
2024年09月05日
フレッド・ホイル&ジョン・エリオット
(伊藤 哲/訳)
『アンドロメダのA』ハヤカワSF文庫423
世界最大の電波望遠鏡は、ボールダーショー・フェルにあった。
現存する同型装置に比べ、解像能力は15〜20倍に及ぶ。開発したのは、ジョン・フレミングとデニス・ブリッシャーの両博士だ。
フレミングは、低温物理学とコンピューターが専門。ブリッシャーは開発数学者であり、技術者だった。
電波望遠鏡がいよいよ稼働となるころ、ジュディ・アダムスンは新しい広報担当としてボールダーショー・フェルに現れた。内務省の命令で国防省保安担当者として配属されており、科学省に出向している身。ジュディは自身に課せられたスパイの役割が好きになれない。
電波望遠鏡を建設するための資金は莫大なものになる。今回は防衛予算の一部を使うことでまかなった。そのため電波望遠鏡には軍部も関心を持っている。
フレミングはそのことがおもしろくない。
そんな折、電波望遠鏡が意味の分からない信号をとらえた。モールス信号のようだが、グループになっていない。発信源は遠く、アンドロメダ座のあたりと思われた。
点と線の集合体は、何百万という長い数字の集まり。なんらかの通信文である可能性が高い。フレミングは、プログラムではないかと考え解析していく。
通信文は、3つの部分からできていた。このプログラムを動かすためのコンピューター設計図と、未来のプログラム、そしてデータだ。
この通信文を送ってきた生物のことはなにも分からない。なぜ送ってきたのか、誰にむけたものなのか。確実なのは、かれらが地球人より進んでいる、ということだけ。
フレミングの主張が通り、このプログラムを動かせるコンピューターの建造が決まる。ソーネスのロケット研究所の中だ。軍部が管理している隔離された地域で、より秘密を守りやすい。
ジュディは、ブリッシャーの行動に疑問を抱いていた。フレミングとブリッシャーは無二の親友だが、電波望遠鏡が完成したため技術者のブリッシャーにはすることがない。
ソーネスにもついてきたブリッシャーは、インテルのカウフマンと接触していた。インテルは国際商業企業体。非常に強力な存在で、ヨーロッパ経済を左右するほどの力を持っている。
企業の存在自体が非合法というわけではない。だが、悪辣なやり口はよく知られているし、毛嫌いされていた。
ブリッシャーを監視する一方でコンピューターの建設がはじまるが……。
テレビドラマの小説版。
ノベライズっぽさは感じませんでした。映像だったら…と思うシーンはありますし、展開はテレビ的かな、とは思いますが。
ジュディが主人公格で、群像劇になってます。ブリッシャーの裏切りは些細なことですが、続編『アンドロメダ突破』にかかってきます。
物語は、建設されたコンピューターがもたらした情報をもとに人間が造られ、その人間が成長してからが本番です。
なお、作中に登場するインテルは、現在知られている企業のインテルとは無関係です。(原書が1964年、インテル設立1968年)
おそらくインターナショナルからの命名だと思います。
2024年09月08日
フレッド・ホイル&ジョン・エリオット
(伊藤 哲/訳)
『アンドロメダ突破』ハヤカワSF文庫427
『アンドロメダのA』続編。
ジョン・フレミングが開発した新型の電波望遠鏡が、謎の信号を捕えた。信号はアンドロメダ座の方向から送られてきており、コンピューター設計図と、未来のプログラム、そしてデータからなっていた。
フレミングは上層部に直訴し、ソーネスのロケット研究所の中に設計図をもとにしたコンピューターを造った。完成したコンピューターがはき出してきた組成式から人間の胚ができ、人間の胚は女性に成長した。
女性は、アンドロメダ(アンドレ)と呼ばれた。
アンドレは、姿だけでなく動作も人間そっくり。人間たちに教育され、知能も肉体的な能力も人間のもの。だが、本能や感情はもっておらず、コンピューターと意志を疎通しあっていた。
アンドレはコンピューターから知識を吸収していたが、やがて反旗を翻す。コンピューターを破壊し火を点けると姿を消した。
フレミングの姿もない。
