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2012年の記録
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 6/現在地
 
 
 
 10
 
このページの本たち
一千億の針』ハル・クレメント
失われた黄金都市』マイクル・クライトン
歌う石』O・R・メリング
血のごとく赤く −幻想童話集−』タニス・リー
惑星カレスの魔女』ジェイムズ・H・シュミッツ
 
ボーンシェイカー ぜんまい仕掛けの都市』シェリー・プリースト
新訳 アーサー王物語』トマス・ブルフィンチ
春を待つハンナ』エヴァン・マーシャル
ターミナル・マン』マイクル・クライトン
アルテミス・ファウル −永遠の暗号−』オーエン・コルファー

 
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2012年06月21日
ハル・クレメント (小隅 黎/訳)
『一千億の針』創元SF文庫

 『20億の針』続編。
 あれから7年。
 ロバート・キンネアドは"捕り手"との共生関係を続けていたが、徐々に不調を訴えるようになっていた。
 "捕り手"がロバートの健康に気を配っているものの、いかんせんロバートは未知の生命体。共生の専門家ではないため、異変が生じた免疫機能をどうすることもできない。
 大学を卒業したロバートは、就職のために帰島した。
 両親と島の医師ベン・シーバーは"捕り手"の存在を知っており、ロバートは窮状を打ち明ける。それと、"捕り手"の計画を。
 "捕り手"は、母星の科学者たちに連絡をとり、助けを求めようと考えていたのだ。そのために、かつて“ホシ”が使っていた宇宙船を捜さなければならない。
 捜索が秘密裏に進められるなか、ロバートが何者かに命を狙われてしまう。
 “ホシ”は、生き延びていたのか?

 15歳だったロバートも、すっかり大人になりました。
 前作では"捕り手"のことを知っているのは、ロバート本人と、専門的な助言が必要だったために医師のベンに限られていました。それが今作では、ググッと範囲が広がっていきます。両親の他、ベンの娘ジェニー、さらに友人のメイタも加わって、にぎやかに展開していきます。
 仲間たちとの連携が読みどころのひとつ。ただ、仲間が増えたために、前作であった内面的な葛藤は薄れてます。同じ読後感を期待していると、ちょっと違う感じ。


 

 
 
 
2012年06月24日
マイクル・クライトン (平井イサク/訳)
『失われた黄金都市』ハヤカワ文庫NV

 ザイール奥地。コンゴのヴィルンガ山地。
 アメリカの地球資源開発技術社(ERTS)は、失われた都ジンジを求めて調査隊を派遣していた。ジンジの繁栄の源は、ダイアモンド鉱脈。衰退したジンジには、かつては見向きもされなかったブルー・ダイアモンドが眠っているらしい。
 キャレン・ロスは、ジンジ調査の責任者。数学の天才ながら、若干24歳。若さが足枷となって、現地調査隊を率いることはできなかった。
 コンゴ時間の6時22分。
 通信管理室で現地調査隊と連絡をとろうとしたロスは、破壊されたキャンプと、死体を目撃した。ERTSはただちに、第二次調査隊を送り込むことに決める。ブルー・ダイアモンドは、ドイツ、日本、オランダの日欧合弁企業も狙っているのだ。遅れをとるわけにはいかない。
 新たな探検隊を率いることになったロスは、ERTSが助成している霊長類学者ピーター・エリオット博士に声をかける。コンゴからの映像を解析した結果、ゴリラのような姿が垣間見られたのだ。
 そのときエリオットは、エイミー計画を立案し主導していた。ゴリラのエイミーに言語を習得させ、手話を使って意志の疎通を図る。ところが、エイミーが悪い夢を見るようになり、計画は暗礁に乗り上げていた。
 エリオットは、エイミーと共に第二次調査隊に加わることを決意。コンゴはエイミーの出身地でもある。
 一行は、ジンジ目指して旅立つが……。

