2017年11月26日
ガブリエル・ゼヴィン(小尾芙佐/訳)
『書店主フィクリーのものがたり』早川書房
アメリア・ローマンは、ナイトリープレスの営業員。アリス島唯一の書店、アイランド・ブックスの新しい営業担当となった。
アイランド・ブックスの店主は、A・J・フィクリー。39歳。フルタイムの店員はおらず、児童書の棚はきわめて少ない。在庫は文学関係にかたよっている。
アメリアはフィクリーに新刊について説明するが、冷たくあしらわれてしまう。
実はフィクリーは、妻のニックを事故で亡くし、いまだ立ち直れずにいた。ニックは、島の出身で社交的だった。気難しいフィクリーはいつまでたってもよそ者扱い。心の支えは、ガレージセールで手に入れた、エドガー・アラン・ポーの『タマレーン』だけ。
状態によっては40万ドル以上で売れる稀覯本だ。フィクリーは、これさえあればいつでも引退できると、思っていた。
その『タマレーン』が盗まれてしまった。
自暴自棄になったフィクリーは、玄関の鍵を閉めずに出かけるようになる。もはや盗まれるような貴重品はなにもないのだから。
そして、クリスマスまであと2週間というとき。
フィクリーが外出から帰ると、店に幼児がいた。名前はマヤ。ひとなつこくて、着ているものもいい。迷子かと思ったが、書店主へのメッセージが残されていた。
マヤは捨てられたのだ。
翌朝、水死体が発見される。身分証からマリアン・ウォレスだと知れた。マヤの母だった。アリス島の者ではなく、知り合いもいない。
なぜアリス島に来たのか。なぜ自殺したのか。なぜマヤを書店主に託したのか。
フィクリーは、マヤを育てる決心をする。
島の住人たちは、マヤに興味津々。マヤの様子を見るため書店に立ち寄っては、本を買っていく。売上げはのび、頑なだったフィクリーも次第に島社会に溶け込んでいく。
やがてフィクリーは、アメリアに好意を抱き始めるが……。
本屋大賞(翻訳部門)受賞作。
フィクリーとマヤを取り巻くあれこれが語られます。
ニックの姉イズメイはフィクリーのことを心配して、いろいろと面倒をみています。その夫で作家のダニエル・パリッシュは浮気性。
警察署長のランビアーズは、フィクリーの節目節目に立ち会ってきました。ニックの事故のとき。『タマレーン』が盗まれたとき。マヤを保護したとき。
マヤの登場で書店に人が集まりはじめ、読書会も活発に開かれるようになります。そのため、作中、いろんな本が登場します。知っているものもあり、知らないものもあり。
当然、知っている方が楽しめます。これまでの読書歴を試されているかのようでした。
絶品。
《シャム猫ココ》シリーズ第17作
ジム・クィラランは、シャム猫のココとヤムヤムと共に、悠々自適な生活を謳歌していた。暮らしているのは、ムース郡ピカックス市。地域新聞〈ムース郡なんとか〉にコラムを執筆している。
クィラランは、ムース郡はおろか合衆国の中部北東地域でもっとも裕福な独身男だった。その莫大な富は、遺産相続によってころがりこんだもの。クィラランにとって重荷でしかなかったが、慈善団体を設立して遺産をつぎこむことで、問題は解決した。
ムース郡で、蒸気機関車が復活した。
お披露目走行の切符は、奨学基金への寄付金つきで500ドル。
発案したのは、フロイド・トレヴェリアン。ランバータウン信用組合理事長だ。フロイドは、鉄道に並々ならぬ思い入れを持っていた。
事件は、お披露目走行の日の夜に起こった。
日曜日にもかかわらず州の銀行監査委員会が突然行動を起こし、ランバータウン信用組合を立入禁止にしたのだ。フロイドは姿をくらましたまま。秘書の行方も知れない。
