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このページの本たち
白の予言者』ロビン・ホブ
ブラックアウト』コニー・ウィリス
オール・クリア』コニー・ウィリス
プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー
白鯨』メルヴィル
 
ダイヤモンド・エイジ』ニール・スティーヴンスン
ウォーリアーズ II』エリン・ハンター
黒蜥蜴』江戸川乱歩
ハリダンの紋章』ジャック・マクデヴィット
探索者』ジャック・マクデヴィット

 
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2026年01月01日
ロビン・ホブ(鍛治靖子/訳)
『白の予言者』全四巻/創元推理文庫

 《道化の使命》第3部
 主に遠視者(ファーシーア)王家の血筋に現れる〈技〉という能力は、どれほど離れていようとも他者の心に接触することができる。それより古く、獣に対する〈気〉と呼ばれる魔法もある。
 王子の私生児だったフィッツ=シヴァルリ・ファーシーアは〈技〉と〈気〉の両方を受け継いでいる。忌み嫌われる〈気〉を持っていることが取りざたされ死にいたったが、生き返った。それから15年がたち、トム・バジャロックと名乗ってバックキープに戻ってきている。
 フィッツはデューティフル王子に〈技〉を伝授しようとするが、なかなか時間がとれない。というのも、デューティフルの婚約者である神呪字諸島の族姫エリアニアが、婚姻を成立させる条件としてアスレヴャル島にいるというドラゴン〈アイスファイア〉の首を求めたのだ。
 隣国カルセドの脅威が現実のものとなりつつある今、六公国としては神呪字諸島と同盟を結んでおきたい。デューティフルはエリアニアにドラゴン退治を約束するが、不確かなことが多すぎた。氷の下に眠るという〈アイスファイア〉がどういう状態なのか、誰も知らないのだ。
 あわただしく準備が進められるなか、白の予言者である〈道化〉はフィッツに、世界をよりよい方向に変えるため〈アイスファイア〉を殺してはならないと告げる。どんな犠牲をはらうことになろうとも、ドラゴンの生命は守られなくてはならない、と。
 忠誠を捧げているファーシーア王家と、もっとも大切な友人との板挟みになり、フィッツは苦しむ。苦しみは〈アイスファイア〉の生死についてだけではない。道化は、自身がアスレヴャル島で最期を迎えることも予言していた。
 一行が神呪字諸島へむけて出港したとき、フィッツは道化を置き去りにする。船に乗れないようにすれば、死ぬ未来は変わると考えてのことだった。
 スキュレーネ島の港ジィリグに到着したデューティフルは、神呪字諸島の〈氏族盟会〉と会見し、ドラゴン退治について話しあおうとするが……。

 前作『仮面の貴族』の直後からスタート
 フィッツの苦悩はとどまるところを知らない。
 難しい年ごろの養子ハップを置いていかなきゃならないし、ビングタウンにいるという最後のドラゴン〈ティンタニア〉が夢に介入してくるし、強力な〈技〉を持つシックは酷い船酔いで八つ当たりしてくるし。
 苦労がたえないです。
 前シリーズ《ファーシーアの一族》から続いたシリーズ最終巻ということもあってか、その後のことにかなりページ数が割かれてました。山場が終わって、もう一波乱あるかな、と思ったのですが。
 代わりに、その後のフィッツや周囲の人々の動向を読めました。興味津々で楽しみましたけど、そういう話が読みたかったわけではないという思いもあり。
 長大な物語の終わらせ方って難しいですね。


 
 
 
 