 ロスで始まる物語は、エリオットの登場でそちらに中心が移っていきます。が、途中で、第二次調査隊の案内人として雇われるチャールズ・マンロー大尉が加わってくると、マンローも中心に入ってきます。
 ロスと、エリオットと、マンロー。この三者の物語ということになるのでしょうか。それにエイミー。
 エイミーは、思春期に入ったばかりの女の子。ずっとエリオットと暮らしていましたが、根本的にはゴリラなため、人間とは違う感覚を持っています。手話をつかった片言の言葉が、またいいんです。
 ジンジを求めてジャングルを行くアドヴェンチャーと、調査隊が直面するジンジに隠されたミステリー、エイミーを通じて語られるゴリラのあれこれ……いろいろ、つまってます。

 実は、タイトルが黄金都市なので、南米の話かと思ってました。残念ながら(?)黄金はでてきません。


 
 
 
 

2012年06月28日
O・R・メリング(井辻朱美/訳)
『歌う石』講談社

 ケイ・ウォリックは、みなしごだった。
 何人もの里親の元を転々とし、自立したのは16歳のとき。奇妙な夢や幻視を見ることがあり、それが、ケイを孤独へと押しやっていた。
 あるときケイは、18冊の本を受け取った。贈り主は分からない。ほとんどの本は英語だったが、古アイルランド語で書かれているものもあった。
 ケイは独学で翻訳し、どの本も古代の石碑をめぐる物語であることを知る。中心にあるのは、常に〈歌う石〉と呼ばれるもの。
 ケイは〈歌う石〉に興味をひかれ、アイルランドへと旅立つ。そこで見いだしたのは、〈歌う石〉と思われる石門だった。
 ケイがアーチをくぐると、まったく別の世界が広がっていた。取り残されたケイは、記憶をなくした少女アエーンと出会う。アエーンの一族は、トゥアハ・デ・ダナーン。ケイは、紀元前のイニスフェイル(古代アイルランド)にいたのだ。
 ふたりは、賢者フィンタン・トゥアンに助けを求めるが、フィンタンは逆に、ふたりの助力を必要としていた。
 トゥアハ・デ・ダナーン族は、終焉を迎えつつあった。彼らを救うため、失われた4つの宝を、ふたたびひとつにしなければならない。
 ゴリアスの炎の中で鍛えられた〈剣〉、フィンディアスの冷気の中でつくられた〈槍〉、マリアスの温かな水の中で造られた〈大釜〉、そして、もっとも麗しき都フェリアスの最高の宝、運命とまことを世界に向かって歌いかける〈運命の石〉、リア・フェイル。
 ふたりは、宝を求めて旅立つが……。

 土台になっているのは、ケルト神話。そちらの方はあまり明るくないのですが、大丈夫でした。
 単純にお宝を探すだけでなく、複雑な背景が用意されてます。
 神々の末裔であるトゥアハ・デ・ダナーン族は、侵略されようとしているところ。さらに、ドルイド(司祭)たちまでも〈来るべき女王〉エリウの命を狙っています。
 ふたりには、自分自身を見失っているという共通点がありますが、印象としては正反対。徐々に魔術師として目覚めていくケイが「静」なら、冒険を重ねるごとに成長していくアエーンは「動」。未来から来たケイは、第三者の目でトゥアハ・デ・ダナーン族を見ていますが、一族を誇りに思っているアエーンは、内からの視点で物事を考えてます。

 余韻の残る物語でした。


 
 
 
 
2012年07月03日
タニス・リー(木村由利子/室住信子/訳)
『血のごとく赤く −幻想童話集−』ハヤカワ文庫FT

 世間一般によく知られている童話(など)を下敷きに、独自に解釈し直した物語群。ただただ美しいのが特徴的。

「報われた笛吹き」(室住信子/訳)
(アジア 紀元前)
 シナノキ村では、ねずみの神さまラウールを祀っていた。おかげでシナノキ村は、ねずみによる被害は皆無。村人たちは信仰をあつくしていった。
 洗濯女の娘クレキは〈ラウールの乙女〉のひとり。夏の祝祭を前に、笛吹きと出会う。若くて年をとった不思議な笛吹きに、クレキは動揺してしまう。
 笛吹きは、祝祭の楽士として選ばれるが……。
 元ネタは「ハーメルンの笛吹き男」。
 村人たちはラウールを祀っているので、ねずみに困ってはいません。そのため、ねずみ退治の代わりとして祝祭が舞台になってます。笛吹きが求めた対価とは? 
 クレキの視点から語られます。

