
2025年03月12日
キアラン・カーソン(栩木伸明/訳)
『トーイン クアルンゲの牛捕り』東京創元社
コナハト国の女王メーヴの父は、アイルランド全土に君臨する上王だった。メーヴは父から、アイルランド四国の中の一国をまるごと譲り受ける。それが、このコナハト国。
メーヴはさまざまな男から求婚され、かれらに条件をつけた。ケチでなく、嫉妬せず、臆病者でもないこと。そうして選ばれたのが、レンスター王の息子アリルだった。
アリルにも言い分がある。自分の豊かな富と財物と宝物は生来のもの。メーヴから選ばれたのではなく、自分がメーヴを選んだのだ、と。
ふたりは自分が勝っていると譲らず、お互いの資産を比べはじめる。大釜、手桶、深鍋にはじまり、金の細工物、衣裳、羊の頭数と等級、仕事馬、乗馬馬。あらゆるものを比べたが、勝負がつかない。
ところが、アリルの牛の群にいる雄牛フィンヴェナハに匹敵する牛だけが、メーヴの群にいなかった。落胆したメーヴは、ドン・クアルンゲに目をつける。
ドン・クアルンゲというすばらしい雄牛は、アルスター王コンホヴァルに仕えるダーレ・マク・フィアハナの持ち牛。メーヴは使者を立て、一年間貸してくれるように頼んだ。
メーヴの、気前のいい謝礼の数々の約束に、ダーレは喜び了承する。しかし、使者たちの軽口が耳にはいり態度を一変させた。
交渉がご破算となったメーヴは、大軍勢を招集する。力ずくでドン・クアルンゲを手に入れるために。かくして襲撃(トーイン)がはじまる。
そのころアルスターの戦士たちは、9世代にわたる呪いをかけられ床に臥していた。最も重大な試練に立ち向かわねばならないとき、5日と四夜の間、苦悶を味わうのだ。
大軍勢を率いてクアルンゲに到着したメーヴは、フェルグス・マク・ロイヒを先導役とした。
フェルグスはアルスターから追放された者。7年間アルスターの王だったが国を離れねばならなくなり、メーヴの庇護を得た。あれから17年、アルスターを恨みながら生きてきた。
実は、フェルグスの祖国の人々に対する心痛むほどの愛着は消えていない。アルスターに伝令を送り、時間稼ぎをしはじめる。
メーヴの大軍を迎え撃つは、呪いから免除されている17歳のクー・フリンただひとり。
とはいえ、クランの番犬、クー・フリンはただ者ではない。向かうところ敵無し。ほんの小僧の時分にたてた手柄さえ、大の男の偉業に匹敵する。
進軍する先々で出没するクー・フリンのために、メーヴは精鋭たちを失っていくが……。
古代アイルランドの英雄譚。
古アイルランド語で書かれた原典をキアラン・カーソンが現代英語に翻訳したものを日本語に翻訳したもの。
びっくりするほど読みやすかったです。その一方で、いかにも伝承らしい言い回しやら展開やらもありました。不自然なほど大げさだったり、詩で語られたり、地名の由来がでてきたり。
英雄譚ですから、主人公はクー・フリンです。
クー・フリンは「ちびクー」などと呼ばれたりもして、とてもかわいらしい反面、美丈夫でもあり、ねじり首環(トルク)の発作を起こして狂戦士になったりもします。アイルランド神話随一の英雄で、ケルト神話の本や、アイルランドの神話・伝説を集めると必ずいくつものエピソードが入ってくるそうです。
侵略者であるメーヴも光り輝いてました。メーヴは実在人物ではないそうです。実際にあった出来事が元になっているのかと思ってました。
結末にびっくり。
読んでよかった。
2025年03月14日
ジャスパー・フォード(桐谷知未/訳)
『雪降る夏空にきみと眠る』上下巻/竹書房文庫
1775年に、標準冬季は冬至の前後8週間と定められた。この期間、人口の99.99%が冬眠に入る。
深い冬眠からの帰還には危険がつきもの。神経系の崩壊を起こしたり、必要な脂肪を使い果たしたり、体内に二酸化炭素が蓄積したり。さまざまな理由で、人は眠ったまま死んでしまう。
ハイバーテックがモルフェノックスを開発したおかげで、冬眠の生存率は上昇した。
だが、モルフェノックスも完璧ではない。ごくごくまれに、ナイトウォーカーになってしまうのだ。歩いて食べるという記憶のなごりだけを持った死人に。
それでもなお、人々はモルフェノックスを求めた。
チャーリー・ワージングもそのうちのひとり。
チャーリーは、養育院で育った。高価なモルフェノックスを買える見込みはなく、養育院の施設副管理人という仕事では将来性もない。
そんなとき、冬季取締官のジャック・ローガンが新人募集していることを知る。
冬に目覚めているのは危険なことだ。だが、モルフェノックスの権利がついた単純労働はめったにない。しかもローガンは、チャーリーが得意とする記憶力を求めていた。
見習いとなったチャーリーは、ローガンと共に、ナイトウォーカーのティフェン夫人を〈セクター12〉まで運ぶ任務につく。
まれに、歩いて食べる以外のことをできるナイトウォーカーがいて、ティフェン夫人はブズーキが弾けた。それで〈セクター12〉のハイバーテックの本部まで連れて行くことになったのだ。人でもなんでも食べてしまうナイトウォーカーも、腹を満たしてさえおけば問題はない。
