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2002年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 7/現在地
 
 
このページの本たち
宇宙兵ブルース』ハリイ・ハリスン
デスデモーナの不貞』逢坂 剛
90年代SF傑作選』山岸真/編
月の裏側』恩田 陸
宇宙探査機 迷惑一番』神林長平
 
第81Q戦争』コードウェイナー・スミス
クロスファイア』宮部みゆき
鳥姫伝』バリー・ヒューガート
結晶星団』小松左京
宇宙の小石』アイザック・アシモフ

 
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2002年09月27日
ハリイ・ハリスン(浅倉久志/訳)
『宇宙兵ブルース』ハヤカワ文庫SF

 銀河帝国は、爬虫人チンガーとの戦時下にあった。
 ビルは、片田舎で野良仕事にいそしむ青年。軍隊徴募係に目をつけられたのは、ほんの偶然からだった。ビルは、抵抗もむなしく、自我抑制剤をたっぷり飲まされるとキャンプ・レオン・トロツキーに送りこまれてしまう。
 新兵訓練はまるで地獄のようだった。しかも、最初の外出許可の最中に非常呼集がかかる始末。ビルは、訓練を終えぬまま前線にかりだされてしまう。ビルだけではない。キャンプの機能維持のための人員も、教官も、すべてが前線に送りこまれてしまったのだ。
 船内でヒューズ交換六等宙士見習に任命されたビルは、始めての本格的な戦闘で戦友を失い、自身は英雄となった。ビルが偶然に触った原子砲がチンガーの宇宙戦艦に大当たりしたのだ。
 ビルは、勲章を頂戴しに帝星ヘリオールへとむかったが……。

 二転三転するビルの運命の、なんと波乱万丈なこと。
 ちりばめられたナンセンス・ギャグが効いてます。


 
 
 
 
2002年10月02日
逢坂 剛
『デスデモーナの不貞』
文春文庫

 池袋のバー〈まりえ〉を基礎舞台にした、作品集。
 バー〈まりえ〉は、L字型の長いカウンターを備えた奥行きのある店だった。カラオケもCDもなく、有線放送とも契約していない。まりえと名乗るママは年齢不詳の顔だちで、主義はほかの客の噂話をしないこと。

 接客業とは思えないまりえの対応と、さまざまな窮地に立たされた各篇の主役たちとのやりとりが、おもしろい一冊。
 絶品。


 
 
 
 
2002年10月03日
山岸 真/編
(日暮雅通/中村 融/中原尚哉/嶋田洋一/大森 望/内田昌之/浅倉久志/宮内もと子/酒井昭伸/金子 浩/公手成幸/幹 遙子/古沢嘉通/佐田千織/山岸 真/田中一江/訳)
『90年代SF傑作選』上下巻・ハヤカワ文庫SF

 上巻収録作品
・ニール・スティーヴンスン「サモリオンとジェリービーンズ」
・スティーヴン・バクスター「コロンビヤード」
・アレステア・レナルズ「エウロパのスパイ」
・ダン・シモンズ「フラッシュバック」
・コニー・ウィリス「魂はみずからの社会を選ぶ」
・ショーン・ウィリアムズ「バーナス鉱山全景図」
・マイク・レズニック「オルドヴァイ渓谷七景」
・ジョナサン・レセム「永遠に、とアヒルはいった」
・イアン・R・マクラウド「わが家のサッカーボール」
・デイヴィッド・ブリン「存在の系譜」
・アレン・スティール「羊飼い衛星」
・ブルース・スターリング「80年代サイバーパンク終結宣言」(エッセイ)

 下巻収録作品
・テリー・ビッスン「マックたち」
・ロバート・J・ソウヤー「ホームズ、最後の事件ふたたび」
・テッド・チャン「理解」
・エスター・M・フリーズナー「誕生日」
・イアン・マクドナルド「フローティング・ドッグズ」
・ジャック・マクデヴィット「標準ローソク」
・ジェイムズ・アラン・ガードナー「人間の血液に蠢く蛇」
・グレッグ・イーガン「ルミナス」
・ロバート・リード「棺」
・ナンシー・クレス「ダンシング・オン・エア」

 ふだん雑誌は読まず、もっぱら作家ごとにセレクトしている人間にとって、アンソロジーは貴重な情報源です。今回の発見は、「わが家のサッカーボール」を著したイアン・R・マクラウドでしょうか。
 自分の身体を思うがままに、日常的に変身することができる世界の物語で、淡々とした語り口の中に、ユーモアや教訓やその他もろもろが詰め込まれています。マクラウドが長編を書くとどういうふうになるのか、興味はありますが、残念ながら日本ではまだ刊行されていないようです。
 忘れないうちに紹介されるといいのですが……。


 
 
 
 
2002年10月05日
恩田 陸
『月の裏側』
幻冬舎文庫

 九州の水郷都市・箭納倉(やなくら)での怪事件の顛末記。
 レコード会社でプロデューサーをしている塚崎多聞は、三隅協一郎をたずね、箭納倉に降り立った。協一郎に誘われたからだが、その地で彼に聞かされたのは、不思議な事件だった。
 掘割に面した家に住む三人の老女がたてつづけに失踪し、やがて何事もなかったかのように戻ってきたというのだ。しかもその内の一人は足が不自由で、自分の力で出ていったとは考えにくい。不可解なことはもう一つあった。全員、失踪中の記憶が抜け落ちていたのだ。
 多聞は、失踪した女性たちのインタビューテープを聞き、その背後に漂う“音”に気がついた。
“音”はなにを意味しているのか?

