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2012年の記録
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このページの本たち
マットの魔法の腕輪』ニーナ・キリキ・ホフマン
龍のすむ家II 氷の伝説』クリス・ダレーシー
北人伝説』マイクル・クライトン
一角獣をさがせ!』マイク・レズニック
サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム
 
魔法のカクテル』ミヒャエル・エンデ
ゾッド・ワロップ あるはずのない物語』ウィリアム・B・スペンサー
フック』ギアリー・グラヴェル
フック』テリー・ブルックス
虐げられしテクラ』スティーヴン・プルースト

 
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2012年08月25日
ニーナ・キリキ・ホフマン(田村美佐子/訳)
『マットの魔法の腕輪』創元推理文庫

 マット(マチルダ)・ブラックは、物の声を聞くことができた。あるとき能力を授かり、以来、道具や機械や、人の心の声を聞いてきた。そのため、どうしても人間社会には馴染めず、アメリカを放浪する日々。
 あるクリスマスイブの夕暮れ。共同墓地にたどり着いたマットは、堀でなにかが夢をみていることに気がつく。堀には蔦がびっしりと生え、いつしか人の姿になった。
 エドマンド・レイノルズは、魔法使い。精霊に導かれるままにさすらっている。共同墓地で煉瓦となって堀を手助けしているとき、精霊の導きでマットの前に現れた。
 マットは正体の分からないエドマンドを警戒するが、彼と共に旅立つことを決意する。行き先は、オレゴン・コーストのちいさな町ガスリー。エドマンドが育った場所だ。エドマンドは、導きのままにさすらうことをやめ、友達を尋ねることにしたのだ。
 友達は、北の町はずれの屋敷にいる。幼いころとまったく変わらない姿で。なぜなら彼は幽霊だから。
 幽霊のネイサンは、久しぶりの再開に大喜び。マットは、エドマンドとネイサンから昔の話を聞くが、あることに気がついた。
 エドマンドの記憶には、封印されている部分があったのだ。ある事件が起こって魔法使いになった後、幽霊屋敷から足が遠のく前になにかがあったらしい。
 マットとエドマンドは失われた過去を取り戻すため、幼なじみのスーザンを尋ねて旅立つが……。

 現代を舞台にしたファンタジー。
 内容としては、虐待などが絡んできていて、かなり重め。マットがほわほわしているので、その重たさも少し和らいでいるようでした。
 実は、マットにも重たい過去があります。ただ、マットの過去は付け足しのような印象が残ってしまいました。エドマンドのように故郷を訪ねたり、誰かに会ったりすることなく、回想だけで浮かび上がらせているため、そう感じたのかもしれません。
 疑問や、腑に落ちないところは無数に。ファンタジーだからと許容するべきなのか、ファンタジーだからこそ細部はきっちりすべきなのか……。釈然としないまま終わってしまいました。


 
 
 
 
2012年09月17日
クリス・ダレーシー(三辺律子/訳)
『龍のすむ家II 氷の伝説』竹書房

 《龍のすむ家》シリーズ第二巻(第一巻『龍のすむ家』)
 デービット・レインは、ペニーケトル家の下宿人。
 ペニーケトル家では、家主のエリザベス(リズ)が造った龍たちも一緒に暮らしている。彼らは命ある存在だが、ほとんどの人間には陶器の置物としか見えない。
 ある日、リズの娘ルーシーは〈願いの龍〉を造った。命名するときデービットは、ガレスという名を思いつく。自身の特別な龍ガズークスが、デービットにその名を教えたのだ。
 ルーシーは作り手の特権として、ガレスに願いをかけた。雪がふるように、と。龍たちは雪が好きなのだ。かくして雪がふりだし、それは一晩中続いた。
 それ以来デービットは、シロクマの物語を夢見るようになる。だが、肝心なところで、いつも目が覚めてしまう。シロクマは、最後の本物の龍ガウェインが流したという涙を守っているらしい。
 数日後デービットは、リズとルーシーが留守にしている間に、大学の同級生ザナ・マーティンデイルを招待した。ザナが、デービットの論文に役立ちそうな本を貸してくれるというのだ。
 ザナは伝承や伝説に詳しく、神秘的なことに惹かれている。デービットはザナに勧められ、ガレスに願いをかけてみた。
 ガウェインの炎の涙の秘密を知ることができるように、と。
 その直後ペニーケトル家にやってきたのは、リズのおばだという老婦人グウィネス。帰宅したリズはグウィネスがいることに驚くが……。

