「宇宙操縦士」
ペンバートン夫妻にとって、久しぶりの休暇だった。夫人は劇場に行くのを楽しみにしていたが、緊急の呼び出しが入ってしまう。夫のジェイクは宇宙操縦士。宇宙に出ることを喜びとしているのだが……。
「鎮魂歌」
どうしても月へ行きたい億万長者のハリマンは、観光ロケットの船長と機関士を巻き込み、密かに月ロケットを手に入れた。ハリマンの健康状態では、正規ルートで宇宙に出ることは不可能。有名すぎて、医師を買収することもできない。計画は順調に進むものの、財産の目減りを心配する親族に裁判を起こされてしまう。
「果てしない監視」
月基地で勤務するジョニィは、副指令のタワーズ大佐に呼び出された。そこで持ちかけられたのは、クーデターへの参加だった。ジョニィはタワーズを欺き、核爆弾貯蔵庫に閉じこもるが……。
「坐ってくれ、諸君」
ジャーナリストのジャックは、ルナ・シティへの旅行の際、天文台を訪ねた。天文台では、コロナ観測所を建設するために北トンネルを建造中。ジャックは北トンネルに案内されるが事故がおこってしまい……。
「月の重い穴」
少年ディックの一家は月へとやってきた。父と母と、わがまま放題の弟と一緒に。家族は月の表面の見学ツアーに参加するが、目を離した隙に弟が行方不明になってしまう。酸素がもつのはおよそ4時間。徹底的な捜索が行われるが……。
「帰郷」
マックレイ夫妻は、念願かない、月から地球へと帰還した。重力の違いは予想以上。また、暖かく迎えられることもなかった。夫妻は当初の観光計画をとりやめ、早々に田舎へと向かうが……。
「犬の散歩も引き受けます」
ジェネラル・サービス社は超一流の便利屋。人殺し以外のあらゆる仕事をこなしてきた。そこへ秘密裏の仕事が舞い込む。地球で、さまざまな知的生命体の代表が集う会議が開催されるが、その準備を依頼されたのだ。彼らの適応環境は千差万別。期間が限られ、会議の開催そのものが知られてしまうのも御法度。準備は間に合うのか?
「サーチライト」
天才少女ピアニスト、ベッティの乗る月飛行機が行方不明になった。捜索範囲は幅広い。そして、ベッティは盲目。通信が回復したとしても、周囲の様子を教えてもらうことはできない。子午線宇宙ステーションの所長にはあるアイデアがあるのだが……。
「宇宙での試験」
ソンダースは宇宙飛行士だったが、高所恐怖症になってしまった。もはや宇宙に戻ることはできない。かつての仲間からの哀れみも願い下げ。ソンダースは偽名を使い、まったく別の仕事に就くが……。
「地球の緑の丘」
ライスリングは宇宙船機関士。事故により視力を失ってしまう。ライスリングは船を降り、詩人となった。記憶から得られる映像は美しく昇華されていく。やがてライスリングの詩は出版社の目にとまり、宇宙中に知られるようになるが……。
「帝国の論理」
弁護士のウインゲートは目が覚めたとき、金星行きの船に乗っていた。それも観光ではなく、正式に契約を結んだ労働者として。ウインゲートは何かの間違いだと抗議するが……。
《未来史》シリーズ第二巻。
「鎮魂歌」は「月を売った男」(収録『デリラと宇宙野郎たち』)の後日談。あの情熱的なハリマンは変わらず、ただ年老いてしまって、月に行けない身体になってしまってます。月に行くためにさまざまなことをしてきたのに。
第一巻よりさらに、それぞれの作品のつながりは弱め。主に、それぞれの時代を生きる個人を扱ったためでしょうか。
「もしこのまま続けば」
ジョン・ライルは信仰心のあつい男。めでたく、予言者の警護役である〈主の天使隊〉に配属されるが、聖地であるはずの任地は俗世にまみれたところだった。ジョンは、聖修道女のシスター・ジュディスに禁断の恋心を抱いたことをきっかけに、教義に疑問を抱き始める。ついに脱走し、革命に身を捧げるが……。
