ギリッギリに100冊読めた2018年。
今年は久々に100冊読めそう、となったとき、自分へのご褒美で最後の最後に、ニール・スティーヴンスンの『クリプトノミコン』を読みました。2008年のベスト本。いつか読み返そうと所有しつづけながらも、再読までに10年もかかってしまいました。
全四巻という長さもありますが、あのときはベストだったけれど今でもおもしろいのか、そういう怖れもありました。
2018年のベスト本は、10年後どうなっているのか。心配でもあり、楽しみでもあり……。
それでは、2018年に読んだベスト本をご紹介します。
リチャード・アダムズ
『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』
ヘイズルは、サンドルフォードのウサギ。弟のファイバーが村の危険を感じ取り、仲間たちと脱出した。冒険の果て、ウォーターシップ・ダウンにたどり着き新しい村をつくったものの、仲間は牡ばかり。村を維持していくためには、牝のウサギに来てもらわなければならない。ヘイズルは、エフラファにあるというウサギ村に仲間を派遣するが……。
最初に翻訳出版されたのが1975年なので、今ごろ、なんですが。ついに読んだのが2018年だったので仕方ない。
他の人の書評で、ときどき『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち』と比べてどうだ、という文言を見ることがあります。比較対象として名前があがってくることに興味を覚えて、ずっとマークしてました。
児童書なので、読みやすいのは当然。イギリスの児童書って子供向けでも容赦がない、というイメージがあるのですが、本書も同様でした。
登場人物たちがウサギだからこそ成り立っている部分と、擬人化されているから成り立っている部分と、絶妙なバランス。これと比べてしまうのは、申し訳ないような気にもなります。
ケン・リュウ
《蒲公英王朝記》全二巻
(『諸王の誉れ』
『囚われの王狼』)
七つの国があったダラ諸島を統一したのは、ザナ国だった。ザナの圧政にコウクル地方が立ち上がると、叛乱は各地に飛び火。予言の噂が飛び交い、滅亡した王朝の後継者たちが捜し出され、次々と蘇っていく。中心にいるのは、平民出身のクニと、名門ジンドゥ一族のマタ。ふたりは共にザナ国打倒をかかげて戦うが……。
この作家さんは、中国系アメリカ人。本書は楚漢戦争(項羽と劉邦のやつ)が元ネタになってます。中華風を残しつつ、それだけではない世界観。中国系だけどアメリカ人、というバックボーンがにじみ出ている印象。
楚漢戦争については、有名なエピソードをいくつか知っている程度。しっかり読んだことがないので、この機会に当たってみたくなりました。次に繋がる本って、いい本ですね。
デイヴィッド・ベニオフ
『卵をめぐる祖父の戦争』
1942年の最初の一週間でレフは、将来の妻と出会い、親友ができ、ドイツ人をふたり殺した。そのときレフは17歳。レニングラードはドイツ軍に包囲されており、市民は飢餓の真っただ中。それでも秘密警察のグレチコ大佐は、娘の結婚式を通常どおりに、と考えている。レフは、妙に明るく饒舌な兵士ニコライと共に、ケーキに使う卵をさがす極秘任務につくが……。
ロシアを舞台にした第二次世界大戦もの。
レフの孫であるデイヴィッドによるノンフィクション、と見せかけたフィクション。そういう設定などは複雑だけれども作中にやっていること(レフの目的)は、ただ単に卵をさがしに行く、というだけ。
卵のためだけに命がけの大冒険って、笑えないんですけど笑える。平和なところで読むからこそ、ですよね。
クレア・ノース
『ハリー・オーガスト、15回目の人生』
ハリー・オーガストは、1919年に生まれた。死んでも、また1919年からやり直し。かつて生きた記憶を持ったまま生まれ変わり続けた。そして、11回目の臨終間際、未来からメッセージが届く。世界が終わろうとしている。ハリーは12回目の人生から、人類滅亡を阻止するための活動を開始するが……。
いわゆるループもの。
ループものでは、何度も何度も同じ生を繰り返します。今作の特徴は、人生をループさせている人が大勢いて、組織をこしらえているところ。組織があれば助け合うことができるし、未来から過去へメッセージを送ることも可能。
というわけで、ハリー・オーガストは未来からのメッセージを受けて行動を起こす……のですが、メッセージを受けるまでの人生も行きつ戻りつしながら語られていきます。からくりが掴めるまでが、ちょっと大変でした。
大変さと理解したときの爽快感は比例しますね。
M・R・ケアリー
『パンドラの少女』
人間をゾンビ化させる病気が流行して20年。いまだ治療法は確立していない。そんな中、子供のゾンビが発見された。10歳のメラニーもそのうちのひとり。自身がゾンビであることを知らず、研究対象として〈ブロック〉で暮らしている。
ある日〈ブロック〉がゾンビの集団に襲撃されてしまった。メラニーと人間たちの逃避行がはじまるが……。
ゾンビだけれどもホラーじゃないのが新鮮。ホラー的なところはありますけれど、もっぱら思想的。子供ゾンビのメラニーは天才児で、とにかく冷静沈着。メラニーと行動を共にする大人たち、ダメじゃん。
映画化されてますが、観たいような、観たいないような。
ソフィア・サマター
『図書館島』
ジェヴィックは、文字のないキデティ語を話す一族。オロンドリア語を習い、オロンドリア帝国に憧れて成長した。いよいよ首都ベインへと向かう道中、不治の病に冒され余命幾ばくもないジサヴェトと出会う。ジェヴィックがベインで〈鳥の祭り〉に浮かれ騒いだとき、幽霊となったジサヴェトから、自分の物語を書いてほしいと懇願されるが……。
どっしりした世界があって、でも、それほどしっかり説明されることもなく展開していく物語。こういうの、好きな人は数々の障害を乗り越えて読み進めていくけれど、そうでもない人は途中で挫折してしまうパターン。
書物に関する描写には、心躍りました。それだけで充分だと思うからベストに入れてしまいました。
ジョン・ウィンダム
『トリフィド時代 食人植物の恐怖』
緑色の大流星群という天体ショーに、誰もが浮かれ騒いだ。だが、朝がきて目覚めてみると、流星を見た人々は失明していた。街は、狼狽し、絶望する人々であふれかえる。なんらかの理由で流星を見なかった、ごくごくわずかな人間たちは、新たな社会をつくろうとするが……。
文明崩壊もの。
タイトルがトリフィドなので侵略もののように思っていたのですが、しっかり文明崩壊ものでした。トリフィドも脅威のひとつですけれど、どちらかというと、遅れてきた恐怖。ひとつの要素に過ぎません。
トリフィドがいることでより苛酷になるし、制約が生まれるけれども、きっちりと社会が崩壊していくところに読み応えがあったように思います。そのうえでのトリフィドの存在感。わざわざ新訳版で出版されるのも頷けます。