「血のごとく赤く」(室住信子/訳)
(ヨーロッパ 14世紀)
 王さまのお妃は、人々にあまりよく思われていませんでした。不吉なうわさがささやかれていたのです。そのお妃もお産の床で亡くなり、それから7年たったとき、王さまは新しいお妃をめとりました。
 新しいお妃は魔法つかいでした。魔法の鏡に、誰が目にうつるか尋ねると、鏡は、王女ビアンカだけが目にうつらないと応えます。お妃はビアンカに、鏡を見せようとしたり、洗礼を受けるように勧めてみたりするものの、ビアンカにはいつもかわされてしまいます。
 ビアンカが13歳になったとき、死の病がはやりだしました。先のお妃が亡くなって以来のことでした。ついに魔法つかいのお妃は、猟師を呼んでビアンカを城から連れ出させますが……。
 元ネタは「白雪姫」。
 通常の童話だと、腹黒いお妃と良い子の白雪姫、という構図なのですが、本作では立場が逆転。魔法つかいのお妃が、高貴さがにじみでたやさしさを示す一方、ビアンカはどこまでもダーク。そんな状態で、童話調のまま、おなじみの展開がなぞられていきます。
 表題作になったのも頷けます。

「いばらの森」(木村由利子/訳)
(ユーラシア 15世紀)
 国が敵の手に落ち、王子は、ぼろ服を身にまとったさすらい人となった。旅の途中王子は、黒づくめの女に呼び止められる。この先に行ってはいけない、と。
 王子は、女の頼みを断って街道を歩いていった。そして廃墟の都にたどりつき、ひっそりと暮らす老人に不思議な話を聞く。
 そこの丘に繁るのは、いばら。
 いばらの砦の中では、美しいものが眠っているらしい。そして、いばらの呪いは、百年たったとき挑む者が現われればとけるのだという。
 ちょうど百年がたち、王子はいばらに挑むが……。
 元ネタは「眠り姫」。
 呪われてから百年後が舞台になってます。結末は、どこかで読んだことがあるような……。100年眠った後では、どうしてもこうなるのだろうな、と思います。

「時計が時を告げたなら」(木村由利子/訳)
(ヨーロッパ 16世紀)
 今では街は、公爵に支配されていた。その地位を手に入れるために公爵は、領主一族を根絶やしにしてしまう。ただひとり、街の裕福な商人に嫁いでいた女をのぞいて。
 女は、大魔王に忠誠を誓っていた。実の娘を助手にして、公爵を呪う日々。ところが、密かな黒魔術は、人々の知るところとなってしまう。女は自害して果てるが……。
 元ネタは「シンデレラ」
 魔女の娘が、シンデレラ。母が亡くなり、人々に、自分は操られていたのだと信じ込ませます。謙虚に生きるふりを続け、美しさを隠しきります。そして訪れる、公子の舞踏会。
 シンデレラの復讐物語を、ある語り手が、200年前の出来事だとして語ります。

「黄金の綱」(木村由利子/訳)
(ヨーロッパ 17世紀)
 白い森に暮らす魔女は、娼婦の赤児をもらい受けた。子供はジャスパーと名付けられ、外界と隔てられた状態で育てあげられる。魔女以外の話し相手を知らないジャスパーは、自由を求めることもなく、どこまでも従順だった。
 13歳になったジャスパーは、魔女にひきとられた理由を聞かされる。あるお方にお仕えするためなのだ、と。闇に住まう、天使であり妖魔であり神なる方、アンジュマルに仕えるために。
 14歳になったジャスパーは、魔女によってアンジュマルの元に送り込まれるが……。
 元ネタは「ラプンツェル」。
 この童話の特徴であるとんでもなく長い髪の毛は、幻視の結果として登場します。
 己の欲望のために、ジャスパーをアンジュマルに捧げようとする魔女。ジャスパーは魔女のたくらみには気がつかず、純粋にアンジュマルに仕えようとします。そこに現れる、謎の男。
 実は、元ネタを概略でしか知らないので、比べるというより、新たな物語として読んでました。

