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2006年の記録
目録
 
 
 
 
 
 6/現在地
 
このページの本たち
異次元への冒険』ジェリイ・ソール
小鬼の居留地』クリフォード・D・シマック
空は船でいっぱい』SFマガジン・ベスト2
大潮の道』マイクル・スワンウィック
航時軍団』ジャック・ウィリアムスン
 
海底牧場』アーサー・C・クラーク
魔法』クリストファー・プリースト
アークエンジェル・プロトコル』ライダ・モアハウス
ジョナサンと宇宙クジラ』ロバート・F・ヤング
イルカの島』アーサー・C・クラーク

 
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2006年09月20日
ジェリイ・ソール(仁賀克雄/訳)
『異次元への冒険』ハヤカワ文庫SF

 インランド・エレクトロニクス社に、ある発明が持ち込まれた。さらなる開発のための資金が必要なのだという。発明したのは、コスディカン博士。
 博士の機械は、針のような形状をしていた。装置に開けられた穴に手を入れると、入れた部位がどこやらへ消え失せてしまう。通すのは、生きているもののみ。服や、死んだものは通さない。
 筆頭取締役のディヴァン・トレイラーは実験に立ち会い、発明品の可能性に思いをはせる。謎だったのは、どことつながっているのか、ということ。ディヴァンが装置に入れた手を引くと、冷たくしびれたような感覚が残った。
 コスディカン博士は資金を得て、人間が入れるほど大きな装置を完成させる。ところが実験当日、事故が起こってしまった。転移第一号に選ばれた重役バッシャーが、入ったきり戻ってこないのだ。
 バッシャーの失踪はたちまち警察の知るところとなった。さらに、捜査にやってきた刑事までもが消えてしまう。彼らの救出のために、さらに複数人の警官が装置に入った。依然として、誰一人として帰ってこない。
 解決策が考案される中、カルト教団のサダス救世団によって装置は破壊されてしまう。そのために、装置から半径2ブロック以内にいたあらゆる生物が転移してしまった。
 その数、395人。
 彼らは未開の荒野で、帰還を果たそうと悪戦苦闘するが……。

 ミステリ仕立てで始まって、転移してしまう第二部へとつづきます。サバイバルや、サダス教団との対立、いろいろありますけれど、ややうまくいきすぎの感も。
 結末は、なるほど納得。新たな展開を予感させるラストでした。


 
 
 
 
2006年09月21日
クリフォード・D・シマック(足立 楓/訳)
『小鬼の居留地』ハヤカワ文庫SF

 ピーター・マックスウェルは、超自然現象学部の准教授。クーンスキン星系のある惑星に竜がいるという噂を聞きつけ、物質転送機で旅立った。ところが、着いた先はどことも知れない透明な星。
 マックスウェルは透明な星に六週間滞在し、地球に帰還した。彼を待っていたのは、保安局部長ドレイトン。
 マックスウェルはドレイトンから、同じような事例が過去に2件あったことを教えられる。いずれも帰還時の転送に失敗し、生還したのはマックスウェルがはじめて。不思議なのは、物質転送機での旅行者の中に行方不明者がいないこと。
 マックスウェルは、目的地に到達していたのだ。そして、1ヶ月前に帰国していた。しかし、事故によって死亡。一時期、2人のマックスウェルがいたことになる。
 ドレイトンは、車輪人の関わりをほのめかす。車輪人は、いつかは宇宙ででくわすことになる敵であるかもしれない種族。マックスウェルは否定するが……。
 解放されたマックスウェルは自宅に帰った。世間では、マックスウェルは死去したことになっている。自宅も人手に渡っていた。現在そこに住んでいるのは、キャロル・ハンプトン。
 キャロルは、タイム大学の歴史研究家。マックスウェルにタイム大学の〈古代石〉が売りに出される情報をもたらすが……。

 ファンタジー・テイスト。
 いろいろな人物やものがでてきて、それらがからみあって展開していきます。
 太古の昔から生きてきた、小鬼のオツール氏。過去からつれてこられたネアンデルタール人のオップ。接触に成功し、この世界に居着いた“おばけ”。画家のアルバート・ランバード。
 マックスウェルは、ランバートのグロテスク・シンボリズムと呼ばれる絵画を見、そこに透明な星の住人たちを見い出します。さらに〈古代石〉が描きこまれたものも……。
 登場人物が多くって、そこに透明な星の秘密が入ってきて、正直、ついていくのが大変でした。楽しめましたけどね。