ローガンのもとに入った連絡では、〈セクター12〉では伝染性の夢が蔓延しているという。青いビュイックの夢を見たあと、正気を失ってしまうのだという。
チャーリーたちは列車でマーサーに到着した。〈セクター12〉へは、峠を越える地区横断列車を待たねばならない。
所用があるというローガンを見送り、チャーリーは喫茶店にひとり。仲良くなった人にティフェン夫人を任せトイレに行くと、ティフェン夫人はいなくなっていた。盗まれてしまったのだ。
チャーリーは合流したローガンから咎められるものの、ローガンはティフェン夫人抜きで〈セクター12〉に行くという。どのみちティフェン夫人はもう死んでいる。困るのはハイバーテックくらいだから。
チャーリーは抵抗し、フィフェン夫人の奪還を主張するが……。
歴史改変SF。
冬が厳しすぎて人間が冬眠すると耳にしたとき、植民惑星かなと思ったのですが、地球でした。イギリスです。
チャーリーの視点で語られます。脚注もチャーリーの発言なので、きちんと目を通したほうがよさそうです。
ほんのちょっとしたことが後々大きな意味を持ってきたりします。それがなんのことだか憶えていないことが多々あり、反省しました。注意力が散漫だったようです。
分かってくるまでは読むのが大変で。おもしろさを堪能するのは再読してからかな、と思います。
2025年03月19日
ガブリエル=シュザンヌ・ド・ヴィルヌーヴ
(藤原真実/訳)
『美女と野獣』白水社
ある大きな街に、それはそれは裕福な老人がおりました。商人として成功し、子宝にも恵まれ、6人の息子と6人の娘と、この上なく豪奢な生活を送っておりました。とりわけ一番末の娘は人徳によって際立ち、その美しさゆえにベル(美女)と呼び名がつくほどでした。
あるとき一家は、度重なる不運ですべての財産を失いました。やむなく森の中の田舎家に移り住みましたが、姉たちがいつまでも悲嘆にくれる中、ベルだけは毅然として家族を慰めようと気を配っていました。
2年がたったころ、老人のもとに知らせが届きました。失われたと思っていた商船の一艘が、無事港に着いたというのです。
ひとり長旅に出る老人に、娘たちは次々と贅沢な土産を頼みます。ベルだけは父親の無事な帰りを願い、負担にならないようにと、バラを一輪だけ頼みました。
老人が街についたとき、船荷はすでにありませんでした。大金の夢はついえ、季節はめぐり、雪のなかを帰らねばなりません。
老人は森を抜けるのに迷った末、人の気配のない、世にも美しい城にたどり着きました。豪華な家具をしつらえたいくつもの部屋があり、客間では煖炉の火が起こされ、赤々と燃えています。まるで誰かを待っているようです。
ソファに腰かけて誰かを待つうち、老人は寝入ってしまいました。目覚めると、テーブルに食事が供されています。霊的存在の贈り物と考えた老人はありがたく食事をいただき、宮殿をでるとベルのために見事なバラを摘みました。
突然、ものすごい物音がして驚くと、恐ろしい野獣(ベット)がいました。ベットは老人をなじります。親切にしてやったのに感謝するどころかバラを盗むとは、と。
老人は怯えきって、地面に平伏して許しを請いました。するとベットは態度を和らげ、交換条件を告げました。代わりに娘を差し出せば許す、と。
ひとまずの帰宅を許された老人でしたが、ひとりで戻るつもりでいました。ですが、子供たちにいろいろ聞かれて、ベットのことを話してしまいました。息子たちはベットを殺しにいこうと言い、娘たちはベルを非難します。
ベルは、自分が償うと申し出ました。老人は説得しますがベルの意志は固く、変えられません。
城に到着したベルは驚いていました。何もかもが喜びと華やかさにあふれています。まるで歓迎されているようです。
ベルが強い眠気を感じて眠りこむと、夢を見ました。
とても美しく才気ある青年が心に響く声で話しかけてきます。ふたりがいるのは、ベットのいる宮殿です。また、威厳に満ちた態度と驚くほどの美しさをもった貴婦人と一緒にいるような感覚もありました。
目覚めたベルは、ベットがあの青年を牢屋に閉じ込めていると考えますが……。
大人のおとぎ話。
もとは『アメリカ娘と洋上物語』という話の第一話。作中人物が船上で語って聞かせる昔話のひとつだったとか。
二部構成で、第一部でベルとベットの物語が展開します。無人の城ですが、ベルの面倒を見てくれる存在はいます。楽しいことがいっぱいあるところです。
第二部では、ベルの決断とベットの正体が語られます。ベルの決断はクライマックスではありません。その後のことや、ベルがくるまでのことなども語られます。
この物語は「善良な人を評価によって愛さなくても、感謝によって愛することはあるか」というテーマで書かれてます。
ベルは夢の中で美しく才気ある貴公子と楽しいひとときを過ごします。愛されているし愛してもいます。
一方、現実にいるのは醜く愚かなベットです。ただ、思いやりがあることは分かってます。ちなみにフランス語のベットには「けもの」とともに「愚かな」という意味があるんだそうです。