「姫君の未来」(木村由利子/訳)
(アジア 18世紀)
 殿様の娘ジャラスミは、16歳。輿に乗って市場を通りかかったとき、奇妙な男に不思議な珠を渡された。珠を力いっぱい地面に叩きつけて割ると、お望みの問いに答えるものが現れるのだという。
 宮殿に帰ったジャラスミは、珠を割ってみる決心をする。しかし、音を聞いた人々に、何をしでかしたか気づかれてしまうのは嫌だった。そこでジャラスミは、庭園の果て、小さい扉と繁り放題の小径を抜けて、古代の寺院跡まで行った。
 ジャラスミはそこで珠を割ろうとするが……。
 元ネタは「蛙の王様」
 実は、元ネタを知らなかった(!)ので概略を調べてみたのですが、どうも腑に落ちない点があるのです。きちんと知っていれば、納得できるのでしょうが。こういうとき、無知って損だと思うのです。
 知っててもダメなこともありますが。

「狼の森」(木村由利子/訳)
(スカンジナビア 19世紀)
 リーゼルは、一族の女家長アンナ大奥様から呼び出しを受けた。アンナは、けたはずれの大金持ち。ひと気のない広大な森の中のシャトーに住んでいる。
 いずれ、アンナの財産はリーゼルに受け継がれるのだ。リーゼルは、乗り気でないながらもアンナのシャトーを訪問した。
 シャトーのある森一帯は、ウルフランドと呼ばれていた。狼たちの生息地で、それは今でも変わっていない。リーゼルは狼たちの存在を怖れ、夜半に逃げ出そうとするが……。  
 元ネタは「赤ずきん」
 アンナ大奥様というのが、ちょっとクセのある人に仕上がってます。若かりしころ、DVな旦那に苦しめられていましたが、その旦那は狼に襲われて他界。そういった過去や、自身の秘密を、リーゼルに話して聞かせます。
 一応、童話を意識したと思われる箇所はあります。ありますが、逆に、童話など考えずに読んでもいいかな、という気がしました。

「墨のごとく黒く」(木村由利子/訳)
(スカンジナビア 20世紀)
 ヴィクトールは、かつて母の一族が所有し、今また取り戻したシャトーに滞在していた。母に連れられてきたものの、牧歌的な景色に嫌気がさし、街に帰りたくて仕方がない。
 ある夜ヴィクトールは、広大な湖を泳ぐ少女を見た。白い肌と金髪の持ち主に、ヴィクトールは魅せられてしまう。少女が去っていった島を目指すが……。
 元ネタは「白鳥の湖」。
 湖には白鳥がいて、その中で泳ぐ少女を白鳥に見立てているのですが、ちと無理矢理のような印象が残ってしまいました。

「緑の薔薇」(木村由利子/訳)
(地球 未来)
 実業家のレヴィンに、緑の薔薇が送られてきた。薔薇は、義務を果たさせるためのもの。
 地球は異星人たちの訪問を受け、彼らから贈り物を受け取った。その代償として、異星人からの薔薇をうけとった者は、子供のひとりを彼らのところへとやらねばならない。選ばれた子供は、ささやかな異星人の居留区で暮らさねばならなくなるのだ。
 異星人の元へと旅立った子供たちには、自由が約束されている。実家への訪問や、手紙もかわされる。だが、時がたつにつれて途切れがちになり、ついには消えてしまうのが常だった。
 レヴィンには娘が3人いた。末のエスタルが家をでることになるが……。  
 元ネタは「美女と野獣」。
 魔法のようなテクノロジーと異星人の組み合わせは、さながらSF世界。とはいうものの、やはり幻想的。
 謎めいている彼らの目的はきっちりと説明されて、子供たちが実家から遠ざかっていく理由も判明します。その点ではスッキリしました。


 
 
 
 