2026年01月04日
コニー・ウィリス(大森 望/訳)
『ブラックアウト』上下巻
ハヤカワ文庫SF2020〜2021

 アイリーン・オライリーはウォリックシャー洲バックベリーのレイディ・キャロラインの領主館でメイドとして働いていた。
 1939年12月。
 レイディ・キャロラインは戦時協力に多大な貢献をしている。疎開児童22人を受け入れているのだ。とはいうものの、実際に面倒を見るのはメイドの仕事。
 この日アイリーンは、ロンドンの母親に呼びもどされたシオドア・ウィレットを駅まで連れてきた。灯火管制(ブラックアウト)がしかれているので暗くなる前に帰りたいが、列車がなかなかこない。
 ぐずるシオドアをなだめるのは大変だが、苦労に拍車をかけているのは、ビニーとアルフのホドビン姉弟のせいだ。学校をさぼってあとをつけてきた姉弟はやりたい放題。さかんにドイツ軍のことを口にする。
 英国は侵略されるんだ、と。
 アイリーンは心の中で反論する。
 英国は侵略されない。
 これから英軍は、ダンケルクでドイツ軍の攻撃を逃れて撤退する。ドイツ軍はバトル・オブ・ブリテンに破れ、ロンドン爆撃を開始する。だが、英国は屈服せず持ちこたえる。
 英国は負けない。戦争は1945年5月8日に終わる。翌日には、セント・ポール大聖堂で戦勝感謝式典が開かれる。
 アイリーンの本名は、メロピー・ウォード。2060年の航時史学生(ヒストリアン)だった。
 アイリーンのタイムトラベルの目的は、疎開児童のようすを観察すること。今のところ、想像とはちがっていた。まだロンドンが空爆されていないこともあり、シオドアのように、呼び戻される児童が少なくない。
 翌年、アルフが麻疹に感染し、領主館は閉鎖されてしまう。ようやく閉鎖が解除されたとき、アイリーンが未来に戻るための降下点が作動しなくなっていた。
 さまざまな理由を考え何度も試すが状況は変わらない。まもなく領主館は軍部に接収され、降下点に行くことすらできなくなった。
 絶望のなかアイリーンは、ロンドンに行くことを決意する。
 ロンドンには学友のポリー・チャーチルがいるはずだ。ポリーは、ロンドン大空襲の市民のようすを観察している。
 正確な居場所が分からないまま、アイリーンはポリーを探すが……。

 《オックスフォード大学史学部》シリーズ長篇三作目。
 アイリーンことメロピーと、ポリー、マイクル・デイヴィーズの群像劇になってます。マイクルの目的は、ダンケルク撤退です。
 現代である2060年、1940年の他、1944年もちょこちょこと登場します。
 群像劇ですが、中心人物はポリーです。(2013年の前回読書時の『ブラックアウト』はポリー視点で書きました) 
 3人とも、過去に閉じ込められています。とりわけマイクルは、ダンケルクで思わぬ活躍をしてしまい歴史を変えたんじゃないかと気が気じゃない状態。
 3人は合流できるのか。

 実は、本書は、まったく終わってません。
 続編の『オール・クリア』とセットで考えなきゃいけない。要注意だと思います。


 
 
 
 

2026年01月12日
コニー・ウィリス(大森 望/訳)
『オール・クリア』上下巻
ハヤカワ文庫SF2038〜2039

 『ブラックアウト』続編。  
 2060年の航時史学生(ヒストリアン)たちは、第二次世界大戦中のイギリスを訪れていた。ポリー・チャーチルは空襲下のロンドンを、メロピー・ウォードは疎開児童たちのようすを、マイクル・デイヴィーズはダンケルクから撤退してくる英雄たちをそれぞれ観察するのが目的だった。
 それぞれが思惑通りにいかない中、予期せぬ出来事が3人をおそう。未来に戻るための降下点が使えなくなってしまったのだ。そのうえ非常時の回収チームもあらわれない。
 未来でなにかあったのではないか。
 自分の行動が、歴史を変えてしまったのではないか。
 不安にかられる中、3人はロンドンで再会する。相談できる仲間の存在は心強い。だが、ポリーには仲間に対しても秘密があった。
 人間は、どの時代でもひとりしか存在できない。
 ポリーは、終戦を経験したことがあるのだ。
 心配をかけたくないポリーはふたりに、デッドラインがあることを明かすことができない。そのため、マイクルと話し合ったことをメロピーに伝えられず、脱出の可能性を狭めてしまう。
 3人は、未来へのメッセージとして新聞広告を利用する一方、もうひとりの史学生ジェラルドを探そうとするが……。