クィラランは、あまりのタイミングのよさに、密告を疑う。記者たちが取材したところによると、信用組合は、州銀行監査委員会が詐欺罪の告発をする公聴会まで無期限に閉鎖されるという。預金は凍結。何百万ドルという預金が紛失しているらしい。
そのうえ、損失を補填するはずのロックマスター保障会社は破産していた。
当初、地元の預金者たちは、欺瞞と不正のかどで政府を非難していた。フロイドは地元出身の英雄なのだ。みんなが信じていた。それが徐々に、恨みのこもった怒りへと変わっていく。
ついに、トレヴェリアン家の犬が狙撃される騒ぎが起こるが……。
今作では、図書館長でありクィラランが好意を寄せているポリーの心配性が炸裂。
ポリーは自分の家を建てることになりまして、いろんなことに気をもんで、心ここに在らず状態。専門家には任せずに、しかも完璧な家を造ろうとするものですから、さぁ大変。
そのうえ、建築を請け負った大工はフロイドの長男なのです。そういうつながりもあって、クィラランはトレヴェリアン家に興味津々。
気もそぞろなポリーに変わって、『猫はクロゼットに隠れる』で登場したシーリア・ロビンソンが移住してきます。元気はつらつなシーリアは、クィラランの秘密指令を実行していきます。ちょっとした新風でした。
《シャム猫ココ》シリーズ第18作
ジム・クィラランは、シャム猫のココとヤムヤムと共に、悠々自適な生活を謳歌していた。暮らしているのは、ムース郡ピカックス市。地域新聞〈ムース郡なんとか〉にコラムを執筆している。
クィラランは、ムース郡はおろか合衆国の中部北東地域でもっとも裕福な独身男だった。その莫大な富は、遺産相続によってころがりこんだもの。クィラランにとって重荷でしかなかったが、慈善団体を設立して遺産をつぎこむことで、問題は解決した。
この秋ムース郡では、意識の高い市民団体と熱心なグルメたちが、〈食の大探求〉と銘打ったおいしい企画を料理することになった。スパイスはもうひとつある。謎の女性が〈ニュー・ピカックス・ホテル〉に長期滞在していたのだ。
〈ニュー・ピカックス・ホテル〉はきちんとしたホテルだが、連泊したくなるようなところではない。それだけでも謎なのに、人づきあいを避け、常に黒い服をまとった様子に人々は興味津々。オリーヴ色の肌や、官能的な茶色の瞳、顔の左半分を隠しているたっぷりした黒髪について、話に花を咲かせた。
クィラランも例外ではない。
クィラランはコラムのためのインタビューを口実に、ホテルを所有しているグスタフ・リンバーガーに探りを入れる。しかし、女性の正体については分からずじまい。それどころかリンバーガーは、野良犬を追い払おうとして階段で転倒、入院してしまった。
一方、このところのココは、妙にいらいらしがち。気分転換させるためクィラランは、ココとヤムヤムを避暑地ムースヴィルのキャビンにつれていく。私有地についてみると、あの謎の女性がいた。
クィラランは得意の口調で、会話を弾ませていく。
女性は、オヌーシュと名乗った。住む場所を探しているらしい。レストランで料理をしたがっていた。地中海料理を。
クィラランが、かつて食した小さな緑色の衣にくるんだミートボールの思い出を話すと、オヌーシュが作ってくれるという。早速キャビンの台所に案内するクィラランだったが、いくつか食材が足りない。オヌーシュを残し、町へと買い物にでかけた。
そのとき、事件は起こった。
〈ニュー・ピカックス・ホテル〉の客室が、爆弾で吹き飛ばされたのだ。オヌーシュが泊まっている部屋だった。