「疎外地」
デイヴィッド・マッキンノンは、暴力を振るってしまい、裁判にかけられた。判決は、心理学的更生療法を受けるか、疎外地への追放か。マッキンノンは、療法という名の洗脳を嫌い、疎外地へと向かう。追放とはいえ、そこは完全に自由なところ。準備万端整えて、意気揚々と門をくぐるが……。
「不適格」
小惑星を宇宙ステーションにするため、若者たちが送り込まれた。彼らは、社会に適応できなかった者たち。A・J・リビイもそのうちのひとり。リビイは、地球上ではまったく評価されていなかったが、完璧な計算能力を持っていた。
《未来史》シリーズ第三巻。
いずれもまとまった文量のある作品たち。文量があるのが逆に災いしたのか、長編をぶつ切りしたような感じになってしまっているのが残念。
最初の《未来史》シリーズは、現在の三冊(『デリラと宇宙野郎たち』『地球の緑の丘』『動乱2100』)の他『メトセラの子ら』『宇宙の孤児』も入ってたそうです。
「その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯」(浅倉久志/訳)
餌つけ人のカールは、ジーンに雇われた。ジーンが狙うのは、板顎魚竜、通称イッキー。金星の海に潜む怪物だ。数多くの冒険家が生け捕りを目論みながら、いまだ捕らえられていない。そして、カールとジーンにはある過去があり……。
ネビュラ賞受賞
「十二月の鍵」(浅倉久志/訳)
ジャリー・ダークは、惑星アリヨーナルで快適に暮らせるように改造され、誕生した。アリヨーナルは、最近ゼネラル鉱業が資源開発のために購入したところ。ところが、予想外の新生爆発に巻き込まれ、燃え尽きてしまう。成長したジャリーは、同じ境遇の仲間とともに惑星を買い取り、快適に暮らすために惑星改造に乗り出す。変化は徐々に行われたが、惑星には原生生物がおり……。
なんとも哀しい物語。我が子の将来のためにとった行動が、我が子から住むところを奪ってしまうとは。ジャリーたちが行う惑星改造は、3000年かかり。仲間たちは順繰りに目覚めては惑星を観察していく……。
改造の結果、引き起こされることとは?
「悪魔の車」(峯岸 久/訳)
サムは、特別改造車のジェニーに乗って、野生化した車を追っていた。兄の仇を打つために。ジェニーは高性能な電子頭脳を有しているのだが……。
「伝道の書に捧げる薔薇」(峯岸 久/訳)
地球人は火星人を見いだした。火星人の文明は計り知れない。詩人のガリンジャーは、地球人として初めて、火星人の文明の中で暮らすことを許される。そこで美しい舞姫ブラクサと出会い、恋に落ちてしまうが……。
なんとも考え深い作品。火星人の伝説と宗教と。ガリンジャーには同情してしまいますけど、やられたな、と。
「怪物と処女」(峯岸 久/訳)
長老リリクは、生け贄を捧げることに反対だった。仲間たちは徐々に数を減らしている。神に対して戦いを挑むのは今しかないのだが……。
「収集熱」(峯岸 久/訳)
銀河系で唯一の知性を持った鉱物は〈ストーン〉と名乗った。〈ストーン〉は、ディーブルするためにエネルギーを集めつづけている。ところが、収集家のコレクションとして狙われてしまい……。
「この死すべき山」(峯岸 久/訳)
宇宙でもっとも高い山は、40マイルの高さを誇る〈灰色の乙女〉だ。登山家として名を馳せたジャック・サマーズは、気心の知れた仲間に声をかけ山に挑むが……。
40マイルは、約64.36キロ。その距離分の文量が費やされますが、オチには少々拍子抜け。
