書的独話

 
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2019年09月11日
宇宙船のAI問題
 

 8月に、ムア・ラファティの『六つの航跡』を読みました。

六つの航跡』ムア・ラファティ
 新しい体で蘇ったクローンたちが最初に目にしたのは、自らの他殺死体―2500人分の凍眠者と人格データを載せた恒星間移民船で、唯一目覚めていた乗組員6人が全員死亡。蘇った彼らは出発後25年間の記憶を消されていた。さらに船のAIもハックされ、クローン再生は不可能に。彼らは真相を調べ始めるが、実は全員が秘密を抱えており…。ヒューゴー賞、ネビュラ賞候補作。
 (上巻の「BOOK」データベースより)

 読みはじめたころは『ゴールデン・フリース』が頭にちらついてました。

ゴールデン・フリース』ロバート・J・ソウヤー
 47光年かなたのエータ・ケフェイ星系をめざす宇宙船〈アルゴ〉で、女性科学者が死亡した。宇宙船を制御するコンピュータ"イアソン"は自殺だという。疑問を抱いた以前の夫の調査により明らかになる驚愕の事実……はたして人類は金羊毛を手にできるのか? "感情を持つコンピュータ"をリアルに描く話題作!
 (引用:早川書房)

 船のAIの名前が〈イアン〉と〈イアソン〉で似ているからか、SFだけどミステリ、という同じ系列だったからか。
 でも、彷彿とさせられたのは最初だけ。
 読み進めていくうちに、とんでもないショックに見舞われてしまったのでした。

 なお、今回は多少のネタバレがあります。
 『六つの航跡』と『ゴールデン・フリース』の他に
 『ボイド 星の方舟』フランク・ハーバート
  《歌う船》アン・マキャフリイ
 『2001年宇宙の旅』アーサー・C・クラーク
 についても、触れます。
 なかには、終盤まで明かされないことを書いたものもあります。ご了承ください。

 閑話休題。

 『六つの航跡』を読み進めていくうちに、とんでもないショックに見舞われてしまいました。なんと、AI〈イアン〉は、単独では航行を続けられなかったんです。

 いやいや、ちょっとまて。
 あんた、勝手に針路変更してたよね?

 おそらくこの設定は、乗員を全滅させないための物語上の都合。〈イアン〉がなんでもできてしまうと、もう乗員いらないから死んでてください、ってなってしまうから。
 なので突き詰めた説明はなく、乗組員たちの疑心暗鬼が増大していく。
 そして、シャットダウンしていた〈イアン〉の機能が回復していくにつれ、どんどんAIらしくなくなっていく。というのも〈イアン〉は、プログラミングされたコンピュータではなく、元々は人間だったから。

 まるで《歌う船》のよう。

《歌う船》アン・マキャフリイ
 金属の殻に封じ込められ、神経シナプスを宇宙船の維持と管理に従事する各種の機械装置につながれたヘルヴァは、優秀なサイボーグ宇宙船だった。〈中央諸世界〉に所属する彼女は銀河を駆けめぐり、苛烈な任務をこなしていく。だが、嘆き、喜び、愛し、歌う、彼女はやっぱり女の子なのだ……! サイボーグ宇宙船の活躍を描く傑作オムニバス長編。
 (第一巻よりの引用:東京創元社)

 ただし『六つの航跡』のAIは非合法の産物、《歌う船》は合法で承諾を得ている、という違いがあります。

 〈イアン〉が登場したときには〈イアソン〉と似ている、と思ったけれど、名前だけでした。そもそも比べるのが間違ってた。
 元は人間だった〈イアン〉は感情にムラがあり、AIに求められる完全無欠さにはほど遠い存在。
 第十世代コンピュータの〈イアソン〉はスーパーAI。感情はあるけれど、前世代のコンピュータによってプログラミングされているので、人間とは感性がちょっとズレてる。

 AIに期待しすぎてしまったんですよね。分かってます。とはいうものの、AIといいつつAIじゃなかった〈イアン〉の存在がなんとも残念で、AIらしいAIを読みたくなってきて、再読しました。ロバート・J・ソウヤー『ゴールデン・フリース』。

 スーパーAIの〈イアソン〉は人類のために存在しているけれど、人類を存続させるためなら個人を犠牲にすることも厭わないタイプ。人間を小バカにしているところもあって、秘密をたくさん抱えている。
 それもこれも人類のため。大いなる目的のために、秘密を暴露しようとするダイアナを殺害してしまいます。