教訓話ではなく、恋愛真理を追及した物語でした。
もともとはこういう展開だったんだと知ることができ、いい読書経験になりました。
2025年03月20日
ジャンヌ=マリ・ルプランス・ド・ボーモン(村松 潔/訳)
『美女と野獣』新潮文庫
「シェリー王子の物語」
むかし、国中の人からボン(善)王と呼ばれている王様がありました。仙女カンディード(純真)が王様のことを気に入り、跡継ぎのシェリー(最愛の)王子の面倒を見ることを約束しました。
王様が亡くなるとシェリーはカンディードから、小さな指輪を贈られました。間違った行ないをするたびに指をちくちくと刺す魔法の指輪です。
はじめはよかったのですが、指輪が頻繁にちくちくするようになるとシェリーは指輪を捨ててしまいました。それから思いつくかぎりの愚行を重ね、性格がひどく歪んでしまいました。
羊飼いの娘をみそめたシェリーは、彼女と結婚しようと決心しますが……。
「美女と野獣」
むかし、こどもが6人いるとても裕福な商人がありました。なかでも末の娘の美しさは人が感嘆するほどで、心根もやさしく、いつしかベル(美女)と呼ばれるようなりました。
あるとき、商人はほとんどの財産を失って、町から遠いところにある別荘に移り住みました。
それから1年がたち、いくばくかの財産を取り戻せるかもしれない知らせに商人は街に行きました。ところが、無駄足でした。帰りには道に迷い、人のいない不思議な宮殿につきました。
商人がベルに頼まれたバラを手折ると、激怒した野獣が現れました。野獣は商人に死を求め、娘を身代わりにしてもいいと言います。
商人は覚悟を決め、ただ最期に子供たちに会うために帰宅しました。話をきいたベルは、身代わりを申し出てて宮殿を訪れますが……。
「ファタル王子とフォルチュネ王子の物語」
むかし、王妃のもとに完璧な美しさのふたりの男の子が生まれました。長男は仙女によってファタル(宿命的)と名づけられ、25歳になるまでありとあらゆる不幸を授けられました。
そのことに驚いた王妃は次男は自分に選ばせてほしいと頼み、フォルチュネ(幸運な)と名づけ、やりたいと思ったすべてが常にうまくいくように願いました。仙女は、25歳までに限って王妃の願いどおりの素質を授けてやりました。
国王夫妻は、なにかと問題がおこるファタル王子を嫌い、フォルチュネ王子を溺愛しました。ファタル王子は農婦に預けられますが……。
「シャルマン王の物語」
シャルマン(魅力的)は16歳で父親を亡くし、若くして国王となりました。とてもすぐれたサンセール(真摯)という名前の家庭教師がいましたが、道徳的すぎると考え、地方の統治を任せることにして追っ払ってしまいました。
あるときシャルマンは、不思議な白い牝鹿に誘われるようにして大きな城にたどり着き、ヴレ=グロワール(真の輝き)という女主人と出会いました。
ヴレ=グロワールはとても美しく、ずっと夫を待っているのだと言います。ただし結婚するには条件がありました。
城にはシャルマンのほかに、アプソリュ(絶対)という名の大きな王国の主も来ています。選ばれるのは、ヴレ=グロワールから3年離れて暮らしている間、より忠実だった国王です。
シャルマンは、アプソリュがあまりにハンサムで、あまりにも知的であるため自信がもてません。昔、サンセールがヴレ=グロワールのことを話していたことを思い出し、相談しますが……。
「寡婦とふたりの娘の寓話」
むかし、ふたりの娘がいる未亡人がありました。長女はブランシュ(白)、次女はヴェルメイユ(紅)という名前でした。
ある日、よろよろ歩きの哀れな老婆が杖をついて通りかかりました。女は老婆に声をかけて休ませてやりました。
母親にいわれ、ブランシュはいやいやながら、大切にしているプルーンの木から実を摘んで出しました。ヴェルメイユは喜んで、自分の雌鶏が産んだ卵を取ってきました。
実は、老婆は仙女でした。
仙女はふたりに、それぞれの美点に応じた褒美を与えました。長女は立派な王妃に、次女は農婦になりますが……。
「デジール王子」
むかし、ひとりの王女を熱烈に愛している王様がありました。王様は王女にかけられた呪いをといて結婚しましたが、魔法使いの恨みをかってしまいました。これから生まれてくる王子が自分の鼻が長すぎることを認めるまで、ずっと不幸なことになると呪いをかけられてしまったのです。
結婚して8ヶ月後に王様はなくなり、王妃はデジール(願望)王子を産みました。鼻が顔の半分の長さがありました。誰も呪いのことを知りません。
デジール王子は、母親や取り巻きたちに気をつかわれ、鼻の短い人たちの不幸な話や、歴史上の偉大な人たちの鼻が長いことを聞いて育ちました。デジール王子は自分の鼻が長すぎるなんて思わないまま成長しますが……。
「オロールとエーメ」
むかし、娘がふたりいる貴婦人がありました。
長女はオロール(曙)という名前で、美しく、かなりよい性格でした。次女はエーメ(愛されている)という名前で、美しいものの意地が悪く、人に嫌がらせをすることばかり考えていました。