クィラランがキャビンに帰ると、オヌーシュは消えていた。彼女は、命を狙われた逃亡者だったのだ。
クィラランは、事件の真相をさぐろうとするが……。
物語の主軸は〈食の大探求〉。
いろんなエピソードが「食」にからめて登場します。クィラランにもいろいろな役目がまわってきます。料理教室とか、コンテストの審査員とか、オークションにディナーデート権を出品するハメになったり。亡きアイリス・コブの、行方不明になっているレシピノートのこととかも。
そこに謎の女性の話題が混ざり、爆発事件があり、憶測が乱れ飛びます。破壊されたホテルがどうなるのか、ということも。
タイトルの「チーズ」は、チーズのお店ができたところから。ココが、いくつかの種類のチーズに興味を示します。
ホテル爆発事件より、〈食の大探求〉イベントの方が記憶に残る一冊でした。郡庁所在地とはいえ、人口3000人。田舎町ゆえの盛り上がり方で、クィラランも振り回されながらも楽しんでいるようでした。
2017年12月03日
ナオミ・ノヴィク(那波かおり/訳)
『ドラゴンの塔』上下巻/静山社
アグニシュカは、17歳。
谷にあるドヴェルニク村で生まれた。
このあたりの領主は〈ドラゴン〉と呼ばれている。〈ドラゴン〉はそこらの領主とはちがって、自分の住まいとする塔をひとつ持つきり。兵士はひとりもかかえていない。召使いもいない。
ポールニャ王国で〈ドラゴン〉に求められているのは、魔術による奉仕。はずれにある〈森〉を見張り、その邪悪なたくらみから国土を、住民たちを護っている。
〈ドラゴン〉は村人たちにとって、邪悪ではないけれど、近寄りがたく、恐ろしい存在だった。交流がないせいでもあるが、〈ドラゴン〉は10年ごとに、谷からひとりの娘を召し上げていた。娘は塔で暮らし、10年後には解放される。だが、すっかり別人になっていて、谷さら去るのが常だった。
この年〈ドラゴン〉に選ばれるのは、みんながみんな、同じドヴェルニク村のカシアだと考えていた。カシアは美しく、気だてもいい。ところが実際に選ばれたのは、ドジなアグニシュカだった。
実はアグニシュカには、魔術の才があったのだ。
アグニシュカは〈ドラゴン〉から魔術の手ほどきを受けるが、なかなかうまくいかない。
そんなとき、危急の知らせが舞い込む。
ドヴェルニク村が〈森〉に襲われた。〈森〉は、人間や家畜を穢し怪物に変えて土地を侵略する。素早く対処しなければならない。
ところが、頼りの〈ドラゴン〉は留守。アグニシュカは、秘薬をその手にロープで塔を脱出。ドヴェルニク村へと向かうが……。
ネビュラ賞受賞。
ジャンル的には児童書か、そこから一歩出たヤングアダルト。出版社が別のところだったら、大人向けファンタジーに分類されていたと思います。
いろんな要素がつまっていて、中でも特異なのが〈森〉という存在。〈森〉の悪巧みとか、〈森〉が生まれた理由とか、〈森〉がすべての中心でした。
アグニシュカは感覚で魔法を使うタイプです。対する〈ドラゴン〉は、ものごとの秩序をなによりも重んじるタイプ。両者のちがいがおもしろいです。
ただ、作中で疑問に思ったこと、更なる広がりが期待できそうなエピソードの内、答えがないものがチラホラ。物足りなさが残ってしまいました。
《シャム猫ココ》シリーズ第19作
ジム・クィラランは、シャム猫のココとヤムヤムと共に、悠々自適な生活を謳歌していた。暮らしているのは、ムース郡ピカックス市。地域新聞〈ムース郡なんとか〉にコラムを執筆している。
クィラランは、ムース郡はおろか合衆国の中部北東地域でもっとも裕福な独身男だった。その莫大な富は、遺産相続によってころがりこんだもの。クィラランにとって重荷でしかなかったが、慈善団体を設立して遺産をつぎこむことで、問題は解決した。
