アメリカン・スペース・アドベンチャーズ(ASA)は、宇宙への商業飛行を確立した。客席は4つ。料金はひとり50万ドル。高度310マイルの地球低軌道を、約6時間飛行する。
キップ・ドーソンは、製薬会社のセールスマン。ASAのキャンペーンに見事当選し、地球脱出のチケットを手に入れた。
2週間の訓練を終え、いよいよ旅立ちという前日。思わぬ知らせがとびこむ。一緒に宇宙船に乗る3人が、突発的な事情によりキャンセルしたのだ。ASAとしては、大金を投じた実験物も宇宙船に載せる都合上、延期にはしたくない。キップは、ただひとりの乗客として出発することに……。
いくつかのトラブルはあったものの、宇宙船イントレピッドは軌道に乗った。キップは最高に幸せな気分を味わう。その直後、事故が起こり、パイロットのビル・キャンベルが死んでしまった。通信回路も壊れ、キップは宇宙に取り残されてしまう。
キップは、マニュアル片手に帰還を試みるものの失敗。観念し、備え付けのラップトップ・パソコンに、遺書代わりの回想録を書きはじめる。50年後に読まれるであろうことを想定して……。
一方、地上では。
イントレピッドからの通信がとだえたASAの宇宙飛行管制センターでは、専門技術者たちも右往左往するばかり。NASAの高倍率カメラでイントレピッドの様子をさぐるが、状況はよく分からないまま。所有するもう一機の宇宙船ヴェンチャーは故障のため格納庫に入っており、救助にかけつけることはできない。
ASAの窮状を知ったNASAだったが、NASAの長官ジェフ・シアーは、ASAの社長リチャード・ディファーツィオを毛嫌いしており、手を差し伸べる気はない。ディファーツィオも、そのことは充分に身にしみており、大金を払ってロシアに救助要請をする。
ところが、キップの書く文章がリアルタイムでネットに流れはじめると事態は一変。キップはたちまち全世界の注目の的に。各国の宇宙機関が救助に名乗りをあげるが……。
ハラハラドキドキの冒険部分はやや控えめ。キップの書く赤裸裸な回想録が、人々の共感を得ていく過程で泣かせます。和解する親子。伝えられる言葉。暴かれる真実。おもしろいです。心から。
ただし、読んだ後によくよく考えてみると、疑問噴出。
なんでそうなるの?
あれはどうなったの?
あれって伏線じゃなかったの?
結局、そこのところがSFレーベルで出なかった理由なんでしょうねぇ。
《老人と宇宙(そら)》シリーズ
宇宙へと進出した人類は、銀河の各惑星に植民を始めた。宇宙には、人類以外の知的生命体も多数存在しており、必ずしも友好的ではない。外交努力だけでは遺憾ともしがたい事態が発生し、コロニー防衛軍(CDF)が創設された。
CDFが募集するのは、75歳以上の地球人たち。人生経験を積み、慣れ親しんだ地球と決別することのできる老人たち。噂では、CDFは、人間を若返らせる技術を持っているという……。
ジョン・ペリーは75歳の誕生日、CDFの募集事務所へと出向いた。二度と地球に戻ることはできない。妻に先立たれ、すでに息子は独立。人生の清算は済んでいた。
ジョンは他の新兵と共に、ヘンリー・ハドスン号でフェニックス星系へと旅立った。宇宙船に乗っているのは、1000名を超える老人たち。彼らは船内で診察を受け、そこで身体改良が行われるのだ。
75歳のジョンが対面したのは、20歳の自分だった。新しい身体は、単なるクローンではない。コロニー遺伝研究所で設計された、改変人間だ。クロラダームによる皮膚や、スマートブラッドが流れる血管、脳内に埋め込まれたブレインバル・コンピュータ。
