

ずっと「合言葉」シリーズで【海賊】をしようと思っていたんです。
宇宙海賊だったり、異世界の海賊だったり、実在した海賊だったり、現代の海賊だったり。これまで、いろいろ読んできました。
いよいよリストアップ、というとき……。
もう1冊読んでおこうとチェックしておいた本を手にとりました。
キース・トムスン
『海賊たちは黄金を目指す 日誌から見る海賊たちのリアルな生活、航海、そして戦闘』
一攫千金を夢見て、血で血を洗う戦闘に明け暮れ、金銀財宝を略奪。その一方で、航海中は数か月も身体を洗えず、水と食料が徐々に減っていく恐怖と隣り合わせの生活を送る――。
17世紀後半、カリブ海でスペインの植民地や商船を襲撃してまわった海賊たち。
「短いながらも愉快な人生」をモットーとした男たちは、いかなる戦法で敵と闘い、どのような日常生活を過ごしていたのか?
『最新世界周航記』のウィリアム・ダンピアなど、7人の海賊が書き残した日誌をもとにして描く、カリブの海賊のリアルな姿とは?
なんでもありの時代の空気を見事に表現。ノンフィクションを読む喜び、ここに至れりと思わせる傑作!
(出版社による紹介文)
バッカニアの南海遠征についてまとめたノンフィクション。
バッカニアというのは、海賊と、政府に公認された私掠船をまとめて呼ぶ総称です。被害者からすれば、どっちも同じ。なのでまとめて、バッカニア。
捕えられたときの刑罰が異なるので、バッカニアとしては公認かどうかはかなり重要です。
1680年春。
パナマ、ダリエン地方のクナ族の王が、バッカニアに接触します。スペイン要塞にさらわれた孫娘の救出を手助けしてほしい、と。
いわば地元政府の公認を得て、バッカニアたちは意気揚々とスペイン要塞に向かいます。
それが冒険のはじまりでした。
略奪行為を冒険といっていいものかどうか。
そこはさておき。
タイトルだけで読みはじめたらダンピアの名前がでてきてびっくり。
ダンピアは植物学者です。
ダンピアといえば、2022年の書的独話「17世紀、ほぼ海賊の日常」で取りあげた『最新世界周航記』を執筆した人物です。
紹介文にもバッチリ書いてあったのに、意識してませんでした。
なお、キース・トムスンが元にしたという日誌を書いていた7人の海賊たちはこちらです。
バジル・リングローズ
バーソロミュー・シャープ
ウィリアム・ダンピア
ライオネル・ウェイファー
ジョン・コックス
ウィリアム・ディック
エドワード・ポウヴィー
歴史にはじめて登場するバッカニアが、リングローズだそうです。数学者であり航海士であり、多言語を操る才人。航海の様子を詳細に記録してました。
詳細に記録していたのなら、リングローズの日誌を読めばいいのでは?
実際、リングローグの記録が元になっている記述が多いです。でも、それだけじゃダメなんです。
というのも……誰もが、自分に不利な証拠となりそうな事実は省く一方で、自分をよく見せようと誇張したり粉飾したりしているから。リングローズも例外ではなく。
ダンピアは植物のことが多かったり、と癖もありますしね。
そんなわけで、キース・トムスンは7通りの日誌を読み比べて実際にあったことを推察しました。
さらに、
ヘンリー・モーガン(ジャマイカ副総督&連隊司令官)
リオライン・ジェンキンズ(イングランド南部局国務大臣&海事最高裁判所の主任法務官)
ペドロ・ロンキリョ・ブリセーニョ(駐イングランド・スペイン大使)
といった人物の書簡や公文書などの言葉も参考にして、バッカニアたちの南海遠征時のようすを再現しました。
そんな研究の集大成を読めるとは、ありがたい話です。
特定の人物だけがふれていない出来事、あるいは特定の人物だけがふれている出来事、それらが興味深いです。
複数を読み比べたからこそ分かることですよね。
ちなみに、ダンピアの『最新世界周航記』で書かれていたのは、
1679年〜1691年の出来事でした。
1680年〜1682年春までが、本作で語られる冒険となります。冒険のあとのことも言及されてます。
先にダンピアの記録を読んでいましたが、『海賊たちは黄金を目指す』を読んでから『最新世界周航記』を読むのもおもしろそうです。
ところで、この南海の冒険の60年ほど後の1741年。
南海で、英国船ウェイジャー号の遭難事件が発生します。イギリスの詩人バイロン卿の祖父ジョン・バイロンが関わった事件です。
地域が重なっているので、そちらの面からも感慨深い読書となりました。
本年2月の書的独話「事実は小説よりも奇なり」をご参照ください。