
2025年11月01日
ジョゼー・サラマーゴ
(谷口伊兵衛/ジョバンニ・ピアッザ/訳)
『修道院回想録』而立書房
(別題『修道院覚書 バルタザールとブリムンダ』)
ポルトガル王ドン・ジョアン5世のもとに、オーストリアからドナ・マリーア・アナ・ジョゼファが嫁いできて2年。王妃はいまだ世継ぎをもたらしていない。
ある日ドン・ジョアン5世に、老フランシスコ会士が告げた。マフラの町に修道院を建造する約束がなされれば、神は陛下に世継ぎを授けられましょう。むろん、その修道院はフランシスコ会のものでなければならない。
ドン・ジョアン5世は約束した。1年以内に息子を授けてくれるなら、マフラの町にフランシスコ会の修道院を建立しよう、と。
果たして、王妃は懐妊した。
そのころ〈七太陽〉の異名を持つバルタザル・マテウスは、リスボンへと歩いて向かっていた。
王の歩兵隊に入り故郷のマフラを跡にして4年。まだ26歳だが、軍人ではいられなくなった。左手の手首のところを弾丸でつぶされ、失ってしまったのだ。
マフラに帰ることも考えたが、片手ではスコップを握ることもままならない。王宮での血の代償への施し物を期待して、バルタザルはリスボンへと向かう。そして、ブリムンダと出会った。
そのときブリムンダは19歳。母親を見送るため広場にいた。
ブリムンダの母は、魔女扱いされ破門された。公衆の面前で鞭打ちの刑に処され、アンゴラ王国に追放されようとしている。
母を見守るブリムンダの傍には、バルトロメウ・ローレンソ神父。それから、たまたま居合わせたバルタザル。
ブリムンダは見知らぬ背の高い男に、ただ、名前を尋ねた。それだけで充分だった。
バルタザルと同い年のローレンソ神父は〈飛ぶ人〉と呼ばれている。気球を作り、今また大鳥(パッサローラ)を作ろうとしているところだ。ローレンソ神父には王の支持があり、サン・セバスチャン・ダ・ペドレイラのアヴェイロ公爵領を利用することを許され、実験を続けていた。
バルタザルはローレンソ神父を手伝うが、なかなか制作がはかどらない。ローレンソ神父が所用でリスボンを離れたため、バルタザルもブリムンダを連れてマフラに帰った。
マフラでは、修道院の建設がはじまっている。王妃の産んだ子は女の子だったが、ドン・ジョアン5世は約束を反古にしたりはしなかった。
バルタザルはマフラで働きはじめるが……。
史実ベースの、ある意味ファンタジー。
バルタザルとブリムンダというカップルの物語です。背景として、修道院建設のあれこれが語られます。
ドン・ジョアン5世がマフラに修道院を建立したのは史実。ローレンソ神父も実在人物で、実際に〈飛ぶ人〉と呼ばれていたそうです。
ブリムンダにはある能力があり、そのため物語が幻想的になってます。結末が匂わせで提示されていて、はっきりとは書かれていないのですが、なんとも悲しく美しかったです。
一人称で語られてますが、その一人称が誰なのか、ときどき変化しているようでした。神の視点だったり、ブリムンダの母の視点だったり。
サラマーゴはとても長い文を書く作家ですが、今作は改行こそ少ないものの句点での区切りがあるので読みやすかったです。その分、これまで読んだサラマーゴの文章にあった独特のリズムは感じられませんでした。
晩年に向けて文章が変化していって、リズムを醸しだすようになったのでしょうね。
2025年11月02日
斎藤惇夫/作、薮内正幸/画
『冒険者たち ガンバと十五ひきの仲間』岩波書店
ドブネズミのガンバが暮らしているのは、台所の床下の貯蔵穴でした。とても快適な住まいで、ガンバはすっかり満足して日々を送っていました。
そんなところへ仲間のマンプクがやってきて、海にさそいます。海へいけばきっと何かが起こる、何かが待っている。2日後には港の上屋で年に一度の船乗りネズミの集まりもある。