 
 
 
 
2006年09月30日
SFマガジン・ベスト
(浅倉久志/伊藤典夫/編)
レイ・ブラッドベリ/ロジャー・ディー/C・L・ムーア/ポール・アンダースン&ゴードン・R・ディクスン/シオドア・スタージョン/ワイマン・グイン
(小尾芙佐/稲葉明雄/浅倉久志/訳)
『空は船でいっぱい』ハヤカワ文庫SF

 SFマガジン・ベスト第二集。(第一集は『冷たい方程式』)
 さすがにベストだけあって名作ぞろいでした。

レイ・ブラッドベリ(小尾芙佐/訳)
「われはロケット」
 地球と火星は開戦した。地球は、火星人を迎撃するために戦闘ロケットを開発する。ロケットは、誕生のときから意識を持っていたが、完全なる目覚めは宇宙に突入したときやってきた。しかし、しゃべることはできない。乗組員は、ラム船長ら27名。ロケットは、その中に“バクテリア”がいることに気がつくが……。
 ロケットの一人称で語られる、詩的な作品。戦いがなければ“生き”られないのは悲しいけれど。

ロジャー・ディー(稲葉明雄/訳)
「いつの日か還る」
 〈金星漁業〉資材ドームの管理人ラウリイは、宇宙船がプランクトン養殖場につっこんだところを目撃した。ラウリイは救助にかけつけるが、折からの悪天候。自身が遭難してしまい、何者かに助けられる。その何者こそ、コルネフォロス星系の調査官。ラウリイは、このファースト・コンタクトを友好的なものにしようとするが……。
 見た目は異様なものの、してもらったことに感謝し、異星人を好意的にとらえるラウリイ。大酒飲みで乱暴で、異星人を殺そうとするパスカル。事態は両者の争いに発展し、最終的にタイトルへとつながります。その流れの美しいこと。 

C・L・ムーア(小尾芙佐/訳)
「美女ありき」
 絶世の美女ディアドリが劇場の火災で焼け死に、全世界は深い悲しみに沈んだ。それから1年。ディアドリのマネージャーだったハリスは、マルツアによびだされる。マルツアはこの1年、ディアドリの復活に精力を傾けてきた。ついに、ハリスに会わせられるまでになったらしい。しかし、マルツアは不安を隠そうともしない。ハリスは、金属体として甦ったディアドリに再会するが……。
 自信満々なディアドリと、不安でならない男たち。サイボーグとなったディアドリの美しさは普遍的なもので、古い作品ですけれど、古さを感じさせない出来でした。

ポール・アンダースン&ゴードン・R・ディクスン
(稲葉明雄/訳)
「くたばれ スネイクス!」
 アレックスは、惑星トーカ駐在の汎生物連盟全権大使。トーカ星の原住民ホーカ族はテディベアそっくり。熱しやすく、事実と虚構を区別することができない。野球チーム・テディーズを結成した彼らの今度の対戦相手は、サレン星のチーム、スネイクス。友好的にことを進めようとするアレックスだったが、監督パッツイがサレン人の計略にひっかかり、ウラニューム鉱を賭けてしまった。試合に負ければ、アレックスが債務を肩代わりしなければならない。アレックスは必死にテディーズを応援するが……。
  ユーモアたっぷりな《ホーカ》シリーズの一短編。大リーグについて、多少なりとも知っているとさらに楽しめます。

シオドア・スタージョン(小尾芙佐/訳)
「空は船でいっぱい」
 ケンプは法廷に連れ出された。2年前にサイクスが死に、その死について知っている唯一の人間がケンプなのだ。ケンプは証言を始める。ケンプは、凝縮原子トーチランプの発明者。サイクスに協力を求められ、アリゾナにあるほら穴へと向かった。サイクスが言うには、その中に古い古い機械があり、人類の歴史すべてを記録しているらしい。サイクスは解読に成功し、意気揚々だったのだが……。