暮れも押し詰まった頃、ピカックスでは盗難が頻発していた。車や公共の場所から小さな品物がしじゅうなくなるようになり、ついに地元新聞は施錠を呼びかけた。小さい町ゆえ、ドアに鍵をかけない習慣があったのだ。
このころクィラランは新しく、楽しい話し相手を見つけていた。ピカックス・ピープルズ銀行頭取になったウィラード・カーマイクルだ。町の人々もウィラードには好意的。ところがその妻ダニエルは、若すぎ、都会的すぎた。
ダニエルには、カーター・リー・ジェームズといういとこがいた。修復コンサルタントらしい。
プレザント・ストリートには古い家々が立ち並んでいる。通り全体が、1880年代にタイムスリップしたかのようだった。
ウィラードは、経済的目的と市の美化のために修復したいと考えていた。カーター・リーが協力してくれるという。クィラランも助力を約束する。
こうして旧家を訪れたカーター・リーは、独身で好青年とあって、女性たちの話題をさらっていく。
そんな最中、南の都市に出張したウィラードが強盗に殺されてしまった。人々は悲嘆にくれ、ダニエルの去就に注目が集まる。
一方、数々の窃盗事件は、レニー・インチポットが告訴されるに至った。レニーの人柄を知る人々は、納得がいかない。クィラランもそのうちのひとり。
レニーを雇用していたドン・エックスブリッジも、どこかがおかしいと感じているらしい。クィラランは弁護士を手配し、エックスブリッジにレニーの代役を推薦する。
クィラランは、レニーのライバルがあやしいと考えていた。そこで職場に、スパイとしてシーリア・ロビンソンを送り込んだのだ。
クィラランはシーリアに指示して、情報を集めていくが……。
スパイ大作戦ふたたび。
クィラランにはできないことを、シーリアが生き生きとこなしていきます。シーリアは人生を謳歌していて、読んでいて楽しいです。いささか笑い過ぎなのが気になるのですが。
さらに今回は、前作『猫はチーズをねだる』の〈食の大探求〉に続き、大イベント第二弾〈氷の祭典〉が企画されます。ただ、冒頭から暖冬予想がでてきて暗雲が立ちこめてます。
すべてが順調ではない、というのがスパイスになってました。
《シャム猫ココ》シリーズ第20作
ジム・クィラランは、シャム猫のココとヤムヤムと共に、悠々自適な生活を謳歌していた。暮らしているのは、ムース郡ピカックス市。地域新聞〈ムース郡なんとか〉にコラムを執筆している。
クィラランは、ムース郡はおろか合衆国の中部北東地域でもっとも裕福な独身男だった。その莫大な富は、遺産相続によってころがりこんだもの。クィラランにとって重荷でしかなかったが、慈善団体を設立して遺産をつぎこむことで、問題は解決した。
ある日、古いコギン農場の壁に誰かがペンキで“魔女”と書いた。
コギン農場はトレヴェリアン・ロードにある。クィラランの自宅のすぐ近くだ。コギン夫人の姿を見掛けたことはあったが、これまでに接点はなかった。
興味を引かれたクィラランは、コギン農場を訪ねていく。
モード・コギンは、93歳。ひとり暮らし。変わり者と呼ばれている。
コギン夫人はつい最近、農地を手放したという。相手は、ロックマスターの〈ノーザン・ランド土地開発〉。クィラランの知らない会社だった。
間もなく火事で、コギン夫人は亡くなった。コギン夫人はどうも顔も知らない祖母を思い起こさせる。クィラランは、威厳と敬意に満ちたお別れが必要だと感じていた。
そしてもうひとつ。
あの火事は、失火だったのか?