ジョンは意識を新しい脳へと送信され、生まれ変わった。仲間たちと共に訓練に参加し、戦闘へと出かけて行くが……。
SF戦争もの。
肉体改造が行われ、過酷な訓練を経て、熾烈な戦闘へと至る。出会いがあり、別れがあり……。
反戦色はややうすめ。新兵たちが75歳以上の老人、という基本設定が生きてます。
大きな森の北の外れにある別荘では、電気器具たちがだんなさまの訪問を待ち続けていた。
だんなさまが最後に別荘に滞在してから2年と10ヶ月3日。エアコンは動かなくなってしまい、電話は不通。なぜ取り残されているのかが、分からない。ついに若手のトースターが、だんなさま捜しの旅にでようと言い出した。仲間は、堅実な掃除機、朗らかなAM専用ラジオ、明るい黄色の電気毛布、貯蓄銀行出身の卓上スタンド。
彼らは、キャスターをつけた椅子にバッテリーを積み込み、都会をめざす。激しい雷雨をくぐり抜け、人間たちに見つからないように。
難関は、川だった。
一行は橋を目指して回り道。そんなとき、電気毛布が古びたボートを発見する。ところがそこへ、ボートの持ち主が現れて……。
ディッシュは、自身が長年愛用しているトースターをモデルに、この物語を書いたそうです。そのためトースター中心で展開されますが、五台の電気器具はそれぞれが主役。
彼らは、ふるぼけ、壊れかけても、だんなさまに会いたい一心で旅を続けます。ちょっと直せばまだ使えるし、なにより、だんなさまに必要とされていると信じて。
その結末とは?
多くの人に読んでもらいたい名作。
トースターと仲間たちは、奥さまの元で幸せな日々を送っていた。ただいま議論の的となっているのは、奥さまがバザーで手に入れた補聴器。今は電池切れで話すことができないそいつは、電気器具なのか?
トースターは、電卓の助けを借りることを提案する。補聴器がなにをするにせよ、だいじな役目を果たしてないとはいえない。電卓は自分の回路を補聴器につなぎ、ついに補聴器は息を吹き返した。
それは、ただの補聴器ではなかった。アインシュタン博士の試作補聴器だったのだ。
電気器具たちは、補聴器の講義に興味津々。吸引力の落ちた掃除機は脱重力を学び、ラジオは遠方の電波をも受信できるようになった。
ある日ラジオは、電子言語によるかすかな放送を受信する。電子言語は、電気器具たちの共通語。発信元はなんと、火星。海上輸送中に消えたポピュラックス製の電気器具たちだった。彼らは、今では火星解放軍を名乗り、武装艦隊を待機させているという。
トースターたちは、地球侵攻をやめさせるために、火星へと旅立つが……。
前作『いさましいちびのトースター』ではメルヘンでしたが、今回はメルヘンにSFが入ってきてます。
電子レンジがつくりだすエネルギーは、マカロニ・チーズ・ディナーを電磁波でたたいて獲得。そんな話も、さらりと、でも重要な伏線となって登場します。そのバランスがとてもいいので、お伽噺のよさと、SFのよさが同時に得られます。
名作。
NASAは、新たに惑星内探査装置を開発した。調べるのは、月の内部。月の表世界は開発が進んでいるが、裏側は未探査区域が残っている。装置を探査機に乗せて調査することにしたのだ。
探査機のパイロットに選ばれたのは、コリン・マッキンタイア少佐。任務は順調に思われたが、交信途絶地帯に入ると思いがけない出来事が。装置は、月の内部が空洞だというのだ。さらに、未確認飛行物体が接近し、マッキンタイアは捕らえられてしまった。