コンピューターを直すことはできず、宇宙からの信号も失われた。残された人間たちにできることはなにもなかった。
胚からアンドレを作り出したマドレーヌ・ドーニーは、ソーネスでの研究をコンピューターに依存していた。そのコンピューターが失われ、アザラン国からのオファーを受ける。
アザランはここのところ急激に発展していた。きっかけは、砂漠の下から探しあてられた石油資源だ。さらなる繁栄をもくろみ、国際商業企業体のインテルと手を組んだ。
実は、インテルは宇宙からの信号のコピーを保有している。アザランに迎え入れられ、秘かにコンピューターを再建していた。
ソーネスから逃走していたフレミングとアンドレもアザランに到着するが……。
テレビドラマの小説版。
前作『アンドロメダのA』のそのまんま続き。アンドレがコンピューターを破壊して失踪したのが前作まで。その直後からはじまります。
振り返りのようなものはないです。前作で中心人物だったジュディがでてこないなど、微妙に違う話を読んでいる、という印象でした。
アザランで造られたコンピューターは、ソーネスにあったものと能力的には同じ。人間が与えたデータの差が相違となって現われてます。人間の経験値の差のようで、おもしろく感じられました。
アンドロメダからの通信がなんだったのか、そういう期待はしないほうがいいです。
2024年09月11日
ヤマザキマリ
『テルマエ・ロマエ』全6巻/エンターブレイン
ローマ建国から800年。
ハドリアヌス帝の御世になり、豊かなローマでは斬新な建造物が増えてきている。
浴場設計技師のルシウス・モデストゥスは、そんな時代にあえて古き良き時代を再現しようと公衆浴場を設計するが、建築事務所に却下されてしまう。ローマが求めているのは斬新さだというのだ。
ルシウスにも、アテネにまで赴き最高の建築技術を習得してきた自負がある。怒るものの、失業してしまったことに変わりはない。
落ちこんだルシウスは気分転換に公衆浴場に行くが、そこも騒々しい。湯にもぐってひとり静けさに浸っていると、予期せぬ渦に呑み込まれてしまった。
気がつけばルシウスは、見知らぬ浴場にいた。
目の前にいるのは、平たい顔の人々。言葉も通じない。ルシウスは、隣接する奴隷たちの浴場に紛れ込んでしまったと勘違いする。
実は、現代日本の銭湯なのだが。
ルシウスにとって銭湯は驚かされることばかり。
ポンペイのヴェスビオス火山が描かれた壁に仰天し、見知らぬ素材の桶に圧倒されてしまう。さらには、巨大な一枚板の鏡、催し物の告知の絵の完璧さ、きわめつけは、もらったフルーツ牛乳の冷たく甘い味わい。
ルシウスにアイデアが湧いてくる。斬新さを求めるローマ市民も受け入れるはずだ。
ローマに帰れたルシウスはアイデアを形にして、ローマ市民は大絶賛。一躍、ローマで大人気の建築家となるが……。
漫画。
マンガ大賞受賞作。
一話完結のスタイルで連載がはじまった当初は、同じパターンで展開していきます。
ルシウスが浴場の設計で行き詰まり、現代日本に出現してヒントを得て、ローマに帰って実現させる。
こまかいことは端折られているため、ローマに帰ったルシウスが建築事務所をどうやって説得したかとか、建設中のあれこれはありません。その分テンポがよく、次はどういう難問が待ち構えていて、どういうところでヒントを得られるのか、楽しめました。
その流れは、途中の方針転換で変わっていきます。
ルシウスの日本滞在の時間が長くなり、ストーリーが立ち上がってきます。漫画故の荒唐無稽さは健在なのと、全体としては当初のパターンを引き継いでますが。
合間のコラムも併せてローマのことを知れて、楽しむと同時に勉強にもなりました。
2024年09月14日
ロザムンド・ピルチャー(中村妙子/訳)
『九月に』上下巻/朔北社
5月に入り、スコットランドにも夏がきた。
峻烈をきわめていた気候が一夜にしてゆるむ。やわらかいそよ風とともに温暖な天候が、ストラスクロイの村にもたらされた。
ヴァイオレット・エアドは、大地主のバルメリノー家から買いとった小屋でひとり暮らす老婦人。買い物から帰ってきて、玄関の前に車が止まっているのに気がついた。
ヴィリーナ・スタイントンの車だった。
