航本日誌 width=

 
2014年の記録
目録
 
 
 3/現在地
 
 
 
 
 
このページの本たち
時が新しかったころ』ロバート・F・ヤング
量子怪盗』ハンヌ・ライアニエミ
大航宙時時代 −星海への旅立ち−』ネイサン・ローウェル
クリスマスのフロスト』R・D・ウィングフィールド
夜のピクニック』恩田 陸
 
道を視る少年』オースン・スコット・カード
紅蓮の女王』黒岩重吾
さらば愛しき女よ』レイモンド・チャンドラー
夏への扉』ロバート・A・ハインライン
楽毅』宮城谷昌光

 
各年の目録のページへ…

 
 
 
 

2014年04月27日
ロバート・F・ヤング(中村 融/訳)
『時が新しかったころ』創元SF文庫

 カーペンターは、北米古生物学協会の調査員。相棒は、サム。
 サムは、大型ロンカ式タイム・マシン。トリケラトプスを偽装している。というのも、カーペンターがいるのは、白亜紀後期だから。
 カーペンターの目的は、この時代の地層から発見された化石の出所を調べること。化石は、現代人の石化した鎖骨だったのだ。
 果たしてカーペンターは、場違いな人間を発見する。だが、それは、鎖骨の持ち主らしきおとなではなく、アナトサウルスに追いつめられている子供2人だった。
 ディードレとスキップの姉弟は、火星人なのだという。しかも王女と王子で、誘拐され、地球につれてこられたのだという。
 カーペンターは二人を保護するが……。

 ヤングの、同タイトルの中編(『時の娘』に収録)の長編版。
 結末も含めて、基本的な流れは同じです。

 ヤングのほんわかした作風が好きなら、楽しめると思います。ただ、やはり、中編だったものを引き延ばしたので、濃縮された文量の中でキラリと光っていた輝きが、ぼやけてしまったような印象は残りました。
 ヤングを読んだことがない方には、中編版の方を読んでほしいです。


 
 
 
 
2014年05月03日
ハンヌ・ライアニエミ(酒井昭伸/訳)
『量子怪盗』ハヤカワ文庫SF1951

 ジャン・ル・フランブールは、かつて太陽系にその名を轟かせていた大怪盗。今は、〈ジレンマの監獄〉の〈偽神(アルコーン)〉に囚われている。
 そんなル・フランブールの目の前に、謎の少女ミエリが現れた。ミエリはル・フランブールを脱獄させ、仕事の依頼を持ちかける。
 実は、ル・フランブールの記憶には欠損箇所があった。〈アルコーン〉に見つからないよう、自身にも思い出せないように何かを隠しておいたらしい。ミエリが求めているのも、その記憶。
 ル・フランブールは、過去においてなにであったか。
 鍵は、火星の〈忘却の都市(ウブリエット)〉にある。
 ル・フランブールとミエリは、ウブリエットに向かうが……。
 一方ウブリエットではイジドール・ボートルレが、義人(ツアディーク)の要請で探偵として活躍していた。火星では死せる魂(ゴーゴリ)誘拐団が暗躍しており、ウブリエットの自警団員であるツアディークは、彼らが行う精神誘拐を食いとめようと躍起になっている。
 イジドールは、ショコラティエ事件の犯人をつきとめるが……。

 ガジェットてんこもり。
 独特の世界が、詳しい説明もないままに展開していくので、冒頭は読みづらいです。なんとなく分かってきたころに、ようやくおもしろがれました。ただ、楽しめるのはあくまで場面場面。残念ながら、世界全体の把握にまでは至りませんでした。
 巻末に、訳者による用語解説があります。何度助けられたことか!

 なお、本作には、アルセーヌ・ルパンを彷彿とさせる箇所があります。一応ルパンは読破しているのですか、いかんせん昔の話で、ルパンとのつながりに気がつかなかったことが多々あったようです。そちらに精通していると、さらに楽しめそうです。  


 
 
 
 