クィラランは、〈ノーザン・ランド土地開発〉について調べ始めるが……。
実は、主軸はコギン農場ではなく、その向かいに新しくできたアートセンター。
アートセンターの館長ビヴァリー・フォーファーは、農場由来の泥を嫌っています。対するコギン夫人も、アートセンターのことを快く思ってない。
クィラランは、アートセンターで何人かの芸術家と出会います。とりわけ気になっているのが、蝶に魅せられているフィービー・スローン。まだ若いのですが、家庭の事情があって、どことなく不幸な雰囲気を漂わせてます。
アートセンターで絵画の盗難事件があったり、こちらの施設でもいろんなことが起こります。フォーファーが嫌味な感じに書かれてあるのが気になるところ。ピカックスで浮いていることを示したかったのか。少々、残念。
《シャム猫ココ》シリーズ第21作
ジム・クィラランは、シャム猫のココとヤムヤムと共に、悠々自適な生活を謳歌していた。暮らしているのは、ムース郡ピカックス市。地域新聞〈ムース郡なんとか〉にコラムを執筆している。
クィラランは、ムース郡はおろか合衆国の中部北東地域でもっとも裕福な独身男だった。その莫大な富は、遺産相続によってころがりこんだもの。クィラランにとって重荷でしかなかったが、慈善団体を設立して遺産をつぎこむことで、問題は解決した。
避暑地ムースヴィルでは、バックパッカーが行方不明になる事件が起きていた。
デイヴィッドと名乗る青年と最後に会ったのは、ホーリー夫妻。デイヴィッドからテントを張る許可を求められたのだ。ホーリー夫妻は、高価そうなカメラを見て取って、プロのカメラマンではないかと思った。
その2日後。青年に教えた川のピクニック・テーブルには、水が詰まった水筒と荷物が残されていた。
人々は、UFOの仕業だと噂しあった。拉致されたのだ、と。
そのころクィラランは、ムースヴィルのキャビンで休暇を過ごそうと準備していた。UFOの存在には懐疑的。だが、信じている人たちとうまくやっていくことはできる。
キャビンに到着すると、ココが散歩をしたがった。ココはなにかが気になるらしい。
クィラランがココを連れ出すと、ココは、奇妙なうなり声を喉の奥から発して、砂を掘りはじめた。こうして、デイヴィッドは死体となって発見された。
デイヴィッドは、ホーリー夫妻を訪ねた数時間後に亡くなっていた。今から4日前に死んだということだが、腐敗は進んでいなかった。
クィラランは親友の警察署長アンドリュー・ブロディから、捜査情報を得ようとするが……。
クィラランは休暇のつもりでキャビンに滞在するのですが、仕事が次々と舞い込んできます。クィラランも、気になった事件を調べてみたり、なかなか休暇にはなりません。そういう性分なんでしょうね。
《シャム猫ココ》シリーズ第22作
ジム・クィラランは、シャム猫のココとヤムヤムと共に、悠々自適な生活を謳歌していた。暮らしているのは、ムース郡ピカックス市。地域新聞〈ムース郡なんとか〉にコラムを執筆している。
クィラランは、ムース郡はおろか合衆国の中部北東地域でもっとも裕福な独身男だった。その莫大な富は、遺産相続によってころがりこんだもの。クィラランにとって重荷でしかなかったが、慈善団体を設立して遺産をつぎこむことで、問題は解決した。
爆発事件のあった〈ニュー・ピカックス・ホテル〉の改装が終わった。ホテルは新しく〈マッキントッシュ・イン〉と名づけられ生まれ変わったのだ。
オープンしたばかりの〈マッキントッシュ・イン〉にシカゴから、宝石商のデラキャンプがやってきた。泊まるのは、大統領スイート。女性たちはその話題でもちきり。
デラキャンプは、有力な顧客を招待して排他的なお茶会を開く。それから、招待された家に赴き、先祖伝来の宝石を買い取る。さらに、彼の個人コレクションから年代物の宝石を購入したいと思っている人々が、彼のホテルのスイートで会う予約を入れる。
デラキャンプは、小切手もクレジットカードも受け付けない。現金だけ。
クィラランは、デラキャンプとのディナーをとる機会を得るが、その夜、デラキャンプは亡くなった。
どうやら殺人が疑われているらしい。アシスタントのパメラ・ノースの姿が消えたが、犯人の一味なのか被害者なのか、分からない。
クィラランは調査をはじめるが……。
今作の注目は、ついにクィラランの出生の秘密が明かされること。
それにしても、かつては貧乏性だったクィラランも、金遣いが荒くなってきたなぁ、と。そういうことばかり考えてしまいました。
《シャム猫ココ》シリーズ第23作