 前作から、数週間後の物語。
 児童文学だった前作とは趣が変わって、やや大人向き。かなり落差があります。一方で前作もひきずっているので、子供向けなのか、大人向けなのか、中途半端な印象が残ってしまいました。
 前作で語られた物語は、デービットが『スニガーとどんぐりかいじゅう』という作品にして、出版社に送ってます。そして、ことごとく不採用通知を受け取って落ち込んでます。前作とのつながりはそんな程度。
 ただし、基本設定の説明は省略されているので、本作から読み始めるのは難しそうです。
 前作が好評だったので続編を…となったのかもしれませんが、別のシリーズにするべきだったのではないかと思いました。 


 
 
 
 
2012年09月20日
マイクル・クライトン(乾 信一郎/訳)
『北人伝説』ハヤカワ文庫NV

 ヤクート・イブン・ファドランは、バグダッドのカリフの使者として、サカリバ国に赴くことになった。
 まもなくサカリバ国というころ、イブン・ファドランは野営する北人たちと出会った。彼らの風習を見物しているだけのつもりだったが、新しい首領をめぐる争いに巻き込まれてしまう。出立もままならず足止めされてしまったイブン・ファドランは、時節を待つことに決める。
 そこにひとつの知らせが舞い込んだ。
 北の王国が、不安と言語に絶する恐怖に苦しめられているという。ロスガール王が、同族である身分高きブリウィフに助けを求めてきたのだ。
 ブリウィフは首領選びのもめごとを棚上げし、自らに従う11人の勇者たちと北人でない13番目の人物を選び出した。その13番目の人物とは、イブン・ファドランのことだった。
 固辞するイブン・ファドランだったが、ブリウィフは聞き入れようとしない。カリフの使者としての役割を果たすことができないまま、北方へと旅立つが……。

 実在の人物イブン・ファドランの旅行記を題材にした伝奇小説。
 ムスリムであるイブン・ファドランが、北人(バイキング)たちの習慣や信仰などを、冷静な目で見つめます。文書が発見された経緯の説明や時折つけられる注釈など、いかにも古文書の翻訳、という体裁になってます。ただ、敵の正体が少しばかり現実から離れているので、もう少しありえそうな存在だったら……というのが残念なところ。

 なお、イブン・ファドランは実際に報告書を書いてます。現存しているのは、報告書そのものではなく「マシュハド写本」と呼ばれている版。研究者の間では有名な文書なんだそうで、『ヴォルガ・ブルガール旅行記』というタイトルで翻訳されてます。


 
 
 
 
2012年09月26日
マイク・レズニック(佐藤ひろみ/訳)
『一角獣をさがせ!』ハヤカワ文庫FT

 ジョン・ジャスティン・マロリーは私立探偵。
 相棒と妻とが駆け落ちして1ヶ月。残されたのは、借金の山。大晦日の夜、マンハッタンの事務所でひとり飲んだくれていると、目の前に緑色の妖精が現れた。
 妖精の名は、ミュルゲンシュトゥルム。
 盗まれたユニコーンをさがしてほしいという。翌朝までにさがしだせないと、ミュルゲンシュトゥルムは殺されてしまうらしい。
 当初マロリーは、酒による幻覚症状と思っていた。しかし、目の前に差し出された1万ドルと、歓迎できない客の襲来に動転し、妖精の依頼を受ける決断をする。
 こうしてマロリーは、ミュルゲンシュトゥルムに案内されてもうひとつのマンハッタンへと足を踏み入れた。
 まず向かったのは、事件現場。ミュルゲンシュトゥルムは、空き家の庭にユニコーンを繋いでいた。そして、少し離れたすきに、ユニコーンは忽然と消え失せていた。
 庭で調査をしているときマロリーは、目撃者を発見する。キャット・ピープルのフェリーナが、犯行の一部始終を見ていたのだ。フェリーナが言うには、犯人はグランディらしい。
 グランディは、知らないものなどいない有名な悪魔。ニューヨークでもっとも恐れられている悪魔の名前に、ミュルゲンシュトゥルムは狼狽してしまう。
 マロリーにとっては、ユニコーンのことを知らないのと同様に、悪魔が何なのかも分からない。捜査を続行するが……。

 多彩な登場人物がお目見えします。
 マロリーの仲間となる人たち、関わってくる人たち、すれ違うだけの人たち。登場人物たちの元ネタを知っていると、ニヤリとできます。ただ、すれ違うだけの端役に、ストーリーとは関係のない意味を持たせてしまった分、展開がぎこちない印象が残ってしまいました。
 出だしの、ユニコーン盗難事件だけで終わらない広がりはあります。序盤の疑問に答えがあったりもします。
 ただ、納得しきれない部分があるのが残念。