マッキンタイアが連れていかれたのは、月の内側。コンタクトしてきた謎の存在は“ダハク”と名乗った。実は、月は5万1000年前から、銀河第四帝国の巨大宇宙艦船にすり替えられていた。帝国艦隊戦列艦のセントラル・コンピューターこそ、ダハクの正体だったのだ。
銀河は、謎の種族アチュルタニの侵攻をたびたび受けていた。ダハクがこの地に来たのも、そもそもは哨戒任務につくため。ところが、ダハクを襲ったのはアチュルタニではなく、機関長アヌ大佐による反乱だった。
アヌは、艦長がとった捨て身の戦術の前に、やむなく地球へと撤退した。巻き添えをくらったのは、25万の乗員たち。彼らも地球へとおりていき、地球人たちの始祖となった。
ダハクによると、アヌの一派は今も生きているらしい。そして、アチュルタニの先遣部隊が、帝国最前線の無人監視ステーションを破壊した情報も。彼らが地球にやってくるまで、あと2年半。
マッキンタイアは、艦長になることを要請され、渋々ながらも受諾。艦橋士官用強化手術を受け、地球へと向かうが……。
三部作の第一部。
びっくりする基本設定とか、情報戦とか、アチュルタニの侵攻という時間的制約とか、読み応えがあります。その一方で、話が展開していくにつれ、マッキンタイアの影がうすくなっていきます。というのも、ダハクの観察による推測に誤りがあったから。
スーパーマンぶりを期待していたわけではありませんが、せっかく艦橋士官用強化手術を受けたんですから、もうちょっと活躍して欲しかった……。
人類は核戦争を経験し、そして復興を遂げた。スウェーデンを中心とする平和が訪れ、科学水準は恒星間宇宙船を航行させるまでに発展。第二の地球となる星の探索が始められていた。
〈レオノーラ・クリスティーネ号〉が目指すのは、32光年彼方のおとめ座ベータ星第三惑星。50人の男女を乗せ、船内時間5年の予定で旅立つ。もし、第三惑星が居住可能だったなら、帰還することなく植民を行うことになる。
航海は順調に思われた。ところが、出発から3年。誕生間もない小星雲と接触し、減速システムに損傷を負ってしまう。
修理するためには、バサード・エンジンをとめなくてはならない。それはすなわち、乗員の死を意味する。現在の速度でエンジンを停止すれば、星間ガスから船を保護する力場がすべてなくなってしまうのだ。
生きるためには、加速をつづけなくてはならないが……。
1970年のハードSF。
10年ぶりくらいの再読。
ハードとはいえ、相対性理論(かつてウラシマ効果と呼ばれていた時間の遅れ)をなんとなーく読み取れれば大丈夫。
ただし、頻繁にでてくる“タウ”の意味がなんなのか、いまいち汲み取れず……。タウは、光速まであとどれくらいかを計る単位らしいです。タウ・ゼロで、光速。それがマイナスになると? というのが、この物語のキモ。
物語の大半は、人間ドラマに費やされてます。
護衛官レイモントは副長のリンドグレンと恋仲になるが、リンドグレンが職務に忠実になろうとするあまり、破局を迎えてしまう。そして、減速システムの故障が発生。人々は打ちひしがれる。
レイモントは、エンジンをとめられる空間があることを思いつき、提案。計画は了承されるが……。
「90億の神の御名」
ワグナー博士の元に、不可思議な依頼が舞いこんだ。チベットの僧院が、自動駆逐コンピュータを貸して欲しいというのだ。
彼らは3世紀にわたり、神のあらゆる御名をつらねたリストを作ってきた。完成までには、あと1万5000年が必要だ。それが、博士のコンピュータを使えば100日に短縮することができる。博士はコンピュータと技師を貸し出すが……。
僧侶たちの目的とは?