2012年07月05日
ジェイムズ・H・シュミッツ (鎌田三平/訳)
『惑星カレスの魔女』創元SF文庫

 パウサートは、ニッケルダペイン共和国の宇宙船ベンチャー号の船長。惑星をめぐり、交易にせいを出していた。それもこれも、大失敗した事業の損失を取り戻すため。
 パウサート船長の商売は大成功を収めるものの、惑星ポーラマでトラブルに見舞われてしまう。偶然通りかかったパン屋で、奴隷娘のマリーンを助けてしまったのだ。
 実はマリーンは、惑星カレスの魔女。ふたりの妹がおり、ゴスとザ・リーウィットも、マリーンと同じように奴隷にされているらしい。
 パウサートは全員を買い取るが、そのために稼ぎがなくなってしまった。しかも、ザ・リーウィットがお礼のつもりで、宝石商から宝石をひっぱってきたために、追われるはめに。
 老朽化したベンチャー号がなんとか逃げおおせたのは、魔女たちのシーウォッシュ・ドライブのおかげ。そのことで、各方面の注目を浴びてしまう。たった28秒間で2光週間移動する新型の"宇宙航行装置"を、誰もが欲しがったのだ。
 パウサートは、三姉妹を惑星カレスに送り届け、故郷ニッケルダペインへと帰還するが……。

 物語は、恐怖の虫世界マナレットをめぐるあれこれへと発展していきます。
 故郷からも逃走することになったパウサートを救ったのは、またもやシーウォッシュ・ドライブ。ベンチャー号にゴスが密航していたのです。しかも、惑星カレスはどこだかに消え去っていて、今度は送り届けることもできません。
 パウサートは、ゴスと共に商売をはじめることにします。
 パウサートには魔法使いの素質があり、ゴスの指導のもと、訓練も始まります。

 やや、ご都合主義的なところもあります。あまり細かいところは気にせずに、柔らかい心で二人の大冒険を楽しむべきなのでしょうね。


 
 
 
 
2012年07月15日
シェリー・プリースト (市田 泉/訳)
『ボーンシェイカー ぜんまい仕掛けの都市』
ハヤカワ文庫SF1852

 1863年、シアトル。
 レヴィティカス・ブルーは自宅の地下室で、巨大な〈ドクター・ブルーの途方もない骨まで揺るがすドリルマシン〉を完成させた。
 元はといえば、凍土の下に眠るという金鉱脈を掘るためのもの。ところが、試運転で暴走したマシンは家々の地下を掘り抜き、多大な被害をもたらしてしまう。そのうえ穴からは致死性の毒ガスが噴出し、街中へと広がっていった。
 生き延びた人々がしたのは、シアトルを高い塀で囲うこと。空気よりも重いガスは、ガスの影響によってゾンビと化した人々と共に封じ込められた。
 それから15年。
 ブライア・ウィルクスは、行方をくらましたレヴィティカスの妻。そして、大厄災の日に囚人を助けたために罪を問われたメイナードの娘。メイナードは犯罪者の烙印を押されたが、英雄視する者もいる。
 ブライアの一人息子ジークは、父レヴィティカスもメイナードと同じように名誉回復ができると信じていた。しかし、ブライアは何も語ろうとしない。ジークは事件の真相を知るため、ひそかにシアトルへと侵入するが……。
 一方、ジークの行方を知ったブライアは、武装して空からのシアトル侵入を図るが……。

 ローカス賞受賞作。
 舞台は、南北戦争が長引いている架空のアメリカ。
 シアトルは閉鎖都市となっていますが、実は、ゾンビ以外にも住んでいる人たちがいます。ブライアはジェレマイアと仲間たちに助けられ、ジークはルーディが道案内をしてくれます。
 ふたりに共通してもたらされる情報が、ミンネリヒト博士という存在。壁ができてから出現した謎の人物で、誰も素顔を見たことがありません。ジェレマイアは、ミンネリヒトの正体はレヴィティカスではないかと考えています。

 閉鎖都市シアトルの成り立ちとか、基本設定部分は大きく作られているのですが、それを使ってどうするか、という点では小さくなってしまった印象。ガスの正体とか、大掛かりな謎が解明されることはありません。
 あくまで、ブライアの人間関係が中心。母子の関係とか、レヴィティカスはどういう人間だったのか、どこに消えたのか、とか。
 おもしろくないわけではないんですけど、期待してたのとちょっと違ったかも。


 
 
 
 
