黒死病とは、ペスト菌による感染症。
最大の流行、とされているのは14世紀。中国の人口の約5割、ヨーロッパでは約3割を死に至らしめたとか。
ペストと聞いて思い出すのは……
コニー・ウィリス『ドゥームズデイ・ブック』
中世史科の大学生キヴリンは、はじめて中世へとタイムトラベルする人となった。数々の予防接種をし、知識の準備も怠りない。しかし、到着直後、病に倒れてしまった。
一方、キヴリンを送りだしたダンワージー教授は、その安全を危惧していた。ところが、現代でも伝染病が発生し、一帯は封鎖。無事についたかどうか確認することすらできない状況に陥ってしまう。
キヴリンが行く予定の中世とは1320年のことですが、作中、ペストが登場します。ちなみに、記録によるとペストが英国に上陸するのは1347年です。(ネタバレになってしまうので詳細は省きます)
病を隠したまま村を通り過ぎていく人たち。不調を訴え、瞬く間に亡くなっていく人たち。症状からペストを疑いつつも、1320年ではありえないと、困惑する未来人の主人公。
いかんせん重たいので気軽に再読できないのですが、強く記憶に残る物語でした。
ダニエル・デフォーの『ロンドン・ペストの恐怖』を見かけたとき、『ドゥームズデイ・ブック』のことが頭をよぎったのは言うまでもありません。
ただし、デフォーの書くペストは17世紀のもの。
ダニエル・デフォーは『ロビンソン・クルーソー』で名前を知られる著作家。ジャーナリスト。5歳のときロンドンで、ペストの猛威にさらされてます。
デフォーは後年、記録を調査し生存者の聞き取りなども行って『ペスト大流行の年についての報告(A Journal of the Plague Year)』というルポタージュにまとめました。とある人物の回想録というスタイルをとってます。
地球人ライブラリー(小学館)の『ロンドン・ペストの恐怖』は、それの抄訳版です。
14世紀ほどではなかったにせよ、原因や対処法が明らかになっていなかった17世紀。
そのときのロンドンの人口、約50万人。そのうち約2割が亡くなりました。
お金がある人はロンドンから逃げ出せましたが、逃げられない人の方が大多数。残された市民は、半狂乱になる人がいる一方、落ち着いて生活しようとする人たちも。
政府がとった封じ込め策や、生き残っている人びとを守る措置。信徒を見捨てて逃げる国教会の聖職者、空いた教会に入り人びとを励ます聖職者。
詐欺師たちは、ここぞとばかりに金儲けを企みます。これは現代も同じ。
状況は絶望的。
そんな中でも、誇りや希望は存在していたのでした。実際にあったことが土台になっているだけに、感慨深いです。