SFで始まるけれど、結局のところ、ファンタジーだったような印象の作品。ただ、壮大ではありますが。
「密航者」
ついにイギリスにも宇宙港が開港した。港に降りた貨物宇宙船ケンタウルス号を視察したのは、ヘンリー皇太子。皇太子は、王立宇宙軍司令官という肩書きを持っているのだ。
船長は、はじめ皇太子に懐疑的だった。しかし、船内を案内するうちに好意を抱くようになる。皇太子の身分では、宇宙軍の艦で大気圏外に行くのが精一杯。船長はそれが気の毒でならない。ところが……。
タイトルから、結末がばれてしまう作品。それだけがもったいない。
「天の向こう側」
夕刊紙に連載された、連作短編集。
宇宙ステーション作業員の「わたし」の独白。
気密式居住区画での生活。同僚がこっそり飼っていたペットのこと。真空での体験談。はじめての地球規模の生放送。ある“物体”にまつわる秘密。宇宙に進出するということ。
ノンフィクションを装って書かれていて、実際にあり得そうなところが、クラークらしいおもしろさ。いまだに現実となっていないのが残念です。
「暗黒の壁」
シャーヴェインの世界には、高い壁があった。それを越すことができる場所はどこにもない。噂はいろいろとある。あそこが世界の果てなのだ、とか、祖先たちはかつて壁の向こうで暮らしていた、とか。真実は誰も知らない。
父から領地をひきつぎ、財を築いたシャーヴェインは、壁の向こうへ行こうとするが……。
少々ファンタジック。
惑星のありようは、地球とはちがっています。ちょっと疑問に思うところがあっても、さらりと解説されてあって、さすがクラークといったところ。結末に納得できない人もいそうですが。
「機密漏洩」
ハンス・ミューラーは、テレビの虜になってしまった。とりわけスペースオペラ、中でも〈宇宙連隊司令官ジップ隊長〉の世界に。そしてまた、ハンスは芸術家だった。ハンスは、テレビの描く未来世界に疑問を抱く。家具や武器が滑稽に思われたのだ。ハンスは図面をひき、そのすばらしいアイデアはただちに採用されるが……。
にやりとさせられる作品。
結末はタイトル通りですが。
「その次の朝はなかった」
惑星サールの科学者たちは、500光年はなれた惑星に危機が迫っていることをつかんだ。科学者たちは、テレパシーで惑星の住民と連絡をとろうとする。ところが、かの惑星の人々はテレパシー能力が乏しく、思うようにいかない。観測員が動員され、ついに、彼らの存在を知覚できる存在に行き着いた。ところが、それは、泥酔したロケット工学者だった!
500光年はなれた惑星とは、地球のこと。一生懸命、救いの手を差し伸べようとするサールの科学者たち。一方、悲嘆にくれて酒に逃げてるロケット工学者。両者のやりとりが、いかにもありそうで面白味を醸し出してます。
「月に賭ける」
夕刊紙に連載された、連作短編集。
アメリカ、イギリス、ソビエトの3国から同時に、月への遠征隊が派遣された。イギリス隊の隊長にして、エンデヴァー号の船長の「わたし」の独白。
出発したときのこと。月でアーチェリーをしたこと。ロシアが植物学者を月に送り込んだ理由。物理学者のペインター教授の研究成果とは。月で行った華々しい実験の結果は。イギリス隊の帰還が遅れた理由とは。
ノンフィクションを装って書かれたのは「天の向こう側」と同じく。月へ行って帰ってくるまで、というくくりがある分、こちらの方が連作感があります。作品を流れる空気がよく、楽しめます。
「宣伝キャンペーン」
大々的な宣伝を行い、映画「宇宙からの怪物」は封切りされた。お客をこわがらせる宣伝キャンペーンは見事なもの。ところが、そこへ第三銀河帝国からの使節がやってきて……。
「この世のすべての時間」
ロバート・アシュトンの元に、不可思議な女が仕事の依頼を持ってきた。手付けは分厚い札束。彼女が頼んだのは、金では買えない芸術品だった。しかもそれらは、大英博物館に収められているのだ。
困惑するアシュトンに女は、盗みを可能にするブレスレットを提供する。それは、携帯用のフィールド発生機。作動している間、他の人々が止まって見えるのだ。アシュトンは意気揚々と仕事に入るが……。
アシュトンが欲を出し、ついに女の正体が語られます。その目的も。それと引き換えに、アシュトンが得たものとは?