乗り気になれなかったガンバですが、マンプクといっしょに行くことにしました。ついてみれば、町ネズミの代表として歓迎され、飲めや歌えや大騒ぎ。楽しいひと時を過ごしました。
ガンバとマンプクが別れのあいさつをすまし帰路につこうというころ、いっぴきのやせほそったネズミが現れました。
片方の耳は何かにかまれたらしく、ぎざぎざ。尻尾は半分かみ切られ、頭や背中には鋭い傷あとが見えています。背中の傷は口が開いたままで、歩くたびに、足をつたって床に赤いしみがついていきました。
ネズミは忠太といって、風光明媚な夢見が島のネズミでした。島は300キロはなれた所にあり、船でまる一日かかります。
忠太は、みんなに助けを求めました。島にイタチのノロイ一族がやってきて、1年前には数えきれないほどいた仲間たちが、今では百にんたらずになってしまっていると訴えました。助けてもらえないだろうか、と。
ガンバは気の毒がって、助けにいこうと呼びかけます。最初はいせいのよかったネズミたちでしたが、ノロイの名を聞いて尻込みしました。
町ネズミのガンバは知らなかったのです。イタチのノロイ一族がいかに恐ろしいか。
イタチは恐ろしいけれど、なんとかなるもの。しかし、ノロイの一族となれば並のイタチとはちがう。イタチ族の中でもっとも恐ろしく、ネズミにできるのは逃げることだけ。
けっきょく忠太とともに島に渡る船にのったのは、ガンバだけでした。
ガンバはがっかりしますが、 船荷にまぎれて、覚悟を決めた仲間たちが次々とかけつけてくれました。頭のいいガクシャ、力じまんのヨイショ、足の速いイダテン、踊りの名人バレット……マンプクもいます。
ガンバも入れて、全部で十六にん。
どうすれば島のネズミたちを助けられるのか。だれにもなんにも分かりません。いよいよ島に上陸しますが……。
《ガンバの冒険》シリーズ
児童文学。
もとはといえば『グリックの冒険』のスピンオフ。時系列的には『グリックの冒険』の前日談になります。
仲間が十五匹いて、さらには島のネズミも登場します。大所帯ですが特徴が名前になっているので、混乱することなく読めました。
児童書の読みやすさって、そういう分かりやすさがあるからでしょうね。
2025年11月06日
スティーヴン・バクスター(中原尚哉/訳)
『タイム・シップ』上下巻
ハヤカワ文庫SF1221〜1222
未来から帰還した〈時間航行家〉だったが、翌朝には未来ですごした記憶がうすれているのに気がついた。身体のあちこちに痛みがあるのだから夢でないのは間違いないのだが。
西暦80万2701年の世界で〈時間航行家〉は、エロイ族の少女ウィーナを見殺しにした。火事とモーロック族のおそろしい攻撃による混乱のなか、見捨てて逃げ帰ってしまったのだ。
ふたたびあの日に行く決心をした〈時間航行家〉は、準備万端整え、タイム・マシンに乗る。
タイム・マシンを稼働させているのは、プラトナーライトと名づけた奇妙な物質の力だ。20年前のある夜、プラトナーと名のる見知らぬ人物から受け取ったものだった。プラトナーライトこそが、タイム・マシンを駆動し、この偉業を可能ならしめている。
タイム・マシンで時間を旅する〈時間航行家〉は、刻々と変わる景色を見ていた。昼と夜がまたたき、ぼんやりとしていた研究室は取り壊された。太陽は砲弾のように空を飛び、速度がどんどんあがっていく。
いつしか太陽が変化していた。空にかかった太陽の帯が静止している。もはや夏至と冬至のあいだを上下しておらず、季節は失われた。
地球の自転軸の傾きが矯正されたのだ。最初の時間航行では、こんなことは起こらなかった。そのうえ太陽は停止して殻のようなものでおおわれたらしく、あたりがまっ暗になった。
