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2025年の記録
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このページの本たち
魔術師』江戸川乱歩
見知らぬ人』エリー・グリフィス
湖畔荘』ケイト・モートン
複製された男』ジョゼ・サラマーゴ
SAND LAND』鳥山 明
 
最終人類』ザック・ジョーダン
口訳 古事記』町田 康
書斎の死体』アガサ・クリスティー
ウィンダム図書館の奇妙な事件』ジル・ペイトン・ウォルシュ
サリー・ダイヤモンドの数奇な人生』リズ・ニュージェント

 
各年の目録のページへ…

 
 
 
 

2025年05月12日
江戸川乱歩
『魔術師』青空文庫

 素人探偵の明智小五郎は、大きな事件を解決したところで休養を取った。東京を離れ湖畔のホテルに宿泊し、ボートを借りて湖水を漕ぎ廻る。ホテルのサービスも申し分ない。
 明智がボートに乗せてやった子供達の中に、進一という10歳ばかりの男の子がいた。
 進一は身寄りのない子で、大宝石商の玉村家令嬢の妙子が自分の弟のようにして育てている。進一を介して明智と妙子は親しくなった。
 明智は、若く美しく聡明な妙子に惹かれていた。しかし、自分が40に近い中年者であることを自覚してもいる。考えあぐねている間に、妙子は東京に帰っていった。
 3日後。
 明智のもとに警視庁の浪越警部から帰京の要請があった。実業家の福田得二郎のところで妙な事件が起っているという。
 ある朝、得二郎が眼を覚ますと、布団の上に一枚の紙が置いてあった。大きく「十一月廿日」とだけ書いてある。寝室には鍵をかける習慣で、施錠に問題はなかった。
 翌日には「十四」と書かれた紙が、さらに翌日は「十三」と書かれた紙があった。何かの通告書ではないかと思うが、それがなにか分からない。
 あれこれと屋敷の守りを固めたものの、毎晩届けられる数字の書かれた紙は、とうとう「三」まできた。得二郎は浪越警部に相談し、不気味な出来事のことは玉村家にも伝わった。
 福田得二郎の実兄が、妙子の父である玉村善太郎なのだ。事件を耳にした妙子は、明智小五郎の名を口にした。
 明智は、妙子の推薦と聞いてすぐに東京へと向かう。上野駅には、福田家から迎えの車が来ていた。明智は乗り込む直前にためらったが、車に押し込まれ誘拐されてしまった。
 一方、福田家では、駅に迎えをやっていたが、どうしたわけか家中の時計という時計が15分遅れており、明智と会うことができなかった。だが、それほど深刻にはとらえず、紙の数字が「〇」になるまでにはまだ三日あると考えていた。
 11月17日。
 福田得二郎は殺されてしまった。明智が行方不明になっていることも判明するが……。

 《明智小五郎》シリーズ。
 事件が起るのは『蜘蛛男』の10日ほど後。とはいえ、つながりはないです。あの事件で疲れた明智が、ひとりのんびり静養しようと考えた、というだけです。
 最初の恋愛にはじまり、奇妙な脅迫文があったり、困難な状況から脱出したり、明智の訃報が流れたり、矢継ぎ早にいろんな出来事が起ります。
 発表当時大人気だった、というのも頷けます。


 
 
 
 