「このあらしの瞬間」(浅倉久志/訳)
ゴッドフリー・ジャスティン・ホームズはかつて、ティエラ・デル・シグナスで市長代理を務めた。その後宇宙を旅し、戻るまでの間に業績は歴史となっていた。今ではヘル・コップとして働く日々。そこへ、大嵐が襲ってくる。ジャスは現市長エリナーと共に、事態の収拾に当たるが……。
「超傲慢な国王たち」(峯岸 久/訳)
ドラックスとドランは、グランの王。ふたりに共通の家臣は、宮廷ロボットのジンドロームのみ。ふたりは銀河系の他の惑星に生命がいる可能性について、何世紀もの間論じてきた。ゆっくりと。それから、ジンドロームに探しに行かせるが……。
「重要美術品」(峯岸 久/訳)
芸術家のスミスは、世の中に受け入れられないことを嘆いていた。そこで、自身を芸術とすることを決意する。美術館に忍び込み、彫像となったのだ。観客がいる日中は動かず、夜な夜な美術館を動き回る。ところが、生きた彫像はスミスだけではなかった。
「聖なる狂気」(浅倉久志/訳)
時間は巻き戻され、同じ日常が繰り返される。少しずつ変えながら。その原因とは?
「コリーダ」(浅倉久志/訳)
弁護士のマイケル・キャシディは、何者かに追われていた。なぜそうなったのかは分からない。覚えているのは、街角でタバコの火を所望されたところまで。
コリーダは闘牛のこと。
「愛は虚数」(浅倉久志/訳)
男は洗脳され〈別世界〉へと監禁されていた。傍らには、妻である監視役のステラの姿。失われた記憶が戻り、ふたたび戦いのときがくるが……。
世界の移り変わりが、『アンバーの九王子』から始まる《真世界》シリーズを彷彿とさせる作品。
「ファイオリを愛した男」(浅倉久志/訳)
ファリオリは、死期の近づいた人のところにやってくる。ファリオリに魅入られると、あらゆる楽しみが与えられるものの、1ヶ月後に命を奪われる。ジョン・オーデンは〈死者の谷〉の呪われた管理者。ファリオリを見かけ、姿を現すが……。
「ルシファー」(浅倉久志/訳)
カールスンは2年ぶりに、死に絶えた都市〈ビルディング〉を訪れた。動力室に入り、発電機の修理に取りかかるが……。
いろいろな作品が収録されていて、おもしろいものあり、いまいちよく分からないものあり、ある程度まとまった文量のものあり、ショート・ショートのようなものあり。
とにかく雑多。
チャリオン国主の母イスタは、周囲の態度にいらだちを覚えていた。まるで腫れ物に触るような態度に。
かつてチャリオン王家は影に覆われていた。
当時イスタは神の手が触れた聖者だったが、神のメッセージを読み誤ってしまう。その結果、忠実かつ有能なルテス卿を殺してしまい、呪いが解けることもなかった。イスタは精神を病み、神々への不信は募る一方。やがて救いの手によって呪いは解かれたが、イスタの悔恨の念がなくなることはなかった。
イスタは、いつまでも自分を病人として扱う人々から逃れたくて仕方がない。はずみで外出し、連れ戻されるものの、巡礼の旅を利用することを思いつく。
イスタの旅は表向き、国主に男御子を授かるように祈願するため。実際は、神々にかこつけての休暇だ。イスタはアジェロ郷司夫人と名乗り、最小限の人員で出発する。
順調に思われた旅だったが、思わぬところで、ジョコナ公国の兵士たちに襲われてしまった。イスタは正体を知られ、囚われの身に。
イスタを助けたのは、国境を守るポリフォルス郡侯アリーズ・ディ・ルテスだった。あのルテス卿の息子だ。イスタは、ポリフォルス城に招かれ立ち寄るが、城では奇怪な事件が進行中だった。
『チャリオンの影』の続編で、《五神教》シリーズの第二作。
ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞受賞。
アリーズが実は死人だったり、神々がイスタの前に現れたり、いろいろなことが起こります。が、前作の濃密さを考えると、ちょっと物足りないような……。
遠い未来。
滅びゆく人類の中からアンブラセインが生まれた。やがて、懐を分かった者たちからヘリオセインが台頭。両者はそれぞれの存亡をかけて相争う関係となった。
ヘリオセインは、遺伝子操作によってカウルを誕生させる。カウルこそ、究極の超人類。カウルはタイムトラベル技術を開発するが、ヘリオセインを裏切り、アンブラセインに情報を与えてしまう。
その後カウルは莫大なエネルギーを使い、10億年前にタイムトラベルをした。そこは、後世の生物たちの基点となる結束点。生命の発生を操り、時間改変を企んだのだ。自身のみが生存を許される世界を作るために。
そして、22世紀。
堕落した日々を送るポリーは、16歳。ある日、亡くなった親友マージェの兄ナンドルー・ジャーケンスが現れ、政府の暗殺者との交渉役をさせられてしまう。
ナンドルーが高値で売りつけようとしたのは、カウルが使役する超時空生物トービーストの落とした鱗。鱗は、死を定められた人間の腕に寄生し、結束点に向かい強制的に時間を遡らせていく。サンプルの生死は問わない。
何も知らないポリーは鱗に寄生されてしまい、過去へと旅立つ。それに巻き込まれたのは、暗殺者タックだった。
タックは人工的に産まれ、思考をプログラミングされた存在。自分というものがない。タックは、過去においてポリーを見失い、ヘリオセインに捕まってしまう。
タックはその手に鱗の破片を得ており、再プログラミングを受け利用されてしまうが……。
さまざまな人物の視点から、どんどん物語は展開していきます。中心となるのは、ポリーとタックの視点。過去に旅しながら懸命に生きようとするポリーと、わけも分からないままヘリオセインに利用されるタック。背景説明は少なく、読んでるこちらもわけが分からないまま。
おもしろく思えるアイデアはあるんですけど、なんだか納得しがたいなぁ……と。
《指輪物語》三部作(『旅の仲間』『二つの塔』『王の帰還』)の第一部。
小さい人とも呼ばれるホビット族は、陽気で、軽い冗談が大好き。ホビット庄以外の世界に関心がなく、静かで平和な生活を楽しんでいた。
ビルボ・バギンズは、ホビットとしては変わり種。今でこそ袋小路屋敷に落ち着いているが、かつて、魔法使いのガンダルフやドワーフ族と共に冒険の旅にでかけたこともある。そのとき手に入れた財宝について、ホビット庄ではまことしやかな噂話が飛び交っていた。
ビルボは今年、111歳。この記念となる誕生日に、特別盛大な祝宴を催した。その日は、いとこにして養子のフロドの誕生日でもある。フロドは33歳になり、晴れて成人の仲間入りをするのだ。
ガンダルフもかけつけ、すばらしい食事や花火が饗された。ところが、スピーチに立ったビルボは人々の目前で消え失せてしまう。ビルボは前々から、ふたたび旅にでることを決めていたのだ。
残されたフロドは、あらゆるものを相続した。その中には、ビルボが姿を消すために使った魔法の指輪が……。
フロドはガンダルフから、指輪は使わないように忠告を受ける。やがてガンダルフは指輪の正体をつきとめるが、それは、冥王サウロンの主なる指輪だった。
冥王サウロンははるかな昔、人間族とエルフ族によって滅ぼされた。しかし、今また復活しつつあり、指輪を欲している。サウロンの力のほとんどが指輪に封じ込められているからだ。もはやホビット庄も安全なところではなくなった!