スタイントン家は、村から10マイルほど離れたコリーヒル荘に暮らしている。居を定めて10年ほど。金持ちだが、誰とでもすぐ親しみ、お客を惜しみなく招き、基金集めのをせねばならないときには時と労力を進んで提供してきた。
一家の存在は、小さな地域社会にとってプラスに働いている。
そんなヴィリーナが、娘が21歳になるお祝いにダンス・パーティーを計画しているという。誰よりも長くこの土地に住むヴァイオレットに、意見を求めにきたのだ。
ヴィリーナが考えているのは、芝生に大きなテントを張る本格的で大規模なもの。音楽もバンドを呼んで、あらゆる人たちを招くつもりだ。
聞けば、9月だという。
9月なら、たいていの人はまだ休暇中で、狩猟を兼ねてやってくる人もいるだろう。パーティーに出られない小さな子どもたちは寄宿学校に帰っているから、ちょうどいい。
ヴァイオレットは、計画を聞いているうちに楽しくなってきて、過去のパーティーを思い出したりもした。気がつけば、パンドラにも招待状を送ったらどうか、とつぶやいていた。
パンドラは、バルメリノー当主の妹。
パンドラの名前は、ディナー・パーティーなどでよく出てくる。だが、20年以上も昔にアメリカの大富豪と駆け落ちして、それっきり。両親の葬式にも帰ってこなかった。
ヴィリーナは招待状を用意するが……。
スコットランドの田舎で展開される人間模様の群像劇。
5月にはじまり、少しずついろんなことが起こって、その中心にスタイントン家のダンス・パーティが位置してます。
主に活躍するのは、ヴァイオレットのエアド家と、没落しかけている大地主のバルメリノー家。
家族の物語だけあって登場人物が多く、また複雑。再婚して幼い息子のほか前妻との間に娘もいるとか、幼馴染だけど仲違いしているとか、まぁ、いろいろ。
関係性を把握するまで一苦労でした。
分かってみると、複雑さが読み応えあるのですけどね。
終わってみれば、パンドラの物語だったなぁ、と思います。すごくエネルギッシュな人で、いなくなっても話題になる理由がよく分かります。
あまり読まないタイプ物語なので、新鮮でした。
2024年09月16日
ルイス・サッカー(幸田敦子/訳)
『穴 HOLES』講談社文庫
スタンリー・イェルナッツに裁判官はたずねた。刑務所に入るか、グリーン・レイク少年矯正キャンプへ行くか。
どっちがいい?
そもそもの発端は、あんぽんたんのへっぽこりんの豚泥棒のひいひいじいさんにある。
スタンリーのひいひいじいさんは、子々孫々にいたるまで呪いをかけられたんだそうな。片足のジプシーのばあさんから豚を盗んだために。
そんな呪いなんて、誰も信じちゃいない。でも、なぜかイェルナッツ家の者は、まずい時にまずいところに居合わせてしまう。
スタンリーのひいじいさんは、株でもうけて大金持ちになった。ところが、ニューヨークからカリフォルニアへの駅馬車で、全財産をなくした。無法者〈あなたにキッスのケイト・バーロウ〉に襲われて、身ぐるみはがされたのだ。
以来、イェルナッツ家はずっと貧しい。
それでも、いつでも希望を失わない。めちゃくちゃツイてないくせに。それがイェルナッツ家の者たちだ。
ある日スタンリーは、空から落ちてきたスニーカーを拾った。ホームレスの避難所に寄付された有名な野球選手のもので、5000ドルはくだらぬ額で売れる逸品だった。
イェルナッツ家に弁護士を頼む余裕はない。スタンリーはほんとうのことを言ったが、誰も信じなかった。それで、刑務所に入るかキャンプへ行くか選ぶことになったのだ。
キャンプを選んだスタンリーは、ひからびた不毛の大地に立った。100年以上も昔には、満々と水をたたえた湖があったらしい。湖が涸れて小さくなるにつれ、町はさびれ、住む人もいなくなった。
昼間の気温は、日陰でも摂氏35度前後。日陰はほぼない。そんなところで毎日穴を掘らせれば、悪い子もいい子になる、と考えたおとながいるらしい。
根性を養うため、人格形成のため、子どもたちは毎日穴を掘る。なにか出てきたら所長に伝える。所長がおもしろいと思えば一日休みをもらえる。
スタンリーはすぐに気がついた。所長はなにかを捜している。そのために穴を掘らせているのだ。