2025年05月13日
エリー・グリフィス(上篠ひろみ/訳)
『見知らぬ人』創元推理文庫 

 クレア・キャシディは、タルカーズ校の英語教師。
 5年前に就職したときには無政府状態の一歩手前だった。その2年後には校長が代わり、学校もよくなった。15歳の娘も通っている。
 2017年10月23日月曜日。
 中間休みのため、タルカーズ校に生徒の姿はない。成人向けの講座が開かれており、クレアは創作クラスを、ローランド・モンゴメリー・ホランドの「見知らぬ人」を教材に教えている。
 実は、タルカーズ校の旧館は、かつてホランド・ハウスだった。
 旧館というより別館といった役割で、食堂と厨房と礼拝堂があり、校長室もある。古い図書室も。生徒は立ち入り禁止になっている最上階には、当時のまま保存されたホランドの書斎があった。
 ホランドが住んでいたのは、1902年まで。世捨て人のような生活で、でかけることはほとんどなかったという。ホランドの伝記を書こうとしているクレアには、ホランド・ハウスで働けることは感慨深い。
 講義のあとクレアは、英語科主任のリチャード(リック)・ルイスから電話をもらった。同僚であり友人のエラ・エルフィックが死んだ知らせだった。エラは昨夜、家に押し入った何者かに殺されていた。
 クレアもエラの関係者として、ハービンダー・カー部長刑事から聴取される。
 クレアは、エラとリックが不倫関係にあったことを言いだせない。リックはクレアを口説こうとしていた時期もあり、感情は複雑だ。
 エラの遺体のそばにはメモが残されてた。エラが学校で教えていた、シェイクスピアの『テンペスト』からの引用だ。「見知らぬ人」に登場する一節でもある。
 クレアは、事件がホランドの「見知らぬ人」と類似していることに気がつくが……。

刑事ハービンダー・カー》シリーズ第1作。
 オカルト寄りミステリ。
 物語はクレア視点で始まりますが、カーと、クレアの娘ジョージー視点でも語られます。
 カーは初対面のときにはクレアを嫌っていますが、少しずつ意見が変化していきます。刑事として、またマイノリティーとして、教職に就いている白人女性であるクレアとの視点の違いが興味深いです。
 ジョージーは、どこにでもいそうなティーンエイジャーですが、クレアが考えている「こういう娘」というイメージとは少しズレてます。一緒に暮らしてはいても、クレアの知らないことを知っていたり、見方がちがっていたり、考えさせられました。
 なお、クレアは就職する前に離婚しています。元夫との仲はよくないですが、ジョージーは週末には父親の家にいってます。

 クレアは少々クセのある人物で、読み辛さが先行してました。
 カーの視点に切り替わり、ジョージアに移って、またクレアに戻ってくるころには、ほかの人から見たクレアが把握できたおかげで、読み続けることができました。
 知ってると理解しやすいって、見知らぬ人は不気味だというのと通じてますね。


 
 
 
 

2025年05月18日
ケイト・モートン (青木純子/訳)
『湖畔荘』上下巻/東京創元社

 1933年6月23日。
 アリス・エダヴェインは、コーンウォールの〈ローアンネス〉で暮らしている。
 屋敷は深い谷間にあり、茨がみっしりと絡みつく森に囲まれていた。先祖代々の住まいであり、愛着を抱いているアリスは生涯〈ローアンネス〉からはなれるつもりはない。
 1年前。庭で働くためベンジャミン(ベン)・マンローがやってきた。アリスはベンとの交流で創作意欲をかきたてられ、はじめてのミステリ小説を書く。
 舞台は、田舎の広大な屋敷。ひとりの探偵と、各人が重大な秘密を抱える家族が暮らしている。そこで幼児が誘拐される……。
 ふたりの仲を周囲に知られないよう、アリスは最新の注意を払っていた。小説が本になったら、献辞で、ベンとの関係が明らかになってしまうだろう。それでも構わなかった。
 2003年。
 セイディ・スパロウは、コーンウォールの祖父の家に滞在している。
 警察官になって10年。刑事課に配属されて5年。幼女置き去り事件を担当したが、ただの置き去り事件だったとして捜査が打ち切りになった。
 セイディは納得できない。犯罪が絡んでいるという考えに取り憑かれ、記者にリークしてしまう。結果、強制的に長期休暇を取ることになり、コーンウェールに追いやられてしまった。
 人はしばしば行方不明になる。何らかの不運に見舞われての場合もあるが、自発的に姿をくらます場合もある。そのことは職業柄知っていた。
 セイディは、職場復帰してもいいという連絡を待ちわびている。だが、なんの音沙汰もない。祖父宅の犬をお供に、森の道をジョギングして発散しようとする。
 セイディは森の向こうに、荒れはてた庭と湖を見つけた。レンガ造りの威風堂々とした屋敷もある。窓からのぞくと、今にも住民が帰ってきそうな様子がありながらも、積もる埃がはっきりと見えた。
 デスクの上で本が山になっている。そのさらに上には、子供の顔の素描が放置されている。1933年6月23日の日付があった。
 セイディは確信する。この家で、何か恐ろしいことが起きた。
 祖父に聞くと、地元では有名な事件だという。70年前〈ローアンネス〉の屋敷の幼児が失踪した。手を尽くして捜したが、見つからなかった。
 未解決事件に興味をひかれたセイディは調べはじめるが……。