 毛色の違うホラー。
 怖いのに怖くない。あるいは、怖くないのに怖い。
 展開されるのはまさしく“恩田陸”の世界で、その象徴は塚崎多聞ではないかと思います。ひょうひょうとした子供のような大人で、世界と切り離されている……。宙に浮かんでいるような男。
 物語には結末がありますが、それは本の終わりにすぎません。


 
 
 
 
2002年10月14日
神林長平
『宇宙探査機 迷惑一番』
ハヤカワ文庫JA

 地球連邦軍・月面基地所属の迎撃小隊〈雷獣〉の面々は、宇宙空間で謎の物体と遭遇した。
 見る者によってちがった形としてとらえられ、さらに不思議な現象をまき散らしつつ、ついに不審な物体は月面に落ちた。〈雷獣〉は、その一部を回収し帰還する。
 強力なイメージスクランブラをかけられていると判断された〈雷獣〉のメンバー5名は基地で検査を受けるが、軍医の診断は「5人とも死んでいる」だった。

 光文社で絶版になっていたものを早川がひきとった、復刊作。とても若々しい神林長平とご対面できます。若すぎる気もしないでもないですが。


 
 
 
 
2002年10月15日
コードウェイナー・スミス(伊藤典夫/訳)
『第81Q戦争』ハヤカワ文庫SF

人類補完機構》シリーズの中の一冊。
 J・J・ピアスが編集した、スミスの傑作選からもれてしまった作品を寄せ集めたもの。寄せ集めただけあって、おもしろいものもあれば、不可思議なものもあり。
 それらすべてをひっくるめてスミスなのだな、と思うと、ぜひ読んでおきたい一冊ながら、人には薦めにくい……。


 
 
 
 
2002年10月20日
宮部みゆき
『クロスファイア』
上下巻・光文社文庫

 念力放火能力を持つ青木淳子の物語。
 廃工場で、偶然に四人の若者の犯罪行為を目撃した淳子は、迷うことなくその持てる力を発揮した。焔を放ち、焼き殺したのだ。三人まではしとめることに成功した淳子だったが、拳銃で撃たれ、リーダー格の男を一人逃してしまう。
 淳子は、若者たちに連れてこられていた瀕死のフジカワから、誘拐された恋人のことを聞かされ、救出にのりだす。逃したアサバを殺しフジカワの恋人・ナツコを助けることが、淳子の新たな使命となった。手がかりは、アサバの残した飲み屋のマッチのみ。
 淳子はナツコを助け出すことができるのか?
 一方、警視庁放火捜査班の石津ちか子は、淳子の犯行の跡に立ち会い、ある事件を思い出していた。常識では考えられない不可解な焼殺事件は、これがはじめてではない。
 ちか子は、淳子を捕らえることができるのか?

 中編「燔祭」の続編。
 2册に別れた長い物語ですが、長さを感じさせない出来でした。ただ、それは、物足りなさをも内包しているのですが。やわらかい語り口のせいかもしれません。そのやわらかさを評価する人もいるでしょうし、おもしろいんですけどね。


 
 
 
 
2002年10月27日
バリー・ヒューガート(和爾桃子/訳)
『鳥姫伝』ハヤカワ文庫FT

 中国的ファンタジイ。
 唐国の庫福(クーフー)村には、二つの名物があった。一つは、名所の湖と防壁。もう一つは、憎まれ役の二人の人間。
 名もない庶民の十男坊である十牛(ジュウギュウ)は、庫福村の少年。ある日、村の子供たちが原因不明の疫病にたおれ、北京へと助けを求め走った。高名な賢者を雇う腹づもりだったが、五千銭でなんとかなったのは、かつては帝国全土がひれ伏したとはいえ今は酒浸りの老師のみ。
 しかし、それが大当たり。
 子供たちは見事に診断され、治療法も分かった。あとは、治療に必要な薬草を見つけてくるのみ……。
 十牛は、老師の助けを得て薬草さがしの旅に出るが、幻の薬草“大力参”がそんじょそこらにあるわけがない。中国全土を巡り、魔物と戦い、迷宮を抜け、行きつく先には???

 時代考証とかの細かいことを抜きにして楽しめる、世界幻想文学大賞受賞作。設定では“唐”ですけど、あまりこだわらない方がすんなり入れます。その一方、最後のオチに絡むとある設定には、中国的な部分が。
 こういうものをユニークというのでしょうね。きっと。


 
 
 
 
2002年11月03日
小松左京
『結晶星団』
ハルキ文庫

「結晶星団」
「星殺し〈スター・キラー〉」
「飢えた宇宙(そら)
「宇宙(そら)に嫁ぐ」
「サテライト・オペレーション」
「神への長い道」
「歩み去る」
「劇場」
「雨と、風と、夕映えの彼方へ」
「氷の下の暗い顔」……以上を収録。

「飢えた宇宙」は、宇宙を舞台にしたホラー。
 限られた空間である宇宙船の中で、乗組員が行方不明になった。すべての部屋、すべてのすみを捜すが、みつからない。そうこうするうち、二人が行方不明になり、三人目もまた……。
 最終的に一人になってしまったアキオは、黒い影を見つけ追跡するが……。

 傑作だけではないのは、確か。


 
 
 
 
2002年11月10日
アイザック・アシモフ(高橋 豊/訳)
『宇宙の小石』ハヤカワ文庫SF

 仕立て屋のシュヴァルツは、なにげない一歩で数万年のタイム・トラベルをしてしまった。行きついた先は、銀河紀元827年の未来。銀河帝国に支配され、地球は、放射能まみれの辺境惑星にすぎない。
 シュヴァルツは、言葉も通じない人々の間で陰謀にまきこまれていく……。

 アシモフの代表シリーズである《銀河帝国衰亡史》にからむ一冊です。

 
 

 
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