SF短編集。
「バビロンの塔」
「理解」
「ゼロで割る」
「あなたの人生の物語」
「七十二文字」
「人類科学(ヒューマン・サイエンス)の進化」
「地獄とは神の不在なり」
「顔の美醜について——ドキュメンタリー」
以上、8作品と、作者による作品覚え書きを収録。
表題作の「あなたの人生の物語」は……
地球はエイリアンの訪問を受けた。しかし、彼らの目的が分からず、各方面から専門家が招聘される。そんな中、言語学者のルイーズはエイリアンの言語を研究し、徐々に習得していくが……。
まさしく“神の視点”で書かれた一冊。短編にまとめてしまうのが、もったいないくらいです。
中華風歴史ファンタジー。
1607年、素乾国の腹英帝が亡くなった。新しい帝が立つにあたり、政府は宮女の募集をおこなう。それに応募した銀河は、地方の陶器職人の娘。後宮のことなど知りもしない13歳だ。
銀河は、他の宮女候補生と共に後宮教育を受け、ついに正妃に選ばれる。しかし、その頃国内では反乱軍が挙兵しており、首都に迫っていた……。
再読。
銀河の宮女志望の動機が“三食昼寝付き”なら、反乱を起こした賊の理由も“暇だから”。それがしっくりくる、少々おふざけ感のある一大娯楽作品です。
中華風ファンタジー。
《十二国記》シリーズ第五作。
世界(12の国)の中央には黄海と呼ばれる人外の地があり、黄海の中央には神仙の庭・五山がそびえていた。五山の内、蓬山では神獣・麒麟が産まれ、麒麟は天命によって王を選ぶ。
恭国の先王崩御から27年。新たな王が現れないまま国は傾き、首都にも妖魔が現れるようになっていた。
豪商の娘・珠晶は12歳。麒麟に天意を諮るために、家を飛び出した。黄海に入る前に首尾よく案内人を確保できた珠晶だったが、道のりの険しさに変わりはない。妖魔の襲撃を受けつつ、同じ目的の人々と共に蓬山を目指す。しかし、一致団結とは言いがたい人々の間には軋轢が生じていて……
再読。
とにかく珠晶の視点なので、まどろっこしい。元はと言えばジュブナイル(子供向け)小説なので、それもやむなしなのですが……。でも、楽しめます。
ミステリ連作短編集。
ニック・ヴェルヴェットの稼業は、泥棒。それも、価値のないものを専門としている。報酬は2万ドル。危険がともなうときには、3万ドルを要求することもある。
依頼人は、さまざまな理由でニックに仕事をもちかける。あるときには、虎。あるときには、ビルの外壁につけられた看板の数文字。またあるときには、大リーグのチーム丸ごと。
それらを盗まねばならない理由とは?
《ニック・ヴェルヴェット》シリーズの第一短編集。軽快かつあっさりした作品。
《ライラの冒険》シリーズ第一部。
冒険ファンタジー。
ライラ・ベラクアは、伯爵の娘。だが両親は事故で亡くなり、叔父のアスリエル卿によって、オックスフォードのジョーダン学寮に預けられている。そこでライラは、親友ロジャーと共に自由奔放に遊ぶ毎日を送っていた。
11歳の冬、ライラの世界は一変する。ゴブラーが子供たちをさらっているという噂が広がり、ロジャーも行方不明になってしまったのだ。そのうえライラは、コールター夫人に引き取られることになり、ロンドンに移り住むことに……。
ライラは、コールター夫人のカクテルパーティで信じられないことを耳にした。ゴブラーとは、総献身評議会(GOB)のこと。そして、コールター夫人は総献身評議会そのものだったのだ。
ライラはたまらず逃げ出した。そして、子供たちの捜索を行っている船上生活者ジプシャンたちと行動を共にするようになる。
さらわれた子供たちは北極に送られているらしいのだが、かの地でなにが行われているのかは分からない。ロジャーは無事なのか? 総献身評議会の目的とは?
