

SNSで情報処理についての考察を拝見したとき、ふと、昔の愛読書のことを思い出しました。
思い出したとは言っても、手元にないので記憶はあいまい。プログラマ向けの本で、技術的なことではなく、心得が書かれていた……ような。
当時、スタック・ウェアを作っていたので、その流れで読んでいたのだと思います。すでに時代遅れの古い本でしたが、不変的な内容で何度も読み返したものでした。
懐かしくなって、あいまいな記憶をもとに探してみました。
書名も著作者も定かでなく、見れば思い出すんじゃないか、という淡い期待だけで。結果は、ダメでした。残念。
探す過程で、ネット黎明期のハッカー事件の回顧録を再発見しました。読んだような、読まなかったような。書名には覚えがあります。
驚いたのは、今でも書店で買えること。電子書籍にもなっていました。
さもありなん。読んでみたら、今でも充分おもしろいのです。
昔はこうだったんだ、というのもありますし、今も変わってないな、と思うところもありますし。
クリフォード・ストール
『カッコウはコンピュータに卵を産む』
1986年、まだネット黎明期のカリフォルニア・バークレー。事件の発端は75セントだった。ローレンス・バークレー研究所のコンピュータ・システムの使用料金が75セントだけ合致しない。天文学研究のかたわらシステム管理者をつとめる著者の初仕事はその原因の究明だった。やがて正体不明のユーザが浮かび上がってきた。研究所のサーバを足場に、国防総省のネットワークをかいくぐり、米国各地の軍事施設や陸軍、はてはCIAにまで手を伸ばしている!
インターネットが世界を覆いはじめる前夜、「ハッカー」の存在を世に知らしめた国際ハッカー事件。その全容を当事者本人が小説のような筆致で描く。トム・クランシーも絶賛した世界的ベストセラー!
(Amazon Kindleの紹介文より)
クリフォード(クリフ)・ストールは、ローレンス・バークレー研究所ケック天文台の望遠鏡の光学系の設計にたずさわる一介の天文学者。政府の助成金が切れたとき、同じ建物の地下にあるコンピュータ・センターに配置換えになります。
先任者は、システム管理の大古参たち。ウェイン・グレイヴズとデイヴ・クリーヴランドです。
ウェインは、ディスク・ドライヴのソフトウェアからマイクロウェーブのアンテナにいたるまで、システムのすべてを知りつくしている男。VAX以外のシステムを認めない偏屈者。
一方のデイヴは、自他ともに許すUNIXの権威。
当然、ふたりは犬猿の仲です。
クリフも含めた3人で、研究所全体をおおうコンピュータ・システムの管理に当たることになります。
研究所には、物理計算用の大型メインフレーム・コンピュータ12台が設置されてます。研究所員は総勢4000名。そのうち1000名がメイン・コンピュータを利用しています。
使用料は1時間300ドル。
毎日集計されてコンピュータ原簿に記憶されます。
それとは別に、誰がなにを使ったか記録し集計して料金を計算するプログラムもあります。
システム管理に移って2日目。
クリフは、新入りのシステム管理者の小手試しに格好の仕事を割り振られます。
先月分の請求金額は合計2387ドル。ところが、コンピュータに記録された使用時間をつき合わせると、本来の請求額に75セント足りないのです。
誰かがコンピュータをタダで使った……?
長年に渡り運用されてきたシステムは、プログラムの寄せ集め。いろんな人が書いたプログラムによって、成り立っています。それらに説明書はありません。
クリフはひとつひとつプログラムを点検していき、すべて正常であることを確認します。
その過程で見つけたのが、ハンターという謎のユーザー。
誰もハンターなる人物を知らず、システムにもハンター名義の口座がありません。
このハンターが75セント分の時間、コンピュータを使っていたことが判明します。
時を同じくしてコンピュータ・センターは、ドックマスターというコンピュータから電子メールを受け取ります。
バークレー研究所の誰かがドックマスターに侵入をくわだてた、という抗議のメールでした。
クリフは通知された日時をもとに、すっかり精通した料金計算シテスムを調査します。すると、その時間にスヴェンテクなる人物が操作していたことが判明します。と同時に、記録におかしなところが見つかります。
スヴェンテクの行動は、ふたつある料金システムで相違していたのです。
そのうえスヴェンテクを知るデイヴが言うには、イギリスのケンブリッジに行ってしまって、すでに研究所にはいない、と。それに侵入を企てるようなことはしない、と。
何者かが、放置されていたスヴェンテクのアカウントを使っていたのです。
所長は、これは電子テロだと判断します。
所長命令で、クリフの仕事に侵入者の追跡が加わりました。期限は3週間。
任されたとはいえ、まだネット黎明期。こうした事件の持ちこみ先がありません。
FBIに相談するものの、75セントの被害額では動いてくれません。どこの政府機関も「うちの管轄じゃない」のオンパレードで、もらえるのは同情だけ。
そうこうするうち問題は多方面に広がっていき、期限は過ぎ、上司はいい顔しないし、どうすれば……???
最初は、学生のイタズラだろう、みたいな雰囲気なんです。クリフもどこかのんびりしているし。
早い段階で、なんだか解決しそうってなります。でも、上下巻ですから。そんなすぐには解決しません。
そもそも、学生のイタズラなんかじゃなかった!
本書のハッカー事件は有名で、日本でも報道されました。その全容を当事者の回顧録として読めるって、なかなか貴重な機会。しかも、かなり読みやすかったです。
事件の渦中でも、回顧録を書いたときにも、著者がきちんと記録をつけていることが役に立ちます。
記録、大切ですよね。
けっきょく見つけられなかった、かつての愛読書に思いをはせながら……。