書的独話

 

2026年のひとりごと
01月01日 展望、2026年
01月23日 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
02月03日 『白鯨』とその時代
02月22日 2025年、ベスト
03月15日 勘違いの出会い
06月30日 中間報告、2026年(準備中)
12月31日 総括、2026年(準備中)


 

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2026年02月22日
2025年、ベスト
 

 長い物語をたくさん読んだ2025年でした。
 読書初めからして、全5巻のトマス・マロリー『アーサー王物語』でしたからね。年をまたいで読んでました。
 イチオシも厚めの三部作となりました。

キャサリン・アーデン
冬の王》三部作

熊と小夜鳴鳥』『塔の少女』『魔女の冬
 ルーシ北部の領主の娘として生まれたワシリーサは、母の血筋から精霊を見る力を受け継いだ。キリスト教の勢力が拡大し、精霊たちは追いつめられている。そんな中ワシリーサは、冬の王マロースカと弟メドベードの争いに巻き込まれていく。
 史実ベースのファンタジー。

 舞台は、14世紀ロシア。
 この時代はルーシと呼ばれていて、キプチャク・ハン国に支配されてます。直接支配ではなく、治めているのはあくまでモスクワ大公です。

 モスクワ大公は、主人公のワシリーサ(ワーシャ)にとって従兄にあたります。ワーシャは架空の人物ですが、モスクワ大公はもちろん実在人物です。
 ワーシャが生まれ故郷であるルーシ北部のレスナーヤ・ゼムリャを出てモスクワに赴くと、どんどん歴史的事件と絡んでいきます。

 14世紀ロシアの知識は、まったくありませんでした。解説でふれられているのを読んだり、あとで調べてみたり。
 驚きの連続でした。
 ワーシャと精霊たちの活躍を読んでいたけれど、実は歴史通り。本当にあったことだなんて!

 物語を楽しむだけでなく、勉強にもなりました。
 もっともっと知りたいと思える機会をくれました。知識をつけて再読すれば、また違った世界が広がってくると思います。
 また読みたくなるって素敵なことだな、と。

 キャサリン・アーデン以外のベストは、こちら。
 読了順です。  

マークース・ズーサック
本泥棒

 ミュンヘンから遠く離れた町の養父母のもとで暮らし始めたリーゼルは、文盲の父と一緒に言葉を学ぶ。まもなく第二次世界大戦がはじまり、養父は恩人の子息を匿うが……。。
 少女と、言葉と、アコーディオン弾きと、熱狂的なドイツ人、ユダヤ人のボクサー、そして本泥棒についての物語。 

 2025年のイチオシだった
 アンソニー・ドーア『すべての見えない光
 2024年のイチオシだった
 ローラン・ビネ『HHhH プラハ、1942年
 これらに続いての、第二次世界大戦が舞台の戦争文学です。

 今回の語り手は、なんと死神。死神視点で語られます。
 どこにいてもおかしくない存在のため、一人称なのにあらゆることを見ていてもまったく違和感ありませんでした。超自然の存在であるため、時間も超越してるんです。
 思えば、死神が大活躍した時代でした。
 さすがの死神も、もう「死」は充分と思ってしまう時代でした。

 言葉は少ないけれど愛情たっぷりの養父と、言葉が多すぎるうえに毒舌で腐してばかりだけど愛情を感じさせてくれる養母と、言葉にできない思いを抱え、死神から〈本泥棒〉と呼ばれる養女。
 たくさんの言葉がありました。

パトリック・デウィット
シスターズ・ブラザーズ

 チャーリーとイーライは、極悪非道の殺し屋シスターズ兄弟。ゴールド・ラッシュに沸くカリフォルニアまで、雇い主のために仕事をしに行くことになった。ただでさえ何週間もかかるのにチャーリーは急ごうとせず、予定は遅れに遅れてしまう。
 うぬぼれ屋チャーリーとお人好しイーライのロードノベル。

 ちょっと知恵遅れなのかな、と感じさせるイーライによる語りです。チャーリーのことが大好きで、でも、嫌いなところもある。イーライって、純粋で良い人なんだろうなという雰囲気。
 なのに殺し屋。殺しをためらったりしない。
 その落差が絶妙でした。
 ふたりの珍道中に、笑ったり怖くなったり。

リズ・ニュージェント
サリー・ダイヤモンドの数奇な人生

 町はずれで父とふたり、孤立して暮らしていたサリーは父の死によって社会にでていくようになった。父の言葉どおり遺体を燃やしたら大騒ぎになってしまったのだ。
 サリーは父の遺した手紙から自身の出生の秘密を知り、周囲の手助けを得て乗りこえようとするが……。

 サリーは、14年に及んだ誘拐監禁事件の被害者と加害者の娘。そのときの記憶はありません。事件発覚後に被害者の治療に携わった医師夫婦に引き取られました。
 事件は凄惨。
 加害者の自分勝手さに憤り、被害者家族がサリーを拒絶する(加害者の血が流れている!)のも仕方ないと哀しみを覚え、奮闘するサリーを応援しました。
 感情が揺さぶられる物語でした。

エイダン・トルーヘン
七人の暗殺者

 善良な一市民を装うジャック・プライスは、ドラッグ・ディーラー。真下の部屋で老女が、ドラッグ・ディーラーにするような仕打ちで殺された。もしや、狙われていたのは自分なのでは?
 ジャックは、殺し屋集団の〈セヴン・デーモンズ〉と対決することになってしまうが……。

 覆面作家によるクライム・ノヴェル。
 書きたいことを書きたいように書きました、といった突き抜けた雰囲気がありました。こねくり回されている、というか。
 合わない人はとことん合わないと思います。合っていると、もう絶品。たまにはこういうのもいいな、と。
 なかなか読めるものではないです。

リー・W・ラトリッジ
猫の贈り物

 ぼく(猫)は、ミセス・ヴィジルのところで暮らしている。寝て過ごし、ネズミの人形で遊び、一緒にテレビを見る。
 隣家のミセス・ソーンヒルは娘と口ゲンカばかり。ミスター・バトラーの花壇は居心地がいい。ずっと引きこもっていたミセス・ミンタケットは、自分のテリトリーを広げようとしている。
 ぼくの生活にも変化がおとずれる。

 猫による日記。
 紡がれるのは、夏から春へのわずか1年。
 ジャンルはなんなのか。よく分からないままに、猫が一日中寝ている日々に思いをはせたり、喜びを分かちあったり。
 事件も起こります。悲しいこと、猫が嫌だと思うこともあります。想像する余地がたっぷりありました。
 猫ってすばらしい。
 特に印象に残っているミセス・ヴィジルのセリフを転記しておきます。

 バンデモニウム、汝の名は猫


 

 
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