ワイマン・グイン(浅倉久志/訳)
「危険な関係」
 かつて病院に閉じこめられていた、精神分裂症の患者たち。その症状を安定させる薬が開発され、彼らは主分身と副分身という2つの自我を持つに至った。今では、あらゆる人が薬剤を服用するように、法律で定められている。人々は感情を抑制され、5日ごとに、人格を入れ替えながら暮らしていた。主分身は副分身の生活に踏み入らず、その逆も許されない。多感な時期にある少女メアリは主分身。薬への順応がうまくできず……。
 現在と異なる価値観を持つ人々の、入り組んだ物語。なにが“普通”のことなのか、考えさせられます。


 
 
 
 
2006年10月03日
マイクル・スワンウィック(小川 隆/訳)
『大潮の道』ハヤカワ文庫SF

 ミランダは、周期的に天変地異が発生する惑星。大冬に入ると極地の氷が解け、陸地のほとんどが水没してしまう。そのためにミランダでは、季節によって生態を変える生き物たちが繁栄してきた。
 そして、ミランダの魔術師グレゴリアンは、人間を海洋性生物に変えられる、という。
 グレゴリアンは、ミランダはタイドウォーターの生まれ。詳しい生い立ちは分かっていない。1ヶ月前まで、〈外輪〉のバイオ科学研究所につとめていた。
 この時代、ある事件をきっかけに、テクノロジーは厳格な管理下にあった。テクノロジー移動局の〈謎迷宮〉が目を光らせてきたからだ。ところが、グレゴリアンは自己複製テクノロジーを持ち出していたらしい。真偽を確かめるため、“役人”は惑星ミランダに降り立つ。
 “役人”には、なんの権限も与えられていない。代わりに、ミランダの惑星政府〈石閣〉は“役人”の元に、連絡員チュー警部補をよこした。チューにはグレゴリアンの逮捕権があるが、同時に“役人”のお目付役でもある。
 “役人”はまず、グレゴリアンの母を尋ねるが……。
 暴走したテクノロジーが招いた悲劇とは?
 グレゴリアンの出生の秘密とは?
 迫る大冬。
 水没する前にテクノロジーを回収することはできるのか?

 ネビュラ賞受賞作。
 ファンタジックな作品。〈代体〉というものが利用されたり、主人公である“役人”が幻覚を見たり、理解しにくいところが随所にあるのですが、まぁ、楽しめました。
 “役人”を陰に日に補助するのは、それ自体がテクノロジーである書類鞄。意識があって、たびたびさらわれるのですが、忠実に職務を全うしてくれます。こういう書類鞄、欲しいよねぇ。


 
 
 
 
2006年10月14日
ジャック・ウィリアムスン(野田昌宏/訳)
『航時軍団』ハヤカワ文庫SF

 デニス・ランニングは18歳。ひとりで部屋にいるとき、不思議な体験をした。謎の美女の来訪を受けたのだ。美女の名はレゾネー。未来人だ。
 ランニングを訪問したレゾネーは、未来は確定しておらず、レゾネーの存在も、その住まいジョンバールも、存亡の危機に立たされていると訴えた。もうひとつのあり得る未来は、ギロンチ。さらなる未来へと続くジョンバールとなるか、あるいは、滅びゆく運命にあるギロンチとなるか、その鍵をランニングがにぎることになるというのだ。
 ランニングは、レゾネーに協力することを約束する。
 数年後、ランニングは、ギロンチの女王ソライニャの訪問を受けた。美しいソライニャに王位を約束され、揺れ動くランニングの心。ところが、それは罠だった。ランニングは、レゾネーの介入もあり寸前のところで難を逃れる。
 一方、ランニングの友人ウイルモット・マクランは、時間透視機を開発していた。偶然ギロンチを覗いたマクランは、ソライニャに夢中になってしまう。マクランがソライニャを見続けた結果、ギロンチの存在は強まり、ジョンバールは薄れる一方。
 マクランは、ソライニャに会いたい一心で航時船クロニオン号を完成させるが、ソライニャの罠にかかり捕らえられてしまった。ギロンチの地下拷問場からマクランを助けたのは、レゾネー。マクランはソライニャへの復讐を誓うが……。

