2008年05月23日
活字と映画と歴史の『指輪物語』
ようやく、映画「ロード・オブ・ザ・リング」のDVDスペシャル・エクステンデット・エディションを入手しました!
劇場公開には時間の制約があり、いくつかのシーンがカットされています。それらを復活させ、再編集したのがスペシャル・エクステンデット・エディションです。三部作それぞれ30〜50分ばかり長くなってます。
字幕版を鑑賞して、吹替版を試して、オーディオコメンタリーをひととおり眺めて……とやっているうちに、原作が読みたくなってきました。
そんなわけで10日ばかりかけて、文庫版にして全9巻、読み切りました。
J・R・R・トールキン
『
指輪物語 旅の仲間』
『
指輪物語 二つの塔』
『
指輪物語 王の帰還』
冥王サウロンが復活しつつあった。サウロンが求めているのは、己の力を注ぎ込んで造り上げた“ひとつの指輪”。今では、温厚なホビット族のフロドが所有している。フロドは、魔法使いガンダルフに促され、指輪を葬り去る旅へと出発するが……。
指輪物語の舞台となるのは〈中つ国〉と呼ばれる架空の国。ですが、言語学者のトールキンが試みようとしたのは、神話の創出でした。母国イギリスには、よそから借りてきた伝説ぐらいしかなかったからです。
実は、フロドの長い長い旅路が書かれる指輪物語は、世界創世から始まる、壮大な歴史の一部にすぎないのです。
さて、指輪物語については4年前にも書いてます。(2004年08月30日「
再読・指輪物語」参照)そのときには、
やっぱり原作の方がいいなぁ……
という結論に達したのですが、何度も映画を観てから読み返すと、時の流れの遅いこと、遅いこと。原作のゆ〜ったりとした出だしに、おやおやと思ってしまうから不思議です。
フロドが指輪を手に入れ、魔法使いガンダルフから指輪の正体を知らされるまでに17年。実際に旅立つのはその半年ばかり後。
サウロンも、のんびり追ってたんだなぁ……。
映画「ロード・オブ・ザ・リング」には、物語のテンポを早めるための時間短縮だけでなく、カットされた人物やエピソードもあります。もっとも頻繁に挙げられるのは、古森での出来事です。
古森とは、ホビット庄に接している太古から続く森。森の木々は他者を嫌い、入り込んできた者を迷わせる。自然と共に暮らすホビット族も、例外ではありません。
原作では、サウロンの追っ手を巻くため、フロドと仲間たちは古森を通り抜けます。そして、不思議な老人トム・ボンバディルと出会うのです。
この出来事を丸ごとカットしたことについてある映画関係者は、
映画では描かれなかったが、行ったかもしれないし、行ってないかもしれない。
というような話をしていました。
なるほど、納得。
前出の通り、指輪物語はそもそも、神話を創出する過程で産まれました。小説として、体裁を整えられて書かれたわけではありません。これって、歴史ドラマと一緒ではないかな、と。
史実を元にして、いろんな作家がそれぞれに解釈してさまざまな作品が産み出される、あれ。同じ題材を使っても同じになることはなく、作家の個性が反映されている……。
そう考えると、多少異なるバリエーションがあった方が、より神話らしいかも。原作ファンには怒られてしまうかもしれませんが。