若く見られたい母親が12歳のエーメだけをつれて別の町に引っ越したとき、16歳のオロールは田舎にやられ、大きな森の中に置き去りにされてしまいました。
オロールは羊飼いの家をみつけ、身を寄せました。実は、羊飼いは仙女でした。仙女は、神様が不幸な目に遭わせるのを許したとすれば、それはオロールのためだと信じなければならない、といいます。
オロールは仙女を母と呼び、教えを受けますが……。
「三つの願いの物語」
むかし、あまり裕福でない男がありました。
冬のある夜、夫婦が煖炉のそばであたたまっているとき、欲しいものを全部恵んでくれる仙女がいてほしいと話していました。すると仙女が現れ、最初の3つの願いごとをかなえてくれるというのです。
ふたりは願いごとを考えますが……。
「漁師と旅人」
むかし、ひとりの男がありました。小川のほとりの小屋が全財産でしたが満足していて、自分のもっているもの以外なにも望んではいませんでした。
ある日、旅人が通りかかりました。なんでも旅人は商人で、莫大な財産を手に入れたが安らかでいられず、官職の地位を買ってみたものの野心に目覚めてしまったといいます。
旅人は立派な人物に、目についた最初の道を二日間歩きつづけるように助言されて一日歩いてきたところでした。ある男が無分別な振る舞いをして目を覚まさせてくれるという話でしたから。
旅人は男に、どうなったか帰りに知らせると約束して分かれますが……。
「ジョリエット」
あるとき貴族の夫婦に娘が生まれ、仙女たちが洗礼式にやってきました。娘はジョリエット(かわいらしい)となづけられ、たくさんの天賦の素質を授けられました。
母親は大喜びでしたが、仙女の女王がやってきて、仙女たちが徳の高い素質を授けなかったことを咎めました。そして、20歳になるまで口がきけないようにしてしまいました。
成長したジョリエットは頭脳明晰で、手ぶりで言いたいことを伝えられるようにもなりました。そうして自分が見たり聞いたりしたことを、すべて母親に報告しました。
良識のある人だった父親が、告げ口をする人間ほど品性下劣なものはないと諭すとジョリエットは考えを改めますが……。
「ティティ王子」
むかし、ギャンゲというひどくけちん坊な王様がありました。王妃は王様以上の倹約家でした。長男のティティ王子は自分がもらったものはなんでも分け与えるのが好きで、国王夫妻はティティ王子の性格に我慢ができず、自分たちと似た次男のミルティル王子を溺愛していました。
ティティ王子は狩りにでたとき、侍臣がはねとばして怪我した老婆を助けました。翌日にも具合をたずねにいったティティ王子は、感謝した老婆から木の実と卵を受け取って宮殿に帰りました。
それらを調理すると、なかかから見事なダイヤモンドがあらわれました。ティティ王子は、はじめて王妃から誉められました。
王妃は、ティティ王子が助け起こした老婆は仙女の女王だと考えました。ミルティル王子もつれて夫婦で見舞いに行き感謝の品を受け取りましたが、ダイヤはでてきません。
怒った王妃は、玉座をティティ王子ではなくミルティル王子に渡そうとしますが……。
「スピリチュエル王子」
むかしある王様が、ディアマンティーヌ(ダイヤの輝き)という善良な仙女が育てた王女と結婚しました。王子が産まれたとき、王様と結婚したがっていたフュリー(激怒)という仙女がきて、世にふたつとない醜さという素質を授けました。
フュリーは仙女の女王だったので、ディアマンティーヌにはどうすることもできません。代わりに、スピリチュエル(知性的)と名づけ、最高の知性に恵まれ、愛する人にもそれを授けることができるようにしてやりました。
成長したスピリチュエル王子は醜さのために王位継承権を弟に譲りましたが、隠遁生活に入って叡智をまなべるので幸せでした。
それがフュリーにはおもしろくありません。
フュリーは、手元で意のままに育てている美しいアストル(天体)王女を利用して、スピリチュエル王子を不幸にしてやろうと考えますが……。
「きれいな娘と醜い娘」
むかし、ある貴族にふたごの娘がいました。美しい長女はベロット(きれいな子)といいました。非常に醜い次女はレードロネット(醜い子)と呼ばれていました。
ふたりとも12歳までは熱心に勉強していましたが、だんだん口実をもうけては勉強しなくなってしまいました。15歳になるとベロットはさらにきれいになり、レードロネットは醜さを悔しがって社交界や人との付き合いが大嫌いになりました。
家にいて退屈をもてあましたレードロネットは考えをあらため、また勉強するようになりました。賢いことで評判になり、レードロネットは知性を高く評価した大臣と結婚しました。
一方ベロットは、魅力的な若い王様と結婚しました。はじめは幸せでした。ところが、だんだん王様の愛情は薄れていき、息子を生んで容姿が衰えたベロットは、田舎に送られてしまいました。
ベロットは、まだ19歳。レードロネットの助言に従い勉強をはじめますが……。