 
 
 
 
2012年09月27日
ライマン・フランク・ボーム(田村隆一/訳)
『サンタクロースの冒険』扶桑社

 バージーの森には、フェアリーとヌックとリルとニンフとが暮らしていました。
 森の精ニシルは生まれてからずっと、森のために働き、楽しみを見いだしてきました。ただ、不死であるために、いつしか退屈な時間を持て余すようになっていました。
 そんなある日、世界の森の支配者アークが、バージーの森にやってきました。アークは集まったニンフたちに、さまざまな話を聞かせます。そのうちのひとつに、バージーの森のはずれで赤ん坊を助けた話がありました。つい今しがたのことです。
 それを聞いたニシルは駆け出し、森のはずれで赤ん坊を抱き上げていました。
 ニシルは偉大なるアークに、この子供を養子にしたいと頼みました。ニンフが人間の子供を育てるなんて、前代未聞のこと。でも、アークは許してくれました。
 赤ん坊はザーライン女王によって、ニクラウスと名付けられました。“ニシルのちいさな子”という意味になります。ですがニシル自身は、“ちいさな子”という意味で、クロースと呼びました。
 偉大なるアークがふたたびバージーの森にやってきたとき、クロースはずいぶん成長していました。クロースはいろんなことを学んできましたが、人間のことは知りません。
 クロースはアークと共に、世界をまわる旅に出かけました。自分と同族の人たちがいることすら知らなかったクロースは、人間たちに興味津々。
 バージーの森に帰ってきたときクロースは、ひとつの決心をしていました。人間の子供たちの世話をし、彼らを幸せにするために身を捧げよう、と。
 バージーの森を後にしたクロースは、〈笑いの谷ホハホ〉に腰を落ち着けました。人間と同じように暮らし始めたのです。クロースは、谷の向こうに暮らす人間たちを訪問し、子供たちをかわいがるようになりますが……。

 童話。
 サンタクロースの「若いころ」「大人になって」「晩年」の三部構成で、森外れに捨てられていた赤子がいかにしてサンタクロースとなったかが語られます。
 おもちゃをつくるようになったきっかけ。トナカイがそりを引くようになったいきさつ。靴下にプレゼントを入れるようになったわけ。
 それらが自然で、少しずつ、伝説のサンタクロースへとなっていきます。その過程で、戦争が起きたり、ニシルたちの力添えがあったりします。そして、最後にくだされる、偉大なるアークの決断。
 なんとも美しい物語でした。

 なお、本書にはボームの物語の他、詩人でもある訳者、田村隆一の詩「12人のサンタクロース」が掲載されてます。サンタクロースという題材が共通しているだけですが。


 
 
 
 
2012年09月28日
ミヒャエル・エンデ(川西芙沙/訳)
『魔法のカクテル』岩波書店

 黒魔術師のベエルツェブープ・イルヴィツァーは、地獄の魔王と契約を結んでいた。なみはずれた権限を与えられる代わりに、毎年年末までに義務を履行すること。一定数、生物を絶滅させたり、環境破壊をしなければならないのだ。
 ところが、この年の大晦日の午後5時。イルヴィツァーは、途方にくれていた。今年は、ノルマの半分も達成していなかったのだ。
 それもこれも、これまでのイルヴィツァーの業績が良すぎたせい。怪しむ精霊や妖精たちを撃退したまではよかった。動物最高評議会に目をつけられたのが痛かった。
 イルヴィツァーの屋敷には、動物最高評議会のスパイである牡猫マウリツィオ・ディ・マウロが入りこんでいた。善人を装って難なく手なずけたものの、猫の目を気にしなければならない分、作業が大幅に遅れてしまったのだ。
 そんな切羽詰まった状態のとき、伯母のティラニア・ヴァンペルルが尋ねてきた。
 ティラニアは金魔女。その目的は、イルヴィツァーが相続していた古い巻羊皮紙だった。羊皮紙に書かれているのは、なにかの作り方の後半部分。
 ティラニアは前半部分を手に入れたのだ。そのものの正体は、ジゴクアクニンジャネンリキュール。
 この魔法のカクテルを一杯飲んで願いごとをいうと、逆のことがかなう。つまり、スパイの目前で平和の願いを口に出せば、たちまち戦争が起こるという寸法。魔法の効果があるのは大晦日だけ。それも逆の結果となるのは、12時に鐘が鳴るまでの間だという。
 ふたりは早速、カクテル作りにとりかかるが……。