オックスフォード大学史学部》シリーズ長編第四作。
 13年ぶりの再読で、覚えている気でいたのですが、まるで覚えてませんでした。
 『ブラックアウト』で残されていた謎がさらに謎をよび、混迷を極めるなか、少しずつ回収されていきます。
 ウィリスの特色である「すれ違い」も特色だけで終わらない。
 忘れてしまっていて幸いでした。


 
 
 
 

2026年01月23日
アンディ・ウィアー(小野田和子/訳)
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』上下巻
ハヤカワ文庫SF2506〜2507

 ライランド・グレースは、単調な女性の声に気がついた。意識が戻っても、なにも思いだせない。ろれつが回らず、目を開けるのも苦労する。
 楕円形のベッドに寝かされていた。酸素マスクをつけられ、数え切れないほどの管につながれている。身体中、電極だらけだ。
 天井には、LED照明といくつものカメラ。それに無骨なアームが2本、ぶらさがっている。女性の声はコンピュータのものだった。
 自分の名前すら覚えていなかったグレースは、ふとしたきっかけに一通のメールを思いだす。
 ロシアのイリーナ・ペトロヴァ博士が、天文学愛好家のグループに意見を募った。
 ペトロヴァ博士は、天体観測中に奇妙なものを見つけていた。かすかな赤外線を放射しているラインが、どういうわけだか太陽の北極から立ちあがり、弧をえがいて金星に向かっていたのだ。
 グレースは記憶を少しずつ取り戻して行く。
 その後、太陽観測衛星によって太陽の出力が落ちていることが突きとめられた。太陽が本来の明るさより0.01パーセント暗くなっている。指数関数的減少のごくごく初期の状態だった。
 ペトロヴァ・ラインが、太陽のエネルギーを盗んでいる。このままでは地球は氷河期になり、人類は絶滅する。
 グレースが目覚めたのは、地球ではなかった。
 グレースは、なんのために自分がここにいるのか思いだすが……。

 SF。
 グレースの現状の合間に、ここに至るまでの過去が少しずつ明らかになっていきます。
 地球でなにか起こったのか。
 自分がここにいる目的はなにか。

 一人称小説のため、本人不在のところで起こっていることについては触れられません。そのため、余白がすごく大きいです。思いをはせる余地がたっぷりあります。
 グレースが手探りで進んでいくように、読者も手探りになります。ひとつひとつの発見を、共に分かちあう感じ。
 なので、内容を知らないうちに読んでほしい。

 とはいうものの、ある程度は知っておきたいときもあるかと思います。ほんのちょっぴり書的独話「『プロジェクト・ヘイル・メアリー』」で書き足しました。参考まで。


 
 
 
 

