宗教と火星のハードSF。
双児であるオーガスタスとアレクサンダーは、国連火星遠征軍を率いていた。司令官アレクサンダーは軍事力を用い、火星の権利を主張する新生ソヴィエト連邦を撤退させる。短期間での大勝利に湧く国連同盟諸国。
アレクサンダーは地球に戻り、英雄として大歓迎を受ける。そんな彼に注目したのが“合一教会”だった。抱き込まれたアレクサンダーは、神そのもの、無限の主として祭り上げられ、全世界を手中に収めようとする。
一方、最高司令官だったオーガスタスは火星に残った。新生ソヴィエトの科学者たちとも協力しあい、火星を独立国として導こうとする。その過程で火星生物を発見し、火星のテラフォーミングにのりだすが……。
巻末の解説に無数の欠点を書かれてしまうような作品。
まったく面白味がないわけではないものの、純粋に楽しむのが難しい……。
超能力SF。
17歳のルシア・ボーマンは、精神感応力者だった。その能力ゆえに疎まれつづけた彼女は、ついに自分を理解してくれる人間と出会った。それが、恋人のチャド・ケーン。同じテレパスでもある。
月開発記念市の高級マンション上階にあるチャドの別荘にまねかれたルシアは幸せの絶頂にあった。チャドの正体を知るまでは……。
その男の正体は、ケネス・ブートタグ。
チャドの精神感応細胞を奪い、今また、ルシアのものを手に入れようと近付いてきたのだ。それを知ったルシアは、毒物を飲まされながらも、救命ポッドを使って脱出を計る。
ポットの中、徐々に脳死状態に向かうルシア。ルシアの強くはげしい殺意は、周囲に災厄をもたらしはじめるが……。
この物語の鍵は、ルシアの残留思念と無限心理警察機構刑事(サイディック)のOZ。なのですが、肝心のOZがなかなか出てこない〜。
おもしろいものの、不満を感じてしまうのでした。
短編集。
「長い部屋」
「幽霊屋敷」
「おれの死体を探せ」
「鳩啼時計」
「共喰い」
「危険な誘拐」
「男を探せ」
「犯人なおもて救われず」
「凶銃」
「ヴォミーサ」
以上、10作品を収録。
ミステリ系SFを集めた一冊。
表題作の「男を探せ」は……
私立探偵の坂東は、偶然出会ったミミという女と深い仲になった。しかし、このミミ、実は「魔風会」の会長の娘であり、魔風会を始め無数の暗黒組織をたばねる、最高の組織、我物組の大ボスの女だったからさあ大変。天才医師B・Jの手術で女にされてしまった坂東は、手術で失った大切なものをとりかえすため、我物組にのりこんだが……。
SFでしかありえないような、メチャクチャなハードボイルドもどきで、男を装おう坂東の意識が、突然女に切り替ってしまう……その流れが圧巻。
諷刺小説。
ヴァン・トフ船長は航海中、魔の入江の噂を耳にした。その海には魔物が棲んでいるという。真珠の新しい採取場を探していた船長は、手つかずの入江に赴くことにした。
そして見つけた。
高い知能をそなえた、山椒魚を。
彼らは、船長の与える道具を見事に使いこなした。使うだけでなく、真珠採取や海中の堤防構築などの作業に従事することもできるのだ。貴重な労働力として人間社会に迎えられた山椒魚たち。しかし、人間と山椒魚は、次第に衝突するようになって……。
古典SFと呼ばれる名作。でも、古典が抱えているであろう“古めかしさ”などという言葉とは無縁。“古いけど今風”というのとも違う。
洒落てて、おもしろくて、恐ろしい。
一読の価値有り。
SF短編集。
「ゴールデン・マン」
「リターン・マッチ」
「妖精の王」
「ヤンシーにならえ」
「ふとした表紙に」
「小さな黒い箱」
「融通のきかない機械」
以上7作品の他、ディック自身の「まえがき」「作品メモ」と、編者マーク・ハーストによる「はじめに」を収録。
表題作の「ゴールデン・マン」は……
政府がミュータントの迫害を行っている時代。DCAから派遣されたベインズは、ミュータントのクリスを捕まえた。18年間、家族とも意思の疎通を行わなかったクリスは、“地上に降臨した神”のような容姿で、未来がよめるらしい。しかし、その正体は分からない。
すぐれた能力を持つミュータントの出現を恐れるDCAは、クリスを殺害することに決めるが……。
先の読めるクリスと、クリスを追い詰めようとするDCA職員と……スリルがあるような、ないような。
でも、傑作集だけあって、傑作ぞろい。
短編集。
「おもちゃの戦争」
「薄明の朝食」
「レダと白鳥」
「森の中の笛吹き」
「輪廻の豚」
「超能力者」
「名曲永久保存法」
「万物賦活法」
「クッキーばあさん」
「あてのない船」
「ありえざる星」
「地図にない町」
以上、12作品を収録。
表題作の「地図にない町」は……
