関係の冒険小説を書いているんだそうです。宇宙船がとりあげられてSFっぽい内容かと思いきや、まったくSFになってないのも、それで納得。NASAの長官が、組織の利益そっちのけ、自分の欲望だけで行動する悪者になっているのも、そういうことからか?
この物語を読んだとき最初に思い浮かんだのが、そのNASAで働いている人物の作品。やはり宇宙へ行くためのくじが登場するんです。
ジェフリー・A・ランディス
『火星縦断』
火星に到着した第三次探検隊だったが、二日目にしてトラブルに見舞われてしまった。地球に帰還するには、やはりトラブルに襲われた第一次探検隊の帰還船を使うしかない。一行は、北極へと旅立つが……。
ランディスはNASAの現役研究者。リアルな火星がせまってきます。SFはこうでなくっちゃ。さらに、資金難から売り出された火星くじの当選者も登場。
帰還できるかどうかのサスペンス。隊員たちそれぞれの秘密。当選者の抱える内緒ごとも、話を盛り上げます。全体的には淡白ですけどね。
さて、今回のタイトル。
宇宙くじが発売されたら、買うか否か?
地球じゃないところ、すごく行ってみたいです。でも、ただのツアーにすぎない『軌道離脱』でさえも、それなりに訓練を積んでました。隊の一員としての役割もある程度要求される『火星縦断』はもっと。空気がないんですから。死がすぐとなりにあるんですから、当然ですよね。
たとえ訓練施設がすぐ近くにあったとしても、訓練に参加するためには、仕事を続けて行くのは難しそうです。休職が認められればいいものの、辞職せざるを得ないことも?
辞退者が出た『火星縦断』は、その点でもリアルでした。現実を考えると、それでも宇宙に行ってみたいか、考えてしまいます。