2012年07月21日
トマス・ブルフィンチ (大久保博/訳)
『新訳 アーサー王物語』角川文庫

 ブリテンの王ウーゼルが崩御したとき、後継者のアーサーはまだ15歳だった。乳兄弟サー・ケイに仕える従者にすぎず、即位に反対する者も出る始末。
 ブライス司教は居並ぶ遺族たちに説教を行い、一同は、神に祈りを捧げた。未来の君主に関して、神の御意を示すような徴を求めたのだ。
 答えはすぐに現れた。教会の入口に不思議な石が出現し、石には一握りの剣が突き立てられていた。人々は、剣を抜いた人物を王としていただくことに賛同するが、王位を狙う者たちは誰も抜くことができない。
 そんな中、アーサーはやすやすと剣を抜きさり、ついに正式に王として認められた。王となったアーサーは、反逆者の討伐に乗り出すが……。

 同氏の『中世騎士物語』から、アーサー王物語に関する部分を抜き出したもの。300ページほどなので、手っ取り早く概略が掴めるかな、といった構成になってます。
 アーサー王物語と言っても、アーサーが出てこないエピソードがほとんど。王妃ギネヴィアや忠臣(?)たちの物語が主体になってます。内容も、物語というより解説書のような感じです。
 おかげで、とんでもなく血なまぐさい出来事が、ドライに読めました。騎士たちが殺戮好きなもので、没頭して読めないのは都合がいいかもしれません。


 
 
 
 
2012年07月28日
エヴァン・マーシャル (高橋恭美子/訳)
『春を待つハンナ』ヴィレッジブックス

 《三毛猫ウィンキー&ジェーン》シリーズ第二作。
(第一作『迷子のマーリーン』)
 ジェーン・スチュアートは著作権エージェント。雑誌『ピープル』に、〈ノース・ジャージーのミス・マープル〉と紹介されて一躍有名人。だが、クライアントの大半がB級作家なのは変わらない。
 スチュアート家では、10歳になるニックの誕生会をホテル〈紫陽花館〉で催すこととなった。ところが、楽しいはずのパーティで、死体が発見されてしまう。
 裏庭の先で、まるでピエロのようにめちゃくちゃな化粧をほどこされた少女が首を吊っていたのだ。身元は分からない。このかわいそうな余所者の少女に、隠れ家となった洞窟を教えたのは、ジェーンの友人ドリスの甥アーサーだった。
 アーサーには軽い知的障害がある。ドリスはアーサーを信じているが、犯人がアーサーではないとも言い切れず、苦しんでいた。ジェーンはドリスを気の毒に思い、力になれないかと奔走する。
 そんな中、〈紫陽花館〉のオーナー、ルイーズ・ザブリスキーは、ジェーンに悩みを打ち明けた。夫のアーニーが浮気をしているらしい。ルイーズは、あの少女が浮気相手ではないかと疑っていたのだ。
 少女に手をかけたのは、アーニーなのか?

 シリーズ二作目で、連続殺人事件発生。
 ジェーンのクライアントの売り込み先〈コルセア出版〉の編集者ホリー・グリフィンも死体となって発見されます。ホリーがジェーンに、世界中で注目されている大スター、ゴッデスを紹介してくれた矢先の出来事でした。
 ゴッデスが、本作のスパイス。まさしくスターな雰囲気の人で、ジェーンを著作権エージェントとして雇ってくれます。ジェーンは、巨額の契約になると踏んでいたのですが……。

 なお、前作ではたいして活躍してなかった〈三毛猫ウィンキー〉ですが、今回は、見せ場を作ろうと努力した形跡が見受けられます。前作はウィンキーがお飾りのようで物足りなかったのですが、今作は逆に、猫なので、いるだけでもいいような……。
 なかなかうまくいきませんね。


 
 
 
 