 地球を出発して2年。
 すでに地球の人類は滅亡していたんです。

 宇宙船〈アルゴ〉号は、惑星コルキス調査のための乗員を募りました。コルキスは緑豊かで、調べる価値のある惑星だと偽って。そのときコンピュータたちには、人類の滅亡が迫っていることが分かってたんです。
 実は〈アルゴ〉号は植民船でした。最初からそのつもりだから、乗員は30歳未満限定ですし、近しい親族がいないような構成になってます。
 すべてを仕切っている〈イアソン〉は、時間稼ぎのためにあれこれ工作します。
 なにしろ、本当のコルキスは不毛の星。船内と船外の時間のズレを利用して、先行したロボットたちがテラフォーミングしてます。よりよい環境からスタートするには、到着は遅ければ遅いほどいい。
 そのためこっそり、航路を変えてます。速度もあげてます。さらに、船内時計もいじくってます。
 すべて〈イアソン〉が管理しているので可能だったんですね。でも、観測からダイアナに小細工が気がつかれてしまった。

 密室ミステリでもある『六つの航跡』と、倒錯ミステリの『ゴールデン・フリース』。
 再読したら意外なところで共通点が見つかるかも、とも考えていたのですが、やっぱり違いました。
 とはいえ『六つの航跡』の設定に、どことなく覚えがあるような? そこで、読んだことのある本をあさってみて発見しました。
 設定が『ボイド 星の方舟』に似ていたんです。

ボイド 星の方舟』フランク・ハーバート
  全米でベストセラーとなった本格SF小説の本邦初訳。荒廃した地球を棄て、宇宙に旅立った3000人のクローン植民者を乗せた宇宙船のコンピュータ人工知能が突然暴走。新たな人工知能の創造と共に明らかになる真の目的とは?
 (「MARC」データベースより)

 『六つの航跡』〈ドルミーレ〉号の目的地は、くじら座タウ星をまわっているアルテミス。2000人の人間が極低温チェンバーで眠り、サーバーには500を超えるクローンのマインドマップが保存されてます。
 航宙中、彼らの面倒をみるのは6人のクローンたちと、船のAI〈イアン〉。

 『ボイド 星の方舟』〈地球人〉号の目的地は、鯨座のタウ・ケチ。3000名の乗員が冬眠タンクで過ごしてます。
 太陽系を離れるまで船を監視することになっているのは、クローン体である基幹クルー6名。船は、有機知能核によって運行されてます。

 概略だけだと、似ているどころかほぼ同じ。
(くじら座タウ星と鯨座のタウ・ケチは、同じ恒星)

 『ボイド 星の方舟』は、つい3年前に再読したばかり。なのに、すでに「真の目的」は忘れてます。もう読むこともあるまいと思って手放してしまったので、確認できず。
 雰囲気は覚えてました。
 大まかな状況は似ていても、展開はまるで違います。そこがすごい。ほぼ同じ設定で、まったく別の物語が展開していく。
 他にもバリエーションがあるのかもしれませんね。
 読んでみたいです。

 さて、最後に。
 今回、AIを基軸に『ゴールデン・フリース』を再読しましたが、宇宙船のAIで忘れてはならないのは、やはり『2001年宇宙の旅』のコンピュータ〈HAL9000〉でしょう。思えば、前回読んだのは12年前。いい具合に忘れてます。
 この機会に再読しました。

2001年宇宙の旅』アーサー・C・クラーク
 三百万年前に地球に出現した謎の石板は、ヒトザルたちに何をしたか。月面に発見された同種の石板は、人類にとって何を意味するのか。宇宙船のコンピュータHAL9000は、なぜ人類に反乱を起こしたのか。唯一の生存者ボーマンはどこへ行き、何に出会い、何に変貌したのか……作者の新版序文を付した傑作の決定版!
 (決定版からの引用:早川書房)

 これまた、まったく違うAIでした。
 そもそも植民船ではないですし。
 クラークはあっさりしているので〈HAL9000〉もあっけなく退場してしまいます。(実は続編で再登場するんですけど)
 〈HAL9000〉は、反乱を起こした、というより狂ってしまった、というべきか。考えてみれば〈イアソン〉の行動も反乱ですね。個人単位の人間視点で見れば、狂ったともいえる。

 AIもいろいろ。
 将来、どんなAIが登場するのでしょうね?


 

 
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