教訓的な物語集。
ボーモン夫人が1756年から刊行した「こどもの雑誌」に掲載されていた昔話です。一種のこども向けの教育書で、貴族の令嬢たちに論理観や教養を身につけさせようとするものでした。昔話は、いわば勉強の骨休め。
本を読んで勉強しましょう。美醜にとらわれず美徳を大切にしましょう。そんな雰囲気で、似たり寄ったりの話が多いです。
なかでも有名なのが、ディズニーアニメにもなった「美女と野獣」です。当時は著作権という考えはなく、ヴィルヌーヴの『美女と野獣』が元ネタだろうと言われてます。
それ以外の昔話でも、アニメ「美女と野獣」を彷彿とさせられました。仙女に野獣にされてしまったりとか。
そういう視点から楽しめました。
2025年03月25日
ピーター・ディキンスン
(アラン・リー/絵、山本史郎/訳)
『アーサー王物語伝説 魔術師マーリンの夢』原書房
アーサー王の誕生を助けた魔術師マーリンだったが、ニムエという乙女に惚れ込んでしまった。マーリンはニムエに魔術を教えるが、ニムエはマーリンを嫌っている。
あるときマーリンは、ニムエによって岩の下に閉じ込められ、永遠の呪縛にとらわれてしまった。
「さまよえる騎士」
ゴール城のサー・トレマリンのもとに、6人の騎士がやってくる。これまでトレマリンは、騎士にあるまじき行為を数々してきた。ついに罰せられてしまうのだ。
絶体絶命の危機にトレマリンは、助けを求めにきていた少年の依頼を受けることにした。冒険を引き受けている騎士には手出しできないのだから。
助けを必要としているのは、大きな森のむこうのボーソレイユの町。姿を消せる邪悪な騎士に支配されているという。森を通り抜けるには、ふたりの騎士を順に倒してしかねばならない。
トレマリンは策を練るが……。
「石」
スライは詐欺師だった。大きな箱を背負い旅している。
村に到着すると、思わせぶりな言動で村人たちの興味をひく。狙い通りの反応があったところで、箱にはコカトリスが入っていると教えてやる。目が合うと石になってしまうから、見るには鏡を通さなければならない。
村人たちが集まり、誰もかれもがなけなしの銅貨を払った。箱の中は暗く、よく見えない鏡ではたいしたことは分からない。
そんなとき、司祭らしきひとりの老人がやってきて、箱を横だおしにしてしまう。コカトリスに見せかけていたちゃぼが逃げだした。
スライも逃げたが、憤懣やるかたない。仕返ししてやろうと考えるが……。
「剣」
リオネスの国には、ずっと昔からひとつの予言がある。いつの日かドラゴンが現れ、たぐい稀なる立派な者がドラゴンと戦う、と。
アレグザンダー王子は、12歳。予言通りにドラゴンが出没していることもあり、どの騎士よりも勇敢であれと父王から命じられている。それは分かっているが、騎士たちのやりかたには納得できていない。
ある日アレグザンダーは、ドラゴンの子に襲われている人魚族の王女メリニッサを助けた。感謝したメリニッサから助力を約束され、海でのドラゴンの噂を教えてもらった。
この日、国王夫妻に報告したアレグザンダーは、鏡に映った継母を目撃し、継母こそがドラゴンだと気がつくが……。
「隠者」
長年会うことのなかった幼なじみの漁夫と司祭が出会った。
司祭はローマにいたころ、故郷の頼りを受け取っていた。だが、読み書きできる者がいないことは知っている。漁夫がいうには、村の隠者が書いてくれたというが……。
「一角獣」
リアソンは森のはずれで祖母といっしょに暮らしている。両親はサー・ブラングィンに言いがかりをつけられ、城に囚われてしまったのだ。
その日もリアノンは、森でトリュフをさがしていた。そこに、銀白色の毛並みをした仔馬が現れる。リアノンは仔馬にトリュフのある場所を教えてもらい、籠いっぱい収穫することができた。
いつしかブラングィンの耳に、森に一角獣がいるという話が入るが……。
「乙女」
聖霊降臨祭の日、宮廷に不思議な犬がやってきた。かわいい白のグレーハウンドの雌で、騎士たちの顔をじゅんばんにのぞきこんでいる。選ばれたのは、ほんの最近宮廷に来たばかりのサー・ヒューだった。
ヒューは犬に導かれ、農地をすぎ森にはいり道無き道をついていく。ヒューを、少女シネラが待っていた。自分のために、大狼に化ける魔法使いと戦ってほしいという。
魔法はヒューの得意とするところではない。ためらいながらも冒険を受け入れるが……。
「王さま」
領主の兵隊たちがやってきたのは、ちょうどセリが木に登っているときだった。父親の口ぐせでは、この土地は王さまからいただいたものだったはず。だが、兵隊たちには王さまの意向は通じないらしい。
セリは、家族が家畜ともども連れ去られ、家が火に包まれるのを見ているしかなかった。
セリは王さまをさがす旅にでるが……。
「スキオポド」
山間の寒村ヘルノ村に旅芸人の一行がやってきた。
とても厳しい冬だったので、村人たちには余裕がない。険悪な雰囲気となり、一座は村を後にする。そのとき奇妙な生き物が逃げだしたが、村人は捜索を許さなかった。