ある意味、教訓的な作品。
「宇宙のカサノヴァ」
銀河調査隊員は、星と星との間の長い航行を耐えねばならなかった。そうして、未開の宇宙を調査するのだ。
あるとき調査員は、未調査のはずの区域でビーコンに出くわした。なんと、第一帝国時代の失われた植民地が生き残っていたのだ。彼らは、恒星間探険の初期のころに地球から出発した先駆者たち。ざっと5000年前のことだ。
接触してみると、言葉が通じない。ただ一人、古代英語を専攻する唯一の言語学者リアラを除いては。リアラは、美しい声と美しい容姿の持ち主だったのだが……。
まぁ、ありがちな話ではあります。
「星」
フェニックス星雲に、調査隊が送り込まれた。フェニックス星雲は、ひとつの星が超新星になった残骸だ。大変災について調べるのが目的だが、調査隊は、思いもよらないものを発見してしまった。
彼らが見つけたものとは?
ヒューゴー賞受賞作。
イエズス会士でもある主任天体物理学者の独白。嘆きに満ちた作品。
「太陽の中から」
水星の天文台では、太陽をたえず観察しつづけていた。
あるとき、太陽の赤道で大爆発が起こる。はじめてのことではないが、今回のはいままでと違っていた。通常、爆発によってとびだした太陽の物質は、水星につくころにはすっかり希薄になっている。ところが、それは固まったままだったのだ。
科学者たちは騒然となるが……。
「諸行無常」
浜辺を舞台に、繰り広げられる人間の歴史。
「遥かなる地球の歌」
ローラは、サラッサの住民。サラッサは、大半を水に覆われた惑星だ。人類がサラッサに植民したのは300年前。第二次遠征隊は到着せず、サラッサは忘れ去られた存在だった。そこへ、ついに地球からの船がやってきた。
恒星間宇宙船マゼラン号は、目的地に向かう途中。故障に見舞われ、修理のためにサラッサに立ち寄ったのだ。ローラは、機関士のレオンに一目惚れしてしまうが……。
後に長編化された作品の原型。
ヘルワード・マンは、ついに650マイルの歳となった。
それまで託児所で生活していたが、今日から成人。ヘルワードは、父と同じ未来予測ギルドを希望する。そして、謎めいた儀式に参加し、ギルド員としての誓約を行った。秘密厳守の誓約に戸惑いながら……。
翌日、ヘルワードは〈地球市〉からはじめて出た。
地球市は、全長1500フィート、七層に区分された可動式都市。レールを敷設し、その軌道上を進み続けている。速度は、年に36.5マイル。こういったことはギルド員しか知らない。都市の外にでられるのは、ギルド員だけなのだ。
都市は、〈最適線〉を追って北への旅を続けていた。都市がどれだけ移動しようとも、追いつくことはない。やがてヘルワードは、〈最適線〉が動いているのではなく、地面が動いているのだと知ることになる。
地面は、南へ、南へと流されていた。〈最適線〉のある北とは逆に、南は過去の方向。過去に取り残されたものは、不可解な現象に巻き込まれていく。それから逃れるためには、都市を、常に〈最適線〉に近づけていなければならない。
ギルドの見習員となったヘルワードは、いくつかのギルドで研修を積み、知識を貯えていく。仕上げは、過去へと下ること。都市にやってきた現地の女を、もとの集落へと返す仕事だ。
ヘルワードの計算では、都市の時間で1マイルでもどってこられる。ところが、主任未来予測員クラウゼヴィッツは、100マイルかかるかもしれないというのだ。
その言葉の意味するところとは?