 タイムパラドックスを扱った作品。腑に落ちないところはあります。レゾネーはランニングではなくマクランに接触するべきだった、とか。
 ランニングやマクランは、ソライニャを憎みながらも、その美しさ故、殺すことができません。そして訪れる結末とは?
 古い作品ですし、少々難ありですけど、それなりに楽しめました。


 
 
 
 
2006年10月22日
アーサー・C・クラーク(高橋泰邦/訳)
『海底牧場』ハヤカワ文庫SF

 人類の食糧を賄うために注目されたのは海洋だった。
 世界連邦食糧機構は食用鯨を放牧し、需給量の一割以上を生産。プランクトン農場も作られ、監視員たちが配置されるようになった。
 ドン・バーリーは、牧鯨局の一等監視員。鯨を、シャチなどの外敵から守ったり、プランクトン農場に侵入したりしないように監視していた。それが、突如として任務を解かれる。
 バーリーが呼ばれたのは、新しい訓練生のためだった。異例の高待遇で速成訓練課程を受けるのは、ウォルター・フランクリン。
 フランクリンは、元・宇宙飛行士。火星航路の機関長を務めていたが、宇宙空間での事故により宇宙恐怖症にかかってしまう。以来、飛ぶことが出来なくなってしまったのだ。
 治療に努めた医師は、フランクリンの技能を役立てるために、海洋での仕事を提案していた。その選択は正しく、フランクリンの症状はよくなったかに見えたのだが……。

 三部構成。
 フランクリンの病気が陰を落とす、練習生時代。巨大イカの生け捕りにバーリーと共に挑む、二等監視員時代。局長に出世し、立場上、東洋一の有力者マハナヤケ・テーロと対立することになってしまう、官僚時代。
 それぞれに、盛り上がりがあります。最後の官僚時代は、まるで同氏の『楽園の泉』のよう。『渇きの海』のような事件も起こって、少々興ざめしてしまいました。


 
 
 
 
2006年11月03日
クリストファー・プリースト(古沢嘉通/訳)
『魔法』ハヤカワ文庫FT

 リチャード・グレイは、報道カメラマン。極限の状況下ですばらしい映像を撮影し、数々の賞に輝いた実績の持ち主だ。
 爆弾テロに巻き込まれたグレイは、生死の縁をさまよう。なんとか一命は取りとめたものの、重傷を負い、ショックからか記憶の一部を欠いてしまった。
 グレイは社会復帰に向けて、予後保養所で車椅子生活を送りながら心身の回復を図る。リハビリと、カウンセリングの日々。身体は徐々に機能しだしていくものの、失われた記憶はなかなか戻って来ない。
 欠如した記憶は、元々忘れてしまいたい“なにか”だったのではないか?
 そんなグレイの元に、スーザン・キューリーが面会に訪れた。
 スーザンは、かつてグレイと恋人関係にあったらしい。グレイは、スーザンが語るふたりの過去が突破口にならないかと、期待を寄せる。そんなグレイにスーザンは、
「あなたは“雲”を覚えている?」
 と尋ねるが、グレイにはなんのことだか分からない。さらにスーザンは、ナイオールのこと、日光浴をしていた人たちのことを聞くが、グレイはなにひとつ覚えていなかった。
 グレイの担当医は、催眠療法で記憶の浮上を試す。
 やがてグレイの記憶は甦った。
 グレイがスーザンと知り合ったのは、フランス旅行中のこと。スーザンは、腐れ縁のナイオールに会いにいくところだった。ふたりはすっかり意気投合するが、スーザンの陰には常にナイオールの存在があり……。

 入り組んだ構成は見事なものの、少々釈然としない作品。“魔法”の正体は、まぁ、いいとして、読み手にもなんらかの理解力が必要なようです。


 
 
 
 