最初の時間航行でもいた謎の生物を目撃した〈時間航行家〉は恐怖に見舞われ、あとさき考えずタイム・マシンを止めてしまった。あたりは暗闇。モーロック族に捕らえられてしまう。
時代は西暦65万7208年。
モーロック族は、太陽を覆った球殻で生活している。〈時間航行家〉が最初の時間航行で出会った者たちとはまるで違う。
球殻に運ばれた〈時間航行家〉は、ネボジプフェルというモーロック族に保護された。知的だが、モーロック族にいだく嫌悪感を拭うことはできない。
またネボジプフェルも、時間航行が信じられないようだった。
〈時間航行家〉は研究に協力する名目で、タイム・マシンに近づく。機械を稼働させ脱出をはかるが……。
時間テーマSF。
H・G・ウエルズ『タイム・マシン』の遺族公認続編。
作中で現れるアイデアの数々が19世紀の人間が考えそうなことで、ウエルズになりきって書いている印象でした。物語が進んで量子力学がでてくると、バクスターらしさがでてくる感じ。
なんでも、ウエルズ発のアイデアをたくさん織り込んでいるそうです。それでウエルズらしさを感じたのでしょうね。
25年ぶりの再読でしたが、前回よりも楽しめました。
この四半世紀で、昔に書かれた物語も読んできたおかげだと思います。読書はつながりですね。
2025年11月07日
リー・W・ラトリッジ(鷺沢 萌/訳)
『猫の贈り物』講談社文庫
ぼくは、ミセス・ヴィジル(ヴィ)のところで暮らしている。
寝て過ごし、ネズミの人形で遊び、ミセス・ヴィと一緒にテレビを見る。
誕生日には、母のことを考える。毛はオレンジと灰色で瞳はエメラルド・グリーンをしていた。呼ばれれば、兄弟五人ですぐにかけつけたものだ。
隣家のミセス・ソーンヒルは十代の娘と口ゲンカばかりしている。ミスター・バトラーの花壇は居心地がいい。ミセス・ミンタケットはずっと引きこもっていたが、自分のテリトリーを広げようと努力をしている。
ある日、ミセス・ヴィは灰色の仔猫を連れ帰った。 路肩にとまった車の窓から投げ捨てられたのだという。仔猫はボビー・ブープとなづけられた。
あまりの厭気に震えが来た。
また別のある日。紙袋に入れられた黒白まだらの猫が、玄関に捨てられていた。物凄く痩せてひ弱そうな猫は、ザッカリーと名づけられた。悲しそうな顔をしたザッカリーは、窓際で道路のほうを見つづけている。
季節は進んでいくが……。
猫が書いた日記。
夏からはじまり春に終わります。
猫にも感情はありますが、淡々としてます。どうして日記を書くことにしたのかとか、解説めいたことはありません。最初の2日は「寝た。」だけでした。
日々が記録されているだけとはいっても、変化はあります。ミセス・ソーンヒルのところのケンカの内容とか。ミセス・ミンタケットの努力の成果とか。
ミステリになりそうな事件も起こります。かぎ回ったり捜査したりはしません。猫ですから。
見たそのままのことだけが書かれます。それが、なんとも絶妙でした。
ただ、そこにいてくれるだけでいい。
それが猫の贈り物なのでしょうね。
2025年11月08日
コレット(工藤庸子/訳)
『牝猫』岩波文庫
アランにとって許嫁のカミーユは、何年もまえから知っている娘だった。まあたらしいピアノの色をした髪をしていて、顔立ちにみにくいところはなく、綺麗な娘だと思う。
カミーユは、彼のことはよくわかっていると公言する。それを耳にしたアランは、ただ思いこんでいるだけだと考えている。とはいえアランも似たようなことを言っているのだから、お互い様だろう。
アラン24歳、カミーユ19歳。
結婚を控え、アランの実家は改装工事中。ふたりの新居とするためだが、結婚式までに完成しそうにない。しばらくカール=ド=ブリの奇妙なビルの十階の部屋を借りることになった。