2026年02月03日
メルヴィル(阿部知二/訳)
『白鯨』河出書房新社/世界文学全集II-9

 イシュメイルは、捕鯨船に乗ろうと考えた。
 財布はほとんど空になり、陸上には興味を惹くものはなく、憂鬱で仕方ない。それで、世界の海原を知ろうとおもいたったのだ。
 商船の経験はあるものの捕鯨船ははじめて。乗るからには、ナンタケットの船だろう。
 ナンタケット島はアメリカの最初の鯨の屍体が揚げられた地。最近ではニュー・ベッドフォードが捕鯨業を独占しているが、発祥の地はナンタケットなのだ。
 土曜の夜にニュー・ベッドフォードに到着したイシュメイルだったが、ナンタケット行きの船は出航したあと。次の月曜日までないという。やむなく安宿へと向かう。
 そこでイシュメイルは、銛手(もりうち)のクィークェグと出会った。
 クィークェグは僻地の島の酋長の息子。全身刺青が入った特異な風体をしている。ときどき現われる捕鯨船によりキリスト教国のことを知り、さらに多くを知ろうという強い熱望から島をでたのだという。
 ふたりはすっかり意気投合。一緒の船に乗ろうと、ふたりでナンタケットへと向かった。
 ふたりが乗ることになったのは、エイハブ船長のピークォド号だった。だがエイハブは不在で、船主のピーレグ老船長とビルダド老船長のふたりが準備を差配している。エイハブは、病気ではないが息災でもないという。
 クリスマスの日に出港したときも、エイハブは船長室にとじこもってでてこない。姿を現したのは、数日後のことだった。
 エイハブは片足を失い、鯨の骨をつけていた。この前の航海で鯨に脚をやられ、抹香鯨の顎骨をみがいて造りつけたのだ。
 海には、モゥビ・ディクと名づけられた鯨がいる。比類なく巨大で凶悪、異常に雪白な皺頭と光る白瘤から白鯨とも呼ばれている。群れをはずれた孤独な白鯨は、攻撃した人間に対して大損害をあたえる。
 エイハブは、白鯨に対して狂おしい復讐心を抱いていた。こんどの航海の目的は、モゥビ・ディクを追うことだと、宣言する。他のことには目もくれず、ただ白鯨を追うのだ、と。
 憎しみに燃えるエイハブに、捕鯨員たちも相応じてしまう。
 一行は抹香鯨を仕留めながら、他の捕鯨船から情報を仕入れ、モゥビ・ディクを追いかけるが……。

 海洋冒険ものの古典。
 イシュメイル視点で語られます。イシュメイルはさまざまな考えを開陳しますが、中心人物ではなく、あくまで観察者です。
 また、その名も本名ではなく、最初に「わたしの名はイシュメイルとしておこう」という語りからはじまります。
 イシュメイルは聖書由来の名前で、意味としては「神は聞き入れる」。聖書で追放されているため、追放者、のけ者、宿なしといった比喩が含まれているそうです。
 鯨つながりでヨナのことも多くとりあげられていて、まったく聖書を知らないと読むのが大変かもしれません。

 本書では、さまざまな手法が用いられてました。
 戯曲のように書かれていたり、捕鯨の解説書のようだったり、枠物語のようになっていたり。
 ある章では、他の船から聞いた話を、航海が終わってからイシュメイルが別のところで語りなおしている、ということまでしてます。あえてイシュメイルと名乗ったことも含めて、この物語全体が回顧録になっている、ということなのでしょうね。

 読んでも読んでも終わらず、思いのほか読み切るのに時間がかかりました。捕鯨の残酷な側面もきっちり書かれていて、エイハブの復讐物語とは逸れている記述も多いです。
 それでも最後まで惹きつけられました。
 最後に目撃した出来事を語るイシュメイルの心のなかはいかばかりか。感無量でした。


 
 
 
 

