書的独話

 
2025年のひとりごと
01月01日 展望、2025年
01月20日 役割語について
02月05日 事実は小説よりも奇なり
02月20日 2024年、ベスト
03月10日 失われた都市
03月26日 「美女と野獣」と本屋の謎
04月15日 合言葉は【滅亡後】
05月28日 ハッカー事件に思う、記録の大切さ
06月19日 南海の冒険
06月30日 中間報告、2025年
07月29日 失われた都市・Z
08月24日 合言葉は【海賊】
09月02日 『SF超入門』
09月24日 世界最古(?)の古書店
10月26日 日本語の謎
11月03日 連続怪死事件、そしてFBI誕生
11月19日 税金のはなし
12月25日 アドカレは「猫」
12月31日、総括、2025年
 

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2025年09月24日
世界最古(?)の古書店
 

 ヴェリコーというらしい。
 古書店特有のあの香りのことを。

 それなりに本を読むからか、本が関わってくる物語には惹きつけられてしまいます。
 本そのもののこともあれば、図書館、あるいは書店、はたまた古書店。ときには、編集者や出版社にも。

 毎年のようにそういった本を読んできました。
 今年の読書では……

 マークース・ズーサックの『本泥棒』……本がメインというわけではなく、ある理由から〈本泥棒〉と呼ばれた少女とその時代の物語でした。
 その時代とは、第二次世界大戦下のドイツ。少女を〈本泥棒〉と呼んだのは、特異な存在でした。

 それから、ジル・ペイトン・ウォルシュ『ウィンダム図書館の奇妙な事件』……図書館は開かれているところというイメージがありました。〈ウィンダム図書館〉はまるで違います。
 遠い昔に寄贈してもらったはいいものの、蔵書の入れ替えを禁じられたために図書館として機能しなくなってました。というのも寄贈した人物が、頑なまでに地動説を信奉していたから。すでに天動説が唱えられていた時代にあって、なぜ地動説に固執したか……。
 物語は、そんな〈ウィンダム図書館〉で死体が発見されるミステリです。

 こうした流れで、読みました。

オリバー・ダークシャー
『世界最古のロンドン古書店奇譚』

1761年創業のヘンリー・サザラン商会。
ロンドンにある世界最古の古書店である(と主張)。
この由緒ある古書店に勤めはじめた青年が経験した奇妙な日々。
「ここで働くのにまともである必要はないが、酔狂であるのは役に立つ」が店のモットー。
個性強すぎる先輩店員たちに、もっと個性の強い常連客たち。
亭主が遺した蔵書を高額で買い取らせようとする未亡人、
議論好きであれこれ要求しつつ本を買わない男。
恐るべき目録づくり作業に、崩壊した装幀を修復する職人芸。
文学の宝庫であり貴重な稀覯本も多々あるが、
そうではない古本の恐るべき山から漂う切ない思い。
開かずの書棚に謎の鍵束、さらには本ですらないものさえある。
店の近くで事故死した元店主の幽霊は夜な夜な店内で何やらやらかすとか――。
奇妙でおかしな、しかし古本好きにはたまらないディープな魅惑あふれる
「世界最古の古書店」の世界にようこそ……

(見返し紹介文より)

 扉には「ある古書店員に降りかかった奇妙な偶然をさまざまな事例の断片とともに、専門的な理論を一部交えながら解説。」とあります。
 実は、ノンフィクションを装った、すごく凝っている物語だと思ってました。世界最古の古書店を舞台にしたミステリかと。古書店員を主人公にした、ミステリかと。

 違いました。
 本物のノンフィクションでした。

 ヘンリー・サザラン商会、通称〈サザラン〉は、稀覯本を扱う古書店。版画、骨董品なども手がけてます。
 創業は1761年。
 ロンドンの大通りに通じる横丁、サックヴィル通りにサザランはあります。「ピカデリーとリージェント・ストリートの尻尾の名残のよう」な通りだそうです。

 創業当時からそこにあるわけではなく、もともとの開業は、ヨークでした。ロンドンに支店を出し、いろいろあってヨークの店はなくなり、ロンドンでの店舗の移転も何度となく。
 サックヴィル通りに落ち着いたあともいろいろあって、最後のサザラン氏だったヘンリー・サザランが亡くなると、オーナーも変わりました。

 とはいうものの古書店として連綿と続いてきたことに変わりはありません。

 本書を執筆したオリバー・ダークシャーは書店員兼作家。
 もともと本屋になりたかったわけではなく、サザランに就職したのもたまたま。見習い店員を募集していることに気がつき、応募してみただけ。
 給料はヴィクトリア時代なみ。それでも、それまで慣れ親しんだ給料に比べればわずかとはいえ、まし。
 なにより「未経験者も可」とあったから。

 のちにオリバーは、ナルコレプシーと判明します。進学や就業で苦労したのも納得。

 当時のマネージャーのアンドリューによると、未経験者を受け入れることにしたのは、苦い経験があったから。
 学位と資格を有する新進気鋭の若者を採用して、完璧な書店員を確保したと安心していたのに、半年ほどするともっといい職場へ転職してしまう。その繰り返し。
 それならば経験云々ではなく、店にとどまりたいと希望する者、もっと長く勤めてくれる人のほうがいい、と。

 そんなわけでオリバーは、最低でも2年の勤務と、研修制度のもとで働く条件で採用されます。研修期間が終了した時点で正社員になるという約束で。

 『世界最古のロンドン古書店奇譚』では、古書店での日常について、店にやってくる奇妙な客たちについて、コレクターについて、さまざまなことが語られてます。
 目録を作ることを黒魔術と称したり、ユーモアたっぷり。
 読み応えありました。

 
 ところで本屋といえば、今年03月26日の書的独話「「美女と野獣」と本屋の謎」でもふれてます。
 このときの本屋は古書店ではなく、貸本屋でした。

 なお、ギネスブックに採用されている「世界最古の古書店」は、サザランではありません。ポルトガルのリスボンにある、ベルトラン書店だそうです。創業1732年。
 サザランは1761年ですから、準最古といったところでしょうか。


 

 
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