カミーユとしては、ずっとそちらに住みたいようだ。アランはなれ親しんだ家から離れがたい。だが、カミーユにここで暮らしてほしいとも思えない。
アランにはかわいがっている牝猫のサアがいた。
アランはサアに惚れこんでいる。サアもアランによくなついている。カミーユは、サアのことがあまり好きではない。
結婚してアランは家を出た。
サアは実家に残してきた。なれた環境のほうがいいと考えたのだ。ところが、久しぶりに会ったサアは元気がない。アランがいないので淋しがって、食欲が落ちているのだという。
心配したアランは、仮住まいにサアを連れていくが……。
コレット円熟期の小作品。
コレットはフランス女性ではじめて国葬になったという作家。
結婚前から、このふたり大丈夫かな、という危うさがありました。サアの同居で不穏が膨らんでいきます。
一言だけいうと、サアは無事。それは救いでした。
2025年11月09日
アン・マキャフリー(赤尾秀子/訳)
『だれも猫には気づかない』創元推理文庫
エスファニア公国ジェイマス5世の摂政、マンガン・ティーゲがこの世を去った。
マンガンは、幼くして両親を亡くしたジェイマス公を支え、エスファニアを平和のうちに栄えさせた。人々から慕われ徳と教養にあふれた人物でも、年齢には勝てない。だが、死期をさとり、準備を手配するだけの時間はあった。
ジェイマス公を教育したのはもちろん、分別ある助言者をも育てた。なかでもとっておきの護衛は、黒煙色の猫ニフィだった。
マンガンのそばには、いつもニフィがいる。歩くときには肩に乗り、執務中は机に広げた書類のうえにすわりこむ。ニフィは、とても賢い猫だった。
マンガンはよくジェイマス公に語っていた。ニフィは、問題を解決するための心のやすらぎをあたえてくれるのだ、と。
マンガンがいなくなると、ジェイマス公のそばにニフィの姿が見られるようになった。マンガンといっしょのところを見なれているせいか、とくに目を引くこともなかった。
このころのエスファニア公国の気がかりは、国境線だ。版図を拡大させている南のエグドリル王にどう対処すればいいか。
ジェイマス公は、バークアス狩りに招待することを思いつく。エスファニア人がどうやって侵略者を相手にするか、見せてやろうというのだ。
ジェイマス公は同行する貴族たちを選定し、ニフィも連れていくことを決める。ニフィがその気なら。
エグドリル王の一行が到着し、狩りがはじまるが……。
中世ヨーロッパ風のファンタジー。
ニフィ大活躍。なんとも絶妙な存在感で、猫という特性を逸脱することなく、ジェイマス公の役にたっていきます。偶然なのか、それとも……?
けっこう都合良く展開していくので、物足りなさはありました。それも猫の存在感でカバー。とにかく猫がいいです。
2025年11月10日
ギルバート・モリス(羽田詩津子/訳)
『猫探偵ジャック&クレオ』ハヤカワ文庫HM
メアリー(ケイト)・キャサリン・フォレストは29歳のシングルマザー。午前中はファストフード店で、午後はウォルマートで働いている。
ケイトはハイスクールを卒業後に結婚し、息子ジェレミーを産んだ。パイロットだった夫は、飛行機がハリケーンで墜落して帰らぬ人となっている。保険金は残さなかった。
ジェレミーはもう12歳。頭はいいのだがきわめて繊細で、なかなか友だちができないようだ。ケイトは心配するものの、どうすることもできない。
傷心のケイトをなぐさめてくれるのは、一緒に暮らす2匹の猫たち。
ラグドールのクレオパトラ(クレオ)は、長く白い毛が豪奢なシルクのよう。顔が笑っているように見える。
ジャックは、切り裂きジャックからとった。アフリカの野生種の猫と家猫の混血であるサヴァンナという種類で、ひどく攻撃的だ。ケイトにはなついている。
ケイトのかけもち仕事も6年になり、すっかりすりきれてしまった。そんなとき、幸運が舞い込む。