2014年05月04日
ネイサン・ローウェル(中原尚哉/訳)
『大航宙時時代 −星海への旅立ち−』
ハヤカワ文庫SF1954

 イシュメール・ホレイショ・ワンは、18歳。ネリス星で母と二人暮らし。その母が事故死し、天涯孤独の身となってしまった。
 ネリス星は企業惑星。今までは母が社員であったため、居住し、大学進学の道も開けていた。だが、扶養家族でなくなり、ネリス社に就職口がない以上は、退去するしかない。
 イシュには、惑星間航路の切符を買う金すら残されていなかった。こうなると、定期的に入港する商船で船員として雇ってもらうしかない。
 これまでイシュは、船員になるつもりはなかった。右も左もわからない状況下、助言をくれたのは、船員会館のオルークだった。イシュは、オルークの口添えもあり、連合貨物船ロイス・マッケンドリック号の厨房補助員として採用される。
 同僚は、フィリップ・カーステアズ。
 司厨長のラルフ・アルムリキの元、働き始めるが……。

 なんとも言い表しようのないSF。
 出版社による紹介文だと、イシュには「熱き思いと、大いなる夢」があるらしいのですが、ちょっと違うかな、と。もちろん、惑星から出られればそれでいいや、というような投げやりさはないです。船員となったからには……という思いはあります。
 経済小説をSFにしたら、こんな感じなのかもしれません。船員が行う商売に関するネタが印象的で。個人より共同でやった方がいいよね、と組合を結成したりして。

 振り返ってみれば、冒頭の、母の事故死が最大の山場だったかもしれません。大冒険が読みたい人はガッカリでしょうけど、その分、SF的な日常の中にある起伏を感じられました。


 
 
 
 

2014年05月05日
R・D・ウィングフィールド(芹澤 恵/訳)
『クリスマスのフロスト』創元推理文庫

ジャック・フロスト警部》シリーズ。
 緊急通報でかけつけた巡査たちが目撃したのは、コテッジに不法侵入し、住人に撃たれて意識不明のジャック・フロスト警部だった。どうして、こんなことになったのか? すべては、4日前の日曜日に始まった……。
 デントンは、ロンドンから70マイルはなれた地方都市。
 デントン警察に配属された新米刑事のクライヴ・バーナードは、警察長の甥。これまでロンドンにいたクライヴは、実力で刑事になった自負がある。また、都会でもまれてきたセンスを見せつけてやろうと、鼻息も荒い。
 だが、デントン署の面々にからかわれてしまう。
 そんなクライヴの直属上司となったのが、フロスト警部。フロストはだらしのない格好で、時間には頓着せず、デスクワークは大の苦手。下品な冗談を所構わず口にする中年男だ。
 デントン署では、日曜学校からの帰りに姿を消した8歳の少女の捜索に大わらわ。ふたりも捜査にかり出されるが……。

 冒頭で、結末が明かされます。それが、フロストが撃たれた、という事件。木曜日になりたての真夜中のことでした。
 そして日曜日にさかのぼり、クライヴがデントンに到着。時を同じくして、8歳のトレーシーが行方不明となります。
 本格的な捜索が始まるのは、明けて月曜日になってから。
 ほぼ3日間の短い期間に、詰め込まれた事件の数々。
 予備知識なしに読んだので、当初はクライヴが主役なのかと思ってました。クライヴ視点が多かったですし。それが徐々にフロストにスイッチしていって、やはり主役は、タイトルになっているフロストだったか、と。
 フロストは、署長には嫌われてますが、同僚からは好感を持たれてます。人間臭くて、すごく有能というわけでもない。それでも、気がつけば事件が解決されているから不思議です。
 読み応えがありました。


 
 
 
 
2014年05月06日
恩田 陸
『夜のピクニック』新潮社

 北高には修学旅行がなかった。
 代わりに開催されるのが、鍛錬歩行祭。朝の8時から翌朝の8時まで、80kmを歩き通す。休憩と、食事と、2時間の仮眠をとるとき以外、ずっと歩く。制限時間内にゴールするため、走らねばならないことすらある。
 西脇融にとって、今年の歩行祭は高校生活最後のイベント。融には、親友の戸田忍にさえも告げていない秘密があった。
 実は融には、異母兄妹がいた。
 亡父の浮気相手の娘、甲田貴子だ。
 同じ高校になったときには仰天し、3年ではクラスメイトとなってしまった。融も、貴子に罪がないことは理解している。だが、わだかまりをどうすることもできずにいた。
 貴子もまた、融のことを意識していた。
 貴子は本心では、融と仲良くしたいと思っている。だが、睨みつけてくる融に、ただただ身をすくませることしかできない。
 ふたりは同じクラスに在籍しながらも、まったく接触がなかった。だが、互いに意識しあっており、周囲からは、ふたりが秘かにつきあっていると思われているらしい。
 貴子はこの歩行祭で、ある賭けをするが……。

