2010年 01月04日
2009年、ベスト
年初にはコンスタントに読もうと決めていたのに、まったく読まなくなったり、読みまくったりの2009年になりました。
読む習慣がなくなってしまったとき活躍するのは、気心の知れた、かつて読んだ作品たち。そんなこんなで、再読が多めだったかもしれません。
ジョン・クロウリー
『
エンジン・サマー』
遠未来、文明崩壊後に産まれ生きた〈しゃべる灯心草(ラッシュ・ザット・スピークス)〉の物語を物語る物語。
今では神話となった、天使たち。人々を導いた聖人たち。〈灯心草〉の故郷リトルベレア。初恋と夢と冒険と、衝撃の結末。
ずっと絶版で、ついに復刊された物語。SFですがファンタジックで、古さを感じさせない雰囲気がありました。
ジョー・ホールドマン
『
ヘミングウェイごっこ』
ヘミングウェイの未発表原稿が失われてから75年。ジョン・ベアトはヘミングウェイの贋作つくりを持ちかけられた。ためらうベアトだったが、研究書という形での出版で諒承。のめりこんでいくが、目の前に〈ヘミングウェイ〉が現れて……。
実は、ヘミングウェイって読んだことがないのですが、ヘミングウェイにまつわる、あらゆることを研究していく過程、とても楽しめました。文章の書き方や、その時期の傾向などなど。そこに、SF的なものが挟まってきます。
コニー・ウィリス
『
犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』
コヴェントリー大聖堂の再建プロジェクトにかりだされたネットは、タイム・トラベルを繰り返し、ついに重度のタイムラグ症状に陥ってしまった。ネットは休養をとるために過去に送り出されるが、指令を聞き逃し、歴史が変化。元に戻そうと悪戦苦闘するが……。
ベストに入れるかどうかで、かなり迷った作品。2005年ベストの『
ドゥームズデイ・ブック』の関連書で、あちらが真面目な中にユーモアがちりばめてあったのに対して、こちらは、ドタバタの中に生真面目さが織り込んであります。
読んだ直後より、しばらくたって思い返して、心の中でおもしろさを再発見していくような、そんな印象の作品でした。
ただ、正直に書いてしまうと、タイトルの元ネタとなった『
ボートの三人男 −犬は勘定に入れません−』のおもしろさは、いまだに分かってません。
飯嶋和一
『
出星前夜』
将軍家光の時代。島原領は南目の各村では、過大な年貢に苦しめられてきた。そこへ飢饉が発生し、傷寒まで流行。耐え続ける大人たちに怒りを覚えた寿安は出奔し、かつて教会堂のあった森に立てこもる。それはやがて、島原の乱へと発展していくのだが……。
『
黄金旅風』と、少し、登場人物が重なってます。そうした点での読みやすさがありました。
島原の乱というと天草四郎に目がいきがちですが、そこは飯嶋和一。天草四郎は脇のまま、というより、むしろ貶されているような……。
ロバート・A・ハインライン
『
ダブル・スター』
極度の金欠状態にあった俳優ロレンゾは、元太陽系帝国首相ボンフォートの替え玉を演じることになった。ボンフォードは誘拐されてしまったのだが、公開できる状態にはなかったのだ。ロレンゾは、一世一代の名演技でボンフォートになりきるが……。
かつて『太陽系帝国の危機』として出版されていたものの復刊。SF御三家と、自ら名乗っていたハインラインが、はじめてヒューゴー賞を獲得した作品です。それほど長くはなく、あっけないくらいに結末まで疾走していきます。
SF色は強くないのですが、昔に書かれた作品って、いいな、と改めて感じました。
そして、ベストに入れるかどうかで悩んで、けっきょく入れなかったのが……
エリザベス・ムーン
『
くらやみの速さはどれくらい』
自閉症を患っているルウは、自分に合った職につき、独立して生活していた。ところが、新しい管理部長の登場で状況は一変。ルウには、実験医療の被験者になる道が示されてしまう。ルウを守ろうとする人たちもいるのだが……。
自閉症は、治すべきなのか否か。この作品で、自閉症の実体を知った人もいるのではないかと思います。