あとでその生き物は村人に見つけられた。足が一本しかなく、言葉をしゃべることもできない。
村で暮らすうち、奇妙な生き物はラルと呼ばれるようになった。村人たちには、人間としか思えないが……。
「魔女」
みんなから〈あの女〉と呼ばれる者がいた。
国中のすべての人の名前を知り、気に入った子どもをさらっていく。〈あの女〉の計らいで、この国は気候にめぐまれ、穀物の実りもいい。それを考えると去ることはできず、ただ、美しく可愛い子どもが〈あの女〉のところに行かないよう、工夫をするだけ。
ある村に、赤ん坊がふたり生まれた。器量よしの女の子は、ファラビネッラビニッラベファッラべッリッラ(ファラ)と名づけられた。男の子は醜く、無造作にダンという名前があたえられた。
ファラが〈あの女〉に目をつけられているのは間違いない。13回目の誕生日を迎えたファラは、特別に建てられた家に閉じこめられた。
会えるのもこれが最後というとき、ダンは仲良しのファラに頼んだ。〈あの女〉に呼ばれたとき自分も連れていってほしい、と。
ファラは約束を忘れなかった。
意志の力で〈あの女〉の魔力に逆らい、ダンを連れて行くが……。
マーリンが見ている夢という設定で、つむがれる物語集。
ベースに、トマス・マロリー版の『アーサー王物語』があります。直接つながってはいません。知っていたほうが楽しめるとは思います。
「さまよえる騎士」ではサー・トレマリンが、騎士ならこうすべきという行動論理を逆手にとったことをします。それがまた絶妙で現実的でした。
「剣」のアレグザンダー王子は、騎士たちのやり方に疑問をいだきます。勇気とはなにか、考えさせられました。
「乙女」で聖霊降臨祭にサー・ヒューが犬に選ばれる出来事には『アーサー王物語』を彷彿とさせられました。サー・ヒューは新人ですが立派な騎士になろうとしていて、帰国してからみんなにどう語るか、考えてたりします。
上記以外の6作品は騎士が添え物だったり不在だったりします。わざわざマーリンに夢見させたのは、同じ世界が舞台になっているということでしょうか。背後で騎士たちが活躍していると思うと、物語に奥行きがでますね。
なお、挿絵のアラン・リーは《指輪物語》で有名な人です。挿絵がたくさんあり、フルカラーのものも少なくないです。ファンにはたまらないのでは。
2025年04月01日
ローラン・ビネ(橘明美/訳)
『文明交錯』東京創元社
インカ帝国は、4つの邦からなるタワンティンスーユを支配している。皇帝が新たな領土を求めて北へ向かったとき、思わぬ悲劇が起きた。皇帝と皇太子が亡くなったのだ。
帝国は、皇帝の二番目の息子ワスカルの手にゆだねられることになった。ただ、亡き皇帝の遺志により、北部諸州はワスカルの異母弟アタワルパに任せられた。
ワスカルには分割支配という状況が我慢ならない。また、貴族たちを掌握するためにも敵が必要だ。そこで、アタワルパに宣戦布告した。
アタワルパのもとには、父の代からの将軍たちがいる。ワスカルに侮辱され挙兵して帝都クスコを目指すが、手前で大敗北を喫してしまう。北へ向かうアタワルパ軍の長い退却と、ワスカル軍の長い追跡がはじまった。
アタワルパは北部諸州を通り過ぎ、地峡を渡り、海をも越えて、キューバにたどり着く。そこはタイノ族の王国。ワスカルの追跡はまだ終わらない。
タイノ族のヒゲナモタ王女が、ひとつの道を示した。かつてキューバにいた異国人は、東の国からやって来たという。ヒゲナモタ王女は子供のとき、異国人の言葉を耳で習い憶えた。
アタワルパは決断し、海の向こう、太陽が昇る場所(レバント)にある〈第五の邦〉を目指すことにした。用意できた大型船は3隻。200人に満たない人々と共にアタワルパは、ヒゲナモタ王女も連れて海を渡った。
長い長い後悔のすえアタワルパが上陸したのは、ポルトガルの港町リスボン。
直前に大地震に襲われたリスボンは混乱している。レバント人たちは敵意を見せてはいないものの、友好的とも思えない。日に日に、不穏な空気が漂いはじめる。
アタワルパは目的地を決めないまま、リスボンを出発した。
スペインのトレドに到着したときアタワルパは、キリスト教の異端審問最高会議(スプレマ)を知った。火焙りにされる人々を目の当たりにして戦慄する。インカの太陽神信仰とは相容れない。
スプレマに逮捕されそうになり、アタワルパは行動にでた。敵たち3000人以上を殺したのだ。スプレマに恐怖していた人々からは歓迎されるが、いつまでもトレドに滞在はできない。
トレドを出発し、サラマンカの大広場でカール5世と対面する手筈が整えられた。このときアタワルパは、自分たちが置かれた状況は絶望的だと分かっている。作戦を練り、カール5世を生け捕りにした。
こうしてアタワルパのスペイン支配がはじまるが……。
改変歴史もの。
4つの歴史資料から構成されてます。
「エイリークの娘フレイディースのサガ」
「コロンブスの日誌(断片)」
「アタワルパ年代記」
「セルバンテスの冒険」
主軸であり大半を占めているのが「アタワルパ年代記」です。