 児童文学。
 反目しながらも、協力してカクテルを作るふたりの悪者。その他、イルヴィツァーに欺かれていることに気がついたマウリツィオと、ティラニアを監視しているカラスのヤーコプ・クラーケルの冒険が語られます。
 応援すべきは頼りないスパイたちなのでしょうが、おもしろいのは魔法を駆使する悪役たちの方。風刺がちりばめられていますが、それより、言葉が大切に扱われているのが好印象でした。
 さすが、エンデ。


 
 
 
 
2012年09月29日
ウィリアム・ブラウニング・スペンサー
(浅倉久志/訳)
『ゾッド・ワロップ あるはずのない物語』角川書店

 ハリー・ゲインズボローは、童話作家。
 2年前に刊行した『ゾッド・ワロップ』の人気が衰えず、今でもベストセラー・リストに入っている。おかげで金には困らない。ハリーにはもう、新たな童話を書くつもりはなかった。それに、自作の話をする気もなかった。
 ハリーはかつて、愛娘エイミーのために童話を書いていた。ハリーの童話は子供向けではなく、エイミー向けだったのだ。
 そのエイミーが水難事故で亡くなり、ハリーは精神を病んでしまう。離婚し、酒浸りになり、ハーウッド心療クリニックへと入院した。
 そのとき書いたのが『ゾッド・ワロップ』だった。
 ハリーは退院したものの、心の傷はぱっくり開いたまま。ノース・カロライナ州の田舎町で、キャビンを借りて隠遁生活を送っている。
 一方、ハーウッド心療クリニックでは事件が起こっていた。
 患者であるレイモンド・ストーリーが、仲間と共にクリニックを脱走したのだ。一行が向かったのは、ハリーのキャビン。
 ハリーはただちにレイモンドの両親に電話をかけるが……。 

 当初ハリーは、常識人でいようと務めています。レイモンドと再会し、彼にひっぱり回される内、奇妙な体験をします。そして、現実世界の出来事が『ゾッド・ワロップ』のエピソードに酷似していることに気がつきます。
 実は、『ゾッド・ワロップ』は2種類あります。
 最初の、公表されていない物語は、とても暗くて毒のあるもの。世界にただひとつしかありません。レイモンドは『闇の書』と呼んでいます。
 『闇の書』は巡り巡って、製薬会社社長のロアルド・ピークに渡ります。ビークは、その本がエクナシンの影響下に書かれたことを見抜きます。
 エクナシンとは、天才薬学者マーリン・テイトが研究していた新薬。ハリーやレイモンドと仲間たちは、マーリンの被験者だったのです。マーリンが自殺したために、薬の秘密は失われています。
 エクナシンを狙っているのは、ピークだけではありません。ピークの動向をスパイしていたライバル会社、グロー=メル社のCEOアンドルー・ブレインも、ハリーたちを狙うようになります。
 ……というのが、ほんの序盤の出来事。

 ハリーの書いた童話が随所に挟まれるので、児童文学の雰囲気も楽しめます。登場人物たちは、それぞれが『ゾッド・ワロップ』のキャラクターに対応しています。この人はこれだ、と言われなくても、難なく結びつけることができます。
 幻想と現実とか入り乱れているわりに、読みやすかったです。


 
 
 
 
2012年09月30日
ギアリー・グラヴェル(坂本憲一/訳)
『フック』ソニー・マガジンズ

 ピーター・バニングはサンフランシスコのビジネスマン。妻のモイラ、ふたりの子供、ジャックとマギーの4人家族だ。
 モイラの祖母ウェンディ・ダーリングはイギリスに住んでおり、長年、みなしごたちのために尽くしてきた。その功績をたたえる晩餐会で、ピーターがスピーチすることになっていた。そのために一家はイギリスへと渡るが、ピーターがダーリング邸に行くのは、実に10年ぶりのこと。ピーターにとってダーリング邸は、心休まる家ではなかったのだ。
 晩餐会は大成功に終わり、ピーターたち大人は上機嫌で帰宅する。ところがダーリング邸では大事件が起こっていた。
  子供たちが何者かにさらわれてしまったのだ。残されていたのは、ドアに短剣で突き刺してある紙切れ一枚。そこには、キャプテン・フックの名前が書かれていた。