フロドは指輪を狙うものたちから逃れ、旅たつが……。
フロドに危険が告げられ、ついに旅立つまでに何年もの年月が費やされます。袋小路を売り払い、バック郷に向かうまでで一巻が終わってしまうスローペース。
この指輪物語のもうひとりの主人公とも言えるアラゴルンが登場するのは、二巻目から。アラゴルンがフロドに合流し、旅は、エルフ族のエルロンドが住まう裂け谷でひとまず終わります。が、ある重要な使命を帯びてさらに遠くまで旅立つことに……。
実は、二度目の旅たちが物語のスタート地点。三部作とはいえ、元々ひとつの長編として書かれたそうですから、序章部分が長いのも致し方なし?
じっくり味わえます。
《指輪物語》三部作(『旅の仲間』『二つの塔』『王の帰還』)の第二部。
おそろしい力を秘めた、冥王サウロンのひとつの指輪。これを葬り去るため9名の仲間が選ばれた。目指すは、サウロンのお膝元、モルドールにある滅びの亀裂。指輪が誕生した火の山のみが指輪を滅ぼしうるのだ。
一行は数々の困難を乗り越えるが、ついにバラバラになってしまう。
メリーとピピンは、凶暴なウルク=ハイたちにさらわれてしまった。指輪所持者フロド・バギンズと同じホビット族であったため、間違えられたのだ。
彼らを救出するため、歩行で追いかける人間族のアラゴルン、エルフ族のレゴラス、ドワーフ族のギムリ。三人はローハン国を通り、大追跡劇を展開する。ところがあと一歩のところで、ウルク=ハイの集団はローハンの騎士たちの襲撃を受け、皆殺しにされてしまった。生存者は皆無。
絶望の中アラゴルンは、ホビット族らしき足跡を発見する。二人は、戦闘を逃れていたのだ。しかし、足跡は不気味なファンゴルンの森へと続いていた。
一方、仲間たちと別れたフロドは、庭師のサムをお供にモルドールを目指していた。道は分からない。ふたりは、後をつけてきていたスメアゴルをつかまえ、道案内を頼むことに。
スメアゴルは、かつて指輪所持者だった。指輪の魔力に取り憑かれており、ふたたび自分のものにしたくて仕方がない。指輪を持つフロドに従いつつも、機会あれば指輪を奪おうとしていた。そして、フロドに危険な道を教えるが……。
分かれた旅の仲間たちの消息がそれぞれに語られます。
メリーとピピンはファンゴルンの森に逃げ込み、古い種族エントと出会います。大変なめに遭いながらも失われないホビットらしさが微笑ましい……。
アラゴルン、レゴラス、ギムリは、ホビットたちの追跡を中止し、ローハンに駆けつけます。ローハンはお隣であるアイゼンガルドから総攻撃を受けつつあるところ。絶体絶命の大ピンチなのです。
そして、指輪所持者フロドとサム。スメアゴルによって導かれていきますが、そこに待ち受けていたのは?