史実のアタワルパは、ワスカルに勝利したもののスペイン人に捕えられ処刑されました。享年31歳(推定)。
インカ帝国が滅亡した理由のひとつに、スペイン人たちが持ち込んだ病があります。それらに耐性をつけさせるため、フレイディースが南下していた(病を持ち込んでいた)ことにして、その子孫たちにコロンブスを捕えさせてます。
最後のセルバンテスは『ドン・キホーテ』の作者です。波瀾万丈な人生ですが、本書においてはエピローグといったところ。
なお、史実ではスペインに滅ぼされたアステカ王国についても触れられてます。
アタワルパ年代記は、物語としておもしろいところと、歴史書として無味乾燥なところと混ざり合ってました。歴史好き向けでしょうね。
註釈で史実はどうだったのか教えてくれるので、知識はなくても大丈夫です。ただ、註釈されてないネタもあるようで、いろいろ知っているとより楽しめるのではないかと思います。
2025年04月02日
マーサ・ウェルズ(中原尚哉/訳)
『ネットワーク・エフェクト』創元S文庫
自称マーダーボットは、ボットと人体による構成機体の警備ユニット。警備ユニットは統制モジュールにコントロールされているものだが、ドラマが見たいがためにハッキングして独立機体となっている。
警備会社からも離れ、現在の後見人はプリザベーション連合の評議会議長であるメンサー博士。企業リムなら所有者というところだが、プリザベーション連合には所有者という概念がない。
そのメンサー博士から、調査ミッションへの参加を頼まれた。
アラダ博士が率いるミッションには、メンサー博士の長女アメナが参加する。教育課程におけるインターンシップのためだが、危険を伴う。
ミッションには、メンサー博士の義弟ティアゴもいる。ティアゴとしては、わざわざマーダーボットがついてくるのがおもしろくない。自分が信用されていないと感じるのだ。
アメナもマーダーボットをよく思っていない。思春期のアメナは、監視されることが不快でならない。
マーダーボットは自分の仕事をするだけ。
危機的状況には陥ったものの、学術調査は予定より早く終わった。母船と研究施設をつなぎ帰路につくが、ワームホールから出た直後、正体不明の船から攻撃を受けてしまう。
敵船は呼びかけに反応しない。牽引機群で研究施設をつかみ、ワームホールへ引きずりこもうとしているようだった。
マーダーボットは、メンバーを母船に退避させようとする。母船と研究施設を切り離す決断をしたのだ。しかし、間に合わない。
EVACスーツで脱出したマーダーボットとアメナは、敵船のエアロックに取りこまれてしまった。
乗りこんだことで、マーダーボットは船が友人のペリヘリオン号だと気がつく。船内のようすがおかしく、やはり反応はない。
マーダーボットは、なにがあったのか確かめようとするが……。
《マーダーボット・ダイアリー》シリーズ。
『マーダーボット・ダイアリー』続編
再読です。
自身を〈弊機〉と呼んでいるマーダーボットによる一人称のですます小説。とにかく雰囲気が独特で、受けつけない人もいるのではないかと思います。いつも、インタビューに応じている文章だと思って読んでます。
4年前に読んだときには、雰囲気が伝わるように書きました。今回も踏襲しようと思ったのですが、おいそれと書ける文章でもなく……。
雰囲気を知りたい方は、前回分の『ネットワーク・エフェクト』でご確認ください。
自称がマーダーボットである由来は、シリーズ初巻『マーダーボット・ダイアリー』を読むと分かります。
2025年04月03日
マーサ・ウェルズ(中原尚哉/訳)
『システム・クラッシュ』創元S文庫
『ネットワーク・エフェクト』続編
自称マーダーボットは、ボットと人体による構成機体の警備ユニット。警備ユニットは統制モジュールにコントロールされているものだが、ハッキングして独立している。
マーダーボットは失われていた星系に、ミヒラおよびニュータイドランド汎星系大学のペリヘリオン号といる。
その惑星が最初に入植されたのは、企業リム成立以前の時代だった。そのとき異星遺物に感染し、入植は失敗した。
年月が流れ、企業リムに属する会社が改めて入植した。ところが敵対的買収に遭い、植民惑星の座標が失われてしまう。そのときには。
後に、バリッシュ-エストランザ社の知るところとなり、コロニーのサルベージ計画が動きだす。狙いは異星遺物。そのためにまたもや感染が起こってしまう。
事態は収拾するものの、まだ終わっていない。
マーダーボットたちは、生き延びていた入植者たちを手助けしようとしていた。なんとしても企業リムの餌食になるのを阻止したい。
所在地を明かしていない人々がいることを知り、バリッシュ-エストランザ社よりも先に接触しようと、秘かに入植地を探すが……。
《マーダーボット・ダイアリー》シリーズ。
冒頭8ページに渡って、前作『ネットワーク・エフェクト』のあらすじが載ってます。完璧につながってます。第一部、第二部といったところ。
あらすじは詳しく書かれてましたが、念のため読み返しておきました。連続して読んで大正解。記憶力のいい人は問題ないと思いますが。