2026年02月10日
ニール・スティーヴンスン(日暮雅道/訳)
『ダイヤモンド・エイジ』上下巻
ハヤカワ文庫SF1552〜1553

 世界は大きく様変わりした。もはや国という概念はない。代わって〈漢(ハン)〉と〈ニッポン〉、そして〈新アトランティス〉が三大勢力として権勢をふるっていた。
 19世紀のヴィクトリア朝思想を復活させた〈新アトランティス〉は、女王をいただきながら株主貴族たちに治められている。世界各地に〈国家都市(クレイヴ)〉を持ち、上海の北に作られた人工島〈新舟山〉では北側の90パーセントが〈新アトランティス〉の領地だ。
 ジョン・パーシヴァル・ハックワースは〈新アトランティス〉のエンジニア。画期的な発明により〈技術技巧士〉の肩書きを得た。だが、その発明により、株主貴族たちはより多くの富を得ている。
 ハックワースは考えた。
 アレクサンダー・チャン=シク・フィンクル=マグロウ卿は一代で財を成し、公爵となった。自身とフィンクル=マグロウ卿との差は、一歩を踏み出せるかどうかにすぎない。自身は手遅れだが、愛娘フィオナはまだ間に合うのではないか。
 そんなころハックースは、フィンクル=マグロウ卿から本の制作を依頼される。
 フィンクル=マグロウ卿はネオ・ヴィクトリア的教育に疑問を抱いているが、孫娘の進路についてとやかく言える立場にはない。そこで、ささやかな贈り物をしようと考えたのだ。
 ささやかな贈り物とは、本の形をしたインタラクティヴ・デヴァイス。〈若き淑女のための絵入り初等読本(プリマー)〉は、読み手ときずなを築きあげ、物語を組み立てながら導いていく。
 フィンクル=マグロウ卿が孫娘に伝えようとした反骨精神は、ハックワースがフィオナに与えたかったものでもある。
 ハックワースは〈プリマー〉を完成させると、データを盗みだした。〈新アトランティス〉のクレイヴを抜け出し〈天朝〉のドクターXと接触する。ドクターXのもとで違法な複製を作ったハックワースだったが、帰宅途中、暴漢に襲われてしまった。
 待望の〈プリマー〉を失っても、被害届はだせない。ハックワースは独自に複製〈プリマー〉を探そうとするが、行方は杳として知れない。
 そのころ複製の〈プリマー〉は、少女ネルのもとにあった。貧しい母子家庭で、暴漢は妹ネルを思って持ち帰ったのだ。
 ネルが開いたとたん〈プリマー〉が起動し、プリンセス・ネルの物語を紡ぎだしていく。ネルは魔法の本に夢中。さまざまなことを学んでいくが……。

 ヒューゴー賞受賞作。
 中心にいるのは、ネル。ネルが読む〈ブリマー〉による作中作も展開していきます。
 〈プリマー〉があるおかげでネルは文字を読むことができるようになるし、きちんとした話し方を身につけていきます。教育って大切ですね。
 なお〈ブリマー〉は自分で読むだけでなく、声が読みあげてくれます。
 その声を演じるのがミランダ。女優で、プロンプトを見て読むのですが感情が入っていき、いつしかネルの母親のような存在になっていきます。
 一方、開発者のハックワースですが、ドクターXの罠にはまって〈錬金術師〉をさがす旅をするはめに陥ります。ただ、フィンクル=マグロウ卿と取引して、フィオナに〈プリマー〉を渡すことはできます。

 20年ぶりの再読です。
 20年たっても古さは感じませんでした。
 むしろ当時とちがってAIが台頭しているおかげで〈プリマー〉に現実みがありました。できるんじゃないか、と。さすがに読み上げはAIの合成音のみでしょうけど。
 ずっと覚えている印象に残っているシーンがあったのですが、記憶とちがってました。心に残ったところを勝手に発展させてたんでしょうね。
 ときどき再読でそういうことがあり驚かされます。


 
 
 
 

2026年02月26日
エリン・ハンター(高橋由香子/訳)
『ウォーリアーズ II』全6巻/小峰書店
  第一巻「真夜中に」
  第二巻「月明かり」
  第三巻「夜明け」
  第四巻「星の光」
  第五巻「夕暮れ」
  第六巻「日没」