ジム・クィラランは、シャム猫のココとヤムヤムと共に、悠々自適な生活を謳歌していた。暮らしているのは、ムース郡ピカックス市。地域新聞〈ムース郡なんとか〉にコラムを執筆している。
クィラランは、ムース郡はおろか合衆国の中部北東地域でもっとも裕福な独身男だった。その莫大な富は、遺産相続によってころがりこんだもの。クィラランにとって重荷でしかなかったが、慈善団体を設立して遺産をつぎこむことで、問題は解決した。
10月の末、ムース郡は記録破りの干ばつに襲われていた。
かつてムース郡は、鉱業で栄えていた。今ではすべて廃業になっているが、まだ複数のシャフトハウスが遺されている。
廃坑では、100年近くも地下で火がくすぶっていることもある。干ばつのせいで火が地表に現れて、一瞬にして大火災になる可能性もあった。
警戒に当たっているヴォランティアの消防署は15ヵ所。それだけでは充分ではない。そこで、その応援として、市民火災監視隊が結成された。MCCCの学生たちの発案だ。クィラランもパトロールのヴォランティアに志願した。
ときを同じくして、古書店主のエディントン・スミスが亡くなった。エディントンは、本の相続人としてクィラランを指名。生前から何度となく聞かされていたが、クィラランは冗談だと受け取っていた。
ところが、古書店から火が出て、店も本もすべて焼失してしまう。書店猫のウィンストンだけが難を逃れた。
クィラランは、室内飼いだったウィンストンが怪我もせずに逃げ出せたことに疑問を抱く。不法侵入があったのではないか。放火だったのではないか、と。
一方、警戒中のシャフトハウスでは事件が起こっていた。銃撃が起き、ヴォランティアのラルフ・アビーが亡くなったのだ。ラルフが、不法侵入と破壊行為を携帯電話で報告している最中の出来事だった。
ココはクィラランになにかを訴えているようなのだが……。
火事の謎もありますが、インディアン・ヴィレッジに引っ越してきた稀覯本ディーラーの謎もあります。地元出身らしいのですが、名前を聞いても誰も知らないんです。
あやしい。あやしすぎる。
といっても、クィラランにとっては、親しいポリーに接近してくる相手なのでおもしろくない、という気持ちが先走っているようなのですが。
《シャム猫ココ》シリーズ第24作
ジム・クィラランは、シャム猫のココとヤムヤムと共に、悠々自適な生活を謳歌していた。暮らしているのは、ムース郡ピカックス市。地域新聞〈ムース郡なんとか〉にコラムを執筆している。
クィラランは、ムース郡はおろか合衆国の中部北東地域でもっとも裕福な独身男だった。その莫大な富は、遺産相続によってころがりこんだもの。クィラランにとって重荷でしかなかったが、慈善団体を設立して遺産をつぎこむことで、問題は解決した。
クィラランにとってバンバ夫妻は、恩のある相手だった。そのローリ・バンバから、不思議な相談をされる。
現在バンバ夫妻はクィラランの紹介で、〈くるみ割りの宿〉の経営者になっていた。宿は、かつてリンバーガーの屋敷だった。ヴィクトリア朝様式の屋敷が改装され、ブラック・クリーク地区の目玉として生まれ変わったのだ。
ローリは、ここのところ気分が沈んで仕方がないという。どうも建物全体を黒雲が覆っているような。ムースヴィルやピカックスに出かければ、そんな気分もなくなる。建物自体に、どこか気が滅入るところがあるんじゃないか、と。
夫のニックは馬鹿げたことだと相手にしていなかった。そこでローリは内密に、クィラランに相談したのだ。
クィラランはコラムのためと称して、宿に数日滞在してみることにした。ローリの言うことを真に受けてはいないが、役に立てることはないかと考えたのだ。
スイートに泊まるとはいえ、自宅に比べて広さが充分にない。ココもヤムヤムも不満たらたら。クィラランは、ココにハーネスをつけて川辺の散歩に連れ出した。
そのときココが発見したのは、川を流れてくる死体だった。
身体の特徴から、5号キャビンの泊まり客だと知れた。偽名を使っていたようだ。
クィラランは、ある仮説をたてるが……。
そもそもの発端だったローリの気分は、曰く付きの家具を屋敷から運び出したところで改善。その家具が発見された経緯が、ちと疑問。なぜ改装中に気がつかない?
クィラランが宿に泊まる理由が必要だけれど事件には関係ないので早々に問題を解決させました、といったところでしょうか。今作は、そういうところが多々見受けられました。物語を展開していくために仕方ないにしても、もう少しうまい理由が欲しかった〜。