銀河帝国は、爬虫人チンガーとの戦時下にあった。
ビルは、片田舎で野良仕事にいそしむ青年。軍隊徴募係に目をつけられたのは、ほんの偶然からだった。ビルは、抵抗もむなしく、自我抑制剤をたっぷり飲まされるとキャンプ・レオン・トロツキーに送りこまれてしまう。
新兵訓練はまるで地獄のようだった。しかも、最初の外出許可の最中に非常呼集がかかる始末。ビルは、訓練を終えぬまま前線にかりだされてしまう。ビルだけではない。キャンプの機能維持のための人員も、教官も、すべてが前線に送りこまれてしまったのだ。
船内でヒューズ交換六等宙士見習に任命されたビルは、始めての本格的な戦闘で戦友を失い、自身は英雄となった。ビルが偶然に触った原子砲がチンガーの宇宙戦艦に大当たりしたのだ。
ビルは、勲章を頂戴しに帝星ヘリオールへとむかったが……。
二転三転するビルの運命の、なんと波乱万丈なこと。
ちりばめられたナンセンス・ギャグが効いてます。
池袋のバー〈まりえ〉を基礎舞台にした、作品集。
バー〈まりえ〉は、L字型の長いカウンターを備えた奥行きのある店だった。カラオケもCDもなく、有線放送とも契約していない。まりえと名乗るママは年齢不詳の顔だちで、主義はほかの客の噂話をしないこと。
接客業とは思えないまりえの対応と、さまざまな窮地に立たされた各篇の主役たちとのやりとりが、おもしろい一冊。
絶品。
上巻収録作品
・ニール・スティーヴンスン「サモリオンとジェリービーンズ」
・スティーヴン・バクスター「コロンビヤード」
・アレステア・レナルズ「エウロパのスパイ」
・ダン・シモンズ「フラッシュバック」
・コニー・ウィリス「魂はみずからの社会を選ぶ」
・ショーン・ウィリアムズ「バーナス鉱山全景図」
・マイク・レズニック「オルドヴァイ渓谷七景」
・ジョナサン・レセム「永遠に、とアヒルはいった」
・イアン・R・マクラウド「わが家のサッカーボール」
・デイヴィッド・ブリン「存在の系譜」
・アレン・スティール「羊飼い衛星」
・ブルース・スターリング「80年代サイバーパンク終結宣言」(エッセイ)
下巻収録作品
・テリー・ビッスン「マックたち」
・ロバート・J・ソウヤー「ホームズ、最後の事件ふたたび」
・テッド・チャン「理解」
・エスター・M・フリーズナー「誕生日」
・イアン・マクドナルド「フローティング・ドッグズ」
・ジャック・マクデヴィット「標準ローソク」
・ジェイムズ・アラン・ガードナー「人間の血液に蠢く蛇」
・グレッグ・イーガン「ルミナス」
・ロバート・リード「棺」
・ナンシー・クレス「ダンシング・オン・エア」
ふだん雑誌は読まず、もっぱら作家ごとにセレクトしている人間にとって、アンソロジーは貴重な情報源です。今回の発見は、「わが家のサッカーボール」を著したイアン・R・マクラウドでしょうか。
自分の身体を思うがままに、日常的に変身することができる世界の物語で、淡々とした語り口の中に、ユーモアや教訓やその他もろもろが詰め込まれています。マクラウドが長編を書くとどういうふうになるのか、興味はありますが、残念ながら日本ではまだ刊行されていないようです。
忘れないうちに紹介されるといいのですが……。
九州の水郷都市・箭納倉(やなくら)での怪事件の顛末記。
レコード会社でプロデューサーをしている塚崎多聞は、三隅協一郎をたずね、箭納倉に降り立った。協一郎に誘われたからだが、その地で彼に聞かされたのは、不思議な事件だった。
掘割に面した家に住む三人の老女がたてつづけに失踪し、やがて何事もなかったかのように戻ってきたというのだ。しかもその内の一人は足が不自由で、自分の力で出ていったとは考えにくい。不可解なことはもう一つあった。全員、失踪中の記憶が抜け落ちていたのだ。
多聞は、失踪した女性たちのインタビューテープを聞き、その背後に漂う“音”に気がついた。
“音”はなにを意味しているのか?