 70年前の幼児失踪を巡るミステリ。
 ですが、どちらかというとロマンス小説。
 ミステリだと思って読むと戸惑うかもしれません。ミステリ要素があるロマンス小説、と思って読んだほうが入りやすい気がします。最初はなにを読んでいるのか分からず、中盤から俄然おもしろくなっていきました。

 物語は、1933年と2003年を中心に、さまざまな時代を行きつ戻りつして展開していきます。アリスの両親の若かりしころのエピソードもあります。
 アリスは2003年も健在。ミステリ作家として売れっ子になっています。セイディはアリスに手紙を書きますが、アリスからの返事はありません。
 セイディが暴走してしまった原因も明らかにされます。
 終わってみれば、なにを読んでいるのか分からなかった序盤の意味が分かるようになってました。ちゃんと読み切ってよかった。


 
 
 
 

2025年05月22日
ジョゼ・サラマーゴ(阿部孝次/訳)
『複製された男』彩流社

 テルトゥリアーノ・マッシモ・アフォンソは、このところ気が滅入っている。
 38歳で、離婚してから6年が経つ。なぜ結婚することになったのか憶えていないし、今は別れた原因さえ思い出したくない。あこがれて就いた歴史の教師という仕事も、やりがいどころか労苦となってしまっている。
 そんなとき、同僚の数学教師から映画「たゆまぬ者は狩を征する」を薦められた。 傑作ではないが、90分ほど楽しめるだろうから、と。4〜5年前に封切りされたものらしい。
 ビデオを借りて見たテルトゥリアーノは驚愕する。自分が出演していたのだ。
 ホテルのフロント係を演じている男には、口ひげがあった。自分にはない。ヘアスタイルや、ほっそりした顔も違う。それ以外はまったく同じだった。
 そのときテルトゥリアーノは思い出した。5年前は口ひげを生やし、今とは異なったヘアスタイルで、顔はほっそりしていた、と。
 鏡を見たテルトゥリアーノは、この鏡の中の男はあの俳優ではないのかと疑い、恐怖にかられてしまう。はげしく動揺し、俳優の正体を突き止めようとする。
 あのフロント係は、その他大勢だった。その役が誰だったのかは分からない。そこで、同じ制作会社の映画を片っ端から見て、自分を探した。
 テルトゥリアーノは、自分と同じ顔の俳優を次々と発見していく。男はさまざまな端役で登場していた。その都度、出演者一覧を調べ、他の作品と対照していき、ついに俳優がダニエル・サンタ・クララであることを掴む。
 テルトゥリアーノは、ダニエルに連絡をとろうとするが……。

 思案型小説。
 サラマーゴはとにかく文体が独特。一人称ではないのですが〈意識の流れ〉系で、語りも会話も地文に組み込まれ、途切れることなく語られます。
 今回は翻訳者の配慮で会話文が「 」で囲まれてました。ただ、改行されていないので分かりやすくなっているかは微妙。
 流れで読めるなら「 」がなくても支障はないし、流れで読めないなら「 」があっても分かりづらいだろうと思います。
 要は、サラマーゴのリズムに乗れるかどうか。

 それにしても、毎回(まだ4冊目ですが)サラマーゴの発想には驚かせられます。


 
 