ゾフィア・クシージョヴァという女性が亡くなった。ケイトはまったく知らなかったが、祖父の姉だという。遺言執行者に指名された弁護士によると、ケイトが相続人だというのだ。
近しい親族のいないゾフィアの財産は、アラバマ州ホワイト・サンズの浜辺の7区画の地所とりっぱな屋敷。優良安全な株への投資もある。相続すれば、株の値動きにもよるが、毎月数千ドルの小切手を受け取れる。
ただし、相続には条件があった。
地所を売ることはできず、屋敷に住まなければならず、残されたペットたちが健やかに過ごせるよう世話しなくてはならない。ゾフィアにとって、ペットたちは子ども同然だったのだから。
ケイトは同意する。ジェレミーにも依存はない。
しかし、問題がもちあがる。
相続人がもうひとりいた。ケイトがゾフィアの弟の孫なら、ジェイク・ノヴァクは妹の孫。権利は等しい。
ジェイクは、30歳。18歳のとき軍隊に入り、デルタ・フォースに配属された。2年勤務して除隊するとシカゴ警察に入り、2年間パトロール警官をしてから殺人課に。現在は作家になるべく執筆に勤しんでいる。
ケイトとジェレミー、そしてジェイクの奇妙な同居生活がはじまるが……。
ミステリ。
ジャックとクレアの猫同士の会話がときどき挟まります。社交的なクレアは、ジェイクにも愛想良くします。一方、ジャックは敵対心むき出し。
事件が起こるまでが長いです。猫がいろいろかぎまわって事件を解決に導く姿を想像していると、少しちがうかな、と。猫のおかげで発見するようなことはあるのですが。
ケイトが信心深いこともあって、ミステリとはちょっと違う感覚でした。
2025年11月11日
スーザン・フロンバーグ・シェーファー(羽田詩津子/訳)
『黒猫フーディーニの生活と意見』新潮社
猫のフーディーニは、自伝を書き記すことにした。
もとはといえば、グレース・ザ・キャットを託されたことにはじまる。フーディーニの考えでは、いたずらに夢中な幼いグレースに助言してやったり、世の中とその仕組みについて説明したりすることを期待されているのだろう。
そこで、人間世界における家猫としての自伝を書き記すことにした。グレースが人生に何を期待すべきか知り、おのれの運命を受け入れ適応しておくことは必ず役に立つ。すべての家猫に求められていることでもある。
フーディーニは、生まれたときのことから思い返していく。
生まれたのは、壁の隙間だった。そのころは人間から隠れていて、母と暮らしていたのだ。まもなく母は、アパートの地下室という快適な居場所を見つけてきた。
ある日、母が帰ってこなかった。残されたフーディーニは人間から逃げ続けるが、まもなく捕まってしまう。
風邪をひいてしまったのがいけなかった。捕まり、食べられてしまうと恐怖にふるえるフーディーニは、動物病院に連れていかれてしまう。しかし食べられることはなく、フーディーニは見知らぬ男と女にひきとられた。
フーディーニはまだ人間を警戒している。しっかり用心しなければ。まもなく犬に引き合わされた。
母の教えでは、犬には近寄ってはいけない。シチュー鍋に入れるためなら何だってやる人間がいる。ときには、友人だと思っていた人間が、実は猫のフライの完璧なレシピを持った辛抱強い女だったということもある。
フーディーニの前に現れた犬が、また大きかった。狼そっくりで、しかも狼よりはるかに大きい。犬の餌にするつもりだろうと思った。
ところが、犬は食べることに興味がなさそうだ。フーディーニは少しずつ日々になじんでいく。
犬の名前はサムといった。おだやかなサムとフーディーニは友だちになり、協力しあう関係になった。フーディーニとしては、グレースには犬は危険だと教えたいのだが……。
猫の半生記。