毛色の違うホラー。
怖いのに怖くない。あるいは、怖くないのに怖い。
展開されるのはまさしく“恩田陸”の世界で、その象徴は塚崎多聞ではないかと思います。ひょうひょうとした子供のような大人で、世界と切り離されている……。宙に浮かんでいるような男。
物語には結末がありますが、それは本の終わりにすぎません。
地球連邦軍・月面基地所属の迎撃小隊〈雷獣〉の面々は、宇宙空間で謎の物体と遭遇した。
見る者によってちがった形としてとらえられ、さらに不思議な現象をまき散らしつつ、ついに不審な物体は月面に落ちた。〈雷獣〉は、その一部を回収し帰還する。
強力なイメージスクランブラをかけられていると判断された〈雷獣〉のメンバー5名は基地で検査を受けるが、軍医の診断は「5人とも死んでいる」だった。
光文社で絶版になっていたものを早川がひきとった、復刊作。とても若々しい神林長平とご対面できます。若すぎる気もしないでもないですが。
《人類補完機構》シリーズの中の一冊。
J・J・ピアスが編集した、スミスの傑作選からもれてしまった作品を寄せ集めたもの。寄せ集めただけあって、おもしろいものもあれば、不可思議なものもあり。
それらすべてをひっくるめてスミスなのだな、と思うと、ぜひ読んでおきたい一冊ながら、人には薦めにくい……。
念力放火能力を持つ青木淳子の物語。
廃工場で、偶然に四人の若者の犯罪行為を目撃した淳子は、迷うことなくその持てる力を発揮した。焔を放ち、焼き殺したのだ。三人まではしとめることに成功した淳子だったが、拳銃で撃たれ、リーダー格の男を一人逃してしまう。
淳子は、若者たちに連れてこられていた瀕死のフジカワから、誘拐された恋人のことを聞かされ、救出にのりだす。逃したアサバを殺しフジカワの恋人・ナツコを助けることが、淳子の新たな使命となった。手がかりは、アサバの残した飲み屋のマッチのみ。
淳子はナツコを助け出すことができるのか?
一方、警視庁放火捜査班の石津ちか子は、淳子の犯行の跡に立ち会い、ある事件を思い出していた。常識では考えられない不可解な焼殺事件は、これがはじめてではない。
ちか子は、淳子を捕らえることができるのか?
中編「燔祭」の続編。
2册に別れた長い物語ですが、長さを感じさせない出来でした。ただ、それは、物足りなさをも内包しているのですが。やわらかい語り口のせいかもしれません。そのやわらかさを評価する人もいるでしょうし、おもしろいんですけどね。
中国的ファンタジイ。
唐国の庫福(クーフー)村には、二つの名物があった。一つは、名所の湖と防壁。もう一つは、憎まれ役の二人の人間。
名もない庶民の十男坊である十牛(ジュウギュウ)は、庫福村の少年。ある日、村の子供たちが原因不明の疫病にたおれ、北京へと助けを求め走った。高名な賢者を雇う腹づもりだったが、五千銭でなんとかなったのは、かつては帝国全土がひれ伏したとはいえ今は酒浸りの老師のみ。
しかし、それが大当たり。
子供たちは見事に診断され、治療法も分かった。あとは、治療に必要な薬草を見つけてくるのみ……。
十牛は、老師の助けを得て薬草さがしの旅に出るが、幻の薬草“大力参”がそんじょそこらにあるわけがない。中国全土を巡り、魔物と戦い、迷宮を抜け、行きつく先には???
時代考証とかの細かいことを抜きにして楽しめる、世界幻想文学大賞受賞作。設定では“唐”ですけど、あまりこだわらない方がすんなり入れます。その一方、最後のオチに絡むとある設定には、中国的な部分が。
こういうものをユニークというのでしょうね。きっと。
「結晶星団」
「星殺し〈スター・キラー〉」
「飢えた宇宙(そら)」
「宇宙(そら)に嫁ぐ」
「サテライト・オペレーション」
「神への長い道」
「歩み去る」
「劇場」
「雨と、風と、夕映えの彼方へ」
「氷の下の暗い顔」……以上を収録。
「飢えた宇宙」は、宇宙を舞台にしたホラー。
限られた空間である宇宙船の中で、乗組員が行方不明になった。すべての部屋、すべてのすみを捜すが、みつからない。そうこうするうち、二人が行方不明になり、三人目もまた……。
最終的に一人になってしまったアキオは、黒い影を見つけ追跡するが……。
傑作だけではないのは、確か。
仕立て屋のシュヴァルツは、なにげない一歩で数万年のタイム・トラベルをしてしまった。行きついた先は、銀河紀元827年の未来。銀河帝国に支配され、地球は、放射能まみれの辺境惑星にすぎない。
シュヴァルツは、言葉も通じない人々の間で陰謀にまきこまれていく……。
アシモフの代表シリーズである《銀河帝国衰亡史》にからむ一冊です。