 森に暮らす猫たちには、4つの部族がある。
 サンダー族、シャドウ族、リヴァー族、ウィンド族。猫たちは死ぬと星になり、スター族として子孫たちを見守っている。
 サンダー族のブランブルクローは、ブルースターの夢を見た。
 ブルースターが死んだのは、4つ前の季節のこと。その死には、ブランブルクローの父親であるタイガースターが関わっている。
 タイガースターは、族長のブルースターから権力をうばおうとして一族を追放された。その仕返しだったのだろう。血に飢えた犬どもの群れをけしかけ、ブルースターは一族を守ろうと命を落とした。
 その後、タイガースターはシャドウ族にのりこんで族長になっている。姉のトーニーペルトもシャドウ族に仲間入りし、ブランブルクローはサンダー族に残った。
 タイガースターは森全体に勢力を広げようと画策し、失敗して死んだ。森には平穏が戻った。しかし、タイガースターのしたことは、今でもブランブルクローを苦しめる。
 そんなブランブルクローの前にブルースターが現れ、告げた。森に災が起こる、と。4匹の選ばれた猫たちは、新月の夜に落ち合って真夜中の言葉に耳を傾けるように、と。
 ブランブルクローは、本当にお告げだったのが確信が持てない。日照りが続いてはいるが、危機というほどではない。
 ところが、満月の部族猫たちの大集会でトーニーペルトと会うと、トーニーペルトも同じ夢を見ていた。伝えにきたスター族だけが違い、あとは同じだったのだ。
 ふたりは新月にふたたび会うことを約束する。ちがう部族の猫が集まれるのは大集会の場所しかない。ほかにも夢を見た猫が現われるかもしれない。
 果たして新月には、ブランブルクローとトーニーペルトのほか、リヴァー族のフェザーテイル、ウィンド族のクロウポーが集まった。ブランブルクローの跡をつけてきた好奇心おう盛な見習い猫スクワーレルポーと、フェザーテイルを心配した弟のストームファーもいる。
 6匹は真夜中まで待つが、なにも起こらない。
 改めて夢を見たのは、ブランブルクローだった。塩辛い水に溺れようとしていた。崖にあたってくだける塩水の波のとどろきは生々しく、太陽が水平線に沈んでいくのが見える。
 これは、お告げだ。
 6匹の部族猫たちは、太陽のおぼれる場所を目指して旅立つが……。

 野生の猫の世界を舞台に繰り広げられるファンタジー。
 第2シーズン。
 第1シーズンでは、ファイヤスターが主人公でした。現在のサンダー族の族長であり、スクワーレルポーの父親です。
 今シーズンではブランブルクローを中心に、ほかの猫たちにもスポットライトが当てられていきます。6匹が旅立った後の森のことは、スクワーレルポーと双子の特別なきずながあるリーフポーが語っていきます。

 危険な冒険とか、恋のいざこざとか、一族への忠誠。それと、今シーズンではスター族がよく出てきます。それに伴い、信仰心が大きくクローズアップされています。
 行って、帰ってきて、部族猫すべてを救って、その後のこともあって。真夜中の言葉に耳を傾けろとか、死にゆく戦士が道を示すとか、どういう意味だろうと、わくわくしながら読んでました。
 いろいろなことが起こりますが、今後のシーズンに向けての伏線らしきものがたくさん残ってます。ブランブルクローのその後も気になります。
 続きが気になって仕方ありません。


 
 
 
 

2026年02月28日
江戸川乱歩
『黒蜥蜴』青空文庫

 《明智小五郎》シリーズ。
 帝国第一のKホテルに、緑川夫人という黒ずくめの美貌の持ち主が宿泊していた。ぜいたくな宝石狂で、望みは、この世の美しいものをすっかり集めること。美しいものには、宝石や美術品ばかりでなく、人も含まれる。
 ふだんは洋服で隠されている緑川夫人の左腕には、真にせまった一匹のトカゲの入墨が入れられていた。実は、緑川夫人の正体は〈黒トカゲ〉を名乗る女泥棒だったのだ。
 このときホテルには、大阪の大きな宝石商、岩瀬商会の岩瀬庄兵衛が娘の早苗をつれて泊まっていた。半月ほど前から早苗を誘拐する旨の犯行予告が届いており、岩瀬氏は気が気じゃない。私立探偵の明智小五郎に警護を頼み、隣室に泊まってもらっていた。
 〈黒トカゲ〉は、不意打ちなどという卑怯なまねをしない主義だ。充分な警戒をさせておいて、対等に戦う。明智小五郎ならば、相手に不足はない。
 緑川夫人は、岩瀬氏とは顧客としてつながりがあった。それで早苗とも親しくなったが、岩瀬氏は、緑川夫人が〈黒トカゲ〉とは思いもしていない。
 そしらぬ顔の緑川夫人は、明智小五郎と賭けをした。令嬢の誘拐が成功するかどうか。明智は探偵という職業を、緑川夫人は持っているかぎりの宝石類を全部賭ける。
 そもそも明智小五郎は、何度となく届いた手紙のことを本気にしていないのだ。不良少年かなんかの、いたずらではないかと思っている。
 そんな明智小五郎を前に、絶対の自信を持っている〈黒トカゲ〉は、言葉たくみに早苗を連れ出すが……。

