ときどき読んでいる児童文学。ストレートな分かりやすさを前面に出しているものもあれば、奥行きと底深さのあるややこしいものまで、多種多様。
そんな中、込み入った展開を見せながらも実はストレートな内容で、おや、と思ったのが、本日読了の
クライヴ・ウッドオール
『キリック 翼の冒険者』
平和な〈バードダム〉を恐怖で満たし、小鳥たちを次々と絶滅させていくカササギたち。最後のコマドリとなったキリックは、フクロウ委員会の賢者トマーに頼まれ、救援を求めて旅立つが……。
ちょっとばかり言いたいことがあるのです。ネタバレも含みますのでご留意ください。
第一部で語られるキリックの活躍により、ひとまず平和が戻った〈バードダム〉。小鳥たちもようやく安心して暮らせるようになりました。とはいえ、カササギによる被害は壊滅的。
滅ぼされてしまった種族も少なくなく、第二部では移住者を募ることになります。ターゲットは、海の向こうにある〈ウイングランド〉の鳥たち。
実は、ここで重大な問題が!
カササギとの戦争において賢者トマーは、毒を使うことを思いつきます。その運搬を虫に頼みますが、なかなか色よい返事をもらえません。そこでトマーが出した奥の手が
今後〈バードダム〉の鳥は、虫を食べない!
という破格の提案。ようやく虫たちも納得し、協力してくれることになりました。
しかし、カササギのおかげで生態系が……と云々してるわりに、いいんだろうか? と思っていたら、やはりまずいと分かってはいたようで、終盤でちらりと反省してました。
とはいえ、虫たちと誓約を取り交わしたのも、彼らのおかげでカササギを一掃できたのも事実。鳥たちは虫を食べなくなります。子供たちにも厳しく戒めて、決して虫を食べさせません。
食べないことが常態化しているため失念したのか、はたまた自分の主食ではないので思いつかなかったのか、〈ウイングランド〉へと旅立った使者殿は、この制約を伝えようとしません。おかげで〈ウイングランド〉の鳥たちは
あのおっそろしい〈バードダム〉が平和になったのは分かったけど、故郷を捨ててまで移住する必要はないよね。
なんて断り方をします。そして使者殿はすごすごと退散するのですが……その後〈ウイングランド〉で大火事が発生し、乗り気でなかった彼らは大挙して〈バードダム〉にやってくるのでした。
めでたし、めでたし。
〈バードダム〉で新たな生活を始めた〈ウイングランド〉出身の鳥たち、虫を食べてはいけないと知って仰天したのではないでしょうか? ヒナに何を与えればいいのでしょう? 虫を主食としている鳥もいたのではないでしょうか?
使者殿は、大変な苦労を重ねて〈バードダム〉のために海を渡りました。自身の見返りはなく、あくまで〈バードダム〉のため。その行動は善意からくるもの。
善人による言動が必ずしも善良とは限らないのですね。
後で訴えられなきゃいいんですけど。