ついにスタンリーが、金色の小さな筒を掘り当てるが……。
児童文学。
スタンリーの物語の合間に、ひいひいじいさんやケイト・バーロウの逸話がはさまります。その入れ方が絶妙で、ほんのちょっとした情報が、後々、気づきを与えてくれます。
そういうことか、と。
ユーモアたっぷりですけど、宿命の物語なんです。
これってあのときのとか、あれはここに繋がっているんだとか、発見するとうれしくなります。サラリと書かれているのが、またいいんです。
読者を信頼してくれてうれしいですね。
大満足の読書時間でした。
2024年09月24日
田牧大和
『鯖猫長屋ふしぎ草紙(二)』PHP文芸文庫
連作中編集。
江戸は宮永町にある九尺二間の割長屋は「鯖猫長屋」と呼ばれていた。その呼び名の由来は、裏長屋を支配している雄の三毛猫サバから。
白と茶と鯖縞柄のサバは、長屋の住人である青井亭拾楽(しゅうらく)の飼い猫だ。
猫ばかり描いている売れない絵描き拾楽には、義賊だった過去がある。異名の「黒ひょっとこ」は誰もが知っているが、正体を知るのはごくわずか。同心の掛井の他、鯖猫長屋のおてると、かつて長屋にいたお智だけだ。
「色男、来たる」
鯖猫長屋は空き家ばかりで、半数近くが埋まっていない。家主である油問屋藤島屋の主は、長屋を取り壊して土地を売り払うつもりだ。このまま店子が居着かなければ、いずれそうなる。
気まぐれなサバだが、新しい店子さがしには妙に乗り気。拾楽はサバに導かれるまま、涼太という団扇売りの男と出会った。涼太はもとは役者で、わけあって辞めた過去がある。
涼太が長屋に来てくれた日、ちょっとした騒動が起こった。藤島屋の番頭がきて、取り壊しが決まったというのだ。そこに現れた紅白粉問屋白妙屋の忠右衛門は、すべて買いとると申し出た。
忠右衛門は人助けが好きで、世話焼き忠右衛門などと呼ばれているらしい。長屋の面々は歓迎するが……。
「戯作者、憑かれる」
黒ひょっとこが再び現れた。
読売によれば、強欲な高利貸しが盗みに入られ、小判を詰め込んでいた手文庫には黒く塗ったひょっとこの面が入れられていたという。奪われた小判は、大工の家に投げ込まれたらしい。
その大工は、腕はいいが飲んだくれて喧嘩っ早く、仕事を失くしてばかりのろくでなし。女房がせっせと働いて病の姑の世話をしている貧乏人だった。
この件に拾楽はかかわっていない。
そんな折り、かつて鯖猫長屋に暮らしていた戯作者、長谷川豊山(ほうざん)が訪ねてくる。豊山によれば、吉原の見世に遊び方がえらく下手で危なっかしい大工がいるというが……。
「猫描き、預かる」
鯖猫長屋の清吉は、行商の小間物屋だった。江戸で仕入れたものを江戸の外で商い、江戸の外では素朴で面白い小間物を仕入れてくる。
甲斐まで足を延ばしていた清吉が帰ってきた。
今度仕入れてきたのは、鹿革の細工物だ。清吉は長屋の仲間たちに、黒地に紅色の蜻蛉が描かれた巾着袋を披露する。すると、中から青と翠を混ぜたような艶のある玉が出てきた。
高価な翡翠だった。
清吉は、買ったときには入っていなかったと、大慌て。後から翡翠の持ち主がきて揉めるかもしれなかった。ひとまず拾楽が預かることになる。
拾楽のもとには、どこから聞いたのか、3人もの人間が翡翠の持ち主だと名乗り出てくるが……。
「縞三毛、世話を焼く」
再び現れた黒ひょっとこが、盗みに入った先で人に怪我を負わせた。
そもそも黒ひょっとこが江戸っ子たちに人気だったのは、汚い商いで懐を肥やしている者から金子を盗んでは貧乏人に配っていたからだ。悪さをした金持ちの悪事は暴くが、弱い者を傷つけたり人殺しはしなかった。
黒ひょっとこの評判は地に落ちた。拾楽とはまったく関係ないところで芳しくない噂が広がっていく。
拾楽は、偽の黒ひょっとこと対決して長屋を出て行くつもりでいる。サバの後釜として子猫をつれてくるが……。
連作短編集だった『鯖猫長屋ふしぎ草紙』に続く、第二弾。
前作は短編の背後に拾楽がかかえる謎があって、全体として大きな物語になってました。今回も背後に謎が隠されていて、全体で大きな物語になってます。