 明智小五郎と女賊〈黒トカゲ〉の対決。
 はじまりは、暗黒街の女王としての〈黒トカゲ〉から。恩人である雨宮潤一を助け、手下とします。それから、雨宮を連れてKホテルでの対決がはじまります。
 〈黒トカゲ〉は、さまざまな口調を使う人物でした。精神的に一定じゃないのかな、と思ったり。経歴までは分からないのですが、単なる悪者ではとどまらない何かがありました。
 今作で《明智小五郎》を読むのも8作目。
 この人の正体は明智小五郎だろうとか、先が読めてしまうというより、裏読みしながら読む楽しさがあるように思います。  


 
 
 
 

2026年03月02日
ジャック・マクデヴィット(増田まもる/訳)
『ハリダンの紋章』上下巻
ハヤカワ文庫SF920〜921

アレックス&チェイス》シリーズ。
 最新型で最大の恒星間宇宙船〈カペラ〉が失踪した。
 船が目指していたのは、ヴェールド・レディのはずれに位置する惑星サラグリア。航行中にアームストロング空間に入り、そのまま出てこなかったのだ。2600人の乗客のなかには、アレックス・ベネディクトのおじガブリエル(ゲイブ)もいた。
 アレックスはリムウェイから遠く離れた辺境惑星で古美術商を営んでいる。アマチュア考古学者であるゲイブは、遺物で商売することを快く思っていない。そのため疎遠になっており、アレックスは最近のゲイブがなにをしているのか、まったく知らなかった。
 そんなアレックスに、ゲイブからメッセージが届く。
 万一に備えて用意されていたゲイブの人格シミュレーションは、自身が情熱を傾けているある調査について語った。アレックスに引継いでほしい、と。
 探査局の調査船〈テナンドローム〉が、ヴェールド・レディでなにか異常なものを目撃したらしい。ゲイブはルーディック・タリノに関する真実をつかんだと話すが、それ以上のことは言おうとしない。
 2世紀前。
 辺境惑星デラコンダとアシユール人との間に戦争が勃発した。そのときデラコンダの輝ける英雄となったのが、クリストファー・シムだ。
 シムはリゲルの戦いで戦死した。そのとき、名もなき〈伝説の7人〉が最期の戦いに付き従う一方、シムの乗艦〈コルサリウス〉の航宙士タリノは、シムを見捨てて逃走した。以来タリノの名前は、軽蔑と哀れみの対象となっている。
 実際になにがあったのか、記録は失われ、正確なことは分かっていない。確かなのは、シムの死をきっかけにデラコンダは援軍を得て、人類が勝利したということだ。
 アレックスには、タリノに関して秘匿しなければならないことなど想像もつかない。ヴェールド・レディがどう繋がってくるのかも分からない。
 アレックスは、リムウェイに帰郷した。
 ゲイブの屋敷は、首都アンディクォーの西のはずれにある。泥棒が入り、ゲイブが語っていたファイルは盗まれてしまっていた。そのうえAIのジェイコブは記憶が消えて、なにも覚えていない。
 アレックスは、ゲイブがなにを調査していたのか、調べはじめるが……。

