終盤ぐたぐだながらも、それなりに読んでた2012年。
とはいうものの、振り返ってみると、おもしろかったなぁ……と思い出されるのは前半に読んでた本ばかり。おもしろいものに出会えたから順調に冊数を重ねていったのか、数を読んだからおもしろい本に出会えたのか。
どちらかというと前者な気がするのですが、そこにたどり着くまでには冊数が必要だろうし、なかなか難しい問題ですね。
そんなこんなの2012年に読んだベストは、こちら。
ジャック・マクデヴィット
『探索者』
9000年前、自由を求めて地球を旅立った人々がいた。彼らは二隻の宇宙船を使って植民したが、いまだに成否は分かっていない。そのときの宇宙船〈探索者〉の備品が見つかった。古美術商アレックスと相棒のチェイスは調査を開始するが……。
何も知らずに読んだのですが、《アレックス&チェイス》シリーズの3作目でした。当然ながら、このとき前の2作は未読状態。というか、2作目は翻訳されていないのですが。
1万年も未来の物語のわりに人間が進歩していないので、そのあたりの批判はよく見かけます。進歩したテクノロジーでさえ情報を見失ってしまうほどの遠い過去をさぐる、という目的ゆえの年数なのでしょうね、きっと。
なので、1万年という数字にはこだわらずに読んでました。それが良かったのかも。
なお、一作目は『ハリダンの紋章』です。絶版になってましたが、本作がとてもよかったので、取り寄せして読んだのでした。
ティム・パワーズ
『生命の泉』
人形使いのジョンは海賊に捕まり、仲間にさせられてしまった。海賊ジャックとなり共に拉致されたエリザベスを案じる日々。エリザベスの父ハーウッドが、亡き妻マーガレットを生き返らすため、エリザベスを犠牲にしようとしていたのだ。ハーウッドはヴードゥーの秘儀を駆使するが……。
ティム・パワーズって、『アヌビスの門』がなかなかおもしろかったな、という印象が残っている作家さん。
ジョン改めジャックの紆余曲折の大冒険が展開されます。文句なしにおもしろいかといえば……やや分かり辛くもありました。ただ、パワーズって『アヌビスの門』のときもそうでしたが、後からジワジワくるんです。『アヌビスの門』は年間ベストに入れ損ねてしまったので、今回は。
なお本作は、映画「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」の元ネタ本として、『幻影の航海』から改題再版されたものです。映画は観ていないのですが、ぜんっっっぜん違う話だろうと推察してます。
スティーヴン・ブルースト
『勇猛なるジャレグ』
ヴラドは、ドラゲイラ族が支配する帝都アドリアンカで暗殺業を営んでいた。今度の仕事は、ジャレグ家の運営資金を盗んで逃げたメラーの抹殺。メラーは、ドラゴン家の〈黒の城〉に客として滞在している。そのまま仕留めれば、戦争勃発は必須。〈評議会〉の一員でもあるメラーが、なぜそのような行為に及んだのか?
《暗殺者ヴラド・タルトシュ》シリーズの第一巻。この本がおもしろいのは、1作目なのに、数作目のような書き方をしているところじゃないかと思います。これの前にあまたの大冒険があって、それを踏まえて展開しているんです。
実際、2作目『策謀のイェンディ』は年月を遡らせて、本作でちょこっと顔出しした事件が取りあげられてます。ただ、日本人には受けなかったのか、3作目『虐げられしテクラ』で翻訳が留まっているんです。ちょっと残念。
O・R・メリング
『歌う石』
みなしごのケイは〈歌う石〉によって、紀元前のイニスフェイル(古代アイルランド)へと導かれた。当地で、記憶をなくした少女アエーンと出会い、共に、滅びつつあるトゥアハ・デ・ダナーン族を救うため、4つの宝を求めて旅立つが……。
ほとんど予備知識なしでケルト神話を土台にした物語を読んだのですが、大丈夫でした。
こういう物語でよくあるのが、その世界の知識がない人間を視点にするとか、無知な登場人物に質問させることによって、読者に情報提供する手法。それがうまくいくこともあれば、やりすぎで鼻につくこともあります。
本作は、それがちょうどいいんです。
ケイは古代アイルランドについて勉強していて、当時の言葉もなんとかできるレベルにありました。ただ、古代のことなので情報が不正確だったり、生きた知識にはなってませんでした。その辺の扱い方が、とても巧みだな、と。
そして、ベストに入れるかどうか迷ったのが、こちら。
チャイナ・ミエヴィル
『都市と都市』
都市国家〈ベジェル〉と〈ウル・コーマ〉は、奇妙に重なりあっていた。無秩序な越境はもちろんのこと、人々は、相手国を〈見ない〉ように戒められている。そんな〈ベジェル〉で、〈ウル・コーマ〉住人の刺殺死体が発見された。違法な越境行為があったのか? 〈ベジェル〉の警部補ボルルは、捜査のため〈ウル・コーマ〉へと渡るが……。
この舞台設定、すごくおもしろいんです。ただ、特殊さゆえの混乱が長引いてしまったのと、両都市が抱える謎は棚上げされたままなので、ちょーっと物足りなさが残ってしまいました。
これが実はファンタジーで、〈ベジェル〉と〈ウル・コーマ〉は重なりあっているけれども、おばかさんな魔法使いが大失敗した結果なんですよ……ってことなら、どれだけ楽だったか。ただ、そうなると、この物語のおもしろさは失われてしまったでしょうが。
続編があったら読みたいです。