人気がでたからか、ギリギリただの猫ともいえたサバが、ただ者ではない猫になってました。どうもサバに活躍させすぎのような……。
個人的な好みなので、このくらいがいい、という人もいると思いますが。
2024年09月25日
ベッキー・チェンバーズ(細美遙子/訳)
『銀河核へ』上下巻/創元SF文庫
火星出身のローズマリー・ハーパーは、新人事務員として〈旅人(ウェイフェアラー)〉に採用された。
〈ウェイフェアラー〉は、銀河共同体(GC)のいたるところにのびている宙航路をつくるトンネル建造船。目的地まで航行してから、特殊な機械で正常な時間の外側を突き進みトンネルを開通させる。
乗組員は、地球人の末裔であるアシュビー・サントソ船長のほか、藻類学者アーティス・コービン、機械技師キジー・シャオ、コンピューター技師ジェンクス。それから、エイアンドリスク人パイロットのシシックス、グラム人医師兼料理人のドクター・シェフ、シアナット人ナビゲーターのオーハン、そしてAIのラヴレイス。
船がつぎはぎだらけであるのと同じように、多彩なメンバーで構成されている。決して全員の仲がいいわけではない。アシュビーがうまく切り盛りしていた。
実は、ローズマリーには秘密がある。仲間として受け入れられたことを喜ぶと同時に、後ろめたさも感じている。アシュビーにさえ自分の正体を明かしていないのだ。
ローズマリーにとってはじめてのトンネル貫通を経験したころ、大きなニュースが飛び込んできた。トレミ人の氏族のひとつトレミ・カが、新たにGC加盟を認められたのだ。
トレミ人は、銀河系中心部(コア)を囲む領域を支配している。凶暴かつ理解不能な種族で、協調性は皆無。およそ500標準年前にハーマギアン人により発見された。
トレミ人たちはずっと、コアのまわりを危険なスキップ航行していた。どういう理由からか、40標準年ほど前からは殺しあいをはじめている。かれらはコアへの経路をすべて遮断し、近づいた船に容赦はしない。
コアには、宇宙船建造やテラフォーミングに使われる金属・鉱物資源だけでなく、アンビのような貴重な燃料物質資源も豊富にあることが分かっている。〈ウェイフェアラー〉の面々は、危険な種族との協定はアンビのためだろうと、GC議会を非難した。
だが、これはチャンスでもあった。
協定によりGCは、コアにあるアンビを楽に手に入れられるようになる。手に入れたアンビを運ぶには、貨物輸送船団用トンネルが必要だ。大きなトンネルを造るためには〈ウェイフェアラー〉のようなトンネル建造船が最初の通路を切り開かねばならない。
危険はあるし期間も長い。アシュビーはうまくGCから仕事をとりつけるが……。
宇宙を舞台にした群像劇。
この時代、地球は住めない星になってます。末裔たちは太陽系共和国、太陽系外植民地に分散していますが、大半は太陽系から飛び出した離郷船団(エクソダス・フリート)で生まれます。
〈ウェイフェアラー〉はエクソダス・フリート出身のアシュビーの個人船なので地球人が多いですが、GCの中では弱小種族となってます。
昔ながらのSFのような雰囲気がある一方、今風にアップデートもされてます。哀しいこともありましたが、全体としては楽しさにあふれてました。
コアへと向かう旅、という大きな目的はあるものの、それが始まる前にもアレコレあったり、寄り道したり、喧嘩したり、事件があったり、小さなエピソードの積み重ねは、連作短編集のような、テレビシリーズのような読み心地でした。
なお、ローズマリーの秘密は最後までひっぱることはなく途中で判明します。判明して終わりではないのが好印象でした。
2024年10月01日
エリン・モーゲンスターン(市田 泉/訳)
『地下図書館の海』東京創元社
2015年1月。
ザカリー・エズラ・ローリンズは、大学図書館の棚に一冊の本を見つけた。ワインレットの布張りが鈍く褪せている。見るからに古い本に著者名はなく、タイトルは『甘い悲しみ』。
もとはJ・S・キーティングという人物の個人蔵書で、キーティング財団が、故人の蔵書をいろいろな学校に寄贈したうちの一冊だという。
長編なのか短編集なのか、ひょっとして枠物語なのか。『甘い悲しみ』は不思議な本だった。はじまりは海賊の出てくる少しロマンチックな一篇で、その次は奇妙な地下図書館の侍祭にまつわる儀式が語られている。
