100年ほど前のSF作家による、短編集。
表題作の「タイム・マシン」は……時間を行き来できる機械によって80万年後のイギリスに飛んだ、時間航行家のおはなし。人類がたどった進化の道は、80万年後、どのような結末を迎えているのか?
などなど、短・中編6本が収録されています。
ウェルズの『タイム・マシン』の続編(遺族公認)SF。
ふたたび未来へ旅立った時間航行家は、最初の旅とはちがう時間線にある65万年後のイギリスにたどりつく。光はなく、世界は暗闇におおわれていた。時間航行家は、楽園のような80万年後にたどりつくことはできるのか?
多世界解釈はそれほど目新しい題材ではないのですが、それでも当作がおもしろいのは、やはり続編ならではの制約があるからではないかと思います。同じイギリス人、同じ系譜に属する作家とはいえ、やはり他人ですからねぇ。そうした緊張感のようなものが、いい作用を果たしたように思います。
日露戦争直後の時代を舞台にした冬山逃亡小説。
一人の中尉が死ぬ序幕から冬山での巨大クマの追跡、大陸への渡航、逆恨みされている男からの逃避行、そして結末まで、一気に読ませます。
一気に、といっても、もちろん一筋縄にはいきません。たとえば、プロローグでとりあげられた八甲田遭難事件は、ただのエピソードにとどまらず、その影の長いこと、長いこと……。
行き当たりバッタリでない、計算ずくの構成に酔いたい方、寒いところが大好きな方には特におすすめ。
日露戦争直前の時代を舞台にした山岳小説。
厳寒期の八甲田山踏破を2つの聯隊が挑む。中隊編成の青森第五聯隊は指揮系統の混乱から199名の死者をだす。一方、小隊編成の弘前第三十一聯隊は一人の犠牲者もださずに見事に成功させた。明治35年におこった実際の遭難事件が題材。
両隊の比較がとにかくあざやかでした。そして、自然の厳しさときたら。しょっぱなから登場人物が勢揃いするので覚えるのが大変かも。映画版を先に観ていたのは幸いでした。
2000年02月09日
アーシュラ・K・ル=グィン(小尾芙佐/訳)
『闇の左手』ハヤカワ文庫SF
両性具有人社会が舞台の異世界SF。
大昔に放棄された人類の植民地、惑星ゲセン。この星と外交関係を結ぶためにやってきた人類同盟の使者が主役。彼は、悪戦苦闘しながらも同盟を結ぼうとするが、やがて陰謀に巻きこまれていく……。
《ハイニッシュ・ユニバース》もの。
SFというより、ファンタジーを読んでいる気分になりました。両性具有人社会のシステムがきっちりリアルに書かれてます。最終的な結末はよめてしまいましたが、そんなことは重要ではないでしょう。たぶん。
人類が、臓器の崩壊におそわれている未来社会が舞台の連作短編集。
主役は、人工臓器の総合メーカー、ライトジーン社が造りだした人造人間。ライトジーン社が解体された後の世界を舞台に、人工臓器にまつわるはなしが展開されていきます。最後には「遺産」の正体が明らかにされる構成。
主役の人造人間はある種の超能力者なのですが、ありふれた超能力者ものではないので、念のため。新しい超能力者像を目の当たりにしたい人には特におすすめ。
他人の身体で生きることになった女刑事のサスペンスもの。恋愛小説でもあります。
脳が死んだ女(警察に保護を求めてきた、犯罪組織のボスの愛人)の身体に、脳だけが生き残った女(刑事)の脳が移植される。手術は成功し、女刑事は、犯罪組織を壊滅させるために囮となることを決めるが……。護衛の警官たちは全滅し、信頼のおける上司とも連絡がとれない。組織と内通してるのはいったい誰なのか?
手のこんだ展開に脳移植という大問題がからんで、もう大変。ハラハラドキドキしながら読みました。
おもしろくって、おかしくって、ちょっぴりこわい短編集。
表題作の「九百人のお祖母さん」は……死なない人種に出会った特殊様相調査員は、種族の起源を探るため、900人のお祖母さんがいるという家に忍びこむが……、というショートショート的なおはなし。
短編21本が収録されています。
マットサイエンティストや、宇宙人に興味がある人、バカSFが大好きな人には、特におすすめ。
【2021年10月10日追記】
収録作品
「九百人のお祖母さん」
「巨馬の国」
「日の当たるジニー」
「時の六本指」
「山上の蛙」
「一切衆生」(別題「すべての人々」)
「カミロイ人の初等教育」
「スロー・チューズデー・ナイト」
(別題「火曜日の夜」別題「長い火曜の夜だった」)
「スナッフルズ」
「われらかくシャルルマーニュを悩ませり」
「蛇の名」
「せまい谷」
「カミロイ人の行政組織と慣習」
「うちの町内」(別題「われらの街で」)
「ブタっ腹のかあちゃん」
「七日間の恐怖」(別題「恐怖の7日間」)
「町かどの穴」
「その町の名は?」
「他人の目」
「一期一宴」
「千客万来」
未来の廃墟都市を舞台にした冒険もの。
デンキ戦争のあとの時代。行方不明の父親をさがしに、兄弟はマザーK市にでかける。マザーK市は、生きている人間がおらず、広告に支配されていた。
異様で一風変わった生き物がたくさん出てきます。ときどき脱線しますが、気にはなりません。科学的知識全開の機械群が苦手な方も、これなら楽しめるのでは……。
タイム・トラベルもの。
交通事故の最中、30年後にタイム・スリップした時間跳躍能力を持つ男のおはなし。彼をめぐって、未来のタイム・パトロールと警察の特殊能力開発部隊との間で死闘が繰り広げられていく……。雰囲気はポップ。
時間がとても重要な要素なので、年月日だの時間だのがバシバシでてきます。数字が大嫌いな人にはキツイかも? でも、おもしろいのだ。