今回は、 以下の3冊について書きます。
1)M・W・ウェルマン『ルネサンスへ飛んだ男』
2)マイクル・ムアコック『この人を見よ』
3)ティム・パワーズ『アヌビスの門』
この内の(1)(3)について、ネタバレがあります。
(1)の結末に関連して(2)(3)に触れますが、そもそも(2)では冒頭で明らかになっていることなので、ネタバレではないです。(3)では、オチが別のところにあるので、ネタバレとまではいかないかもしれませんが、初読の楽しみが半減してしまうかもしれません。
ご了承ください。
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マンリイ・ウェイド・ウェルマンの『ルネサンスへ飛んだ男』を読みました。
「BOOK」データベースから引いた内容は、こちら。
青年レオは、離れた時代に人間を投影する"時間反射機"を開発した。そして自らが実験台となって、芸術の花咲くルネサンス期のフィレンツェへ飛ぶ―しかしレオは、狡猾な妖術師に拘束されてしまう。未来人の科学知識と卓抜な画力を利用され、陰謀の道具となるレオ! 美しい奴隷少女との恋、そして時の権力者メディチ家との対決。レオの運命は、予想もしない方向へ変転していく…SF/ホラーの名匠ウェルマンの知られざる代表作。奇想天外な時間旅行と綿密な時代考証で描く、歴史冒険絵巻。
レオといえばジャングル大帝レオ、と想像してしまうもので、上記の概略を読んでも、なにも考えてませんでした。でも、なかには、ルネサンス時代のフィレンツェでレオっていったら、レオナルド・ダ・ヴィンチでしょ。一択でしょ。それ以外ないでしょ。って方もいると思います。
そうなんです。
ルネサンス時代にタイム・トラベルした青年レオ・スラッシャーが、あのレオナルド・ダ・ヴィンチだった! という物語なんです。それが物語のオチです。
概略で気がつかなかったとしても、絵画に革新的な技法を持ちこんで、さらには絵画にとどまらず、思いつくままいろんな道具を考案してスケッチしだしたら、こいつがレオナルド・ダ・ヴィンチになるんだなって、察しがつきます。
たとえ察しがつかなくても、ヴェロッキオやらボッティチェッリやら、どこかで聞いたことがあるような芸術家たちが登場する一方、大本命のレオナルド・ダ・ヴィンチが出てこない! となったら、このレオって子がレオナルド・ダ・ヴィンチになるわけね、とうすうす感づくと思います。
なんというか、この、もっとうまくやってよ感。
オチにたどり着くまでに波瀾万丈があるため、オチを悟っていても読めます。けれど……
もうちょっと巧妙にできなかったの?
と、問いたい。
人様のコメントで「ハインラインのアレも同じからくりだった」というものがありました。その作品については割愛。
ただ、同じからくり云々のコメントを拝見して、もっと似ている物語を知っている、ということに気がつきました。
マイクル・ムアコック
『この人を見よ』
グロガウアーは、好事家が発明したタイムマシンに乗り、紀元28年の世界へと旅立った。キリストの磔を見物する目論見だったのだが到着と同時にタイムマシンが壊れてしまう。グロガウアーは、洗礼者ヨハネが指導するエッセネ派の人々に助けられるが……。
つまり、カール・グロガウアーが救世主イエスになるんです。最初に明らかにされています。グロガウアーがすなわち救世主イエスである、と。
もちろん、グロガウアー自身はそうなるとは知りません。ただイエスを見たくて時間旅行をします。で、足跡をたどろうとするけれども、そんな人物はいないんです。いや、いることはいるんだけれども、違うんですよ、全然。どう考えても救世主じゃない。どう考えても……
もう大ショック。
いろいろあって、グロガウアーがイエスの教えをつぶやくことで信仰の対象になってしまいます。キリストの磔を見物するはずが、自分が磔にされてしまうんです。
だって、グロガウアーが救世主イエスなんですから。
ムアコックの『この人を見よ』は、未来人が当時の人と入れ替わってしまうからくりを、うまく読ませてくれました。最後に読んだのが5年前なので、多少うろ覚えですが。
そして、もうひとつ。
『この人を見よ』に思いを馳せていたところで思い出しました。「BOOK」データベースから引いた内容は、こちら。
ティム・パワーズ
『アヌビスの門』
さえない中年の英文学者ブレンダン・ドイルは、好事家として有名な大富豪ダロウの話に思わず耳を疑った。なんとダロウは時間旅行の方法を発見したというのだ。なんでも時の流れには〈孔〉が開いていて、そこを通れば過去へ行くのも未来へ行くのも思いのままらしい。19世紀に赴いてコールリッジの生の講演を聞くというダロウの計画にすっかり乗せられ、時間旅行に参加することに決めたドイルを待ち受けていたものは…。フィリップ・K・ディツク記念賞受賞。
ドイルはコールリッジの評伝を書いてます。ダロウに誘われたのは、時間旅行のガイド役として。
このときドイルが手がけていたのは、コールリッジと同時期の詩人アッシュブレス。アッシュブレスは謎が多すぎて、2年かけてもものにならない始末。完全に行き詰まっていたんです。
ドイルも、レオやグロガウアーと同じように、過去の世界で立往生してしまいます。実は、14年前に読んだきりなので、内容はかなり忘れてしまってます。でも、これだけは確か。
ドイルがアッシュブレスになってしまうんです。
ドイルがアッシュブレスだったんです。
(※アッシュブレスは架空の人物)
『この人を見よ』では、グロガウアーがキリストの磔を見に行って、自身が救世主イエスになってしまいます。
『アヌビスの門』では、アッシュブレスのことを調べようとしていたドイルが実はアッシュブレスだった、という展開になってます。
『ルネサンスへ飛んだ男』では、画家志望のレオがレオナルド・ダ・ヴィンチになります。
レオには、ヴェロッキオの工房に入ったときに、聞いて欲しかったな、誰かに。
ダ・ヴィンチは?
あの人はいまどこに?