エド・ヤコブスンは、出札係の駅員。窓口に座り、小男に回数券を販売しようとした。しかし、小男の口にした駅名は、存在しない“メイコン・ハイツ”だった。
ヤコブスンから報告をうけた助役のペインは、この謎の駅名の真相をつかむために電車に乗るが……。
ディックの作品は、ハヤカワではほとんどSFレーベルで出されているのですが、これだけは通常の小説レーベルです。訳者の意気込みが感じられるのですが、SFレーベルで読み慣れているからか、少々戸惑ってしまいました。
SF系短編集。
「ハイネックの女」
「くだんのはは」
「流れる女」
「蚊屋の外」
「秋の女」
「女狐」
「待つ女」
「戻橋」
「無口な女」
「お糸」
「湖畔の女」
以上、11作品を収録。
表題作の「くだんのはは」は……
中学3年の良夫は、空襲で住むところを失ってしまった。途方にくれているところに手を差しのべたのは、元家政婦のお咲きさんだった。住みこみ家政婦のお咲きさんが、お邸の奥様に頼んでくれたのだ。以来、大邸宅で厄介になる良夫。ほどなく、母屋のニ階にいる女の子のすすり泣きに気がつくが……。
怪談。ただし、良夫の回想記のようになっているので、一歩引いた感じ。
ハードSF。
天文学者スリーマンが発表した“フォールドライン”理論は、その死後20年がたち、科学者たちに利用法を見い出された。恒星サイズの質量付近には“フォールドポイント”が出現するが、そこからフォールドラインに沿って、即座に、隣の“フォールドポイント”に到達することができるのだ。
こうして人類は宇宙にちらばっていったが、ヴァレリア星系もまた、フォールドポイントによって開発された星域だった。しかし、ヴァレリア星系には弱点があった。星系にあるフォールドポイントは、ネイピア星系へのものただ一つしかないのだ。そこを通らなければ、他のどの星系に行くこともできない。
そして、ネイピア星系に影響を与えている巨星アンタレスの超新星化により、肝心のフォールドポイントは消滅してしまった。
以来、100年。
人類社会から完全に孤立したヴァレリア星系の惑星アルタでは、船籍不明の超弩級戦艦の侵入を察知した。フォールドポイントがついに復活したのか?
ただちに調査に赴いたディスカバリー号のリチャード・ドレイク大佐は、意外な事実を目の当たりにする。地球所属のこの宇宙戦艦は、圧倒的な戦闘能力をもちながらも完膚なきまでに破壊されていたのだ。
フォールドポイントの向こうで、なにが起こっているのか?
読みごたえ満点。
読みきりに見せかけておいて、実は続編につづく結末には不満なものの、閉ざされた100年を生かした世界観に好感持てます。政治的かけひきとか、人間的かけひきとか、機械だけではありませんよ、このおはなしは。
短編集。
「フヌールとの戦い」
「最後の支配者」
「干渉する者」
「運のないゲーム」
「CM地獄」
「かけがえのない人造物」
「小さな町」
「まだ人間じゃない」
以上8作品の他、ディック自身による「作品メモ」「あとがき」を収録。
表題作の「まだ人間じゃない」は……
ウォルターは堕胎トラックを見かけ、家まで走った。
もしや、自分を連れにきたのでは?
法律で、12歳未満の子供には魂がないとされ、両親に見放された子供たちは堕胎トラックで運ばれていくのだ。堕胎施設で生後堕胎をするために。
子供たちの不安や恐怖。
命令を守ろうとする大人と、反抗する大人と……。
SF西部劇。
人類をはじめとする宇宙人種たちは銀河帝国をいただき、民主制の名のもとに暮らしていた。まったくの平和ではない。ここに悪業の限りをつくす男がいた。
その名はサンティアゴ。
数多くの賞金稼ぎの追撃をかわし、その正体、生い立ち、顔、すべてが謎の男。
セバスチャン・N・カインもサンティアゴを追っているひとりだった。元革命家にして名うての賞金稼ぎ。一仕事終えた後に立ち寄った〈辺境〉の酒場で、サンティアゴの情報を得る。銀河系最高の賞金稼ぎと呼ばれるエンジェルも、この辺境に入ったらしい。カインはすぐさま飛び立った。
一方、ジャーナリストのヴァーチュー・マッケンジーは、ネタのためなら手段を選ばない。今は、サンティアゴへの独占インタビューで一攫千金を狙っているところだ。カインと出会い、その目的を知り、情報交換を行い相棒となった。
サンティアゴの首をとるのは、カインかエンジェルか? それとも別の?
そして、サンティアゴの正体とは?
複数人の視点から物語が成り立っているため、サンティアゴを多角的に追いかけることができます。ただし、上下巻に渡るこの物語の最終目的地は、サンティアゴの発見ではありません。その正体は、けっこう早い時点でばれてます。
ラストは、既存の登場人物を使ったがために、未来がくぐもってしまった印象が残りました。ネタバレになるので詳しくは語れませんけど。