フーディーニによる作者前書きがつき、本を書くことになったいきさつがまじめに語られます。
そんなこともあって、後輩猫に対する指南書を想像して読みはじめました。実際、序盤はそういう雰囲気です。グレースに一方的に語っているうち、グレースも反応するようになっていきます。
終わってみれば、猫と犬の友情物語だったな、と。
序盤で、グレース登場の経緯が語られてます。
サムがいなくなったことでフーディーニがさびしがり、そんなフーディーニをかわいそうに思った飼い主がグレースを迎え入れた、と。サムはどうしていなくなったのか。フーディーニの関係とともに語られていきます。
犬もいいな、と思いました。
フーディーニに言わせると、サムは特別。そんな犬は滅多にいるもんじゃない。
ふたりの友情がアツイです。
2025年11月12日
ロバート・ウェストール/作、ジョン・ロレンス/絵
(坂崎麻子/訳)
『クリスマスの猫』徳間書店
1934年。
両親が外国に行き、11歳のキャロラインはサイモンおじさんとクリスマスを過ごすことになった。
サイモンおじさんは教区牧師。このころの教区牧師には大きな力があり、こわがられていた。キャロラインも牧師館で過ごしたいとは思っていない。
牧師館についてみると、黒いれんがの建物が高い塀と緑の門に囲まれ、まるで刑務所のよう。サイモンおじさんはやさしい人だが、キャロラインがいることを忘れてしまう。家政婦のミセス・ブリンドリーからは敵視され、牧師館は居心地が悪い。
広い牧師館で暖められているのは、おじさんの書斎と台所だけだ。キャロラインは外で遊べと追い出されてしまう。かといって緑色の門をでて街にでることはできない。
キャロラインは敷地内の森を探検し、使われていない古い馬屋を見つけた。黒白の猫という友だちができる。猫はがりがりのながい足をしていて、おなかだけはぱんぱんだった。
それから、不法侵入のボビーという少年と出会った。
労働者の子であるボビーは、ブルジョワを敵視している。ブルジョワは銀の皿から気どってごちそうを食べ、大きな車で走りまわって労働者を踏みつぶす。革命がおこったら、街灯からぶらさげてやる、という。
すべて大人の受け売りだ。
キャロラインはおもしろがり、ふたりは仲良くなった。
ボビーが言うには、みんな自分が食べるのがやっとで、猫を食わせることはできない。子猫が生まれても、きっと殺されてしまう。
そのときキャロラインは、ようやく気がついた。生きるか、死ぬかという話なのだ。ミセス・ブリンドリーに猫が見つかったら、きっとひどいことするだろう。
ふたりは協力して猫を守ろうとするが……。
老婦人が孫娘に語ってきかせるスタイルの児童文学。
神さまのいたずらか、単なる偶然か。
キャロラインの心に残ったエピソードが心にしみました。
2025年11月21日
エリザベス・コーツワース
(藤田嗣治/絵、矢内みどり/訳)
『夜と猫』求龍堂
猫テーマの叙情詩集。
収録作は以下の34作品。
「夜会」
「猫はどこにいるの」
「母と娘」
「日曜日」
「隠遁者」
「平穏なヤカン」
「ある雪の夜に」
「炉端の子猫」
「雨」
「暗闇の詩」
「田舎の庭」
「田舎の猫」
「猫とオーロラ」
「夜の足跡」
「風と雨」
「自動車と猫」
「黄色い猫」
「道連れ」
「子猫」
「ある若い猫の肖像」
「開いた扉」
「ロックアウト」
「子猫たちが遊ぶ時」
「猫」
「おまえがしたいように」
「単純な方式」
「クリスマス・イブ」
「白鳥の綿毛(スワンズダウン)、という名の子猫」
「四月の夜の猫」
「島の猫」
「まぼろし」
「男と子猫」
「亡命者」
「猫を呼び込む」
猫によびかけるもの、猫のようすをつづったもの、猫の居住まいを賞賛するもの、などなど。猫づくし。闇夜に消える猫の姿が目に浮かぶようでした。
藤田嗣治の猫はすべて線画です。