ついに始まる大戦争。それはちょっとあっけないくらいに終わりますが、激動の第二部でした。
《指輪物語》三部作(『旅の仲間』『二つの塔』『王の帰還』)の第三部。
冥王サウロンの狙いは、ひとつ。かつて自身の力の大半を注ぎ込んだ、主なる指輪を取り戻すこと。指輪はホビット族のフロド・バギンズが所有している。
サウロンは、人間族の国ゴンドールに大規模な軍隊を派遣した。指輪がゴンドールにあると考えているのだ。
戦争を察知していたゴンドール側では、方々に救援を要請済。だが、得られた兵力はわずか。友好国ローハンの助力も間に合いそうにない。
ローハンを出発したアラゴルンの一行は、死者の道に入っていた。そこに棲んでいるのは、かつてイシルドゥアを裏切り、呪いをかけられた眠れぬ死者たち。あまりのおそろしさに通る者はいなかったが、アラゴルンはイシルドゥアの父エレンディルの末裔。予言に従い、彼らの助力を得ようとする。
一方、フロドは庭師のサムと共に、モルドールの滅びの亀裂を目指していた。もはや生きて帰れる見込みはない。すべては、指輪を滅ぼし、サウロンの魔の手から世界を救うために……。
結末は、戦争の決着ではなく、ひとつの時代の終わり。フロドの運命はなんと哀しいことか、と。
19世紀アメリカ。
アブナー・マーシュは、ミシシッピ川を巡航する定期航路会社社長にして、船長。これまで、順調に業績をのばしてきた。ところが不幸な事故に見舞われ、六隻あった持ち船の内、五隻を失ってしまう。今では破産寸前の身だ。
失意のどん底にいるマーシュに、共同経営の話が舞い込む。接触してきたのは、ジョシュア・ヨークと名乗る謎の男。個人的な理由から、蒸気船の所有者になりたいという。自身には経験も知識もないため、マーシュのような提携者を必要としていたのだ。
マーシュは、うますぎる話に警戒する。ヨークの秘密主義も気に入らない。しかし、ヨークが新造船に莫大な資金を投入する意思があることを知り、手を組むことにする。
ミシシッピ川には、大きく、美しく、最速のタイムを誇るエクリプス号があった。マーシュは常々、エクリプス号を負かす船を造りたいと考えていたのだ。今がそのチャンス。こうして誕生したのが、フィーヴァードリーム号だった。
フィーヴァードリーム号は、船長が2人という異例の体制で就航した。
ふだんは、マーシュがすべてを取り仕切る。ヨークは夜のとばりがおりてから姿を現し、ときどき、運行計画を無視した命令を下す。はじめは容認していたマーシュだったが……。
一方、ミシシッピ水運の中心地ニューオーリンズでは、農園主ダモン・ジュリアンが一族を支配していた。彼らは夜の種族。美しい者をこよなく愛し、生き血を吸い、死に至らしめる。
奔放な生活には陰りが見え始めており……。
吸血鬼もの+蒸気船もの。
ふたりの血の支配者の闘いと、蒸気船の全盛期から南北戦争を経て移ろいでゆく時代の流れと、種族を越えた友情と。
吸血鬼ものとして読むと、ちと物足りない。でも、そこに蒸気船とマーシュの逸話が入ってきて、物足りなさを充足してくれます。
2062年。
地球は環境破壊による気候変動にさらされていた。世界中で戦争が勃発し、かつて世界をリードしていたアメリカは衰退。カナダと中国が覇権を争うに至った。
ニューヨーク近郊のスラムで暮らすジェニー・ケイシーは、カナダの退役軍人。実戦を経験し、いくつもの勲章を授かり、英雄として讃えられ、そして左半身を失った。失った肉体は機械に置き換えられ、五十路となった今では過去を語ることもない。
ある日ジェニーの店に、一帯のギャング団のボス、レザーフェイスがやってくる。レザーフェイスは、粗悪な麻薬によって重体となってしまった子分を連れてきたのだが、もはや手遅れ。ジェニーは、元凶となった麻薬が〈ハンマー〉であることを知る。
〈ハンマー〉は、カナダ軍も戦場で使用している麻薬。ジェニー自身使ったことがある。軍用の、しかも粗悪な麻薬が出回ったのはなぜなのか?
ジェニーは調査を開始するが……。
《サイボーグ士官ジェニー・ケイシー》三部作の第一部。(第二部『SCARDOWN −軌道上の戦い−』第三部『WORLDWIRED −黎明への使徒−』)
多彩な登場人物の視点から描かれます。主人公のジェニーは一人称で。他は三人称的に。
ジェニーの過去と、世界の現状と、軍部の動き。そして、カナダや中国が恒星船を造るにあたって参考とした、二隻の異星人の船。それらから得られた未知の技術。
理解しづらいところがあっても読みやすさは失われてません。ただ、さまざまな設定が用意されていますが、つづきは続刊で、と終わってしまうのが残念。三部作とはいえ、ある程度まとめて欲しかったかな、と。