そして、占い師の息子が登場する。
ザカリー自身がそうだった。
両親が離婚して占い師である母に引きとられたザカリーは、11歳のとき、不思議な扉を見つけた。母の店の裏手を回る路地を通り抜けたときのことだ。高い煉瓦の壁に挟まれた細道に、扉が描かれていた。
大きくて、華やか。蜜蜂のシンボルがあり、その下には鍵、さらに下に剣が描かれていた。印象的な、本物の扉に見えた。
ザカリー少年には、まだ魔法を信じている部分がある。扉の向こうはどこか別の場所に繋がっているのではないか。ただの部屋ではなく、それ以上のところに出られるのではないか。
描かれたノブに手をのばしたが、そこまでだった。ザカリーは、自分はもう大きいのだと心の中で言い聞かせ、ノブを回すことはしなかった。
翌日に扉はない。占い師の息子は〈星のない海〉への道を見つけられない。いまはまだ。
占い師の息子が『甘い悲しみ』で語られているのは、そこだけ。大半は、地下の図書館にまつわることが書かれてあった。占い師の息子のエピソードが現実にあったことなら、ほかはどうだろうか。
ザカリーはキーティングについて調べようとするが、なにも分からない。ただ一枚、アルゴンキン・ホテルで昨年開催された文芸仮面舞踏会のモノクロ写真を見つけた。
仮面をつけた女性が三連のネックレスを身につけている。それぞれにチャームが下がっている。いちばん上のチェーンについているのは蜜蜂。その下には鍵。その下には剣。
今年の文芸仮面舞踏会は3日後だ。
ザカリーは参加してみることにするが……。
ファンタジー。
細部がおもしろいんだけど、全体になると、どうも釈然としない。途中で、この異世界の存在理由を考えてしまいました。
地下図書館の侍祭にまつわる儀式については細部にわたって書かれているんです。その侍祭の登場もあります。けれど、儀式の目的とか、なぜ侍祭になりたがったのか、そもそも侍祭がなんなのか、どうも見えてこないんです。
読解力の問題かもしれません。
世界観が好きな人はハマると思いますが。
2024年10月03日
リチャード・フラナガン(渡辺佐智江/訳)
『グールド魚類画帖 12の魚をめぐる小説』白水社
陰鬱な冬の日だった。
サラマンカの波止場の古い倉庫のなかに、がらくた屋がある。そこで、トタン板でできた古めかしいねずみ入らずに目を止めた。
閉じられているものなら開けてみたい。子どもじみた欲求に駆られて中をのぞくと、何年もまえの婦人誌が山をなし、その下に、ぼろぼろの本のようなものがあった。
古い書物特有の甘いかび臭さはない。代わりに、タスマン海から吹いてくる磯の風の匂いがしている。
不思議な書物だった。
表紙をめくると、ポットベリード・シーホースの絵があった。そのまわりに群れ集まっているのは、もつれた手書きの文字だ。魚の水彩画は、本のところどころで現れる。
本の終わりで書き手は、天地を引っくり返して逆方向に、すでに書かれている行のあいだに書きつづけていた。さらには、数多の付記や註釈が余白だけでなく、ちぎれそうな紙、乾いた魚の皮らしきものにまでぎっしりと書き込まれている。
そこには混沌があった。
この奇異な記録は、ウィリアム・ビューロウ・グールドという囚人のものらしい。1828年にグールドは、流刑植民地サラ島の外科医に、かの地で捕れるすべての魚の絵を描くように命じられたという。
この「魚の本」に魅了されたのは、ひとりきりらしい。歴史家や蔵書家や出版社に見せたが色よい返事はなかった。てんで信用に価しない物語とされ、偽造の腕を誉められただけ。
植民地史を研究している教授も同じだった。
1820年から1832年にかけて、サラ島は大英帝国の全領土で最も恐れられていた刑罰の地だった。それは事実。だが、この妙な年代記に登場する名前を残存する公文書から見つけることはできず、書かれたエピソードは、裏付けが取れている沿革とはまったく相容れない。
年代記作者本人の身許を特定できないなか、もうひとつの「魚の本」が見つかる。言葉は書かれていないが同一のすばらしい絵が、オールポート資料館にあったのだ。囚人画家ウィリアム・ビューロウ・グールドの作とされている絵が。
