書的独話

 
2012年のひとりごと
01月01日 展望、2012年
01月03日 灰色の世界
01月15日 2011年、ベスト
02月16日 おバカな買い物
03月31日 善人って・・・
04月13日 監視社会
04月14日 それもこれも猫なのだ
05月20日 『マーリー』
07月15日 封鎖都市
08月06日 挫折のタイミング
08月19日 『図書館ねこデューイ』
10月11日 子供から大人へ
12月31日 総括、2012年
 

各年のページへ…

 
 

 
▲もくじへ
2012年07月15日
封鎖都市
 

 SFとファンタジーの違いはなんなのか。
 いろんな人がいろんなことを言っていて、どれも頷けるのですが、たぶん、におい、だろうと思うのです。
 非科学的であったとしても、においがしたらSF。ガジェットてんこもりで、それらがいちいち科学的だとしても、においがなかったらSFとは呼びたくない。(かといって、ファンタジーとも言い切れないけど)
 そのニオイの正体とは、物事に対する姿勢、とでもいいますか。ある現象なり物体なりを説明するのに、理屈があるかないか。

 突然、そんなことを考え始めたのは、一応SFレーベルから出ているけれど、これってSFなのかなぁ……と思ってしまった作品と出会ってしまったから。

シェリー・プリースト
ボーンシェイカー ぜんまい仕掛けの都市
 マッドサイエンティストが開発したドリル・マシン〈ボーンシェイカー〉は、シアトルの地下を掘り抜いた挙げ句、致死性の毒ガスをまき散らした。災害を生き延びた人々は、街を高い塀で囲み、毒ガスの封じ込めに成功するが……。

 マッドサイエンティストが出てきて、魅惑的なマシンを開発して、大厄災が発生して……というのは、ほんの序章。本体は、分かりあえていない母と子が、封鎖された都市でサバイバルする物語。
 ガスを浴びるとゾンビになってしまったり、ガスから麻薬がつくられてたり、まぁ、いろいろあります。ありますけれど、あくまで母子のあれこれがメインなので、それ以外はまるで風景のように扱われてます。なので、こういう設定ですという以上のつっこんだ情報はなし。

 もしかすると、この作品だけ読んでいたら、気にはならなかったのかもれません。背景の都市が、どういうことになっていても。
 実は、かつては賑わっていた都市が封鎖されて……という基本設定が似ている物語があるのです。

ブランドン・サンダースン
エラントリス 鎖された都の物語
 〈神々の都市〉と呼ばれていたエラントリスは、街中に力と光輝と魔法をみなぎらせていた。それも今は昔。栄光のエラントリスは汚泥に覆われ、エラントリス人たちは生ける死者となってしまった。近隣の人々は、都を封じ込めるが……。

 こちらは、ファンタジーレーベルから。
 都市は封鎖されて、外界との交流はほぼありません。ときおり、エラントリス人となってしまった人を厄介払いするのに扉が開けられるくらい。ガスは漂ってませんが、生ける死者のエラントリス人たちはゾンビのようで、死にたくても死ねない状態にあります。

 似てる。
 似てるけど、似てるのはそこだけ。ただ、似てるだけに、どうしても封鎖都市を比べてしまいます。
 『ボーンシェイカー』にとって壁に囲まれた都市というのは、単なる舞台装置。マッドサイエンティストが悪さをした結果でしかなく、誰もがその状態を受け入れて思考を停止させてます。
 一方の『エラントリス』にとって鎖された都市は、舞台装置であると同時に謎でもあります。輝ける都市が失墜した原因を知りたいのは、読者だけじゃなかった。主人公のラオデンは、崩壊の原因を調べることで、栄光を取り戻す方法を探っていこうとします。

 ある現象なり物体なりを説明するのに、理屈があるかないか。封鎖都市という現象に限って言えば、きちんと理屈をつけている分、ファンタジーであるはずの『エラントリス』の方がSF的に思えるのでした。


 

 
■■■ 書房入口 ■ 書房案内 ■ 航本日誌 ■ 書的独話 ■ 宇宙事業 ■■■