 融と貴子の独白で綴られる、たった2日の出来事。
 クラスメイトに異母兄妹がいる、というシチュエーションはなかなかない状況だと思います。一方で、周囲の同級生たちには、こういう子いたなぁ〜、と思いながら読んでました。そのあたりのバランスが絶妙。
 
 なお、歩行祭は、作者の母校(茨城県立水戸第一高校)の行事がモデルになっているそうです。すごくリアルだと思ったら、経験者でしたか。どうりで。


 
 
 
 
2014年05月08日
オースン・スコット・カード(中原尚哉/訳)
『道を視る少年』上下巻
ハヤカワ文庫SF1945〜1946

《パスファインダー》第一巻。
 リグは生まれつき、道(パス)が見えていた。
 パスは、生き物がこの世界を通ったあとに空中に残る薄い光の線。新しいパスは、青く光っている。古くなるにつれ、緑から黄色に近づき、徐々に赤みが強くなっていく。
 パスにはそれぞれに特徴がある。罠漁師の父からは、この不思議な能力をみがくように助言された。また、能力を隠すようにとも。
 リグは13歳になっていた。
 リグは母のことを知らない。父は、なんでも知っていた。
 リグは父から、さまざまなことを教わった。罠漁師には必要のない、あらゆることを。天文学とか、銀行業とか、さまざまな言語まで。
 あるとき父は、倒れた木の下敷きになって死んだ。
 リグは、父が死ぬ間際に残した言葉に戸惑う。リグには姉がおり、母親と一緒に暮らしているらしい。父は、母のことには触れず、姉に会うように言い残した。
 母と姉がいるのは、セッサモト帝国の長年の帝都アレッサセッサモ。リグは、ハジア・セッサミンの息子、リグ・セッサメケシュだという。
 リグは、アレッサセッサモを目指して旅立つが……。

 リグのいる世界の暦の始まりは、11,191年。暦の数え方は、カウントダウン方式。この特異な手法が採用された理由は、ときどき挟まるラム・オーディンの物語で明らかにされます。
 ラムは、地球初の恒星間移民船のパイロット。植民者たちは眠り、起きているのはラムだけ。話し相手は、人間そっくりな消耗体たち。
 ラムがひとりで目覚めているのは、ある決断を下すため。
 ラムの物語は短いですが、必要十分以上。かなり早い段階で、なにが起こったのか分かってしまいます。おそらく、そのあたりはネタバレで構わないのでしょう。
 うまいなぁ、とは思いますが、同氏の他の作品とかぶっている印象。そちらの方は翻訳が中断したきりなので、少し心配してます。本作だけでは終わってないもので。
 もしかして、今度も最後まで読めないかも……。


 
 
 
 
2014年05月09日
黒岩重吾
『紅蓮の女王』中公文庫

 585年。
 敏達(びだつ)大王が崩御した。
 次期大王の最有力候補は、押坂彦人大兄皇子(おしさかのひこひとのおおえのみこ)。敏達大王と、前皇后広姫との間にできた皇子だ。
 実は、敏達大王には遺言があった。王位継承者は押坂彦人大兄皇子である、と。それを聞いたのは、現皇后炊屋姫(かしきやひめ)ただひとり。
 炊屋姫が皇后になれたのは、広姫が亡くなったから。炊屋姫にとって広姫はライバルであり、その息子が大王になるのを容認することはできない。
 それは、炊屋姫の叔父である蘇我馬子にとっても同じ。崇仏派の蘇我家は、排仏派の物部家と対立していた。押坂彦人大兄皇子は、物部に近い存在だったのだ。
 炊屋姫と馬子は密談し、大兄皇子を大王にすることを決める。大兄皇子は、炊屋姫の兄。崇仏派であり、おとなしい性格は、馬子にとっても都合がいい。
 炊屋姫は太后として、敏達大王の意向が大兄皇子にあったと宣言する。かくして大兄皇子は用明大王となるが……。
 
 炊屋姫が推古天皇となるまでの物語。
 文献の少ない時代ゆえ、かなりの部分が想像になってしまうのは仕方ない。とはいうものの、なんだか、お昼のメロドラマ的な……。
 分かりやすくはあります。


 
 
 
 