英国SF協会賞受賞作。
どうしてそういう現象が起こるのか、理由を承知した上での再読。理解しかねる部分もありますが、それでも、かなり楽しめます。「世界」のありようが錬られていて、読んでいて気持ちのいい作品。
途中、物語を転換させるためにヘルワードの視点から離れますが、そこだけが違和感。それほどまでに逆転した世界ですから。
18歳になったジョニーは、なりゆきで地球連邦軍に入隊してしまった。魅力はなんといっても、2年がんばれば市民権を獲得できること。父親は事業で成功していたが、市民権は持っていないのだ。
実のところ、ジョニーの両親は入隊に猛反対。家庭は裕福で、目下のところ戦時中ですらない。異星人とも友好関係を結べているのだから、わざわざ軍隊で無駄な年月をすごす必要はない、と言うのだ。
ジョニーが入隊したのは、仲の良かった同級生や、女の子の手前。しかし、さまざまな兵科に志願をだすものの、ことごとくはねられ、行き着いた先は、機動歩兵部隊。友だちとも別れ、過酷な訓練の場へと向かうことに……。
そして、訓練中に戦争が勃発してしまった。
地球は、クモのような昆虫型宇宙生物の攻撃にさらされ、ブエノス・アイレスが壊滅。たまたま居合わせたジョニーの母も死んでしまった。
地球連邦軍は、クモたちの本拠地惑星クレンダツウへと攻撃を仕掛けるが……。
ヒューゴー賞受賞作。
ベトナム戦争直前の、1959年の作品。
作中ジョニーは、退役軍人であり〈歴史と道徳哲学〉の教師デュポアの授業風景をたびたび思い出します。デュポアは軍国主義者。そのために、作品全体がそういった雰囲気になってます。
さまざまな方面に影響を与えただけでなく、軍隊もののSFが発表されれば、決まってこの作品と比べられます。肯定否定はともかく、一度は読んでおくべき作品。
『シンギュラリティ・スカイ』の続編
モスコウ連邦共和国のポータル・ステーション、オールド・ニューファンドランド・フォーでは、全住民の避難が最終段階に入っていた。
3.6光年かなたの主星が、突如として超新星爆発を起こしたのだ。惑星ニューモスコウにいた2億人の住民は全滅。ステーションにも超新星嵐が近づきつつあった。
ヴィクトリア・ストロージャーは16歳。通称、ウェンズデイ。変わり者で、はぐれ者。幼いころより、見えない友だちのハーマンにいろんなことを教わってきた。両親が感心しないことまで。そんなウェンズデイにとって、現在の状況は退屈で仕方がない。ちょっとした冒険にでかけ、思いがけず事件の目撃者となってしまう。
死体と、手書きの指令書。
そのときから、ウェンズデイは追われる立場となるが……。
一方、地球の国連査察官レイチェル・マンスールは、秘密作戦にかり出されていた。危険レベルは、戦争勃発の可能性のあるコード・レッド。
モスコウが悲劇に襲われたとき、彼らはニュードレスデンとの貿易摩擦を抱えていた。そのために、所有する復讐者級報復STL爆撃艦4隻の照準がニュードレスデンに定められていたのだ。そして、発射基地がやられる前にそれらは加速を開始していた。
爆撃機は、2名以上の大使が解除コードを送ることで、止めることができる。しかし、すでに3名の大使が何者かによって殺害されていた。レイチェルは、残る大使を守るためにニュードレスデンへと急行するが……。
モスコウに災禍をもたらしたのは何者なのか?
大使たちを暗殺してまわっている者の正体とは?
ウェンズデイが目撃したものの意味とは?
モスコウの事件を追っている、戦争ブロガーのフランク・ザ・ノーズ。
ウェンズデイを追っている、リマスタードのU・ポーシャ・ヘキスト。
かつてハーマンのために働いていた、レイチェルの夫マーティン・スプリングフィールド。
いろんな登場人物が、それぞれに過去を抱えながら、さまざまな行動を起こして結末へとなだれ込みます。前作『シンギュラリティ・スカイ』よりも混乱なく読み切ることができました。
少々分厚いですが、おもしろいです。