ライラの冒険が始まった。
ライラの出生の秘密。学寮長が授けてくれた真理計の謎。オーロラーの彼方に透かし見える国。人間と守護精霊との関係……。
序盤から、さまざまなことが矢継ぎ早にお目見えします。この世とはちょっとちがうイギリスに始まり、ラップランドへ。さらに北にある、よろいをつけたクマたちの国・スバールバルへ。ドキドキハラハラの連続です。
文句なしの傑作。
秘境SF。
北極海に浮かぶ孤島では、今もケナガマンモスたちが生存していた。マンモスたちは、初代の〈母長〉キルクプークに始まる物語を継承し、閉じられた島からでることはない。
シルヴァーヘアは、〈母長〉アウルハートの孫娘。ただ一頭で岬に赴き、海を見ていた。海には、奇妙な形の浮氷に乗った奇妙な生き物がいた。実はそれらは、マンモスの真の敵、彼らを追いつめた伝説の〈迷った者〉。そして〈迷った者〉は、ふたたびマンモス狩りを始めた!
保守的なマンモスたちの中にあって、シルヴァーヘアは好奇心が旺盛。思考回路がシンプルなので、とても分かりやすいです。で、感情移入して読んでると、哀しくなったり、熱くなったり、嬉しくなったりする……。
結末はSFならでは。
謀略小説。
真木郷司は一流のクライマー。2001年1月21日、エベレストの冬季・無酸素・単独登頂を達成した。郷司は、山頂で眠ってしまいたい誘惑にも打ち勝ち、下りの道を歩き出す。その背後に、何かが火の玉となった落ちてきた。
隕石か。ミサイルか。
衝撃で起こった雪崩に、必死に耐えた郷司。しかし、同時期に山頂を目指していたアメリカ隊では、被害者がでていた。そして、郷司の親友、マルク・ジャナンは行方不明に……。
エベレストに落ちたのは、アメリカの古い軍事偵察衛星だった。本来は太陽に落とすはずが、どうしたことか軌道がずれてしまったらしい。ただちに回収することになったものの、残骸は8000mの地点にある。郷司にも協力要請があり、郷司は、マルクの捜索を目的に協力することにした。そうしなければ、マルクを捜す許可が下りない。
情報統制をいぶかしむ郷司。実は、落ちた人工衛星は単なる廃棄物ではなかったのだ。
登山家は、山にいてこそ登山家。といった感じに、謀略を追うのは、あくまで外野。郷司に専門外のことをさせなかったのはポイント高いです。
秀作。
都心の公園のゴミ箱から、女性の片手が発見された。警察は公園内を徹底的に捜索し、女物のショルダー・バッグを発見する。バッグの持ち主は、行方不明になっていたOL。腕もこのOLのものなのか?
やがて、被害者家族のもとに、犯人から電話がかかってくる。ひきずり回されるOLの祖父。そして、犯人からの手紙をホテルに届けた少女は、死体となって発見された。
第一発見者の少年少女、被害者遺族、刑事たち、自身の取材対象メモに被害者の名前を発見したルポライター、そして、犯人。
さまざまな人生を行きつ戻りつして綴られる、一連の殺人事件の真相は?
抜群のおもしろさ。そして、やるせなさ。
第一発見者の少年は、過去に両親と妹を殺された被害者遺族として、心の傷を負っている……。この作品は、彼の成長物語でもあります。
力作。しかし、傑作とは呼びにくい。
SF系ショート・ショート集。
表題作の「未来世界から来た男」は……
ジャン・オブリーンは、4000年先の未来からやってきた。彼の使命は、記録のほとんど残っていないこの時代を調査し、なんらかの方法で後世に伝えること。しかし、未来世界のことを隠さなかったために、とんでもないことが……
SFの巻と悪夢の巻の二部構成。ショート・ショートだけでなく、短編も楽しめます。
白亜紀の恐竜小説。
ラプトル・レッドは、ユタラプトル(肉食恐竜)の雌。3年連れ添ったパートナーを事故で失ってしまったところだ。単独の狩りは難しい。みすぼらしく痩せてしまうが、幸運にも姉と再会することができた。
姉は子供たちを抱えており、ラプトル・レッドも一緒になって面倒を見始める。ラプトルの無意識下には、第一順位・自分の子供、第二順位・姉妹の子供、という強い本能があるのだ。一方で、ラプトル・レッドは新しいパートナーを求めてもいた。しかし、姉は、求愛者たちを威嚇して追い払おうとしてしまい……。
再読。
ラプトル・レッドの言葉にならない気持ちや考えを、著者が代弁する形で綴られる物語。あっさりしていて、小気味よい。パートナーの事故死に始まるラプトル・レッドの一年を、他の恐竜も交えて追いかけます。
名作。