2012年07月30日
マイクル・クライトン(浅倉久志/訳)
『ターミナル・マン』ハヤカワ文庫NV

 ハロルド・ベンスンは、機械知能を専門に研究しているコンピュータ科学者。自動車事故を契機に、精神性の発作を起こすようになってしまった。
 意識を失っている最中のベンスンは暴力的で、急性脱抑制性損傷症候群と診断される。投薬による治療が試みられたが改善の兆しが現われない。そこで、最先端の画期的な手術を受けることとなった。
 この手術が人間に施されるのは、史上初めて。脳にコンピュータを埋め込み、発作を制御する。病院では、脳神経外科医、外科医、精神科医からなるチームを組み、万全の体制を整えていた。
 担当となった精神科医ジャネット・ロスは、ベンスンの手術に危惧を抱いていた。というのもベンスンは、機械が人間と競りあっており、やがて機械が世界を制するだろうと考えていたのだ。
 しかし、ロスの警告が受け入れられることはなく、手術は実施されてしまう。
 手術そのものは成功をおさめるが、医師たちが考えていなかった事象が発生してしまった。脳に刺激を与えることで発作を抑制するはずが、脳は逆に、刺激を求めるようになってしまったのだ。
 医師たちは刺激対象の変更を決めるが、ベンスンは病院を抜け出してしまう。今のままでは、6時間後には深刻な発作が起こってしまうだろう。関係者はベンスンの行方を捜すが……。

 邦題『電子頭脳人間』で映画化された作品。
 施術までと施術後で、作品のトーンに変化があります。手術内容や医師たちの駆引きなど医学がメインだったのが、殺人鬼と化したベンスンの恐怖へと移っていきます。
 キーとなるのは、ベンスンが抱いている妄想。
 脳内にコンピュータが入ることで、思い込みに拍車がかかっていきます。ただ、ベンスンの行動そのものは手術の前から計画されていたもの。手術を受けることで発作が起きやすくなったとはいえ、釈然としないまま終わってしまいました。


 
 
 
 
2012年07月31日
オーエン・コルファー(大久保 寛/訳)
『アルテミス・ファウル −永遠の暗号−』
角川文庫

  アルテミス・ファウル》シリーズ三作目。
 アルテミス・ファウルは13歳の天才少年。伝説的な犯罪一家の跡継ぎ。
 父のアルテミス・シニアが行方不明となって2年。アルテミスは妖精たちの存在を知り、人間よりもはるかに進んだテクノロジーを盗み取る。さらに、シニアがロシアで監禁されていることをつきとめ、ついに奪還を果たした。
 それから3ヶ月。アルテミスは、シニアがまだ入院しているうちにと、最後の事業を企てる。
 取引相手は、ジョン・スピロ。ITビジネスで成功を収めた億万長者。マフィアとつながりがあるらしい大物だ。スピロをロンドンのレストランに呼び出したアルテミスは、いぶかしむスピロにCキューブを披露した。
 Cキューブは、妖精のテクノロジーを元にしたスーパーコンピュータだ。ワイヤレスで、ありとあらゆるプラットフォームのいかなる情報でも読むことができる。たとえ暗号処理されていたとしても。
 Cキューブが市場に登場すれば、スピロのコンピュータ工場はたちまち時代遅れ。アルテミスは、Cキューブの発売を1年待つ代わりに、1トンの黄金を要求する。
 ところが、スピロの方が上手だった。レストランには罠が仕掛けられていたのだ。アルテミス自身は、ボディガードのバトラーが身を呈して守ったため無事だった。しかし、Cキューブは奪われ、バトラーは命を落としてしまう。
 一方、地底世界では、Cキューブが発した偵察ビームを感知して大騒ぎ。ヘイブン・シティは閉鎖され、大混乱に陥ってしまう。地底警察偵察隊のホリー・ショートは、地上待機を命じられるが……。

 アルテミスはバトラーを生き返らすため、ふたたび妖精たちと接触を持ちます。思惑どおりバトラーは生き返りますが、今まで通りとはいきません。代わって活躍するのが、バトラーの妹ジュリエット。技能は高いのですが……。
 アルテミスは、プライドにかけてCキューブを取り戻す腹づもり。ホリーも、スピロに妖精のテクノロジーを知られては一大事と、アルテミスに協力します。ただし、事件が解決したら記憶消去の処置を受ける、という条件つきで。アルテミスは同意しますが……。
 Cキューブは永遠の暗号(エタニティ・コード)によって守られているため、スピロは使うことができません。使えるのはアルテミスのみ。そのことを知ったスピロは、アルテミスの生け捕りを目論みます。

 シリーズ三作目のため人物紹介に時間をとられることもなく、物語はどんどこ進みます。逆に、過去の2作を覚えてないと、ちょっと戸惑うかもしれません。
 前二作は児童文学といった雰囲気でしたが、今作は読み応えがありました。

 
 

 
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