グールドの帳面は、最初の48ページは紛失しており、49ページめからはじまる……。
伝奇小説。
導入部の名前のない「私」は作者自身で、本文がグールドの手記、という構成。ひとつの魚の絵と、それに添えられた文章という体裁になってます。
グールドは実在人物。フルカラーの挿絵として入っている魚の絵も現存してます。ただ、どういう人物だったのか、詳しいことは分かってません。
真実を追い求めてはいないけれど、当時の雰囲気は再現されているそうです。
2024年10月08日
カルロス・ルイス・サフォン(木村裕美/訳)
『天使のゲーム』上下巻/集英社文庫
《忘れられた本の墓場》四部作、第二部
1917年。
17歳のダビッド・マルティンは、母に捨てられ父は殺され、〈産業の声〉という落ちぶれた新聞社で働いている。仕事といえば編集部の使い走り。なんとなく書いていたものを人気ライターのペドロ・ビダルに見せると誉められ、助手となった。
終業まぎわ、副編集長から呼びだされたマルティンは、ダブルスペースの原稿5枚をオファーされる。締め切りまであと6時間。日曜版の裏面が脱落し、代わりの者たちとは連絡がつけられそうにない状況だった。
副編集長の要求に応えたマルティンは、物書きとしての一歩をふみだす。だが、給料はたいして変わらないうえ、今までかわいがってくれた人たちから目の敵にされてしまう。
変わらないのはビダルだけ。それと、パリのリュミエール出版のアンドレアス・コレッリという編集者から、賞賛の手紙が届いた。そんな程度だった。
マルティンの連載はやがて打ち切りになり、クビを言い渡されてしまう。だが、そのおかげで、新しい出版社と定期刊行するシリーズ本の契約をとれた。匿名作家としてだが、マルティンは大喜び。安い下宿から長年のあこがれだった〈塔の館〉に移ることを決意する。
毎日徹夜で仕事をしたマルティンの本は売れに売れ、ついに自分の名前で本を出せることになる。そんなころマルティンは、好意を寄せているクリスティーナから相談を受けた。
クリスティーナはピダルの秘書だ。ピダルは何年も小説を書こうと格闘し、クリスティーナがチェックしてタイプ打ちしている。なんども書き直された小説は、ピダル本人にも手が負えなくなっていた。
マルティンは、クリスティーナから渡された原稿におどろく。抹消線だらけで救いようがなく、しかも、元々のアイデアは自分がピダルに話したものだったのだ。それでもマルティンは、恩人であるピダルのため、クリスティーナと会いたいがために、原稿の手直しを引き受けてしまう。
寝る間も惜しんでふたつの本を完成させたマルティンだったが、ペドロ名義のものは大絶賛される一方、自身の本は酷評されてまったく売れない。身体を壊し、余命宣告も受けた。ピダルからクリスティーナとの結婚を打ち明けられ、失意のどん底。
マルティンは、コレッリからの不可思議なオファーを受けるが……。
幻想小説。
前作『風の影』は1945年からの始まりでした。今作は、前作主人公のダニエル・センペーレの親世代の物語です。
マルティンのバルセロナじゅうでいちばん好きな場所として〈センペーレと息子書店〉が登場するなどします。もちろん〈忘れられた本の墓場〉も出てきます。
さまざまな謎がありました。大きなものはふたつ。
ひとつはコレッリが関わるもの。もうひとは、マルティンが〈忘れられた本の墓場〉で手に入れた『不滅の光(ルクス・エテルナ)』の作者ディエゴ・マルラスカをめぐるものです。
マルラスカは〈塔の館〉の前の住人でもあり、その背後にコレッリが見え隠れしてもいます。
とにかく、こまかいエピソードが山盛り。どれもこれもその場限りではなくあちこちで繋がってます。謎とも思っていなかったことに突然回答がきて、そういうことだったかと納得したりもありました。
読むのがたいへん。その分読み応えがありました。
残念だったのは、前作は、幻想的な箇所も現実として説明できなくもなかったのですが、今作は完全にファンタジーになっているところ。
個人的には、ギリギリの線を狙ってほしかった。
好みの問題ですけどね。