

ディズニーアニメの「美女と野獣」で、不思議に思っていたことがあります。
最初のミュージカル・シーンで、ヒロインのベルは本屋に行きます。看板にも「BOOKSELLER」とあります。
その本屋でヒロインがなにをしたかというと、本を返し、改めて別の本を借りようとしていたのです。
本屋というより、貸本屋?
新たに借りる本を選んだヒロインでしたが、過去にも何度か借りたことがある本のようです。店主が、そんなに好きならあげる、と言ってくれます。
ここで毎回、
この本屋は、どうやって生計をたててるの???
疑問が渦巻いてしまうのです。
その疑問が、ようやく解決しました!
なんでもイギリスの18〜19世紀の本屋(貸本屋)は会費制だったとか。
舞台となっている国がちがうのは分かってます。「美女と野獣」は、18世紀中頃のフランスの物語らしいですから。
とはいえ、時期はだいたい合ってるし、日本から見たらどっちもヨーロッパ。ディズニー版はフランスというよりイギリスっぽいですしね。(看板に英語が使われている)
ヒロインは読書家なんですから、年会費を払って借りまくっているんでしょう。
これを聞いて合点がいきました。
この情報はネットでたまたま見つけました。そのときネタ元の紹介がされていたので、読んでみました。
清水一嘉
『イギリスの貸本文化』
「悪魔の知識の常緑樹」とけなされる一方で「愛書家の心の故郷」と讃えられた英国の貸本屋たち。二百数十年の間、イギリス人の読書生活の中にあって大きな存在であった貸本屋の栄枯盛衰の跡を詳しくたどった異色の英国文化史。
(引用「MARC」データベースより)
著者はイギリス文学者で、愛知大学名誉教授(出版当時は教授)。2018年に瑞宝中勲章を受賞されてます。
ちなみに、目次はこんな感じ。
序章、貸本屋の始まり
第一章、初期の貸本屋
第2章、貸本屋の発展
第3章、貸本屋の運営
第4章、貸本屋の読者
第5章、小説批判
第6章、貸本屋批判
第7章、19世紀の貸本屋
第8章、貸本屋と三巻本小説
第九章、三巻本批判
第十章、貸本屋の終焉
付録として、1797年に匿名で出版された『貸本屋の効用を考える−−大小貸本屋開店運営のための提言』が掲載されてます。
匿名とはいっても、トマス・ウィルソンだと特定できているようです。この人は「書籍業、文具商、小さな印刷工房、貸本屋を兼ねる無数の商売」をしていたとか。
貸本屋だけでなく、そこで扱われていた小説の移り変わりについても知ることができました。
この時期、なんだか長い物語が多いって漠然と思ってたんです。長くなった理由に納得がいきました。
ところで、「美女と野獣」には本屋以外にも不思議に思うことがあります。
ここで、このディズニーアニメを簡単に説明しておくと……
外見で人を判断する愚かな王子を戒めるため魔女が王子を野獣に変え、期限までに、愛し愛されることを学べば元に戻れる魔法をかけた。期限がせまるなか、ベルが呪われた城にやってくる。
というものです。
発端は、王子が、一夜の宿を求める老婆を醜いがために追い返したことです。老婆の正体は美しい魔女だった、と。
そもそも、何で城にやってきた老婆の相手をわざわざ王子がしたのか?
不思議じゃないですか?
一般人が宮殿に行って王子に今晩泊めてって頼むなんて、あり得ないでしょう?
その答えが、オリジナル版の『美女と野獣』にありました。
そもそもディズニーアニメは、ジャンヌ=マリ・ルプランス・ド・ボーモンによる短編「美女と野獣」(収録『美女と野獣』)が元ネタになってます。
このボーモン夫人が参考にしただろうと言われているのが、ガブリエル=シュザンヌ・ド・ヴィルヌーヴ『美女と野獣』です。
ヴィルヌーヴ夫人の物語は、大人向けとして書かれてます。そのため野獣は、はじめてヒロインとふたりきりになったとき、ストレートな質問をします。
一緒に寝させてくれませんか
ヒロインに拒否されて、すごすごと退散する野獣。
ボーモン夫人版は子供向けのため、ただ「妻になりたくないか」とだけ聞いてました。そういった読者に合わせた改変だけでなく、ヴィルヌーヴ夫人版の半分以上をカットして、教訓話にしてます。
カットされた部分には、呪われた理由も含まれてます。教訓が伝わればいいので、ただ「意地悪な仙女に呪いをかけられた」だけでよかったんです。理由なんかどうでも。
実は、もともとのヴィルヌーヴ夫人版の主題は、教訓ではありません。恋愛なんです。
恋愛の対象から、美貌と肩書きを奪うだけでなく、才気をも取りあげたらどうなるのか。ただ思いやりを示すことしかできない存在をベルは愛せるのか。
王子が呪われたのは、王子のせいじゃなかったんです。
じゃあ誰が悪いのか。
ヴィルヌーヴ夫人版『美女と野獣』をどうぞ。