 
 

2025年05月23日
鳥山 明
『SAND LAND』集英社

 砂漠がすべてという世界。人間たちの諍いがようやく終わったのも束の間、ひとつきりだった川の流れが止まった。
 たったひとつの水源は国王のもの。国中が水不足であえぐなか、国王がすべての水を握り、おもいのままにコントロールしている。
 水に困っているのは、魔物たちも同じ。魔物たちを統べる大魔王サタンの息子ベルゼブブは、国王の水運搬車を襲っては仲間たちのために水を確保している。
 ある日、魔物たちのもとに、近くの町で保安官をしているというラオが訪ねてきた。
 ラオは魔物たちに、砂漠のどこかに〈幻の泉〉があると力説する。というのも、淡水性の小魚を食べる小鳥が、繁殖のため毎年飛んできているのだ。おそらく砂漠の南のどこかに生息地があるのだろう。
 砂漠の南への旅は危険と隣合せ。ラオは、私利私欲にはしる国王に不信感を募らせている。そこで魔物の力を借りたいという。
 王子ベルゼブブは、護衛を引き受けることにする。
 物知りで窃盗が得意なシーフもつれ、砂漠の旅が始まるが……。

 全1巻の、漫画。
 砂漠の旅と、国王が隠している水を巡る秘密。
 問題はいろいろ発生しますが、すんなり解決します。膨らませられたと思うのですけど、潔さが、テンポのよさに繋がっているのでしょうね。
 あっさり読めてしまうとはいえ、きっちり描き込まれていて手を抜いた感はないです。ひとつの絵だけで説明できていたり、小説とはちがったおもしろさを味わいました。


 
 
 
 

2025年05月25日
ザック・ジョーダン(中原尚哉/訳)
『最終人類』上下巻/ハヤカワ文庫2320〜2321

 サーヤは、ウィドウ類シェンヤの養女。
 シェンヤにとって、サーヤは謎だ。外骨格を持たず、外肢が4本しかなく、しかもそれぞれ先端で5本に枝分かれしている。体表をおおうのは、皮膚とかいう脂ぎって血の色が透けた表皮。なんとも奇怪な目はふたつきり。
 悪夢のような姿だった。だが、シェンヤは、そんな姿でもサーヤに母性を刺激され、母として守り育てている。
 サーヤはウィドウ類の本能を学び、スバール類として成長した。実のところは、人類だ。人類だと知られたら殺されてしまうから、隠さねばならない。
 サーヤとシェンヤは、ウォータータワー・ステーションで暮らしていた。
 住民たちは、頭にネットワーク・コミュニケーション装置を埋め込んでやりとりしている。種族を隠しているサーヤは、ネットワーク手術を受けられない。ネットワークから閉め出されていることに不満をつのらせている。
 ネットワークとは、銀河史上最大の知性体の集まり。5億年以上前から数百万種族のコミュニケーションをささえ、紛争を防ぎ、科学技術の提供と規制をおこなってきた。ネットワーク亜空間トンネルを使った、超高速旅行やデータ転送も担っている。
 そこに人類の居場所はない。
 自分の将来を悲観するサーヤにシェンヤは、装身具状のネットワークユニットを贈った。大喜びしたサーヤは早速身につけ、社会見学グループに参加して展望デッキへとむかう。
 展望デッキでサーヤは、オブザーバー類に出会った。
 かれらは巨大集合精神。自分を構成する十億の精神間をテレパシーでつないでいる。ステーションの中央知性体をも低階層と呼び捨てるほどの、圧倒的な精神能力を持っている。
 オブザーバー類はサーヤを知っていた。ドッグAの知り合いに話を聞きにいけ、という。サーヤの出生の秘密を知っている、と。
 罠だった。サーヤはなんとか逃げのび、シェンヤのもとにむかう。シェンヤは敵を撃退するが、自身も深手を負ってしまった。
 そのころステーションは、1000年ぶりに人類の新たな目撃情報があったと大騒ぎ。全住民に脱出を促し、崩壊のカウントダウンがはじまる。  
 サーヤは負傷したシェンヤを助け、脱出を図るが……。