2025年04月07日
アガサ・クリスティー(中村妙子/訳)
『娘は娘』ハヤカワ・クリスティー文庫89
アン・プレンティスは、ひとり娘のセアラと、母の代からの家政婦イーディスの3人で暮らしている。夫は、セアラが3歳のときに亡くなった。そのために愛情はセアラに集中している。
セアラは、活発な、元気いっぱいの娘で、何事にも積極的。もうじき19歳になるが、アンには、ときに赤ん坊に思えてしまうこともある。
そんなセアラが、スイスへスキー旅行に行ってしまう。3週間もの不在ははじめてのことだ。アンは、セアラが帰るまでのことを考え、しんみりしてしまう。
だが、娘は娘、母は母だ。
アンは思い直した。いずれセアラは結婚して出ていくのだから。寂しく思いながらも、妙に浮き浮きしてもいた。
セアラを送り出した日、アンはジェームズ・グラントの夕食会に招かれる。ジェームズは25年来の親友だ。アンに愛情を差し出してくれるが、受け入れるには至っていない。
その日のジェームズも、思わせぶりだった。アンは、同席したリチャード・コールドフィールドのことが気になって仕方ない。リチャードも連れ合いと死別していた。
アンはリチャードに好感を持ち、リチャードもアンを好意的に見ている。ふたりは交際をはじめ、すぐに結婚へと話が進んでいく。
アンは、スイスのセアラに手紙を書いた。ところが、返事がこない。やきもきする中、手紙が返送されてきてしまう。住所をきちんと書いていなかったのだ。
セアラが帰国したときには、アンは3週間後にリチャードと結婚するつもりでいた。
それなのに、さまざまなすれ違いから、リチャードとセアラは犬猿の仲になってしまう。リチャードがセアラを家から追い出そうとする一方、セアラは、ふたりの結婚をやめさせようとする。
アンは板挟みになってしまうが……。
メアリ・ウェストマコット名義で発表された、通称「愛の小説」。母と娘の愛情について語られてます。
リチャードが結婚相手として最適解かどうかは、この際どうでもいいんです。現代人とは価値観が違うでしょうし。あくまでテーマは、母と娘。
ミステリではないクリスティーははじめて。
ミステリだから好きなんだな、と再確認しました。
2025年04月10日
キャサリン・M・ヴァレンテ(小野田和子/訳)
『デシベル・ジョーンズの銀河(スペース)オペラ』
ハヤカワ文庫SF2418
地球は異星人に侵略された。
4月下旬の木曜日午後2時。すべての家庭のリビング、もしくはそれと同等の場所、あるいは職場の休憩室、人によっては夢の中に、謎のエイリアンが出現した。
青色をしていて、身長7フィート。半分はフラミンゴ、半分は魚のような生命体は、エスカというらしい。エスカ、アルニザール帝国、ユートラック・フォーメーション、光輝ケシェット、直線性スマラグディ、ユーズ兆王国、シブ、ヴーアプレットおよび321からなる〈グレート・オクターブ〉から選ばれて地球にきたという。
地球のメディアをたっぷり観察したかれらは、人類が問題の種になろうとしていることに気がついた。銀河系には、どれが知的種族でどれがそうでないかをめぐって悲惨なことになった過去がある。人類が知的種族であるかどうか疑っているのだ。
判断するための手法は、確立されている。
人類は、銀河系一熱いナイトスポット、メタ銀河系グランプリのために一流の種族たちが集う場に招待された。音楽の祭典で一曲披露するだけでいい。最下位にさえならなければ、知的種族と認められる。
認められなかったら?
抹殺されるだけ。穏やかになった居住惑星は、つぎなる10億年かそこら、イルカかなにかでやり直すことになる。
披露できるのは、ひと組の新曲のみ。エスカは、相応の活躍をしてくれそうなミュージシャンのリストを作成してきていた。だが、情報が古く、ほとんどが死んでいる。
ダネシュ・ジャロは、リストのビリッケツに〈デシベル・ジョーンズ&絶対零度〉を見つけびっくり仰天。かつてダネシュは、デシベル・ジョーンズの名前で知られたロックスターだった。すっかり落ちぶれて、再起をはかりたいと思いながら日々を過ごしている。
ダネシュはエスカの宇宙船に連れ去られ、7000光年彼方の惑星リトストへと向かう。旅程は11日。かつてなら、11日あれば一曲かけたのだが。
なにも浮かばないままリトストに到着してしまうが……。
破天荒SF。
宇宙船には、かつてのバンド仲間オールト・セント・ウルトラバイオレット(本名オマール・カリスマン)と、飼猫のカポも乗船してます。〈絶対零度〉はミラ・ワンダフル・スターとの3人バンドだったようですが、ミラは他界していてもういません。
宇宙の種族についてのアレコレがわんさか出てきますが、主軸は〈絶対零度〉です。どういうバンドだったのか、音楽の祭典でどうなるのか。
読む人を選ぶと思います。たとえ話が厖大で、ついていくのが大変でした。だいぶ読んでから、ちょっと合わないと気がつき、気がついてから楽に読めるようになりました。
合う人はすごく楽しいと思います。