2006年11月12日
ライダ・モアハウス(金子 司/訳)
『アークエンジェル・プロトコル』ハヤカワ文庫SF

 第三次世界大戦で使われた“メデューサ爆弾”は、都市の大半をガラスのような結晶構造体に変えた。科学は前進をやめ、戦争も終結。アメリカは宗教国家として生まれ変わった。
 ディードリ・マクマナスは、ニューヨークの私立探偵。
 かつては情報技術犯罪捜査班の刑事だったが、同僚ダニエルが教皇を暗殺する事件を起こし、共に職を失ってしまった。カトリック教会からも破門され、毒婦イゼベルと蔑まされる日々。もはや、リンクモジュールも使えない。政治や経済までもヴァーチャル世界を介している昨今、できる仕事は限られていた。
 ある日、ディードリの事務所をマイケル・エンジェルーチが尋ねてくる。マイケルは、アーミッシュ出身の現職警察官。リンク天使の正体を暴き、大統領候補ルトゥノーが偽の予言者であることを暴いて欲しいという。
 技術は進化しても、リンク上で感覚を伝えることはできない。それをやってのけるリンク天使は、真の奇跡として受け止められていた。本物の天使である、と。リンク天使たちは、ルトゥノーがキリストの再来であるというのだが……。
 マイケルが報酬として提供するのは、リンクへの再接続。ディードリが喉から手が出るほど欲しているものだった。しかし、溶解起動装置がある以上、絶対不可能。制限コードを回避できなければ、ディードリのシナプスは永久的に焦げついてしまう。
 ディードリは情報を集めるために、アングラ・ネットで勢力を誇るマウスと接触する。
 リンク天使の正体とは?

 世界観的には、SF。ただし、その実体はファンタジー。最後にタネ明かしがあるのかと思っていたら、ファンタジーなまま終わってしまいました。


 
 
 
 
2006年11月26日
ロバート・F・ヤング(伊藤典夫/訳)
『ジョナサンと宇宙クジラ』ハヤカワ文庫SF

 SF的な設定を生かした、メルヘン短編集。ほんわかしていて、哀しかったり、暖かくなったり……。

「九月は三十日あった」
 妻子を持つダンビーは、古道具屋で学校教師を見つけた。テレビ教師が一般的になった昨今だが、ダンビーには、本物の教師に教えてもらった経験がある。機械の教師ミス・ジョーンズは、ダンビーに9月(新学期)の日々を思い起こさせ、ダンビーは家族の反対を予期しつつ購入を決意するが……。

「魔法の窓」
 ハルは、道ばたの画廊で不思議な少女エイプリルと知り合った。エイプリルが売る絵はただ一枚。そこには星と湖が描かれていたのだが、ハル以外の人には見てもらえないらしい。ハルはエイプリルの招きでアパートを訪れ、“魔法の窓”を見せてもらった。あの絵は、そこから見た風景だというのだが……。

「ジョナサンと宇宙クジラ」
 2339年、太陽系に宇宙クジラが侵入した。噂の宇宙クジラの出現に、新地球宇宙軍で砲手をつとめるジョナサンが送りだされる。クジラを抹殺するために。ところが、ジョナサンは砲撃することができず、クジラに飲み込まれてしまった。クジラの体内には地球のような世界が広がり、人類が文明を築いていたのだが……。
 名作。
 ファンタジックだけれども、そこはかとなくSF的。
 自身をアンドロメダに例える悲劇の宇宙クジラと、クジラを殺すことの出来なかったジョナサン。両者のつながりを軸に、物語は展開します。
 ジョナサンは宇宙クジラを救えるのか?

「サンタ条項」
 ロスは悪魔を呼び出し、自分だけに“サンタ・クロースが存在する”契約を結んだ。悪魔が提示した条件は、サンタ・クロースに付随するすべてを受け入れること。その年、ロスはサンタ・クロースから希望する贈り物すべてをもらうが……。
 結末のためとはいえ、せっかくのサンタ・クロースをロスが使いこなせなかったことには、少々がっかり。

「ピネロピへの贈りもの」
 ミス・ハスケルは、ミルクと一緒に請求書を受け取った。たまった請求額は、23ドル17セント。年金支給日まではとてもじゃないが払えない。猫のピネロピにとってこれが最後のミルクとなるのだ。途方に暮れる中、ミス・ハスケルは雪の降りしきる丘の頂きに、ひとりの少年を見つけた。すぐさま家に招き入れ暖をとらせるが、少年オテリスは一風変わった子供だった。