 遠未来SF
 この時代の人類は根絶されていて、もはや生き延びていないはずの存在になってます。それではサーヤは、どこから、どうやってシェンヤのもとにやってきたのか?
 そのあたりの謎もきちんと説明はされます。
 説明はあるのですが。あるのですが。
 謎が謎のまま、また別の謎がでてきてもやもやしてしまって。
 謎の提示と解決のタイミングとか、情報の出しかたとか、どうも合わなかったようです。残念。


 
 
 
 

2025年06月01日
町田 康
『口訳 古事記』講談社

 天と地が始まったとき、高天原に三柱の神が成った。そのとき地はまだ固まっておらず、水に浮かんだ脂、漂うクラゲのようであった。そんな中、植物の茎が伸びるように伸びてきた物があり、そこに二柱の神が成った。
 これらの五柱の特別神たちは天に属しており、その身体を隠した。次の二柱も身体を隠したが、その次の男女五組の神たちは一対で此の世に力を及ぼす神で、身体を隠さなかった。
 最初に現れた五柱の天つ神たちが、集まって相談した。
 浮遊するブヨブヨのところを、もっとちゃんとして、国として成立するようにしてはどうか、と。それと、それを誰にやらせるか、ということを。
 天つ神たちは最後に成った伊耶那岐神と伊耶那美神を選び、天の沼矛を渡した。
 命令されたものの、伊耶那岐と伊耶那美にもどうすればいいのか分からない。天の沼矛でブヨブヨでドロドロのところをかき回してみたりと、試行錯誤して国土を生み、神々を生んだ。
 そのさなか、伊耶那美が火の神を生んだために大火傷を負って死んでしまう。悲しんだ伊耶那岐は、黄泉国まで伊耶那美に会いにいった。
 伊耶那美は姿をみせない。声だけで、黄泉国の火で調理したものを食べてしまったので、黄泉国に居なければならないと告げた。
 なおも伊耶那岐は食い下がる。とうとう伊耶那美も折れた。黄泉神と交渉するので待つように言われるが、伊耶那岐は待ちきれなかった。
 伊耶那岐は、禁じられていた伊耶那美の姿を見た。
 腐敗して変わり果てた伊耶那美に、伊耶那岐は恐怖する。大慌てで逃げるが、激怒した伊耶那美が手下を引きつれて追ってくる。伊耶那岐は葦原中国と黄泉国の通路である黄泉平坂に、巨大な岩を置いて通れないようにした。
 なんとか逃げのびた伊耶那岐は、黄泉国の穢れを払おうと身を清めた。
 こうして、左の御目を洗ったとき天照大御神が、右の御目を洗ったとき月読命が、御鼻を洗ったとき健速須佐之男命が生まれた。伊耶那岐は、それぞれが高天原を、夜之食国を、海洋を統治するように命じるが……。

 日本最古の歴史書(ほぼ神話)の『古事記』を口訳したもの。
 分かりやすくておもしろい、という評判を耳にして読んでみました。
 構成は変わってなかったです。現代人にも分かりやすいようにたとえ話を入れたところもあれば、小難しいままのところもあります。もっと大胆に変えてしまってもいいのに、と思うのですが、なかなか難しいのでしょうか。
 最大の特色と思うのは、会話がコントだったこと。
 天照大御神が「マジですか」などと言うのに違和感があって。どうやら向いてなかったようです。


 
 
 
 

