
《ミセス・ハリス》シリーズ第四作
エイダ・ハリスは、ロンドンの通いの家政婦。
半年前からお得意さんになったジェフリー・ロックウッドのことが気になっていた。なんとなく、部屋を悲しみの影がおおっているのだ。
デスクに置かれた写真をきっかけに、ロックウッド氏は悩みを打ち明けてくれた。
ロックウッド氏には、ロシア人のリザベータという恋人がいる。本の執筆のためロシアの調査旅行をしたときに出会い、お互いひと目惚れ。
しかし、時代は米ソ冷戦の真っただ中だ。ロシア当局は外国人との結婚について神経をとがらせている。ふたりは関係を秘密にし、一緒になるべく計画を練った。
すべては、ロックウッド氏がKGB(ソビエト国家保安委員会)に逮捕されたことで終わった。疑いは晴れたもののロンドンに送り返され、好ましからぬ人物というレッテルをはられてしまった。二度とビザをもらえないだろう。
ロックウッド氏は追い詰められていた。外務省の友だちは、政治情勢がよくないとにべもない。もっとも耐えがたいのは、リザベータはなにも知らないということだ。
ロックウット氏の悲恋に、ミセス・ハリスは心を痛めた。窮地から救い出す自分を夢想するが、空想はあくまで空想。なにもできない。
そんなとき、カラーテレビ目当てで富くじを買ったミセス・ハリスは「モスクワ往復5日間のペア旅行券」を当てた。
ミセス・ハリスは、友だちのバイオレット・バターフィルドおばさんを説得して、ふたりでロシアに行くことにする。なんとしてもリザベータを探し出し、連れ帰るつもりだ。どうすればいいのかは分からないけれど。
一方ロシアではKGB検査官が、フランス外務省顧問に就任したイポリット・ド・シャサニュ侯爵のファイルを見ていた。国の内外に目を光らせるKGBでは、敵対者を探し出し、記録し、リストを作っている。シャサニュ侯爵とつながりのある人物には、エイダ・ハリスの名前があった。
それだけではない。エイダ・ハリスという人物は、反ソ映画製作社シュライバーとも関係がある。下院議員にもなっている。
大物スパイにちがいない。
KGBが警戒するなか、ミセス・ハリスとバターフィルドおばさんにビザがおりるが……。
ミセス・ハリスをめぐる騒動記。
ミセス・ハリスはまったく変わってません。周囲の人たちの接しかたもまったく変わってません。前作でいい雰囲気になったベイズウォーターさんは名前も出てきません。
もしや、なかったことになっているのでは……と思ったら、KGBのファイルの存在から、きちんと経歴になっていたことが分かりました。と同時に、漠然と舞台は60年代あたりと考えていたことの裏付けがとれました。
1958年『ミセス・ハリス、パリへ行く』
1960年『ミセス・ハリス、ニューヨークへ行く』
1965年『ミセス・ハリス、国会へ行く』
かなり大げさに、おもしろおかしく書かれてます。当事者たちとしては大変な時代だった……と思うと複雑。そういうことは忘れて楽しむべきなんでしょうけど。
2026年03月08日
P・ジェリ・クラーク(鍛治靖子/訳)
『精霊を統べる者』創元海外SF叢書
1872年。
エジプトはアブディーン宮殿で、アル=ジャーヒズが錬金術と魔法からおおいなる機械をつくった。ジンの棲む異世界カーフに穴があけられ、数多くの領域の障壁が弱まる。
世界は永遠に変わった。
カイロじゅうにジンがあらわれるようになったのだ。エジプト総督と対立したアル=ジャーヒズは、機械と著作もろとも姿を消してしまう。以来、姿を見た人はいない。
それから40年ほどがたった。
ファトマ・エル=シャラウィーは、エジプト錬金術・魔術・超自然的存在省に所属するエージェント。
列強のひとつとなったエジプトは、近代性を誇りとしている。女性が社会に進出し、参政権も手に入れた。いずれは行政官になるだろうともいわれている。
だが、まだまだ認められた存在ではない。そんななかファトマは努力を重ね、抜群の成績をおさめてきた。その活躍はアカデミーの教科書にものっている。
この夜ファトマは、ギザのアリステア・ワージントン卿の屋敷に呼びだされた。魔法が疑われる凄惨な事件が起きていたのだ。
死者は24人。ほとんどが焼死なのだが、服はそのままに身体だけが焼けていた。
犯人らしき男を、令嬢のアビゲイル・デレナ・ワージントンが目撃している。
男は背が高く、黒いローブを着て、黄金の仮面のようなものをつけていた。強烈な眼差しが恐ろしく、アビゲイルは気を失ってしまう。そのため詳しいことは分からない。
1890年代の終わり近く。ワージントン卿はアル=ジャーヒズ秘儀友愛団を創設した。アル=ジャーヒズの秘儀が世界に平和をもたらすと信じたのだ。
ワージントン卿も含む24人の死者は、アル=ジャーヒズ秘儀友愛団のメンバーだった。
ファトマは情報提供者から、金の仮面をつけている黒衣の者の噂を知る。人々はアル=ジャーヒズがもどってきたと噂しているらしい。
ファトマはアル=ジャーヒズについて調べていくが……。
歴史改変SF。
とにかく情報量が多いです。この地域の予備知識があると読むのが楽になると思います。
ファトマは女性差別と戦ってきた側です。男装して、刃物を仕込んだステッキを持ち歩いてます。それでも女性に先入観を持っていて、守られるべき人たちだと思ってます。
そんなファトマですから、新人エージェントのハディア・アブデル・ハーフェズとコンビを組むことになって、もめたりします。
差別ってなかなか難しい。考えさせられました。
準備中・・・
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