2014年05月17日
レイモンド・チャンドラー(清水俊二/訳)
『さらば愛しき女(ひと)よ』ハヤカワ・ミステリ文庫

 フィリップ・マーロウは私立探偵。
 3月の終わりの暖かい日、マーロウはセントラル街にいた。理髪店に依頼人の良人がいるということだったが、空振りだった。
 そんなとき、ひとりの大男にでくわした。
 大男は、フロリアンという店に、かつて恋仲だったヴェルマという女を探しにきたのだという。大男の名は、大鹿マロイ。マロイは、グレート・ベンドの銀行で4000ドルの仕事をし、8年間、監獄に入っていた。
 マロイは、店のボスを殺してしまった。
 マロイは立ち去った。
 マーロウは、事件を担当することになったナルティ警部と取引をした。そうしてマーロウは、ヴェルマの行方を追うことになるが……。

 振り返れば名作のようにも思えるのですが、読んでいる最中は苦痛でした。
 セリフや挙動のひとつひとつは、ステキに輝いてます。ただ、ちょっと自分には合わなかったな、と。
 読む人が読めば、大絶賛! なのだと思いますが。 


 
 
 
 
2014年05月24日
ロバート・A・ハインライン(福島正実/訳)
『夏への扉』ハヤカワ文庫SF345

 1970年、ロサンゼルス。
 技術者のダニエル・B・デイヴィスは、親友のマイルズ・ジェントリイと共同で、機械製造会社を設立した。
 ダニエルが発明した家事用ロボットは大評判で、業績も絶好調。タイピスト兼会計係として雇い入れたベル・ダーキンと婚約し、ダニエルは幸せの絶頂にいた。
 ところが、マイルズとベルに裏切られてしまう。ふたりは裏で共謀しており、ダニエルは会社から追い出されてしまった。
 悲嘆にくれるダニエルの目に留まったのが、冷凍睡眠。すぐさまミチュアル生命保険会社と契約を結び、愛猫のピート共々30年の眠りにつく手はずを整える。
 だが、どうしても腹の虫がおさまらないダニエルは、マイルズに会いに行ったことで計画が狂ってしまう。マイルズ宅に居合わせたベルに薬をもられ、カリフォルニア・マスター生命保険の冷凍睡眠に送り込まれてしまったのだ。ピートを残したまま……。
 30年後、無事に目覚めたダニエルだったが、預けていた財産は無事ではなかった。カリフォルニア・マスターが倒産していたため財産をすっかりなくしていたのだ。しかも、30年前の知識では満足な就職先もない。
 ダニエルは、ピートを路頭に迷わせたであろうベルに復讐するため、闘志を燃やすが……。

 時間テーマの古典。
 ポイントはなんといっても、猫のピート。登場回数はそれほど多くないのですが、存在感はピカイチです。ベルに裏切られて落ち込むダニエルを励ましたり、危機に陥ったダニエルのために(?)闘ったり……。
 時間SFであると同時に、猫SFでもあります。


 
 
 
 
2014年05月25日
宮城谷昌光
『楽毅』全四巻/新潮社

 中国、戦国時代。
 楽毅(がっき)は、中山国(ちゅうざんこく)の宰相の跡取り息子。成人して、斉の首都に住まう孫子の門をくぐった。実は、斉と中山とは国交を断絶している。そのため身分を隠しての留学となった。
 中山は、趙に囲まれた弱小国。斉との同盟は非常に重要な意味を持つ。ところが、中山王には自国の防衛に対する危機感がまったくない。
 そんな折、趙王が中山を狙っているとの情報が入る。
 趙王は手始めに、軍を引き連れ中山を縦断した。中山軍はなにもすることができない。進撃を妨げた形跡すらないことに、楽毅は落胆する。
 留学を終えた楽毅は宰相に、斉との国交を回復するべきだと進言した。だが、それには中山王の態度を改めさせないとならない。
 宰相はまず、趙の向こう側にある魏と接触を図ろうとする。太子が使者として赴き、楽毅も同行した。
 結果は不首尾。中山は、独自に防衛することになる。楽毅は騎馬軍を預かり、戦に備えるが……。

 楽毅は燕の武将として有名で、いつ燕に移るのか、気になりながらの読書となりました。
 物語の大半は中山でのこと。楽毅だけでなく、趙王にも事件があったりと、読み応えがありました。いつものごとく、研究発表的な書き方になってしまうときがあるのですが……。

 
 

 
■■■ 書房入口 ■ 書房案内 ■ 航本日誌 ■ 書的独話 ■ 宇宙事業 ■■■