2025年06月02日
アガサ・クリスティー(山本やよい/訳)
『書斎の死体』ハヤカワ・クリスティー文庫36

 ドリー・バントリー夫人は、メイドのヒステリックな声に起こされた。書斎に死体があるという。夢を見ているのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。となりでまだ眠っていた夫アーサーを起こし、書斎に向かわせた。
 警察署では巡査が、ゴシントン館からの電話を受けた。館の主は退役大佐で、この地区の主席治安判事。そのアーサー・バントリーが、誰も知らない女が書斎で絞殺されているという。
 そのころジェーン・マープルも電話を受けていた。バントリー夫人からだ。
 ミス・マープルはバントリー夫人の友人であり、村の名探偵として知られている。殺人事件の解決に大活躍したこともある。バントリー夫人は、謎を解く手伝いをしてもらいたがっていた。
 承諾したミス・マープルはゴシントン館にかけつける。
 死んだ女はとても若く、落ち着いた書斎には不釣り合いな、けばけばしい姿で横たわっていた。
 ほっそりした身体を包むのは、背中が大きくあいたスパンコールつきのイブニング・ドレス。下品なサテンの安ピカ物だ。爪を噛む癖があったらしく、爪は短かった。
 窓がこじあけられているものの、どう見ても泥棒に入るような服装ではない。ダンスか、何かのパーティに行くような格好だった。
 ミス・マープルがパーティで連想するのは、バジル・ブレイクくらい。セント・メアリ・ミード村は、若い子にはおよそ不似合いな場所。そんななかバジル・ブレイクは、何度もパーティを開いている。
 謎が深まるなか、ルビー・キーンという名前が浮上してきた。
 ルビー・キーンは、となりの州のマジェスティック・ホテルで、ダンサーとして働いている若い女。ゴシントン館から30キロほど離れたところだ。失踪の届出があったのだ。
 マジェスティックには、ルビーのいとこであるジョゼフィン・ターナーもいる。ジョゼフィンが身許を確認するが、なぜゴシントン館なのか、ジョゼフィンも困惑していた。
 そもそも失踪を連絡したのはジョゼフィンではなく、滞在客のコンウェイ・ジェファースンだった。ジェファースンのことは、バントリー夫婦もよく知っている。
 ミス・マープルとドリーは謎を調べるため、マジェスティック・ホテルへと赴くが……。

 《ミス・マープル》長編第2作。
 殺人事件をめぐるミステリ。
 殺人事件だけでなくそれ以外でも、いろんな人がいろんな動機で動いていて、すんなり読めてしまうのにとても深いです。


 
 
 
 

2025年06月04日
ジル・ペイトン・ウォルシュ(猪俣美江子/訳)
『ウィンダム図書館の奇妙な事件』創元推理文庫

 イモージェン・クワイは、ケンブリッジ大学はセント・アガサ・カレッジの学寮付き保健師。これまでの32年の人生でたびたび不運をこうむってきたが、現在は幸運に恵まれたと考えている。なにしろ仕事場が地下ではなく、窓から、名高い方庭や芝生を眺められるのだから。
 1992年2月の朝。
 学寮長が、取り乱したようすでかけこんできた。図書館で、とんでもないことが起こったという。みんなに利用される図書館ではなく〈ウィンダム図書館〉のほうだ。
 この朝、ウィンダム図書館長が鍵を開けると、男子学生が仰向けに倒れて死んでいた。頭の下に大きな真紅の血だまりができ、そばの読書用テーブルの角には血と毛髪がついている。テーブルの下の床には、蔵書の『古今の宇宙論』が落ちていた。
 この場にいる医療のプロはイモージェンだけ。死んでいることを確認し、学寮長に、警察に電話するよう進言した。自分ひとりで転んだ体勢ではなかった。
 学生は、フィリップ・スケロー。とある田舎の公立校から初めてセント・アガサ・カレッジに入学を許され、最優秀の成績を修めることを期待されていた。
 その彼が、なぜ〈ウィンダム図書館〉にいたのか。
 寄贈者のクリストファー・ウィンダムは莫大な資産の持ち主で、革命期の内乱で疲弊したセント・アガサ・カレッジを救ってくれた。だが、神秘主義者で、天動説を信奉する頑迷な人物でもあった。書架の本を一冊も増減させない条件がつけられた〈ウィンダム図書館〉は、もはや印刷術の歴史をたどる資料としての価値くらいしかない。
 警察の捜査がはじまるが、警官たちは思わぬ壁にぶつかった。学生たちが、ことごとく非協力的だったのだ。みんなが怯えており、何かを隠そうとしている。
 そのうえ警察は、スケローのルームメイトであるジャック・タヴァハムを見つけられずにいた。事件に関わっているのか、いないのか、なにも分からない。
 イモージェンは、知り合いの巡査部長に頼まれ、学生たちと話をするが……。