 おそらく、映画「フック」のノベライズ。子供向けに書かれてます。
 本作は「ピーター・パン」という物語を知っていることが大前提。冒頭、マギーが学芸会で「ピーター・パン」のヒロイン・ウェンディを演じますが、あくまで「ピーター・パン」を知っている人に思い出してもらうためのもの。まったく知らない人に「ピーター・パン」の基本設定を教えるところまでは触れられていません。
 映画を観ていないので想像ですが……映画を観た後、思い出しながら読むべき本ではないかと思いました。


 
 
 
 
2012年10月03日
テリー・ブルックス(二宮 磬/訳)
『フック』ソニー・マガジンズ

 ピーター・バニングはサンフランシスコのビジネスマン。妻のモイラ、ふたりの子供、ジャックとマギーの4人家族だ。
 モイラの祖母ウェンディ・ダーリングはイギリスに住んでおり、長年、みなしごたちのために尽くしてきた。その功績をたたえる晩餐会で、ピーターがスピーチすることになっていた。そのために一家はイギリスへと渡るが、ピーターがダーリング邸に行くのは、実に10年ぶりのこと。ピーターにとってダーリング邸は、心休まる家ではなかったのだ。
 晩餐会は大成功に終わり、ピーターたち大人は上機嫌で帰宅する。ところがダーリング邸では大事件が起こっていた。
  子供たちが何者かにさらわれてしまったのだ。残されていたのは、ドアに短剣で突き刺してある紙切れ一枚。そこには、キャプテン・フックの名前が書かれていた。

 おそらく、映画「フック」のノベライズ。
 グラヴェル版の『フック』は明らかに子供向けでしたが、こちらは、もうちょっと上の世代の子供向け、といったところ。ノベライズ独特のぎこちなさは少なめ。
 バニング氏は妖精ティンカーベルに連れられて、ネバーランドへと向かいます。必死に子供たちを助けようとしますが、自分がピーター・パンだったことは忘れたまま。
 一方のフック船長は、宿敵ピーター・パンがふぬけた中年になっていることを知って、大ショック。子供たちを手なずけて、ピーター・パンに一泡吹かせる戦略にでます。
 タイトルからするとフック船長が中心人物のように思えるのですが、やはりピーター・パンが主役でした。

 なお、本作を読んでからようやく、映画の「フック」を視聴しました。小説版には、割愛されたと思われるシーンも入ってますし、かなり細かく書き込まれてます。原作と言っても通りそうです。


 
 
 
 
2012年10月06日
スティーヴン・プルースト (金子 司/訳)
『虐げられしテクラ』ハヤカワ文庫FT

 《暗殺者ヴラド・タルトシュ》第三巻。
(第一巻『勇猛なるジャレグ』、第二巻『策謀のイェンディ』)
 世界はドラゲイラ族によって支配されていた。ドラゲイラ族は17の家柄に分かれ、順繰りに帝位についている。一方、人間たちは〈東方人〉として蔑まされていた。
 ヴラド・タルトシュは、ジャレグ家の身分を金で買った〈東方人〉。暗殺を生業とし、帝都アドリアンカの一角を取り仕切るまでになっている。
 ある日、ヴラドの妻カウティに、フランツが殺された、との知らせが舞い込んだ。それをきっかけにヴラドは、カウティが〈東方人〉の革命運動に加わっていることを知る。運動にはドラゲイラ族テクラ家の者たちも参加しており、目的は、帝国というシステムそのものを破壊すること。
 ヴラドは、フランツがしていた仕事を引継いだカウティのことが心配でならない。首謀者はケリーなのだが、殺されたのはフランツだった。その理由が明らかでない以上、今度はカウティに刃が向かう可能性があるのだ。
 ヴラドは、カウティを説得して運動を止めさせようとするが、喧嘩になってしまう。ひそかに、彼らの敵の正体を探り出そうとするが……。

 『勇猛なるジャレグ』の数週間後の物語。
 内容としては、主に夫婦喧嘩。
 ヴラドはこれまで、ドラゲイラ族が造り上げた帝国の中で、自分の居場所を築いてきました。そのため、カウティたちのやってる革命運動は、気にはなっても賛同しきれないもの。カウティは運動にのめり込んでいるので、どうにも意見が合いません。
 でも、カウティだって、ドラゲイラ族の相棒と組んで暗殺業を営んでいた身。通り名がつくほどの腕前で、帝国のことは身にしみて分かっているでしょうに。少し違和感を覚えてしまいました。
 なお、このシリーズで翻訳されているのはここまで。第三巻が出版されて6年が経っているので、もう翻訳されないのかも。
 残念でなりません。

 
 

 
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