書的独話

 
2015年のひとりごと
01月01日 展望、2015年
03月07日 電子書籍、ふたたび
03月29日 2014年、ベスト
05月20日 漫画解禁!?
06月01日 中間報告、2015年
06月23日 写楽の謎を追う
07月16日 直木賞と芥川賞、そして本屋大賞
07月19日 画像発掘
08月01日 移転しました
08月26日 《居眠り磐音江戸双紙》読本
09月01日 神への長い道
10月10日 幕末だったのか
12月27日 そして繋がっていく
12月31日 総括、2015年
 
※今年は未年というわけで、羊のシルエットを画像に利用してみました。
シルエットは、デザイングループ「TOPECONHEROES」によるものです。
公式サイト「Silhouette design(http://kage-design.com/)

 

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2015年10月10日
幕末だったのか
 

 日曜の午前中はたいてい、TBSラジオで「安住紳一郎の日曜天国」を聴いています。最近はYouTubeでも聴けるようになったのでがんばって日曜日を割かなくてもいいのですが、リアルタイムでの拝聴は格別なものがありますね。

 さて、このラジオ番組では11時台がゲストコーナーになってます。
 少し変わっているのは、ゲストに求められるスタンス。どうもリスナーは、アナウンサーがゲストのおもしろい話を引き出すことよりも、安住紳一郎からおもしろい話を引き出せるゲストを求めている様子。

 そんなゲストとして何度か登場したことがあるのが、現在大学教授になっている磯田道史氏。日本近代史の研究家です。2010年に、執筆した教養書『武士の家計簿』を元にした映画が公開されて話題になりました。
 この本についても、ラジオで語っていたのを聴いているので、なんとなく把握しているはずだったのですが……。

 出版から12年目にして、ようやく読みました。
 サブタイトルが【「加賀藩御算用者」の幕末維新】

 幕末だったのか

 いまごろ気がついた次第。
 簡単に内容について書いておくと……

 加賀藩の御算用者を務める猪山家は、借金の整理をするために詳細な家計簿をつけ始めた。猪山直之に始まり、その子・信之、孫・成之と経て時代は明治維新へ。計理に精通した猪山成之は、海軍主計官として大出世。
 それらが、残された家計簿を紐解くことで明らかになっていく……。

 タイトルが『武士の家計簿』なので江戸時代のイメージで捕らえていたのですが、読んでみたら、意外と明治維新の比重が大きかった、と。
 知っていたはずなのに頭に入ってなかったということは、今に始まったことでもなく。

 ところで、ここ数年で時代小説を読む機会が増えました。
 これまで、日本人作家の本を読みたい気持ちはあるけれど、実際に読んでみると「なんだかちょっと違うなぁ」と落胆することが多かったのです。そんなとき活路を見出したのが、時代小説。ほぼ日本人の独擅場のため、翻訳物と比べることもなく、必然的にそういうものとして読めてしまう。
 そんな流れを受けて手を出したのが、畠中恵の『しゃばけ』でした。

 一太郎は、廻船問屋兼薬種問屋、長崎屋の若だんな。齡三千年の大妖を祖母にもつ。
 一太郎の世話をあれこれと焼くのは、手代の佐助と仁吉。ふたりの正体は、犬神と白沢。祖母によって送り込まれてきた。というのも一太郎が、商売よりも病に経験豊富であるほど病弱であったから。
 両親も手代たちも、遠方まで噂になるほどの過保護ぶり。一太郎は、甘やかされすぎることに憤るものの、それで性根が曲がることもなく、妖(あやかし)たちに囲まれた日々を送っている。

 時代ものというよりファンタジーに片足つっこんでますけれど。このシリーズ、著者のデビュー作で、第13回日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞したもの。好評につきシリーズ化されてます。
 昨年は10巻まで読みましたが、徐々に趣向が合わなくなってきているのを感じているところ。とはいうものの、このシリーズには、江戸時代の妖怪もののおもしろさを教えてもらいました。
 そんなこんなで他の妖怪ものを、と思って調べて見つけたのが、浅田次郎の『憑神』。

 別所彦四郎は、別所家の次男坊。幼い頃より文武に優れ、秀才の誉れも高かった。だが、今では単なる居候の身。
 たまたま目にした「三巡稲荷」の文字に、霊験あらたかな三囲稲荷の御分社か、と手を合わせたところ、やってきたのは貧乏神。恰幅のいい大店の主といった風情の貧乏神は、さっそく別所家に取り憑くが……。

 軽妙に展開していた物語でしたが、あるとき突然、雰囲気が変わります。そのとき気がつきました。

 幕末だったのか

 見返してみると、冒頭にハッキリ書いてあったんですけどね。幕末の動乱が、主人公にも影響するとは思ってなかったので、きれいに抜け落ちてました。

 そもそも、その時代に生きている人たちは、今が幕末だなんてこれっぽっちも思ってなかったはずなんですよ。幕府が負けて、はじめて気がついたのだろうな、と。しかも、さまざまな事件が立て続けに起こりますけれど、そのほとんどは江戸以外で発生していたわけですし。
 主人公の人生に突然迫ってくる時代の波があって、そのことに驚きたいなら、むしろ忘れているべきなのだろうな、と。

 今年は漫画にも手を出してますけど、これもやっぱり「幕末だったのか」状態。05月20日の「漫画解禁!?」でも書きましたが、村上もとかの『JIN −仁−』です。

 外科医の南方仁は病院の階段から落ち、気がつけば江戸時代にタイムスリップしていた。
 時は1862年。明治元年の6年前。仁は、己の行動によって歴史が変わってしまうことを恐れるが、やがて、この時代で医師として生きる決心を固める。だが、あまりに進んだ仁の現代医術を、快く思わない者たちがいた。
 妨害や疑惑をはねのけ、仁は、自分ができることをしようと、医療に邁進するが……。

 主人公は現代人なので、激動の時代なんだって自覚してます。とりわけ、京都に行ったあたりから。未来を知っていても、なお抗えない時代の波をひしひしと感じてます。

 そういえば、2015年のNHKの大河ドラマ『花燃ゆ』は幕末が舞台でしたね。
 ときどき、未来を見てきたかのような発言があるのはご愛嬌なのか、時代人になりきれてなかったのか。数々の大事件をすっとばすので、かえって、なにかあったときに

 幕末だったのか

 と驚けたものでした。
(ドラマはまだ終わってませんが、視聴するのは終えました)

 そして、NHKの朝ドラ(連続テレビ小説)も幕末ですね。
 9月末に始まったばかりですが、商家が舞台で、ちょこちょこと不穏な空気がしのびよってきているところ。でも、まだこの先どうなるか分からない。
 ある日突然、痛感するのでしょうね。

 幕末だったのか

 どんな驚きが待っているのか。
 今から楽しみです。


 

 
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