「雪つぶて」
 地球に空飛ぶ円盤がやってきた。陸軍に出動要請がだされ、ブレア大尉らがかけつけた。そのうちのひとり、シムズ中尉は、円盤にひっかかるものを覚えていた。中尉の脳裏では、初雪の朝の出来事が浮かんでいたが、どうしても途中までしか思い出せない。やがて、円盤から異星人が出てきて……。

「リトル・ドッグ・ゴーン」
 ニコラス・ヘイズは、かつて売れっ子俳優だった。しかし、アルコール依存症となり、テレシアターから追放されてしまう。行き着いた先は、プロキオン16の“ブラック・ダート”。辺境の地でヘイズが出会ったのは、かつて女優だったモイラ・ブレアと、テレポーテーション能力のある犬、バー・ラグだった。ヘイズは、モイラの看護で一命をとりとめると、個人劇団を旗揚げし、再起をかけるが……。
 とにかく泣けます。
 自分しか愛せないヘイズと、ヘイズを尊敬しているモイラ、ドッゴーンという種類の不思議な犬バー・ラグ。当初、ヘイズが計画した通りに物語は進みます。でも、人生には計算できないこともあるわけで。

「空飛ぶフライパン」
 22歳のマリアン・サマーズの仕事は、フライパンに柄をつけること。田舎には求婚者ハワード・キングがいるし、都会の生活に絶望しているものの、故郷に帰ることができずにいた。そんな折、マリアンの目の前に空飛ぶ円盤が現れる。それは、柄のないフライパンのようで、中から出てきた小人は、モイ・トレハーノ王子と名乗った。驚くマリアンに王子は、地球を攻撃しにきたと告げるが……。

「ジャングル・ドクター」
 サリスは、超心理科臨床医。銀河連邦最大の精神科クリニックの医師だ。サリスは、チャルス診療所に行くつもりだったが、転移装置がつれていったのは、地球という原始惑星だった。荷物はなく、あたりは雪景色。凍死しかけたサリスを救ったのは、現地人のゴードン・リンゼイ。リンゼイにはある秘密があって……。 

「いかなる海の洞に」
 デイヴィッド・スチュアートは、ビーチで出会ったヘレンに一目惚れ。ふたりはクリスマス・イヴに結婚した。21歳のヘレンはまだ成長し続けており、結婚一周年には、6フィート6インチになっていた。その後もヘレンの成長はとまらず、デイヴィットはヘレンの姉バーバラの助けを借りて、ヘレンを世話するが……。


 
 
 
 
2006年11月27日
アーサー・C・クラーク(小和田和子/訳)
『イルカの島』創元SF文庫

 16歳のジョニー・クリントンは、高速道路の近くに住んでいた。ホヴァーシップが通り過ぎる音はおなじみのもの。ところが、その夜の音はちがっていた。故障のためか、貨物船が停船したのだ。
 ジョニーが両親を亡くしたのは、12年前のこと。以来ジョニーは叔母の家で肩身の狭い思いをしてきた。貨物船への密航は、ひとつのチャンスだ。
 ジョニーの密航はまんまと成功したものの、海に出たところでトラブルに見舞われてしまう。爆発が起き、船が沈没してしまったのだ。
 危ういところで難を逃れたジョニー。しかし、救命ボートで脱出した乗組員たちがジョニーのことを知るはずもない。ジョニーは漂流物をいかだ代わりにするが、そこは見渡す限りの大海原。水も食糧ない。
 そんなジョニーを発見したのは、イルカの群れだった。はじめは周囲で遊んでいたイルカたちだったが、いつしか、ジョニーの乗ったいかだを押し始めたのだ。
 翌日、ジョニーは島にたどりつく。
 通称〈イルカ島〉では、イルカの研究が行われていた。イルカの言葉の研究だ。ジョニーは島で勉強をしつつ、研究所で働くこととなるが……。
 イルカたちは、なぜジョニーをこの島まで運んだのか?

 少年が主人公の小作品。
 イルカが語った、彼らの物語に興味津々。なんですけど、それらはさらっと触れられるだけ。主軸はあくまで、ジョニーなのでした。

 
 

 
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