イモージェン・クワイ》シリーズ第一作。
 翻訳されたのは2022年ですけど、原書は1993年のもの。
 結末には、この先いい未来が待っているんじゃないかと、死んだ者が生き返ることはないけれど、一条の光を見たように思います。
 ミステリなので、なにを書いてもネタバレになってしまう気がします。いろいろありました。いろいろ。


 
 
 
 

2025年06月07日
リズ・ニュージェント(能田 優/訳)
『サリー・ダイヤモンドの数奇な人生』ハーパー・ブックス

 サリー・ダイヤモンドは、精神科医トーマスと内科医ジーン夫妻のもとで育った。ふたりが本当の両親ではないことを知ったのは、9歳のとき。高校を卒業した1年後には、ジーンが亡くなった。
 以来、辺鄙な町クリックシーディのはずれに建つ家で、トーマスを父としてふたりで暮らしている。
 サリーは人が好きではなく、でかけるのは必要最小限。ジーンのクリニックの共同経営者だったドクター・アンジェラ・キャフリーだけは信頼している。
 2017年11月29日。
 トーマスが亡くなった。享年82歳。朝になってサリーがお茶を運んでいったときには、ベッドの中で冷たくなっていた。
 サリーはかねがねトーマスから、死んだらゴミといっしょに出すよう言われていた。ゴミはいつも、納屋の横の家庭用焼却炉で燃やしている。サリーはなんの迷いもなく、死体を運んで火をつけた。
 5日後。
 郵便局に行ったサリーは自身の給付金を受け取り、トーマスの年金は返した。局員には、父はもう死んでいて、自分で燃やしたから葬式はしないと説明しておいた。
 噂を聞きつけて、アンジェラが訪ねてくる。警察に連絡しなければならないと説得されるが、サリーは納得できない。アンジェラには、トーマスが遺した「死後開封」という封書を渡した。
 サリーはもうすぐ43歳になる。トーマスが想定した「死後」がいつなのか確信が持てず、誕生日になったら開けようと考えていた。そのため内容は知らない。
 トーマスは葬儀の指示を書き残し、サリーの出生の秘密も明かしていた。
 サリーの実母デニース・ノートンは、11歳のときコナー・ギアリーという男に誘拐された。14年におよぶ監禁生活では、精神的にも性的にも虐待されていた。
 デニースは助けられた翌年に亡くなり、逃亡したコナーの行方は今もわかっていない。デニースの両親はサリーを引き取ることを拒否した。サリーは、デニースの娘であると同時に、コナーの娘でもあるのだ。
 サリーの出生の秘密は、トーマスの遺体を燃やした事件とともに報じられた。海外まで配信されたらしい。ニュージーランドから小包で、古いテディベアが送られてきた。
 実は、サリーには6歳までの記憶がない。事件のこともデニースのことも憶えていない。それでも、そのテディベアの名前が「トビー」だと確信する。
 送り主はコナーなのか。
 サリーは怯えながらも、周囲の手助けを得て徐々に社会にでていくが……。

 ダークな物語。
 ミステリ要素も少しあり。
 続きが気になって、あっという間に読んでしまいました。数奇どころではないです。

 サリーがとにかく真っすぐ。空気を読まないです。障害があるというより、人づきあいをしてこなかったことによる経験不足、という印象でした。
 そのため年齢よりも、ずっと幼く感じます。
 主人公はサリーですが、もうひとりピーターという人物視点でも語られます。
 ピーターが誰なのかは、ぜひお読みください。

 
 

 
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