 遠未来での歴史ミステリ。
 舞台は1万年ほど未来。科学はいろいろと進んではいるけれど人間の本質的なところは変わらず。なお、人類文明の中心地は地球ではなくリムウェイです。
 シリーズ名にもなっているアレックスの相棒チェイス・コルパスは、ゲイブに雇われていたパイロットとして登場します。

 ゲイブに関わる人たち、シムに関わるさまざまな歴史上の人物や、その人たちに関する記録を残した人たち。たくさんの名前がでてきます。
 10年ぶりの再読で油断してました。きちんと整理せずに読んでしまって。
 途中で、誰のことだったか分からなくなること、たびたび。それでも、数々の謎にきちんと説明をつけられるようになっていくのはすっきりします。


 
 
 
 
2026年03月04日
ジャック・マクデヴィット(金子 浩/訳)
『探索者』早川書房

アレックス&チェイス》シリーズ。
 レインボウ・エンタープライズ社は、リムウェイにある。
 骨董商アレックス・ベネディクトの会社で、遺物の売買だけでなく、ときにはみずから遺跡を探し当てることもあった。アレックスは商売上手で、業績は好調。なにより、〈テナンドローム〉事件と〈ポラリス〉事件で有名になったことが大きい。
 レインボウ社のチェイス・コルパスは、パイロットであり相談役であり、唯一の従業員だった。
 ある日、エイミイ・コルマーがレインボウ社にカップを持ち込んだ。元彼のクリーヴ・プロツキイからもらったものだと言う。カップには鷲が刻まれ、何語だか書かれている。
 チェイスには、みやげもの屋に並んでいるような、なんのへんてつもないカップに見えた。ところが調べてみると、書かれている文字は9000年前の英語。伝説と化している恒星星〈探索者〉のものだと判明する。
 マーゴリア人と呼ばれるようになる人々は、第三千年期に地球をあとにした。恒星間飛行の黎明期で、規則はない。目指す植民星の位置を秘密にしておける時代だった。
 マーゴリア人は〈探索者〉と、もう一隻の〈ブレーマーハーフェン〉でもってそれぞれ3回ずつ航宙をおこない、合計で5000人以上が植民惑星へ旅立った。それっきり。今にいたるまで、彼らが選んだ星は見つかっていない。
 なにかがあって植民星は滅亡してしまったというのが通説だ。
 そんな〈探索者〉の備品とあって、高値が期待できた。だが、売買するためには資産の所有権を確立しなければならない。それに、プロツキイが他にも所有している可能性があった。
 チェイスの調査で、プロツキイの窃盗の前科が明らかになる。その資質は父親譲りで、どうやらカップは30年以上も前に、プロツキイの父親がどこからか盗んできたものらしい。
 どこから盗んだのか。
 チェイスとアレックスは、ウェスコット夫妻にたどりついた。31年前に雪崩事故で死亡しているが、その1年ほど前に泥棒に入られている。
 どうやら夫婦は、探査局で働いていたときになにかを発見したらしいのだが……。

 ネビュラ賞受賞作。
 遠未来での古代史ミステリ。
 〈テナンドローム〉事件は、シリーズ第1作の『ハリダンの紋章』のこと。〈ポラリス〉事件はシリーズ第2作ですが、翻訳されてません。本作は、シリーズ第3作です。
 チェイスの語りで展開していきます。アレックスの指示で、あちこちに出かけ、いろんな人と会い、さまざまな調査をします。ですが、冷め気味。アレックスとの温度差がけっこうあります。

 時代は1万年ほど未来。
 『ハリダンの紋章』を読んだときには、1万年も未来に設定するのは遠すぎる気がしてました。ですが本作を読んで、天文の世界だと1万年はつい最近だと気づかされました。
 だから1万年なんだ、と。
 10年ぶりの再読で、最後にたどりつく場所については覚えていましたが、そこまでの記憶は飛び飛び。どうやって結末にたどり着くのか。
 ハラハラしたりわくわくしたり。
 余韻が残りました。

 
 

 
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